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湯煙はディープレッドに染まって——恵

 さてと、ゲートを開いてライトさんの部屋を通り屋敷の自室へ


 …………みんなにはなんて説明しよう?


 ライトさんに二股を許した。ライトさんが悪役だよね。ルナマリアがライトさんに告白した。……違うなぁ。やっぱりありのままを伝える方が早いのかな?


 部屋を出て静まり返る廊下を進む。さすがにみんな寝たのかな?意識を集中してみんなの気配を探る。


「あれ?ライトさんの部屋?」


 ライトさんの部屋から沢山の気配がした。ライトさんもう帰って来てたの?違う方向に向かって行ったと思ったんだけど。他の人は誰だろう?そんなに知り合いいないんだけどな


 ——ガチャ


 あ、扉が開いた。ゆっくりと開いて縦に並ぶ沢山の目。廊下が薄暗くて不気味だけどそんな生き物見たことない。


「え?ま、魔物?」

「誰が魔物じゃー!!!」


 隙間から一体叫びながら出てきた!やっぱり魔物だ!暗いから良く分からないけどちっさくてちょこちょこしてるからきっと緑のアレだ!


「喋るゴブリン!」

「んだと!こんにゃろ!」


 掲げた両手から水を発射してくる!こいつ噂の?ウィザードゴブリン?


 水流を躱し魔力で身体を包み身体強化。一気に近づき足払いをかけて転ばし背中を踏む


「ぶぎゅっ!ぐえっ!」

「なんでゴブリンが……まさかみんな襲われて………」

「まだ言うか!親友に向かってそりゃないと思うんだけど」


 え?親友?まさか?


 恐る恐る手のひらに火の玉を作り明かりをつくる。足の下には小さい身体、ツインテール、手に持ってるのは水鉄砲。ライトさんの部屋から飛び出てきたのは瑠衣ちゃんだった


「あ、ごめんね。てっきり魔物かと」

「ううん、ナイス足払いだったね。だから!足を!どけて!」


 私は飛ぶように足をどけて後ろに下がる。そこには零華さん、忍ちゃん、カミラさん、コナーさん、ユーリカがいた。


 正面では床に着いた服をパンパンと払いながら立ち上がる瑠衣ちゃん


「…………ふぅ。悪いけど話は全部聞いたよ。ライトさんがルナマリアのパンツ食べたんでしょ?」

「イリアさんの服を剥いだって」

「二人とも注目するところおかしいわよ。薬盛られてまた逃げたって事よね?」


 なんでみんな知ってるの?まさか!?


「うん。忍ちゃんがトランシーバーを聞けって言われたらしくてね。ライト君の部屋に勝手に入っちゃった。鍵も開いてたしね」

「まさか、こうなるとは思っていませんでした」

「このお人好し!ノー天気!頭お花畑!もっと自分を大切にしなよ!ルナマリアが好きだろうと自分を優先しろっての!」


 瑠衣ちゃんが言いたい放題言ってくるけど私には他に思いつくことがなかったんだよ。


「ううん、これで良かったの。少なくとも私は納得してる。うん。良く考えたら同盟とか戦争とか私はどうでもいいんだ。一番失いたくないものを優先したの。私はルナマリアも親友だと思ってるから」


