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Takt  作者: 快流緋水
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引っかき傷

 綾子のせいでざわついていた音楽界が落ち着くまで,約半年も要した。あれだけのことが連続して起きたのだ。無理もない。

 だが,犯人は結局分からずじまいである。

 もちろん,掠夜たちが公表できるわけがない。する気もない。

 このまま迷宮入りすることを願った。


 季節は冬から春になり,街中にある木々が芽吹いて緑鮮やかになる。それまでの間,メンバーは仕事を中心に生活をしていた。コンサートや海外公演,CD製作など。陰の力を潜め,日常に精を出していた。


 醒はいつも通りに仕事をこなしていた。

 賞はあまり取っていないが,海外での評価や観客を魅了する美声のお陰で仕事はあとをたたない。数枚出しているCDも売れ行きは好調だ。

 目下の困りごとは,声ならぬ声で歌っていないことだ。

 掠夜の指示に従っているわけではない。

 止められているわけではない。あれだけの事があったのだ。彼なりの思惑で歌っていない。

 だが,そろそろ歌いたくなって来た。


 玲は自分の手を見ながら掠夜の館まで歩いていた。いつもは気にしないのだが,最近はどうも気になる。

 この手は血塗れどころか,死神のように白骨となっているのではないかと。

 以前,掠夜のようにすべて黒くなるのは嫌で,血のようなワインを平気で飲む姿から目を背けたかった。キツイことを言っても,あそこまで黒くはなれないと思っていた。だが,それに馴染んできている。

 あれから1年以上たっている。

 進んでいるものだ。

 落とす瞬間を気にしていたのが,今では普通になっている。慣れとは怖いものだ。

 それが選んだ道でもある。

 今更戻る気はない。


 葵は優勝経験もあり,練習熱心でもあるから楽団の中でもかなり目立った存在になりつつあった。実際,チェロではソロを任されたこともあった。それも1度や2度ではない。かなり早い昇進である。

 それだけに周りから疎ましい目で見られることもあって気に病むこともあった。だが,メンバーが,特に玲が後押しをしてくれたお陰で仕事には影響しなかった。

 以前ならば力で色々なパワーを吸い取っていたが,今はお世話になる必要もない。

 健全的になっていた。

 それでも,そろそろ疼いて来ていた。


 玻紅璃は社会人2年目となっていた。新人が入ってきた事もあって前以上に忙しい日々。だが,おじ様年代の先輩に可愛がられているせいか,そこまでハードではない。

 ボランティアに行く余裕もあり,休日には病院や施設に行って演奏することもあった。以前ならば癒したり,時には施しようがない人を苦しませずに終幕を下ろすことをしていた。

 今はしていない。

 自分の勘が冴えるだけに,今はしてはいけないときであった。

 それは分かっているけれど,何かが燻っている。


 侑は腕前が上がってきた事が自信へと繋がり,今は留学を目指している。

いつぞやのオーディションのように力を使うのではなく,実力一本勝負に掛けているのだ。それだけに,練習には熱がこもる。当然周囲もワーストからベストとなった侑に対抗しようと必死だ。学内にある留学枠はたったの3つ。

 勝ち取るために,彼は黒い力どころではなかった。

 それでも,ふとした瞬間に蘇るあの感覚があった。


 掠夜は今年初めに出したCDの売れ行きがよく,雑誌の取材に引っ張りだこであった。

 今までは若手指揮者として活動していたが,これからはCMやドラマなどの音楽にも声が掛かりそうだ。

 指揮以外にも仕事が出来たことで,顔が広くなりそうである。黒い力を使うに当たって障害となりそうではあったが,獲物を惹き付ける力は抜群に伸びる。

 発揮するときを待ち構えていた。



 「そろそろ行こうか。」

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