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新魔法を試そう——カミラ

「また女性が……ライト殿!いい加減になさい。次から次へと」


 ダイニングに入って来た姫巫女様がニーナを見て開口一番説教を始めた。うるさいなって顔をして書物をしていた手をとめ姫巫女様に視線を向ける


 姫巫女様のいいたいことは分かるけどオーナーはこの国じゃ英雄的存在なんだからある意味ハーレムになってても普通だと思うんだけど。ほら英雄の血筋を〜ってやつ


「いや、あー、友達……なんだけど……」

「そんな言い訳が通用するとでも思っているのですか⁉︎」


 言い訳っていうかオーナーからすれば新規で来たフルーもコルもニーナも仲のいい知り合いと協力者という認識しかないから間違ってはいない。ただ彼女ら三人がオーナーと同じと思っているかというと全く違う。コルはともかくニーナは惚れてるしフルーは最上位婚約者候補として親に紹介するつもりである。


「妹君の目の届くところでなんと嘆かわしい。純朴で努力家、身持ちも堅いし料理も最高な忍さんとは天と地の差。夕食のカルボナーラも絶品で……」


 餌付けされてるのわかってる?姫巫女様?まぁ飛竜の薫製肉を使ったカルボナーラは確かに美味しかったけどさ。あーあたし舌が肥えてきてるかも。絶対違うとこ行かないで店に就職しなきゃね〜


「あー。こう見えてニーナは薬学を勉強してもらっている。回復魔法で追いつかない部分を補う為にフルーのところで頑張ってくれるんだ。あと変な比較はやめて貰おう」


 はぁ、とため息を吐く姫巫女様。特に掘り下げる気はなかったらしくオーナーが書いていた紙に目を向ける


「ところで……それは何を書いておられるのですか?」

「んー。新兵器。って言っても新作ボウガンなだけなんだけど」


 そういってボウガンの設計図にめちゃくちゃ書き込んでいく。矢は龍の骨だったりするし本体だって龍の骨に革を巻いて補強したり、矢の射出口には風の魔法陣を組み込んであったりと異常な一品になりそうである。


 そこに牛乳片手に歩いてきたコルが設計図に手を加えた。フルーの精霊ドリアードの【搾取】の力で射手の属性魔力を吸い、本体外部から射出口周辺部に張り巡らせられたミスリルの外部パーツで回転、加速、精密さ、威力を補強、長距離の攻撃も可能にしてしまった


 更にフルーとコナーが覗き込み設計されたボウガンから余計な肉付き部分を消していく。軽量化にコストダウン、抜いたパーツもなんらかの材料にと全く無駄がない


 ただでさえ有り得ない物なのに魔力付与して更に威力をあげるという分けのわからないものに変えてしまった。撃たれたら一発で死ねるね。魔力次第だけどオーク程度は一撃で死にそうだな。さらに装填しやすいように弦の部分には滑車が組み込まれている。非力な女の子じゃ引きにくいかもしれないけど獣人なら引けると思う


 ただ残念な事にあたしの弓はショートレンジ用で設計図はロングレンジ用みたいだからこれはあたしのじゃないな。


「あ、これはニーナ用だからあげませんよ。。これは【雷属性】の人用なんでセリスさまルナードウォルトユディスでは使えませんからね」


 護身用だという名目けどオーナー以外にどこの世界にドラゴン装備を護身用に使う人がいるんだろ。しかもこれ一個で小さな村一つ買えそうだよね?


 ちょっと遠い目をしてたらコルがポケットをゴソゴソしだした。


「あ、アルフレッド様。これ。黒龍の牙から作ったナイフね。鞘は鱗のパウダーとミスリルとトライヘッドの火の牙を使って作ったから短期間なら火属性もついてるよ。ユニエール様はライトが買ってきた指輪の裏に【プロテクト】の魔法陣を組み込んだプロテクトリング。どっちも試作品だけど完成度はかなり高いから実用としていけるはずだよ。いやぁ恵の炎は凄いね。あれならどんな金属でも溶かせるんじゃない?」


「そう?まぁ私は魔神を黒焦げにできれば満足だよ。」

「おおっ!そうか!素晴らしい。」

「あらあら……ここにいると何もかも二三歩進んだ世界が見れて涙が出るわ。」


 素直に喜ぶアルフレッド様とは対照にユニエール様は涙目になっている。魔法先進国の盟主なのにこの屋敷では余り立場が無いからだろうな。オーナー、フルー、コルのトリオに絶賛引き気味だ


「兄が兄なら忍は忍で恐ろしい才能の持ち主だし……一国の王として忍に『群狼小姫』の二つ名を……」

「ちょっと恥ずかしいですから結構です」


 ん?まさかもう?


