夏の夜と焼き林檎——恵
屋敷に帰ってきました。濡らしてしまった服を隠す為にライトさんのマントを借りて屋敷に入ります。原因となった零華さんにはちょっと睨みを利かせます。本人は飄々としてるけど
「悪かったわよ。でも黙ってるから恵ちゃんも黙っててよ?」
「……はい」
廊下を歩きダイニングを覗くとみんなが席に着いて食べているところでした。今日のごはんは中華でした。酢豚 (オーク肉)と同じくオークのひき肉を使った麻婆豆腐、ツインドラゴンの肉を使った春巻き、ブラックドラゴンの胸肉のバンバンジーサラダ。以前のワイバーンのスープにお米。ご…豪勢すぎる
さっさとお風呂入って着替えてごはんを食べよう。あのそそる匂いは堪らない
「じゃあ後でな。…………それにしてもなんで外にいたんだ?確か恵とポテト食べてたんじゃなかったっけ」
またですか?私が漏らした後めんどくさくなった零華さんが大剣で殴り飛ばしたけど……最近記憶飛びすぎじゃないですか?
「とにかくユーリカには自由に告白してもらうわ。私がいるからできないとか可哀想だしね。だからライト君は二人になれる様にしてあげてよ」
「わかったよ。零華がそれでいいなら」
私はそそくさとライトさんから離れお風呂に。今日三度目だよ……ふやけちゃう
さっさとお風呂を終わらせ食卓へ向かうと女子席とアルフレッド陛下、勇者さん、鋼介さんを固めた男席に分かれていた。零華さんもすでに着替えてユーリカと話している。
あ、これ女子が全員結託したな?姫巫女様まで参加してるんだ?それにしてもライトさんはなんで普通にこっちに座ってるんだろう?
「恵、こっちです」
コナーさんが呼んでくれたのでそちらに行くとライトさんとコナーさんの間の席に座らせてもらった。ライトさんはどうやら酢豚がお気に召した様子。今度作ってみよう。
「今日は気合いを入れるために豪勢にしてみました。」
忍ちゃんのバックアップは凄い。確かにこんな料理がでればテンションあがるよね。瑠衣ちゃんがごはんをもりもり食べる気持ちが分かる。っていうか最近食べすぎじゃない。動かなくなって豚にならないでよ
「して……この後の展開などを聞かせて貰えますか?」
「分かりました。店長、お願いします」
忍ちゃんは頷くと風の防壁を張って声が男席に行かないようにする
そうしてからコナーさんは話し出す
「この後オーナーの指示でユーリカには在庫調査の名目で貯蔵庫に向かわせます。そして店長には鋼介様に夜食を作りたいから貯蔵庫にある食材を取りに行くようお願いしてもらいます。」
貯蔵庫にはあらかじめ稀釈した媚薬を撒いておくそうです。少量なら相手にドキドキする程度の効果にできるそうでそれは黒髪さんがやってくれます。薬の効果をあまり強くするとドキドキじゃなくてエロエロになっちゃうそうです。よかった。私が使わなくて。初めてなのにエロエロはちょっと引かれちゃいますよね
え?何残念そうな顔をしてるんですか?ちょっと問いただそうとしようとしたらコナーさんが話を続けた
「そうして二人が入った後に魔物が強襲します。もちろんオーナーとユニエール様の【シールド】で作った張りぼてですが」
そして魔物が貯蔵庫の扉を破壊、もしくは封鎖し出られなくする。内側から出られなくする為に魔物の演出後またまたライトさんの【シールド】で閉じ込めるそうです。そうして不安を煽って吊り橋効果に期待しつつユーリカが鋼介さんに頼り、そのまま告白と言う流れだそうです
「以上ですが何か質問などありますか?」
「夜食ってなに作りましょう?決めておかないと演技に不備が出そうです。無い材料だと不信がられます」
「ふむ……まぁサンドイッチくらいで良いでしょう」
それはユニエール様が食べたいだけですよね?しかも実際には作らないってわかってます?いや、そんな残念そうな顔をされても
「それから魔物との戦闘中はちょっとオーバー目にお願いします。オーナーとユニエール様は先ほど言った通りにお願いします。店長は内部の声を周りに。瑠衣様、カミラは避難誘導を。恵、シオン様、クオン様、そして零華様がバトル担当となります。姫巫女様は勇者様方の行動制限をお願いします」
アルフレッド陛下は恐らく寝てる時間なので問題ないとの事でした。そこはやはり小学生程度の年齢、眠さには勝てないようですね
全ての説明が終わり解散となった。残ったおかずは鋼介さん達男性陣が残さず食べていた。姫巫女様、ズルい顔はやめましょうよ。結構食べたでしょ?
