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Takt  作者: 快流緋水
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Trumpet

コートなどいらなくなり,緑がまぶしくなって来た頃となった。

 掠夜はいつものようにふらりと付いて来た女性に力を見せ,美味しく頂いていた。指揮棒についた血をすぅーっと舐め,それと同時に玄関の扉を見る。コンコンとドアノックがなり,自然と扉が開く。来たのは玻紅璃と男性であった。特に変わった様子のない,中肉中背の男性だ。

 知らない人が隣にいる事に少し眉をひそめるが,すぐに玻紅璃が髪の毛を切った事に目を奪われた。

「ずいぶんとばっさり切ったんだね。」

腰まであった黒髪を20cmほど切ったので,ずいぶんと印象が違う。

「すっきりしたくなったんです。掠夜も伸びてきたから切ればいいのに。」

と,手を伸ばして言うが,それでも足らずに少し背伸びをして髪に触れる。

身長150cmの玻紅璃が180cm以上ある身長の人の髪に触れるのは,ちょっと辛そうに見えた。

「かがんであげれば良かったかな?」

玻紅璃はすぐに拗ねた顔になる。

「どうせチビですー。」

いつも通りの反応に苦笑し,彼女の頭を撫でる。それから横にいる男性に目を向けた。

「君は?」

「その前に,応接間に行きたいです。匂いが……。」

若干青ざめたような表情を浮かべていたので,掠夜はすぐに2階にある応接間に誘導した。

 応接間に入ると同時に,日本酒と酒盃,塩せんべいなどが空を滑ってきて,テーブルに着地した。その様子を男性は目を丸くして見る。

「この位は慣れておくもんだよ。」

苦笑交じりに掠夜がいうと,男性は一瞬鋭い目を向けるがすぐにうなずいてソファーに座った。

「あ,美味しい。」

早速飲んだ玻紅璃は嬉しそうに声を上げる。

「それは良かった。それでは改めて。俺は掠夜。君は?」

ゆうです。」

「そう。玻紅璃,一体どうして連れてきたんだ?」

「お仲間になれる人だからに決まってるじゃないですか。」

眉を上げる。そういう感じがしなかったから,なおさら怪訝そうに見る。

「勘…か?」

「ううん。見ちゃったんです。ね?」

笑って侑を見ると,侑は複雑な表情を浮かべてうなずいた。

「見られてるとは思わなかった。」

「で,侑の本質は?」

―――持つ力は?

「気持ちを変えること。」

掠夜はちらちと玻紅璃を見る。どんな状況を見たのか,話して貰うためにだ。

「侑君がトランペットを吹いたら,あっさり大学教授が単位を上げたんですよ。それまで落第を突きつけていたのに。」

侑は視線を逸らす。自分の実力のなさに恥じたのだ。だが,そんな事には構わず,掠夜はうなずいてみせた。

「嫌がる人をうなずかせることも出来,逆に言い寄って来る人を一生来ないように気持ちを反対にすることも出来るのか。いいね,それ。」

「それはどうも。」

「それで,入るかい?」

戸惑いを浮かべる表情を掠夜に向ける。

「オレ,下手なのに。」

「私も下手ですよ。」

「けど,使える力が強いじゃないか。」

「侑君も強いですよ。優劣なんてないです。」

「だけど。」

目の前で痴話げんかのような雰囲気をされ,ちょっと面白くない掠夜。だが,そこは年長の意地もあったのか,侑に手を差し伸べた。

「演奏の上手い下手は関係ないんだ。力を持つ者が集って話をするくらいだしね,今のところは。損をすることはない。どうだ?」

玻紅璃は侑がどうするのかハラハラと見ていたが,その杞憂はあっさりと払われた。

「オレはまだ駆け出しの19歳だけど,いいのか?」

「年齢は関係ない。力さえあればいいんだ。」

「ならいいよ。」

手を結ぶ。

 事の発展に面白がって笑みを浮かべる侑に,掠夜はしっかりと握手を交わした。見た目では感じ取れなかった黒の部分を,握手をすることで感じとったのだ。

 段々と増えていく仲間に,掠夜は笑みを浮かべずにはいられなかった

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