 瑠衣ちゃんも零華さんも忍ちゃんもライトさんもルナマリアも…………………………鋼介さんも。大事だから


「くっ!後で泣きついても知らないからねっ!その時は聞いてあげるけどさっ!」


 そんな事を言って廊下を歩いて行った。


「あの……今どうなってるんですか?」

「瑠衣ちゃんも素直じゃないわね。正直に心配してればいいのにさ。」


 呆れた顔をしながら窓の外を見る零華さん。外には沢山の獣人さん達


「さっき到着してね。今名簿作りながら部屋に案内してるところよ。さすがコナーさん。完璧な仕事してくるわね。予定よりも一時間は早かったんじゃない?」

「そこはみなさん獣人なので移動もあまり休憩を取らずにこれましたから。」

「ライトさんが零華さんに獣人さん達を頼むって」

「うん、任せて」


 零華さんは正面玄関に向かいました。忍ちゃん、従業員三人娘もついていきます。私も行こっと


「兄さんのどこに二人が惹かれたのかは分かりませんがあの兄さんです。積極的に行く方が良いと思いますよ」


 外に向かう途中に忍ちゃんがそんな事を言ってくれた。忍ちゃんは私の判断を認めてくれてる気がするから気が楽になったかも


「それから本人の前で絶対結婚すると言うのはどうかと、下手したら重い女になるので気をつけた方がいいでしょう」

「う、うん」

「私は…………倫理的にどうかとは思いますが立派な判断だと思います」


 そう言って零華さんに並び何かを話しに行った。………忍ちゃんって本当に中学生?


 玄関前に着くと執事さんとメイドさん達が並び私達を待っていた。名簿作りを代わりにやってもらっていたそうだ。みんなトランシーバーにかかりきりになってたんだな。


「はい、ありがとう。忍ちゃんは獣人女性を連れてキッチンへ。お米の調理方法を教えてあげて。瑠衣ちゃんは鋼にお風呂作らせたからそこに水を張ってね。まずは清潔にしてもらわなきゃ」

「あ、ウチに貰い物の石鹸ありますよ。それを使ってもらいますか?」

「助かるわ。後でお願いね。恵ちゃんは各所に火を入れて来てくれる?キッチン、寮、お風呂の順で」

「わかりました」


 玄関を出るとそこには三十人の獣人さん達。犬男性八人、女性が三人。猫男性五人、女性三人。狼男性二人、女性が一人。兎女性四人、熊男女一人ずつ、羊女性二人。男性が16人、女性が14人か


 零華さんが男性女性に分けテキパキと指示を出していく。一応忍ちゃんが主人になってるそうだけど、その辺は事前にコナーさんが連絡していてくれているので零華さんの話を聞いてくれていた


 さて、私は火を入れにいかないと。勝手口から入る。メイドさんもやる事があるらしいので簡単な事くらい自分でしなきゃね


 釜戸に火を入れる。ちゃんと着いたのを確認してから廊下に。


「うわっ!何コレ?」


 廊下一面に置かれた木箱や素材不明の袋の山。どうやら今日購入されたものらしく今日の伝票で速達になってる。いろんな商会から運ばれてきたみたい


「これはお米ですよ」


 忍ちゃんが獣人女性さん達を連れてやって来た。


「えっ?お米あったんだ?」

「はい、既に試食も済んでいますので問題ないですよ。後でみんなと食べましょうね。じゃ、皆さんこっちです」

 

 軽く話すとさっさとキッチンに入って行った。時間も時間だから早くしないといつ寝られるかわからなくなるからね。私もさっさと次の場所へ。


 屋敷から少し離れた所に建てられた寮は長屋のような雰囲気をしていた。角のない正方形に配置された建物の中央に少し大きめの建物は貯蔵庫と冷蔵庫らしい。冷蔵庫は氷を適度に敷き詰めただけの物だけどね


 次の場所はそんな貯蔵庫の正面。目的の場所には地面に座り込む人が一人


「鋼介さん」

「おっ?きたな。んじゃここに火を頼むわ」


 指差したのは薪で組まれた焚き火だ。寮に住む人が交代で火の番をするそうです。


 まぁ火が消えたら私がつけたり屋敷のキッチンからでももらえるようですが、一応自分達で自分達のコミュニティーを守ってもらうようにするつもりのようです。


「わかりました。はい」


 極小の火の玉を作り薪に着火します


「あの……鋼介さんは?」

「ん?何?」


 あ、これ、何も知らないんだ?また零華さん達にハブられたんだなぁ。かわいそう。


 でも説明するのも面倒なのでまだ内緒にしておこうかな。なんでもないですと言って零華さんが言っていたお風呂の話を聞く。場所を聞くと寮のさらに先にあるそうだ。今は瑠衣ちゃんが水を貯めているらしい