「私が攻撃系なら彼女は補助系が得意な風魔法使いでした。新魔法【ウォルフコート】。攻撃系ではないですが風の最上位魔法と言える魔法を創ってしまいました」


 はい、創れてました〜〜!!


「この魔法は無属性魔法の【シールド】を除いた三種を風魔法で補える魔法です。しかも常に風を纏う為火や風、飛び道具などが軌道を逸らされる為回避しやすい防御にも秀でた魔法でもあります。強化補助魔法とでも言うんじゃないでしょうか」


 そうすると普通の人が強化されたら1.5倍、紋章持ちが強化されたら2.25倍になるのかな?そこも知りたいところだね


「今の所私が意識して魔力を繋がないと効果は薄いんだけどね。兄さんの作ったメダルと併せて実戦してみないと」

「わかった。カミラ、他従業員二人くらいで実験役な。明日俺か恵と戦って貰おう。瑠衣は回復と、もし飛び火したら鎮火を頼む」

「恵がバカやらなきゃ大丈夫です……よ?」


 言ってて自分のセリフに不安がよぎる瑠衣様。確かに恵は冷静さがなくなると大体雑だよね。とにかく燃やせばいいって感じになるし


「なんでそこ信用ないかなぁ?」

「最近のあんた浮かれすぎだよ。なんかあった?」

「え?……あ〜〜。まああったけど。まぁ気をつけるよ」


 あぁ、瑠衣様は恵がオーナーに女にして貰ったの聞いていないんだ?まぁその辺は友達同士、うまくやってよ


「じゃあ第一陣のメンバーはそろそろ前戦基地に向かわなくちゃダメだから、第一陣のメンバーを除いた従業員から時間を調整するね。ラドニー様に物資の受け渡しもしなきゃだしね。えーっとあたしとワーグとダグラスでいいかな。どっちも犬獣人だよ」


 ワーグは尻尾がカールした全体的に茶と白の二色の毛色を持つ軽い根暗犬獣人。オーナーが言うには柴犬獣人。妻と子供がいながらも出稼ぎ先にて仕事を首に、稼ぐ手段として冒険者になるも根暗の為パーティを組めず借金しつつソロで頑張るけど上手くいかず。冒険者だった為そのまま借金奴隷に。オーナーの計らいで奥さんと子供に纏まった金を先に送っているので他の人より借金が多いけどその分頑張る気らしい。根暗さえ無くなればいいんだけど


 ダグラスは完全な戦闘奴隷でゴールデンレトリーバーの犬獣人。ガーラが第一陣リーダーで行くから次に強い彼を選んだ。普段なら薄い茶の長い体毛と尻尾があるはずだけど邪魔らしく毛は短く、尻尾は戦いの中で失ったらしい。中途半端な長さの尻尾が残っていて、本人曰くどうせ切れるなら根元からが良かったと言っていた。奴隷になった理由は不明。聞いても教えてもらえなかった。まぁオーナーを裏切らなければ別にいい


「忍嬢、それを私も参加させてもらえないだろうか?幸い私もあなたと同じ風属性。実験役くらいは役に立つはず」

「ウォルトさん、ありがとうございます。検証には属性も絡むかもしれないのでとても助かります」


 と、店長が微笑むと満足気に微笑むウォルト様。それを見て姫巫女様が他の勇者を見回す


「ま、まぁ他の属性が必要ならルナードやユディスも……」

「うちには鋼介つち瑠衣みずもいるんで大丈夫です。風属性は忍しかいないから除外すると風属性のウォルトはありですがね。」


 完全にお礼狙いだった姫巫女様はうな垂れすぐに復活して瑠衣様を見る


「では瑠衣さん、水魔法の修行の——」

「え?あー、あたしは検証終わったらユニエール様のところで訓練しますんで」

「では零華さんは——」

「私は奥の手を制御できるようにルナマリア様のところで、いえ、ルクレツィア様のところで調整するので明日は留守にします」


 次々と断られていく姫巫女様。鋼介様は魔法の訓練って感じじゃないしオーナーや恵は差があり過ぎで訓練してあげるとか言えるわけもなく結局誰とも仲良くはなれなさそうだ


「はぁ……コナー。魔法の訓練の方はどうかな?」

「はい。フルーさんの協力もあり影の研究も進んでいますので幾つか試したい事もあります。オーナー、幾つかの魔物の遺体をお借りしたいのですが」

「構わない。なら俺はニーナを連れて姫巫女様と採取とボウガンの試射に行く。コナーは恵とコンビを組んで検証組の方を頼む。」


 って事は恵とコナー対あたし、ワーグ、ダグラス、ウォルト様なのかな?と聞いたらワーグの方を恵チームにいれた


「あとは……あ、コル、ボウガンの方はいけるよな」

「任せてよ。これくらいなら明日の朝……10時には完成するよ。矢は数種類用意するから後で報告して」

「わかった。という訳で姫巫女様達はニーナの護衛と薬草採取に行きますか?」

「そんなに私達に協力を求めるなら仕方ありませんね。」


 ふふんと仰け反る姫巫女様。正直仕方なしに付き合うのはオーナーの方だからね。ルナード様もウォルト様から厳重注意されてるし……大丈夫かな?