みんなを追い出して私も一旦部屋に戻ろう。そういえばコナーさんが今朝いなかったのはベッドを購入しに行ってくれていたそうです。助かりますね
「恵……」
「さんはいらないよ。それよりいよいよだね」
月明かりが射し始めた廊下を歩く。この時間帯でもまだまだみんな働いているようですれ違うメイドさんが壁際から挨拶してくれる。みんな働き者だね
「うぅ〜。緊張してきたかも」
急に立ち止まったユーリカが花瓶の陰に隠れだした。丸見えだからね?
「あ、わかるよ。私もライトさんに告白した時脚が震えてたからね。」
あの時の事は一生忘れないと思う。近づくライトさん、祝勝会の篝火に照らされた部屋。優しく抱きしめてくれたのは大事な思い出
「初めてキスしてもらった時も身体から力が抜けていったし」
「ほわぁ〜〜。」
あまり耐性が無いからか真っ赤になった顔を両手で隠すユーリカ。あれ?結構エッチにたいしてノリノリな態度とってた時なかったっけ?自分じゃないからだったのかな
「あ、時間もあるし今の内にお風呂とか準備しよっか?下着もいい奴に替えて——」
「うぅ〜。他人事だと思ってぇ〜」
友達だけど他人事だからね。手伝うけど楽しませてもらうね
「では恵にその時の事を詳しく聞かせてもらいましょうか。部屋なら邪魔は入りませんから」
しまった!藪蛇だった!
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「さてと、ユーリカ。俺たちは先に出て準備してくる。恵、落ち着かせてやってくれよ。」
「はっはい!」
「はーい」
「頑張ってな」
私とユーリカ、コナーさんを残してみんな去って行きました。まずは貯蔵庫周辺の長屋にいるみんなを避難させておく手はずになっています。全員ではありません。兎獣人さんをガヤ役、悲鳴要員として残しますからそれ以外の獣人さんは事が終わるまで厩舎のほうできな粉作りをする事になっています。コナーさんが近くの農村から鶏肉と大豆を交換してきたそうですよ。
「貯蔵庫の方も準備完了です。目的の食材も一番奥に配置しましたので時間も稼げるでしょう」
「うん。ご苦労様」
私の死角から声をかけてくる黒髪さんに労いの言葉をかける。この後彼女はライトさんの手伝いに動くみたい。何気に楽しんでるよね?
「コナー姉、変じゃない?」
「かわいいから大丈夫よ。」
そう、今のユーリカは服装もメイクもバッチリだ。女の私達が見てもかなりかわいいと言える。メイクはリアンがいないので【スリープクラウド】を使っていたネームレスさんがやってくれた。コナーさんの夜伽授業の時は暗くてよくわからなかったけどさっき見たら水色っぽい髪だったから水髪さんと名付けておこう
緊張するユーリカの肩を揉んでほぐしてあげたり私的女の子仕種を伝授する事10分
『鋼介さんに材料の準備をお願いしました。ユーリカさん、ご武運を祈ります』
「はっ!はいっ!店長!ありがとうございます!」
忍ちゃんからの【伝話】が入り、いよいよこの時がやってきました。後数分もすれば鋼介さんは貯蔵庫にいることになる。全員でのミッション開始だ。最後にユーリカをこそばしてから部屋をでる。ガチガチになってた表情が少し緩んだ気がする
「じゃあ、行くね。頑張って」
「うん。」
私はサロンで待つライトさん達と合流して出番を待つ。ここからは忍ちゃんがリアルタイムで状況を教えてくれる。
今ユーリカがサロンの前の廊下を歩いて行く気配がした。コナーさんはいない。
『鋼介さんが貯蔵庫に入りました。皆さん、スタンバイどうぞ』
「さて、行くか。【シールド】とはいえ結構本気で行くからな?リアリティーを出さないとな」
「シオン、クオン。私達の実験台になりなさい。新たに開発した【ユニオンマジック】の餌食にしてあげるわ」
いや、ユニエール様、目的間違ってるから
「さ、行くわよ」
零華さんが静かに腰を上げた。研ぎ澄まされた刀のような、触れる物を凍てつかせずにはいられない濃縮された魔力を感じた。
え?零華さんも何しに行くか分かってる?何カチコミに行くような雰囲気出してるんですか?