「わかりました」


 という訳でやって来ました。お風呂です。高台に作られた露天風呂形式。もちろん男女分けてありますが鋼介さんが涙ながらに説得して作った混浴も小規模ながらありました。どうやら獣人さん達にカップルができた時用にとの建て前らしいです


 お湯の交換が多少面倒なのですがアルフレッド陛下からポンプがいただけるそうで近くの地下水を汲み上げる事ができるので問題はありません。捨てるのは栓を抜くだけらしいです。ちなみに半地下に湯炊き用の火をおこす場所もあるので至れり尽くせりです。まさか獣人さん達も奴隷の身でお風呂に入れるとは思わなかったでしょう。ウチに来て良かったですね


 高台なので浴場には階段を上がって行きます。日本の露天風呂のように左右に脱衣所があり奥には岩をくり抜いたようなお風呂が、さらに奥には扉があるからあれが混浴の扉だそうです。女湯からしか開けられないそうですよ


「おっ。来たね」

「うん。凄いねお風呂」


 掲げた両手の先には車一台分くらいの水の塊。それをお風呂に投げて溜めていく。ほとんど溜まっていてあと一・二回で終わりそうだ。明かり一つでほぼ真っ暗なの中する作業は寂しいかも。私は火の玉を作り明かりをつける。まだなんの装飾もない露天風呂だ。


「さっきは言い過ぎたよ。ごめんね」


 こちらを振り向かないまま作業を進める瑠衣ちゃん。いつもと違って声のトーンが低い


「ううん。瑠衣ちゃんの言うことも分かるの。私とルナマリアは何もかも違うもん。ちゃんとした恋愛もしたことない私がルナマリアを受け入れて、もしかしたらライトさんを取られちゃうかもしれない。私が傷つく事を心配してくれたんだよね」


 また水を作り出して浴槽へ流していく。あと少しだね。私は水に手を入れて火をつける要領でお湯に変えていく


「あのね、私、こんなに人を好きになるの初めてなの。苦しかったり辛かったりモヤモヤしたり。でもお付き合いするようになって一緒にいるだけで暖かくて、嬉しくてポカポカして……幸せなの。もしこれが付き合って無かったら、例えばライトさんがルナマリアと付き合っていたらとても辛かったと思うの。だから、ルナマリアにも幸せを感じて欲しかったの」

「はあ〜〜、青春っていうのかねぇ〜。ま、あたしは恵を応援するよ?ルナマリアには悪いけどさ」

 

 最後の水を流し込んだのを確認してお湯にする


「ん、ちょっと熱いかな。調整しておくから零華さんのところでも手伝って来て」


 瑠衣ちゃんもお湯に手を入れて確かめるとそんな事を言った


「わかったよ。ありがと。瑠衣ちゃん」

「お礼は背中でも流して貰おうかね」


 ハンカチで手を拭いて肩をトントンと叩く


「年寄りくさいよ。恋せよ乙女……でしょ?瑠衣ちゃんも気になる人ができたら教えてね?」

「はいはい。ほら行った行った!」


 瑠衣ちゃんに押し出されるように露天風呂をでる。瑠衣ちゃんはやっぱりいい娘!親友でいられて嬉しいな。


「私は恵まれてるのね」


 改めて感じた気遣いに嬉しく思いながら屋敷に戻ると零華さんは獣人さん達に配給している所だった


「あら、もう終わったの?お疲れ様」


 私を見つけた零華さんは後をメイドさんに任せてこっちに歩いてくる


「ちょっと歩きましょうか?」


 そう言って連れ出され広い庭を二人で歩く。少しだけ前を歩く零華さんは月明かりが映えて綺麗だった


「寒くない?」

「はい。ちょっと暑いくらいですね」


 そう言うとまた歩き出す零華さん


「あのね。さっきはごめんね?ユニエール様の思惑に気づかなかったから止められなかったの悪かったわ」

「いえ、まさかこんな事態になるとは誰も思わなかったでしょうし……零華さんは助けてくれたじゃないですか?」

「でも、戦争とか同盟とか言われるとどうしても考え方が縛られちゃうでしょう?」


 確かに……


「ルナマリアを受け入れた事に文句はないの。私だってどうなったかは分からないもの。ただ一つだけ聞いて欲しいの」


 神妙な顔でこちらを見る零華さん。月が雲に隠れて表情が見えなくなった


「もしこの先同盟が進んだとして、ライト君の側室が増えたらどう?耐えられる?」

「………………」

「恐らくあと二人、同盟国の同盟って方法で余計な国は増えないと思うけどシルバールとトラファールから一人ずつ嫁いでくるはず。最低でよ。私も恵ちゃんが好きだから助けたいけどそれは変えられないと思う。」


