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Takt  作者: 快流緋水
13/42

手を掛けて

 これほどまでに重く圧し掛かる声を,未だかつて聞いたことがあるだろうか。

 玻紅璃は首に手を掛けただけで,力は入れていなかった。だが,掠夜は凄く苦しい思いをしていた。表情には出さなかったが,縛り付けられているような思いをしていた。

「玻紅璃?」

「私の大事な友達だったのよ。なのに掠夜が……。」

玻紅璃は手を掛けたまま,掠夜の胸に額をコツンとあてた。

「掠夜の力とか,水珂の無用心さとか。そんなことは分かっている。だけど…!!」

涙が溢れる。


 水珂の死を悼んだ涙。

 彼女を助けられない痛みの涙。


 掠夜は無表情で,ただ玻紅璃の背中をさすっていた。弁解も,説得も,謝罪することすらもする気は全くないようだ。

「赤ワインを見て悲しそうにしていたのは,友達の死を思うからか?」

コクンと小さくうなずく。

「じゃあさっきの赤ワインは?」

「水珂への手向けよ。」

「ふ〜ん。けど,本当に俺がその水珂って人を食べたと思うのか?」

そう言ったとたんに,玻紅璃の手に力が込められた。

「クッ」

息が詰まる。

「水珂は散歩中に攫われたとかお母さんたちは言っていたけれど,そんなわけないじゃない。そんな形跡もないのに。散歩道に怪しい所なんて,ここしかないわ。そして,貴方。それから,私の勘。」

ほかの誰でもない。掠夜が手を掛けたとしか思えない。玻紅璃はそう強く思っていた。

 だが,それに反して徐々に手の力が弱まる。

「俺に黙って付いて来たのも,水珂に関係すると思ったからか?」

「そうよ。」

掠夜は軽く息を吐く。

「素晴らしい勘だね。で,俺をどうする?殺すなら今の内だけど。」

玻紅璃は何も言わずに首から手を放し,抱きついた。

「殺してやるって思っていたけれど,許せないって思っていたけれど,無理ね。水珂が残っているのならまだしも,もういないし。殺したところで水珂が戻ってくるわけでもないし。それに,同業者を消すのはやめているから。でも―――」

抱きついていた手をいったん放し,掠夜の右手を掴む。

「私が殺されるのは,許せないわ。」

一転して暗い,冷ややかな声で言う。それから掠夜の顔を見る。彼は表情を一瞬崩すが,すぐに口の端を吊り上げて軽く微笑んだ。

「玻紅璃の勘には勝てないな。もう手を掛けないよ,君にはね。」

「それが掠夜のためでもあるわ。」

「どういう意味だ?」

「私のピアノの音。掠夜には生かす方で弾いたけど,少し細工をさせて貰ったの。私に手を掛けたら,掠夜も死ぬから。」

目を細めて彼女を見る。

「本当よ。試してもいいけれど?」

数秒,玻紅璃を見つめる。玻紅璃は見つめ返し,このあとの展開に気を付ける。

 だが,掠夜の表情からは何も読めなかった。読み取ろうとしても,遮蔽されているようで感じ取れなかった。‘食えない人’と思っていると,その表情が一転して笑いに変わった。闇の,陰のある笑みに。

「油断も隙もあったもんじゃない。なかなかだよ,玻紅璃は。」

「あの時,私にとどめを刺しておけば良かったんじゃない?」

皮肉めいた笑みを浮かべて言う。それには首を横に振られた。

「仲間にして良かったよ。今までで最高だね,玻紅璃は。」

そう言い,玻紅璃の顎に手を当てて唇を重ねた。

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