「兄さん、お昼越えるならお弁当作ってもらうから厨房にユーリカさんがいるから今の内言っておいて。あ、ケンカしたら夕食抜きだからね。ニーナさん、食糧関係握ってるの私だから遠慮なく知らせてくださいね。そのまま二陣に載せる食糧にしますから」


 という店長の言葉に顔を強張らせるオーナーと姫巫女様。




 そのままお開きになるとあたしはガーラ君に会いに長屋の方に歩いて行く。既に荷詰めされた馬車四台が長屋中央にある貯蔵庫の周辺に並んでいた。


 第一陣で行くのは戦闘が可能な従業員が十人と調理が出来る人が二人、両方できるのが二人。戦闘従業員にはスタンプボアの皮で作った防具にウェポンフィッシュの武器が配布されている。オーナー的にはドラゴン製にしたかったらしいけど時間もないしもし野党や貴族に奪われてもそんなに痛くない装備にしてある。本人達は十分満足みたいだけどね。


「おーい、ガーラ君!」

「カミラ殿か、もう少しで用意は終わる。しかしオーナーはどこからこれほどの食糧を運んできたんだろうな?底が知れない方だ」


 山積みになっているインスタント食品とドライフルーツをポンと叩きながら呟く


「それは同意するよ。まぁ知らない方が幸せだと思う。さて、明日の朝からはお願いね」

「ああ、拾って貰った恩は返すさ。戦……狩りの場を用意して貰ったのだからな」


 ガーラ君って頭は良くないけど馬鹿じゃないんだよね。もしかしてどこかの獣人の集落の偉い人?


「ここでは素性は気にしないのだろう?オーナーを裏切らない。それがここのルール」

「あ、顔に出てたか。うん。そだね。オーナーを裏切らない。それさえ守ればね」


 あたし達は顔を見合い頷く。


「今夜も忙しいから明日の朝は見送りにはこないよ。みんなの準備が終われば出発してラドニー様に食糧を渡してね。あたしの騎士団バッヂ渡しとくから天幕通して貰えるだろうしさ」

「うむ、その辺はポーラに任せるから問題ない」

「そう。じゃ」


 その後私は出発するメンバーに声をかけてまわる。みんなオーナーと店長の事を一言言って頑張ると意気込んでいた。まぁ無理をしたら怒られるよと冗談ながらに注意したけどね。


 あたしは結構無茶してる気がするんだけどどう思う?って聞いたら気に入られてるからなんじゃない?って返事が来た。

 うーむ。異性に見られてる気がしないんだけどなぁ


 その後は軽いランニングと筋トレ、魔力が切れるまで消費し明日の為に調整してから寝た










 翌朝馬車の動く音で目が覚めた。どうやら今出て行ったみたいだね


「おはようございます、カミラ。今日はお手合わせお願いしますね」


 私より早く起きて身支度を整えていたコナーが私が目覚めた事に気づいて声をかけてくる。相変わらず髪と尻尾のブラッシングには余念がない。もともと悪くない毛色状態だったけどさらに色艶が良くなったな


「おはよう。うん。でも三対三なら近接のあたしらの方が有利でない?」

「三対三?まぁ本番をお楽しみにとでも言わせてもらいますよ。【影】の魔法はエルフの方でも研究されていましてね。勉強になりましたよ。対ダークエルフの研究がそのまま活かせましたから」


 なんか自信あるみたいだけど、戦闘ならコナーに遅れは取らないよ


「よし、今日の夕飯かける?」

「確かからあげですよ?減っても文句はなしですからね」

「じゃ、決定ね。」

「証文でも書きます?」


 コナーらしい物言いに朝から苦笑いをする。あたしらの間なら口約束で十分だよ


「いらないよ。さ、朝ごはんに行こう」

「カミラ、髪くらい梳かしなさい」

「カミ姉〜、偉い人いるんだからね〜……スピ〜〜」

「ユーリカも遅くまでお疲れ様」


 横でまだ寝ていたユーリカも身体を起こそうとして眠気に勝てず枕に突っ伏しながらも注意してくる。うーん。訓練で乱れるから一緒だと思うんだけどなぁ




 てな訳で朝食後早速検証する事になった。立ち会うのはボウガン待ちのオーナー、魔法陣確認のフルー、魔法を作った責任かユニエール様、護衛のシオン様、クオン様、火消しの瑠衣様。零華様と鋼介様はおらずユーリカはオーナーのお弁当作りをしている。ニーナはコルの所で寸法を測っていて今はいない。ミラトリス陣はまだ寝てるしトラファール陣はコルの工房へ行っている。アルフレッド様はこっちに来たかったぽいけど国益を選んでこなかった