「それじゃ。俺達は露天風呂側から来るからよろしくな?」
「ライト殿、報酬の前払いに真紅玉をくれませんか?」
はいはいと言って小さく一番とだけ言ってポケットから林檎を取り出すライトさん。ポイッとユニエール様に投げると両手でキャッチ、魔法で皮をむきながらでていった
なんか仲良くなりすぎじゃない?
最後に全員で廊下を出ると仮面をしていない黒髪さんが最後尾についてくる
『ユーリカさんが貯蔵庫に到着しました。兄さんスタンバってる?』
「あと1分かからない。【シールド】のメイキングは終わってる。」
『カミラさん、瑠衣さん、そちらは?』
『オッケーだよ』
『いつでもいいよ、店長』
『姫巫女様』
『問題ありません』
『ついた。ではみんな、ユーリカの為に頑張って……………んっ?』
ライトさんが最後にそう言うと圧倒的な魔力反応が露天風呂の向こう側から広がっていく
——ズゥゥン……
『グギャアァァァ!!!!!!』
来た来た!私達の出番だ。私達は完全装備で屋敷をでて一直線に露天風呂の方へ目指す。もちろん獣人さん達は避難済み。あとは予定通り兎獣人さんに叫びながら屋敷に来て貰えばいい
途中ちらりと貯蔵庫を見ると扉が完全に凍結させてあった。ユニエール様だな?あの人拘束系の魔法得意っぽいよね〜
さて、と偽物魔物はどんなのかなぁ?
長屋を越えると少し遅れて兎獣人さんが出て行った。ちょっと遅くない?
『グルルルル…………』
本物っぽい唸り声、ライトさん気合いはいってるなぁ。
あ、見えてきた。夜なのに銀色が光り輝く毛、全長8メートルはあろうかと言う巨躯、爪は大地を軽く削り、その爪がある腕は大木と言えるくらい太い。ウネる尻尾が天を突き上げてる。虎だ!銀色の虎!かっこいい
バルクティンに似てるけどその真っ赤に血走ったかのような目には理性はない。凝ってるなぁ
「ライトさん、じゃあ派手に行きましょうか」
『グルル……グギャアァァァ!!!!』
「ん?」
あれ?なんか?よだれとか出てない?
「え?本物?」
「た、タイラントシルバーファング……」
えっと……たしかギルドじゃSランクの魔物だっけ?
『恵様、そいつは本物の魔物です。気をつけて』
「ほっ?本物!?」
黒髪さんが【伝話】ごしに話しかけてくる。ってか何処に?ライトさんと一緒にいたはずじゃ……
『今現在シルバーファングに弾き飛ばされ湖に落下、着水しました。ライト様達は無事です』
『ライトだ。恵、零華、忍、瑠衣は俺が戻るまで防御、回避に——ユニエール様、ちょっとは自分で泳いでって——徹するようにしろ。シオン達は後ろから援護してくれると助かる』
ライトさんからも連絡がきた。本当に無事でよかった。あとユニエール様、人の彼氏に何してるの
出された指示を了承し忍ちゃんと瑠衣ちゃんがやってくる。とにかく時間を稼がないと
——スンスン……
タイラントシルバーファングが鼻を鳴らして何かを臭いで地面に顔をくっつけると土ごとかぶりつく。ううん、すっごく器用に赤い何かをぶっとい杭のような牙に挟んでいる
——シャリシャリ
あ、食べた。この匂い、真紅玉だ。よく見るとその辺にいっぱい落ちてる。ユニエール様、またゴネたね?この虎匂いに引かれてやってきたんじゃ?食べてる時にライトさんごとふっとばされたんだろうな……
『ユーリカ!外がなんか変だ!俺が様子を見にいくからここに!』
『いや!私怖いです!一人にしないでください!』
『あ、ちょっと……抱きつかれても……』
「ちっ」
えーと……想定外の状況だけどユーリカ達の方は続いているみたいだ。何とか向こうに行かないようにしなきゃ。零華さんも舌打ちはやめてね
足元に転がっている林檎をいくつか拾い一個を半分に切り裂くとタイラントシルバーファングに投げつける。
「グル……」
「ほら、こっちよ」
残りの半分を見せつけ食べる。食べたいんだからいっぱい持ってる私を狙うでしょう?