 そうだった。ルナマリアを受け入れると同盟をしたい国が出て来るんだ。魔神を倒せる戦力だもん。無視できないもんね


「自分じゃない誰かが好きな人の子を産む。ルナマリアとは心を通わせたから大丈夫だとしても…………」

「覚悟は……します。今はできなくても私達が幸せになる為なら」


 雲が流れるのにまだ零華さんの顔はよく見えない。どういう表情をしているのか、何を考えているのかも分からない


「そう……じゃあ私がシルバールかトラファールに養子にいってライト君と結婚する事になっても?」

「えっ?そんな………………」


 零華さんがこんな時にこんなセリフを言う理由は何?ユニエール様から脅された?ルナマリアとの仲を引き裂く?まさか…………ライトさんの事が?


「零華さん……もしかしてライ——」

「なんてね。意地悪してごめんね?」


 雲間から月明かりが差し零華さんの顔が見えた。言葉に合わせたようなおどけた顔。私のセリフを言わせないように被せてきたのかもしれない


「勘違いしないでよ?王妃様の真似をしただけだから。」

「…………」

「でも安心したわ。恵ちゃんが流された訳じゃないのが知れて。あ、ちょっと本気にしちゃった?ゴメンね」

「はい」

「でも前半はきっとそうなる。気を強く持ってね」


 私は頷く。大丈夫。きっとみんなが居てくれれば問題ない。それだけでうまくやっていけるよ


「はいっ」

「ん、よろしい。じゃあ戻りましょうか」


 二人で並んで帰る。みんな私を心配してくれていたんだ。月明かりの下をゆっくりと歩く。


「明日は午前中は仕事、昼からはシオン達と訓練するけど恵ちゃんは明日一日は休んだ方がいいわね。」

「私も参加した方がいいんじゃ?」

「本当はね。でもライト君の神獣モードもあるし聖剣もあるんでしょう?休める時には休みなさい」

「聖剣……でもあれは……」


———ドオオォォォン!!!


 !!!


 屋敷の方だ!


 私達は顔を見合わせると屋敷に走った。屋敷には非戦闘員が多い。何が来たかは知らないけど避難する為の時間を稼がなきゃ


 屋敷の向こう側、厩舎がある方から土煙が舞っている。あの様子だと結構な大物なんじゃ?


「先行きます!」


 紋章を起動させジャンプ。落下が始まる前に足の裏に火球を作って爆破。爆破エネルギーを利用したジャンプ力と速度アップだ。バルクティンもライトさんの時に使ってたみたいです。それを使って屋敷の屋根に飛び乗り一気に近づく


 遠いのと土煙が重なってまだ目標の姿は見えません。思ったより小さいのかもしれない。もしくは反対側に動き出したのかも……明かりの為に頭上に炎を灯す


「止まれ!!!」


 とにかく逃す訳にもいかない。あらん限りの声を出して足止めをする。その間にみんなが集まりさえすれば……


「え?」


 煙が一部動き出した。煙の奥から一つ二つと巨大な物がこちらにきている。その内の一つが土煙を越えて出てきた


「ど、ドラゴン⁉︎」


 出てきたのは黒い鱗を持ったドラゴンだった。全長は15メートル程の……あれ?


 ——ズウゥゥン!!


