森の中の出会い——ライト
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この世界に来て3日目、この町を一通り回り、世界状勢を色々教えてもらった
この世界は主だって4つの王国がある。今いるエルゲニア王国。いくつかの小国と海を挟んだ先にあるメディリシア王国。海を越えた場所にあるというシルバール王国(説明がわからなかった。聞く人によって西の山の方だとか北西の海だとかまとまりが無かった。とにかく西って事か?)そして俺達の出身国(嘘)になっているトラファール王国がある
今いるエルゲニアは自然が多くあり緑の国とも言われている。その分魔物の住みかになっている森や山が多いらしい。森林資源や鉱物資源が豊富なぶん昨日のようなオークが育ってしまう。それでも主力である魔法騎士が討伐に出ているのである程度は平和だ。
最近は王都で出兵されたとも聞いている。平和なんだから訓練の為か?もう少し情報収集が必要だ
次に文化についてだけど、富裕層では石造りの建物が多く、貧民層ではぼろきれや廃材で作ったような建物が見られた。基本的に奴隷落ち寸前で無い限り石造りの建物で、移動には馬車、馬など定番みたいだ。龍籠のような変わり種のものはないらしい
異世界物を書いている作者がだいたい中世なのはもしかしたら本当に異世界に行った奴らだったのかもしれない。いつか作者を探し出して聞いてみるのもありだな。
他に注目する点といえば多くは見てないけど奴隷もいるということだ。正直関わる事はない……だろう。その話をしたら女性陣から忌避感のある言葉が聞こえた。現代人の俺達じゃ考えられない事だ。
まぁ奴隷達は最低限の生活は保証されているので死は除外されるので地球のホームレスよりかはマシだろう。男の奴隷なら肉体労働、女の奴隷なら性奉仕と肉体労働が基本になる。これらは生活苦になって自ら奴隷になるパターンだ。解放されるにはある程度国に金を払い脱奴隷となる。
もう一つは犯罪奴隷だ。こちらはいくら金を払おうと解放されることはない。しかも行き先は鉱山開発か国境警備になるそうだ。ほぼ死ぬ運命を辿るらしい
ま、犯罪はやめましょうってことだ。
次にメディリシア王国だが常に魔物と戦争しており国はかなり疲弊しているようだ。今は小康状態のまま戦争も中断している 。兵士の国で剣の国の呼び名で知られている。
こちらも鉱物資源が豊富だけど品質は悪いそうで近隣国の資源を狙いよく戦争をふっかけている。外にばかり目を向けた結果国内の魔物が大繁殖し今はそちらに手を取られている。
そうすると今度は外が成長し近隣の資源を当てに戦争が出来なくなる。近隣国へ血縁者を嫁がせなんとかしているものの一番気をつけなくてはいけない物を犠牲にしているようだ。徴兵に高い税金に国民は憤り犯罪、横領、国外逃亡を繰り返しているそうだ。そして逮捕からの徴兵。なんか終わってるな
シルバール王国は魔法が発達した国だそうだ。二つ名は魔法の国というそのままのネーミングだ。理由は騎士や神官でなくても魔法が使える者もいるらしいからだそうだ。国民総魔法使いってことだな。だから、攻める側の魔物もやすやすと侵攻することは出来ない
海を越えたとか山の方だとか表現がよくわからなかったが更に調べた所同じ所には留まらないらしい。
常に緩慢に移動し同じ場所には留まらないそうだ。行くかはわからないけど引き続き調査しよう
最後にトラファール王国
ロレンスさんから聞いた通り学問の国であらゆる技術を取り入れ軍備に備えているらしい。鉄壁の異名を持つ幾つもの砦と高い防衛力が由来らしい。戦うつもりはさらさらないが。
続いて敵についてだが……エルゲニアには二体の神がいる。正確には二体の魔物の長。魔神、その正体は虎と牛だ
この大陸ならどこへ行っても聞けるそうだ。いかほどの驚異を感じているのかがよくわかる
この二体は仲がよくないらしく、協力して攻めるどころか度々戦っているほどだという噂もある。どちらかがいなくなれば勝った方が勢力を伸ばし遂には人間陣に攻めてくるだろう
以上の理由により人の立場は悪いが三竦み状態なのが現状だ。
魔物についてだ。魔物は多種多様だ。例えばゴブリンでも通常ゴブリン、手長ゴブリン、ゴブリンメイジなんかがいるしゴブリンの集落の長なんかはゴブリンキングとかいってかなり強いらしい。さらに装備品でゴブリンウォリアー、アーチャー、ランサー等派生種もいるそうな。正直ウォリアーとか全部同じ括りでよくね?と思ったのは内緒だ。なるべくなら今の内は雑魚モンスターばかり戦いたいところだ。この三日間でまだ魔物殺しをしていない零華と忍に一応ゴブリンを倒させた。やっぱり人型は辛いようだったので無理はさせず虫型魔物のアリアントを中心に戦わせた。名前の通りアリな訳だけどネーミングセンスはいかがなもんだろうか?