『ユーリカ』
『鋼介様……』
なんだか見つめあってるっぽい感じを無視してシルバーファングの背後に回り込む
「グルルルル……クゥ……」
「食べたければ奪ってみなさい!」
持ってるうちの一つを炎で焼いて投げる。焼き林檎だ。匂いは生より凄い。そんな熱々の林檎をシルバーファングに投げる。もちろん林檎なので口を大きく開き招き入れる
「グァ?ガアァァァ!?」
流石はネコ科。猫舌だったらしく体格にあっていない小さな林檎でものたうちまわった。口に入っていたあっつあつの林檎が地面に転がった
『ユーリカ、その……当たってるんだけど』
『当ててるんです』
『お、結構で、デカイんだな』
『おっきいのは嫌いですか?』
………………何やってるのユーリカ?あと鋼介さん、それはセクハラですよ
口の中が落ち着いたのか、さっき落とした林檎をベロでつついて温度を確かめてる。あれ?意外と可愛いぞ。ひょいっとベロを絡めて林檎を咀嚼——からの蕩け顔。あ、気に入ったんだ。
『そ、そとは大変なんだ。俺も行かないと……』
『こっここから離れないで!怖いんです!お願いします!』
「クルルル——」
「え、もっと欲しいの?向こう聞きたいんだけどなぁ……ま、いっか。静かにしててくれる?」
聞いてみると地面を喉を鳴らしてお腹につけて伏せ状態になっちゃった。本当にSランクの魔物なの?ただのおっきい猫にしか感じないんだけど。忍ちゃん達も既に戦闘する気は無くなってるみたいでこっちに歩いて来ていた。もしかしてこの子お腹が空いてるだけ?それなら何とかなるかな。コナーさんにドラゴンの肉を持ってきてもらおう
『あのよ。怖いのは分かるけど』
『あ、あの……鋼介様、聞いてください!』
零華さんだけは貯蔵庫を睨んで動かずにいた。向こうに集中しているみたい。私も林檎をあげながら聞いていよう。シルバーファングも暴れる気はなさげだし。ただ催促が多いけど。ライトさん早く来てくれないかな?おかわり無くなっちゃうんだけど
瑠衣ちゃんは貯蔵庫の外壁に登らないの。それじゃゴブリンじゃなくてゴキブリだよ?
『わ、私、こんな奴隷の身分だけど……獣人のくせにとか思うかもしれないけど。恵……から聞いた好みの女の子とは離れてるし、能天気とか言われるけど——。私達を陰ながら助けてくれる貴方が』
周りの女の子が息を飲む音がした。みんな応援してるよ。頑張ってユーリカ!!
『鋼介様が……鋼介様が好き、です』
『………………へっ?すっ?好きっ?俺を?ユーリカが?』
「クルルル。グゥ〜〜」
「あぁ〜〜もう!全部あげるから静かにして!!!タマ、お座り!!」
「……クゥ」
もうっ!後は鋼介さんが返事をするだけなんだから待ってよ!
林檎を全部加熱処理して地面に置く。あと4つほどだけど1分くらいはもたせなさい
『あ、あの……本気で?』
『はい。だからその……その……初めてをもらっていただけませんか!?』
『ぶっ!!』
明らかに動揺する鋼介さん。
『だめ……ですか?こういうと勘違いされると困っちゃうんですが性交渉のない男の人が亡くなるとゴーストって魔物になるそうです。みんなそれで万が一の事とか考えてピリピリしたりして……でも私はそうじゃなくて……こんな私でも鋼介様が戻ってきてくれる場所になりたくて……』
『ユーリカ……』
「恵、どうなってる?状況は?」
ライトさんが走って駆け寄ってくる。けど答えて大事な所を逃すわけにはいかない。後で【ハートリード】で読んでくださいよ
「あ、ライトさん!待って!今いいところだから!タマにお肉あげててください!」
「た、タマ?」
ライトさんが帰ってきたけどそれどころじゃない!ユーリカ!ユーリカの方!