 私の声に反応する事もなく地響きを立てて倒れるドラゴン。地に伏せた事で気付いたけど顔の左側が吹き飛ばされていて死んでいるみたいだった


 引き続き鳴る地響き。合計四回の地響きと共に現れたのはいずれも絶命した魔物達。赤い炎のような毛並みの熊ヘルグリズリーと一つ目の悪魔で有名なサイクロプス、オーガの一番強い奴とされてるオーガロード、三つの頭を持ち火、風、雷を吐くドラゴンのトライヘッド。いずれもかなりの強敵のはずなのに今はもう動かなくなっている。


「こいつで最後か……ふぅ。やっと帰って来れたな」


 聞きなれた声。さっきとは違って落ち着いてるみたいだ。


 風が吹いて煙を払っていく。吹く方を見るともちろん忍ちゃんがいた。後ろには鋼介さんと瑠衣ちゃん。近くに零華さんと戦える獣人さん達


「ただいま。今帰ったよ」


 土煙が晴れたそこには頭以外全身を金色に染めた……いえ、ところどころ返り血に汚れた金の鎧を着たライトさんが立っていました


「あ、ライトさん。また変わったお帰りで」

「いやぁ、理性が消えかかったみたいでいつの間にか海も渡ってたようでさ。」


 何やってるんですか?


「んで、こいつらはたぶん喧嘩してたんじゃないかな?そこに割り込んでやっちゃったみたいだけどそこは運がなかったって事で」

「運がなかっただけで皆殺しとは派手にやったわね」

「この世界って悪魔いたんだ……」

「それってライトの事だよな」


 口々に言いたい事を言うみんな。まぁ分からなくないですけどね。


 私は屋根から飛び降りると真っ先にライトさんに近寄り……止まりました。ライトさんは確かにルナマリアの事を認めましたけど、そういう展開にした私を怒ってるかもしれません。いえ、何も聞かずに自分の言葉だけばら撒いて怒らないはずはないです。そう思うともう足は一歩も進みません


「恵?」

「怒ってますよね?」


 一瞬の間、何のことかすぐに理解してぽりぽりと頭を掻くライトさん。


「怒ってるっていうか戸惑ってる。俺こんな風になるなんて思ってなかった。守りたいものがこんな簡単に増えて行くなんてさ」


 パラパラと砕けていく金の鎧。付いていた返り血が一緒に溶けていく


「それに怒られるとしたら俺の方だと思うよ。恵を好きだと言っておいてルナマリアにも同じ気持ちを持つなんて」

「それでも私は…………うん。やっぱり三人でもやっていけるんじゃないかなってどこかで思えます。ヤキモチを妬かない訳じゃないけど、ルナマリアだって悩んで悩んで引く事を選んでとても辛かったと思うし。だからこれでいいんですよ。ライトさんはドーンと受け止めればいいんです」

「分かった。俺も受け入れるよ。頑張って二人を幸せにする努力をする」

「お願いします。私も頑張りますね」

『私もね』


 突如のルナマリアの声。振り向くと胸元にトランシーバーを持ったネームレスさん


「ルナマリア!」

『最後に一つだけ。愛してるわ、ライト。おやすみなさい』


 ブッと最後に鳴らし沈黙するトランシーバー。ルナマリアのセリフにやられた感がします。つい数時間前まで泣いていた人とは思えないしたたかさだ。このタイミングまで待ってたの?早く寝なさい。こんな夜遅くに


「………あ、ルナマリアと言えば最後にライトさんの記憶を見ておけって……夜な夜な一人で何してるんですか?」

「えっ?いや……教える程の事じゃないんだよ?」


 なんで冷や汗かいてるんですか?もしかして何か悪いことでもしてるんじゃ?もしそうならやめてもらわないと。そういう悪い行いを怒るのも彼女の役目だよね。


「よろしければ私が説明できますが?」


 黒髪ロングのネームレスさんが私の前に膝まづいた。なんでネームレスさんが説明できるんだろう?あとなんで汗の量が増えたんですか?