 検証に参加するメンバーはあたし、恵、コナー、ワーグ、ダグラス、ウォルト様。さっき検証前と後の差を測るため走ったり木を切ったり何キロまで持ち上げられるかとかを測定した。実験後店長の魔力量で何分保つかの検証もある。


 説明後あたしらは先程完成されたメダルを見つめている。店長の血を使ったインクで書かれた魔法陣付きメダル。サイズは手の平よりは少し小さめ。メダルの横にはベルトが付いていて手首に付けれるようになっている


「じゃあ、ウォルトさん、ワーグさん、ダグラスさんは最初につけてください。試作品なんで今は手首でいいと思います」

「「わかりました」」

「ああ」


 店長の指示通りに手首にメダルをつける三人。あたしは紋章持ちなんで後でって事かな。すこししてつけ終わり店長にメダルを見せる三人


「良さそうですね。では時間ももったいないですし実験を始めます。みんなよろしくお願いします」


 店長は一つ深呼吸をして三人に手を向ける。正確にはメダルを目指して魔力を伸ばしているんだろう。現にオーナーの瞳が店長の手からゆっくりと三人の方へ動いている。ユニエール様もフルーも同じだ


『猛り、駆けるは草原揺らす緑の疾風


 風に踊る体躯は月を求め彼の地へ誘う


 翠き風狼、我が牙となりて果てなき道を切り開け


 我が牙に狩の加護を与えん』


【ウォルフコート】」


 店長が呪文を唱え終わるとどこからともなく三人に向かって風が吹く。次第に強く吹き始め周囲の人の髪を激しく薙いだ。もちろんあたしもボッサボサ。やっぱり一緒だったじゃん


「これが……」


 風が止み煽られていたあたしの髪が元に戻っても三人の周囲には風が吹き荒れていた。目には見えないけど発動したみたいだ


「うん。昨日できたばかりなのに上手くいった」

「もうあなたの中にしっかりした呪文とイメージがあるからですよ」

「はい。ありがとうございます。では三人は先ほどの数値との比較から始めますのでお願いします。ウォルトさんは鎧ありとなしも計測お願いします」

「了解した」

「分かりました」


 その結果腕力は少々、それ以外が全てかなり上昇していたようだった。木は完全に斬り裂けたけど魔法の効果で剣の切れ味も上昇したみたいだ。走っても倍の速度はでるし石を投げても当たらないし、あたしが接近しようとすると向かい風や横風になって体勢を維持するのにも気をつけなくちゃいけなかった。攻撃も同じく急な向かい風で抵抗があったりとかなり優秀な防御力がある。ただオーナーの【スタンバレット】や恵の【ファイアボール】は防げなかった。魔法の抵抗よりも強い威力だからだと思う。【スタンバレット】はともかく【ファイアボール】は【シールド】を追加してガードした


 やっぱり恵はもうちょっと安全に気をつけてね。


「忍、魔力が残り半分ほどになった」

「うん。そんな感じだね。今で45分くらいだから最大で90分、余裕みて一時間ってところかな」


 三人に掛けながら最大90分か、一人なら270分って事か。


「いえ、メダルに魔力を馴染ますのに消費してますからもう少しいけるでしょう。残った時間は魔力上昇と瞑想に当てましょうか」

「さてさてじゃあお待ちかねといきましょうか。」

「恵は炎禁止な。なんていうか……危ない」

「ショック!」

「恵、ワーグ、あなた達は前衛を。ワーグは魔法の効果の詳細を覚えておくように」

「はい」

「はーい」


 こっちは三人とも近接戦闘が得意だから。


「恵はあたしが抑える。ワーグを二人で仕留めてコナーに勝って」


 多分逆にして二人がかりでも恵には勝てない。だから時間だけ稼いで魔法の効果を見つつコナーには勝っておこう。三人がかりでなら恵相手に勝機が見つかるかも





「これでコナーのから揚げはいただきだね」

「なんと、ならば私も参加して……」

「いや、もう始まるんだから無理だって……それよりセリス様なんと言う地獄耳。」

「んんっ!ユディス、あなたのから揚げ分けてくれますよね。」

「そんなっ!」

「喋る機会を作って差し上げたではないですか」

「ユディス様空気だもんね」

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