『サンキューな。俺なんかのどこを好きになったのかわからねぇけど嬉しいぜ』
『鋼介様』
よっしゃー!!鋼介さんやりまし——
『でも悪りぃ。俺はユーリカと付き合えねぇ。エッチもできねぇ』
『…………』
『だってよ……俺、零華が好きだから……さ。今はまだ全然釣り合い取れる気すらしねぇし受け入れてくれる気もしねぇ。でもよ?もっと頑張れば幼なじみじゃなくて男として見てくれるかもしれないよな?って!?あ〜!せっかく告白してくれたユーリカになに言ってんだぁ!!悪りぃ!すまねぇ!!』
後悔と申し訳なさと恥ずかしさと馬鹿さが入り混じったセリフの後に貯蔵庫の内側からドンと壁を叩く音がした。意外と正確に状況を把握しているんですね
『そうですか……』
『すまねぇ』
『いえ、恵から鋼介様の事聞いてましたから。ライト様の事があるから私もいけるかなって調子に乗っちゃいました。こういう展開も覚悟してましたから大丈夫!てへっ』
無理やりに笑ってなんでもないような表情のユーリカが見えた気がした。本当は辛いよね。零華さんも同じなのか鋼介さんの気持ちが知れたのに表情は浮かない
『あー……ふられちゃいましたね〜〜』
『ユーリカ……』
『じゃ、一つだけ約束してください。絶対死んじゃダメですよ?死んでからじゃ抱かせてあげれませんからねっ!』
『ああ……』
『……それじゃ、私行きますね?』
ユーリカが貯蔵庫の扉を少しだけ開いてその隙間から出てくる。中に向かって手を振る。……そんなに気を使わなくていいんだよ?辛いのはユーリカの方なんだから
静かに扉を閉めると扉に背を預ける。ズルズルと背中をつけたまま地面に座り込むと両手を口元へ。手を口に当てているのは鳴き声を漏らさないようにしているみたい。
「うっ……うぅ……だめ、ここで泣い……ちゃ」
背中を離し貯蔵庫から離れて行くユーリカ。鋼介さんに聞こえないようにしていたけど泣いていいんだよ?
黒髪さんが目配せしてついて行った。私も来いって言ってるみたいだった。
『恵、私も行きます』
コナーさんから連絡を受けるとライトさんにこの場を任せてユーリカを追う
「タマ!おいで!行くよ!」
「グルグル……」
のそっと起き上がると器用に牙で私の服を挟んで背中に乗せてくれた。
「ありがと。いくよ!」
「俺達は後始末をしておく。ユーリカは頼むぞ!」
「はいっ!!」
タマに走るように言うとまるでユーリカを追うのを理解しているかのように飛び出した。ユーリカは近くの小さな森に入ったみたいだった。
露天風呂から離れ、貯蔵庫を越え、長屋を越えて……え?なんで屋敷の方に?
「タマっ!?タマ!?お腹空いたのはわかってるからもうちょっとだけ我慢して。向かうのは森だよっ!」
ズシンズシンと地響きを立てながら屋敷の方に猛スピードで駆けるタマに待ったをかけて長屋の間から抜けた先にある森に向かわせる。
だめじゃん!自分で走ったほうが早いよ!
「め、恵。またすごいのに乗ってますね」
「あ、コナーさん。タイラントシルバーファングのタマだよ!さっき友達?になったよ!」
コナーさんが馬で併走してくるけど完全に馬は萎縮してしまって息が上がってしまっていた。これ以上走らせるのはよくなさそう
コナーさんに馬から降りてもらいタマに後ろに乗せるようにお願いした。コナーさんを何度か匂いだあと私と同じように背中に乗せてくれた
「ありがとね〜〜」
「グルッ!!」
騎手が居なくなって更に戸惑う馬に向かってタマが何か言うと一瞬驚いたものの屋敷の方に歩いて行った
「あれ?タマ、理性あったんだ?」
「ガゥガゥ!!」
失礼なとばかりに不満な声を上げるタマ
「ごめんごめん!でも流石最上位の魔物だね。人間の言葉が分かるんだ?」
「めぐみ?理性があるから一緒にいたんですよね?でもなんで会話が成立しているんですか?タマが理解できても恵はなぜ分かるんですか?」
そういえばなんでだろ?人間の使う言葉は紋章さえ起動させておけば分かったけど今まで魔物の言葉は分かった事はなかったのに
「なんとなく?」
「なんとなくで仲良くなったんですか…………ユニエール様の気持ちが分かった気がします」
はいはい。バケモノですよーっと。おっ?