「えっとじゃあお願いしていい?」

「はい。ライト様は最近王妃様の策略により性欲が増しています。しかしおん」

「黒髪ネームレス?その辺にして貰おうか」


 後ろに回り込んで口を塞ぐライトさん。イリアさんのように逃げられない様に手首をがっちり掴んでいる


「むむぐむ……」

「あの……ルナマリアは知ってるのに私には教えてくれないんですか?」


 なんで?早速の秘密なんですか?ネームレスさんだって知ってるのに


「くっ……いや、ルナマリアが知ってるんだから恵が知ってもいいんだけど……その……なんていうか。精神的ダメージが酷いって言うか、寝込むレベルっていうか……」

「教えてくれますよね?」

「でもショックを受けるって言うか。恵には耐性が無いっていうか…」

「教えてくれないんですか?」

「…………………恨むぞ。黒髪。覚えてろよ」


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……と超長い溜息をつくとネームレスさんを掴んだまま私に触れるライトさん。【ハートリード】で流されてくるきお………くが


「えっ!にゃっ?いにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ライトさんのパオーンが!パオーンが!!おっきくなって!おっき!!


「にああああ!?出た!出ちゃった!」

「のあああああ!!!何口走っちゃってんだぁぁぁぁぁ!!!」

「うるさーーーーーーい!!何時だと思ってるのですか!!!」


 パオーンがっ!パオーンがぁ!!


 誰かが怒ってましたがそれどころじゃありません!ライトさんのパオーンが怒ってます!ぎゅーんってなってますぅ


「恵!ストップ!ストップ!!サイクロプスが焼けてる!」

「ふぇっ?」


 声がした方を見るとライトさんが、ライトさんでライトさんのパオーンがパオーンさんで……あれれ


「はわわわわ!!ぱ、パオーン!!!」

「【タイダルウェイブ】!!!!」

 

 わっ!


 突然の津波が辺りを流していきます。もちろん私達諸共です。ごぼごぼと流されていく中で私の周りの水が沸騰しては流されていきました。


 そして水が流れきったところで冷静になれました。


「あ……す、凄かった。人生で一番びっくりしたかも」

「………………引いた?」


 ライトさんが珍しく焼けた上に流されてきたサイクロプスの腕に隠れつつ話しかけてきた。寝込むとかってそういうことですか……


「お、男の人ですもんね。そういうことしてても普通だと…………普通……」

「恵?またか!【スプラッシュ】!」


 うぷっ!誰ですか!


「また火事になったら堪らんわ!何見たか知らないけどユニエール様も怒ってるしやめい!!」


 瑠衣ちゃんだった。私の頭めがけ魔法を使うものだから髪はぐちゃぐちゃ、服はびちゃびちゃになってしまった


「後始末はしておくからさっさと風呂入れ!このバカ二人!」

「鋼も埋まってないで手伝いなさいな」

「うーい」

「兄さん、恵さん。露天風呂が沸いてるからそっちにいってね」


「分かった」

「分かったよ」


 忍ちゃんに促されさっき温めたお風呂に向かう。ライトさんがなぜか巻き込まれていなかった黒髪ネームレスさんと金髪のネームレスさんに着替えを頼んでいたから安心です


 なんで二人に頼むのかというと黒髪はルナマリアのネームレスだからだそうです。ライトさんは金髪さんの方なんですね


「こっちですよ」


 ライトさんはいなかったから知らないだろうし私が案内して露天風呂へ。日本風の脱衣所で左右に別れます。藁編みのバスケットっぽい何かが置かれていましたのでそちらにびちゃびちゃになった服を搾って水気を切ってから入れる。隣からふんって声が聞こえたからライトさんも同じように搾っているようです