ちなみにアリアントは体調60cm程度のノンアクティブのモンスターだった。門番が作ったと思しき注意書きには一定のエリアからは出ないから危険ならエリアから逃げるようにと書かれていたから自分の縄張り以上は追いかけてこないんだろう。それを利用して多数現れた時は人数を分散させ対応させるようにして一対一、もしくはニ対一で戦わせるようにした
まだ戦いに慣れていない俺達が魔物に勝つにはまだまだ経験も情報も少ないからな。魔物の情報収集は特に積極的にやっていきたい
という訳で両方を得るために次はエルゲニア城を目指すことにした。簡単な魔物なら皆で、厄介そうなら俺と鋼介でやればいいだろう。
目指すエルゲニア城は森を越え山を迂回するルートだ。森は深く山も楽ではないが丸1日分の移動距離なら十分つくハズだ。つまり二日間だな。夜間の移動はゲームでも高確率で死ねるし
気になる事と言えば寝る場所だ。野宿は困るけど仕方ない。一応寝袋とかもあるし何とかなるだろ。野宿だと見張りを立てないといけない。何かあった時の為に二人は欲しいけど女の子だしなぁ……鋼介一人に任せるのは恐怖でしかないし……どうしようか
悩んでる間に皆が食料を用意したので移動を開始、後で決めよう。
町を出るとき遠くに南に向かうロレンスさんとエリザさんが見えた。新たな商売に励むのだろう。二人はとても楽しそうに進んでいった。俺からも無事を祈っておこう
「しゅっぱ~つ!」
鋼介は高らかに声をあげた。うるさい。御者台に座ったのは俺なんだから仕切るなよ
みんなは荷台に乗り、零華は町で買った本を読んだり忍は魔法の練習をしたりしているぞ。静かにしてろ
「ライトさん。今日で3日目ですね。そろそろ馴れましたか?」
御者台へ移ってきたのは恵だった。飲み物を差し入れに来たようだ。中からオレンジの香りがする
「ありがとう。そんなに簡単には慣れないな。恵はどうなんだ?やっぱり何かと不便じゃないのか?」
「私達が便利に馴れてただけですよ。まあ携帯が無いのは不便ですね。あ、魔法が使えるのは便利ですよね」
「まあな。今度から電気代が減りそうだ」
「便利ってそこですか?」
クスクス笑う笑顔がかわいいな…
「恵ちゃ~ん?ちょっと~?」
呼ばれて戻っていく恵。御者台って寂しいな……まぁたまに思い出してくれると嬉しいぞ
1時間ほど雑談をBGMにしながら進むわ、平原を越えると小さな丘が見え、更に向こうには森が見える。地図では森は直線距離で7~8キロ前後。森の深い場所なら魔物に出会う可能性大だが、逃げる事も考え森の端、平原にほど近い道を行く事になった
これで目的地に着くのは遅れるな…
仕方ない。安全第一だ
さらに時間は経ち、馬車は森に入る。木の根や石が道を荒らしている。あまり人通りがないみたいだ
他の道があったのかもしれない?見落としたかな。こういう時盗賊の仕業だったりするんだけど街にいる時そういう情報は聞かなかった。大丈夫とは思うけど警戒しとこう
ゴトゴトと音を立て進むが馬車の車輪が痛みそうだ。歩いて引き、障害物を避けて進む。
しばらくすると日が差し、まだまだ明るいけど奥は鬱蒼と繁った木や草で暗くなっている場所に出た。湿気でじめじめしていていかにも魔物が出そうだ
まだまともに戦えるのは俺だけで鋼介は怪我人だしな。リザードマンくらいならまだマシだけど複数の敵が現れると困る
あるのは森の奥に進む道しかない。強引に出ようものなら馬車を傷物にする事になりそうだ。今後を思うとそれは嫌だな
「みんな、警戒して周りを見てくれよ。嫌な感じの所を通るから魔物がいたら見逃すな」
注意を促すと零華は本から目を離し両腕をあげ固まった肩を解し降りてくる。
馬を忍に任せ先頭を歩く。鋼介は後方、恵と零華に森の深部側を任せる
「ライト君てさ、よく見るとけっこう格好いいよね」
「そうですね」
俺の後ろからコソコソ喋り歩くけど一応聞こえてるからな。嬉しいけど
「もっと目立てばいいのに、損してるわ。部活とかやればいいのよ。そうすれば女の子の…」
「キャー!」
「そうそうそんな声が聞けると思うって―ってあれ?」
今の悲鳴は忍でも恵でもないぞ。っていうかちゃんと見ろって
声のした方に目をやると女の子が魔物に追いかけられていた。走って来た女の子は腕と足に傷を負っているが見た感じ危険な傷ではない。出血している4つの筋状の傷が気になるな
女の子を馬車に匿い、逃げてきた方を見ると後ろ足で立つ犬の魔物が走って来た。スンスンと鼻を鳴らす姿は犬そのものだが、なぜか姿はブルドックに見えた
たしかコボルトとかいう犬の魔物だな。コボルト・ブルってとこだな。
魔物にも色々な品種がいるらしい。ダックスフンドだったら手足短くて胴はめちゃくちゃ長いのか?