「黒髪さん」
「ユーリカはこの先です。」
森の入り口で手を揃えて私達を待っていた黒髪さん。タマから降りてお座りさせて待たせるとここからは三人で進む
「困りました。まさか鋼介様がここまで零華様に惚れ込んでいるとは……。さすがに薬を使うのを躊躇ってしまいました」
「良かったと思うよ?あの展開で薬使ったらたぶんみんながギクシャクしてたと思うし」
少なくとも鋼介さん、零華さん、ユーリカ、私、ライトさんは複雑な気持ちのまま生活していく事になる。それは辛い
「まぁライト様がいれば例えゴースト化してもなんとかしていただけるでしょう」
「そうですね。恵様が今作ってるダメージ分散の魔法が完成すればライト様は生かせる可能性が高まりますから」
「なんでそこまで……」
情報漏洩が怖いからユニエール様しか知らないはずなのに
「それは秘密です。しかしできれば多人数でライト様に使いたいところですね。ダメージ分散できる人数が多いほど良いのですから」
「私でも……獣人でも使えるのですか?魔力というのを感じた事がないのですが……」
「私も最近まで……あ、そうだ。もしかしたら」
そうだ。紋章を使えるようにすればコナーさんも魔法を使えるようになるんじゃ?
「なんですか?」
「ん。内緒。今はユーリカの方が優先だよ」
「いました。あの木の裏に座り込んでいます」
黒髪さんが指をさす方に意識を向けてみると小さく啜り泣く声が聞こえてくる。
もしライトさんにフラれていたら私も辿ったかもしれない道。私はライトさんと付き合うことができているのにフラれてしまったユーリカになんて声をかけたらいいんだろう
「恵様、何も言わずに抱きしめてあげればいいのです」
「普段通りで大丈夫です。行きますよ?恵」
少し立ち止まった私にどうするべきか教えてくれる二人。心強いな
二人の言葉を受けて頷くとユーリカがいる木に向かう
わざと大きめに回りユーリカの正面に来るように歩みを進めた。
三角座りで膝の間に顔を埋めて泣いていた。その姿に自分を想像したのかコナーさんが悲しげな顔をしていた。私の視線に気づいてすぐにいつも通りの柔らかお姉さんな顔に戻す
「私は周囲の警戒をしていますので……」
一歩引き視界の端で頭を下げる黒髪さん。もう一歩下がったと思うと夜の森の影に消えていった
「………………。頑張ったね、ユーリカ」
「恵……コナー姉……。あはは……フラれちゃったよ」
「でもユーリカはよく頑張りましたよ。自慢の妹です」
「ありがと……頑張った……頑張ったのぉ……頑張ったの……に……うぅ……うわああぁぁぁ」
飛び出して来たユーリカを抱きとめ背中を優しく撫でてあげる。森が失恋の悲しみを受け止めるように騒めく事なくただただユーリカの泣き声だけが響いていた
しばらくしてユーリカが落ち着いたので屋敷に戻る。森を出るとタマがユーリカの涙を大きな舌で拭う。そうして私達を乗せて月明かりに照らされた道をいく
「今日は飲み明かすぞ〜〜!!」
「え〜〜!!!」
「ま、妹の為です。親友なら付き合いますよね?」
こうして一つの恋が終わった。魔神とか戦争とか大事な事もあるけど今はユーリカの側を離れずにいてあげよう。それが今一番大事な事だから
「結局出て行かなかったな。」
「私が慰めても効果はないわ」
「それもそうか……ユーリカ頑張ったな」
「………………。ね、ライト君、私の記憶から今夜の記憶を消すか封印して」
「鋼介の気持ちが知れたのにいいのか?」
「うん。鋼は私が知ったのを知らない。フェアじゃない。」
「分かった。いつかお互い素直になれるといいな?あ、零華はまず短気を直さないとな。あとみんなにはあまり口外しないように言っておくよ。」
「ライト君のバーカ。たらし。女の敵。色欲魔。……悪いわね。」
「いいさ。俺達も帰ろう。やる事はまだまだあるんだ。」




