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Takt  作者: 快流緋水
20/42

Frame

 アートホールでのコンサートが終わったその次の日から,私は力を使う者を,特に力を見破った者を捜すようになった。自分も持っているだけに目星はつけやすいのだが,そう簡単に明かす人なんかいない。いたとしても興味は湧かないだろう。むしろ,黒い雰囲気を出さない人を捕まえたかった。そちらの方が,何倍にも興味を持てた。


 トランペッターの侑はたまたま見つけたのであった。自分の中にある黒い力に戸惑っていた頃であったが,彼を見て,人に使う事によって快感を得ることを知った。

 ふとそれを思い出し,私は侑の身辺から洗っていった。そこからチェリストの葵に繋がり,さらにはヴァイオリニストの玲にも繋がった。そして,新しい人にも。

 その人はあのコンサートにも来ていた。


 写真を1枚1枚丁寧に見る。

 まず1枚目は20歳の頃の彼。こげ茶のくせっ毛が特徴的な,身長170ちょいの生意気そうな侑。音大に入れるくらいだから裕福な家庭なのか,着ている服は年齢の割にはいい品物であった。

 初めて力を目にしたのは,侑が公園で練習をしていたときだ。だが,ただの練習ではない。遊んでいる人の気を引き,おひねりをたくさん出すように仕向けていた。あの演奏では貰えるはずはないし,迷惑と思われるはずだ。それが,彼の用意した箱には山のようにおひねりが重なっていた。

 自分の力とは違う使い方を目にして,チェックを入れたのだ。

 2枚目の写真は,チェロを演奏している葵が写っていた。くたびれたシャツにジーンズというラフな格好で弾いているが,演奏は格別であったのを思い出す。20代後半に向けての大人らしさが醸し出てきているが,どことなく幼さも感じた。

 彼は演奏し始めた頃,ひどく疲れているようであった。弓を引く力も,弦を押さえる手も弱々しかった。しかし,だんだんと活気が満ちてきたのだ。そして,逆に近くにいた高齢の人が急に弱り,倒れた。生気を吸っていたのだと気づいたのは,葵が片付けてそそくさと走り出したとき。

 他人から奪う力を見せ付けられ,その力に魅了された。自分には出来ないことだけに,うらやましくも感じたものだ。

 3枚目の写真は,侑と葵がバーで飲んでいる様子。隠し撮りだから少しピントがずれてしまっているが,確かに2人であった。たまたま隣の席にいた,という雰囲気ではなく,凄く親しく打ち解けた様子を不思議に思ったものである。

 楽団や大学など,様々な点から彼らの接点を探したが見当たらなかった。それで辿り着いた結果は,力。

 4枚目の写真は葵と玲がバーで飲んでいる様子。これも隠し撮りであるがピントはずれておらず,はっきりと2人だと見えた。

 始めは恋人かと思っていた。しかし,雰囲気がどう見ても甘くない。楽団仲間と思ってあまり気にせずにいたが,彼女が大事そうに置いているヴァイオリンを見てふと気づいた。侑も葵も楽器で力を出していた。

 ならば彼女も同等か。

 その直感は当たった。

 5枚目の写真は玲が写っていた。30代前半の彼女は綺麗と言うより,可愛らしい顔つきであった。背も低く,おじ様受けするような雰囲気であった。

 だが,ヴァイオリンを弾いている姿はそこからかけ離れている。底冷えするような目に,見下す表情を浮かべていた。あの力を使っているときの姿は,正視しづらいものがある。それだけ強い力であったので,接してみたくなった。

 最後の6枚目。そこには玲と一緒に歩く男性が写っていた。醒だ。180センチほどの長身。40代という落ち着いた雰囲気を醸し出していた。年齢相応のかっこよさがにじみ出ている。

 彼の実力がいかほどなのかは知らない。ただ,なめてかかったら倍返しをされる雰囲気はある。

 シャッターを押したあとに気づかれたのか,こっちを数秒見ていたのを思い出す。あれは気まぐれではなく,気づいていたのだろう。だが,接触してくる事はなかった。

 6枚の写真を見て満足に浸る。これほどまでに情報を引き出せた侑に感謝し,力を持つ者に早く会いたかった。

 とりわけ醒に会いたかった。あのコンサートにいたので,力を見破った者だと思われる人の最有力候補なのだ。いや,彼が見破ったのだろう。そう直感が働きかけていた。

 写真をフェンディーのバッグにしまい,視線をカウンターに座っている侑と葵と玲に向けた。前の私ならば,どこに接点があるのだろうと不思議に思っていただろう。いや,気にも掛けなかっただろう。だが,もう黒の力を見抜いている。その接点を持つ彼らにほくそ笑む。

 他人にはない,黒い力を持つ者。

 これを操れたらどんなに楽しいことか。

 下に置いて手足とすれば,どれだけ自分の力が増幅することか。

 想像すれば想像するほど,欲しくてたまらなくなっていた。

 マイタイをのどに通し,ひたすら彼らを見る。持っている力が強いだけに,その力を隠すのも上手い。かすかに力の目を凝らしてみても,薄ぼんやりとしていてよく分からない。

 本物という事を実感し,ますます欲しくなる。

 いや,欲しいのではもう済まない。

 手に入れる。

 見破った人だけでなく,周りの人も。

 それだけの事をこれからするつもり。楽しみね。

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