見たい…けど今は目の前の魔物の対処が先だ
「爪と牙に気を付けろよ」
鋼介が言った。なるほど、女の子の傷は爪が原因のようだな。先端が少し赤黒い感じになっている
「ライト、手を出すなよ。俺がやる。」
鋼介は前に出て犬に対し親指を下に向け挑発した
「犬は犬らしく四本足で歩け、不細工な面しやがって。」
言葉は多分分かっていないだろうが魔物は馬鹿にされていることは分かったようだ。お前が馬鹿にするのはやめてやれ
喉の奥でグルルッと息巻いた。平たい顔を歪ませ牙を剥き出しにし襲いかかってくる
「馬車を壊されたくない。今の場所から下がったら手を出すからな」
俺は腕を組み、荷台に寄りかかると観戦を決めた。うん、オークより断然弱いな。任せよう
零華は気が気でない様子で弓を構えようか決めかねている。その間にも襲いかかってくる獣に対し鋼介も前へ出た。紋章のおかげで動きは悪くない
鋼介と魔物の腕が激しく交差する。犬の爪が鋼介を引き裂こうと振り下ろされるが上手く手甲で捌く
たまに口が大きく開き、牙にかかるであろう敵の肉に噛みつこうとするが、しゃがんだり、顎を打ったりする鋼介には届かない。見る間にどんどんダメージを受けるコボルト。歯は折れ短い鼻から血を流している
「ライトばかり良いとこ見させねぇぜ」
後ろに飛んで距離をおき、右手を肩と平行に保ち紋章を浮かび上がらせると魔物に向かって地面を殴り付ける
魔物に向かい地面を砕くように進む亀裂。衝撃は何らかの土魔法になったみたいだ。なにが起こっているかわからない犬は戸惑い何故か吠えだした
声を荒くする目標の直前で衝撃は周囲の地面を勢いよく持ち上げ敵に食らいつく。最期の瞬間、犬が怯える表情をしていたのが見えると直ぐ様その姿の一部を残し魔法に飲み込まれて圧迫された。飛び散る鮮血がその威力を物語っている
ビクンビクンと痙攣していた残された手から力が抜けていく。ピクリとも動かなくなり、辺りは僅かな静寂に包まれ、土の欠片が落ちる音だけがした
なんかやり過ぎだろ
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「あたたたたっ!ゆっくりゆっくり!」
零華が両腕に痣が残る鋼介から手甲を引き抜いた
紋章のおかげで痛みを忘れ戦えていたようだった。戦いを終えた瞬間から以前の打撲に加え地面を打った拳まで痛みが拡がっているそうだ。自業自得だとしか言いようがない
「次に無理したら凍らしてやるから!」
手甲を取り外し、しりもちをついた鋼介の頭を叩く零華を尻目に敵の生存反応の停止を確認し、荷馬車の女の子に声をかける
「終わった。もう出ても平気だ」
女の子は怯えた顔を向け「ひっ」と再び怯えた。俺では拉致があかないか?忍を呼び、声をかけさせることにした。
忍は荷台に乗り込み、優しく「大丈夫、もう心配ないよ。」と、話しかけると恐る恐る顔をあげ、忍について荷台から降りてくる。こういうのはやっぱり女の子の方がいいよな
さて、彼女だがどうやら森のキノコや果物を取りに来て襲われたようだ。村とは逆に逃げて来てしまった所で俺達に助けられたという
「あ、ありがとうございました。」
頭斤のつけた頭を深く下げ、所在なさげにその場に立ち尽くしている。煤けた金髪に転んだのか汚れた頬。翡翠色の目
あまり焼けていない肌。農作業もしてるのかはわからないけど手は荒れ気味。でも風呂に入れたら結構な美人だな。田舎美人だ
スカートに前掛け、柄物の服を着ている女の子は指を交差させ、もじもじしていた。……トイレにでも行きたいのだろうか……だったら長居させるのは悪いな
「あの、騎士様、なんとお礼をしたらいいのか…ありがとうございます」
……見当違いもいいところだった。女の子はどうやら相手が自分と違う身分だと思い恐縮しているようだ。
俺に礼を言うが違うのでただしてあげる。鋼介を指さし、助けたのは鋼介だと教えてやる
「申し訳ありません。とんだ無礼を。どうかお許しを…」
手を揃えまた頭を下げる。なんでそんなにペコペコしているんだろうか?もしかして怖がられてる?
「俺達は騎士じゃない。そんなに謝ることはない」
女の子はきょとんとしている。騎士でもないのに魔法を使えたからだろうか。目を丸くしていた
「とりあえず森を抜けましょう」
恵が手を叩き提案するとみんなうなずいた。確かに話すのは馬車でもできる。これ以上長居しても余計な客が来るだけだし提案を受け入れる
「出発しよう」