 露天風呂と脱衣所を隔てる仕切りを避けて浴場へ出ます。一応明かりのために火球を浮かばせておきます。瑠衣ちゃんが持ってた明かりもありませんからね


「サンキュー。」

「いえいえ」


 おっ、これかな?忍ちゃんが後から持ってきたって石鹸。寝てしまってからまだお風呂入ってないし自前のボディソープじゃないけどこれで身体を洗おう


「はぁ……肉はこれでなんとかなるかなぁ。米もあるし食糧も半分はだせるな。」

「サイクロプスなんてどこ食べる気ですか?流石にあれは……」

「んん〜?あれは素材用だなぁ。まぁドラゴンとかも素材にできるんだけどそれはルナマリアに任せよう。加工技術なんて無いしさ」

「そうですね」


 身体を流して湯船に浸かる。


「「ふあぁぁぁあ」」


 背中越しに同じセリフが聞こえたのがとても面白かった


「ああ……筋肉痛だ。【アクセス】で鎧まで作るの初めてだし普段使わない筋肉が痛い」

「あれってどういう魔法なんですか?」

「ああ、言ってなかったか。【シールド】に【ストレングス】をかけて任意の部位に【シールド】の分だけ強化する魔法だよ。未完成だから体に負担がかかるけどな〜」


 パチャリと水が弾ける音


「恵〜。これ美味いぞ」


 垣根越しに投げ込まれる紅い果実。それが湯船に浮かんだ。これはリンゴ?


「いただきます」


 ぷかぷかと浮かぶリンゴ?を掴む。皮を剥いてないから丸齧りかな?割って食べる?


 食べ方を思案していると入り口の方から何人もの声が聞こえてきた。みんなとユニエール様、シオン、クオンだ。コナーさんも連れて来られてる。男湯には鋼介さんが来たらしい


 ……忍ちゃんと瑠衣ちゃんだけなら胸のサイズ勝ってたのに。この巨乳組めっ!


「あぁ、疲れたぁ」

「もう、あなた達の所為で目が覚めてしまいましたわ」

「すみません」

「とりあえず湯浴みでもしてサッパリすれば………って!ええええ!恵⁉︎何食べてるのそれぇ!!?」

 

 今、正に囓ろうとしていたリンゴを指差しプルプルと震えるユニエール様


「でぃ、真紅玉ディープレッドぉ!!」

「真紅玉!!」

「なんでっ!!」


 訳も分からずに固まっているとシオンがザバザバとお湯を分けて進んできた。私からリンゴを奪うと【ウィンドカッター】で真っ二つにしてしまった。私が貰ったのに


「ま、間違いないです!真紅玉です」


 断面をみると中まで真っ赤な果実だった。豊かな甘い香りが露天風呂に溢れた。甘ったるくなくて、でも鼻にスッと入ってきてホワッとした匂いです


「これをどこで?」

「ライトさんから貰いましたけど。向こう側からポーンと投げてましたけど」

「は?これは複数のドラゴンが護る木になる果実で最高の食材なんですよ。ドラゴンの魔力や波動がこれを作るんです。そしてこの柔らかな優しく甘い匂い。二・三百年は生きたドラゴンのはず……それを……」


 あ〜。あの黒いドラゴンがそうだったのかもしれないな。もう動かないけどさ


「ライトさん、まだあります?」

「うん、山ほどあるよ。」


 そういうとリンゴをこちらの人数分だけ投げて渡してくれるライトさん。リンゴが降る光景にシルバールの人達は唖然としていました


「あ、剥きますね」


 真っ赤な艶のある果実をスパッと切り分ける忍ちゃん。6つに切られた果実の一つを口に。


「あぁ……果汁が凄い。こんなの食べたら普通のリンゴが食べられないよ」

「店長……これは王妃様にアップルパイにして持って行きましょう」

「うん。お見舞いにはいいかも」


 侵攻する石化は魔力で堰き止めているので身体自体は健康体だから美味しくいただけるはずですからね。気分がよければ体調も良くなるだろうしね


「しかし、解せません。何故お風呂に入っているのにこれだけの量を持っているのですか?」

「企業秘密で……んぐっ……ぷは」


 垣根の向こうで何かを飲んでいるライトさん。え?お酒とか持ち込んでないですよね?


「鋼?リンゴ以外に何かあるの?」

「おぉっ!あるぞ。っても果物ばっかりだけど。梨にサクランボにパイナップル。季節感全くないのと知ってる色じゃないのが笑える。パイナップルとか紫だし。梨っていうか瓢箪だし、サクランボは五つ連なってるし。まぁうまいからどうでもいいけどさ」


 紫のパイナップル?毒とか入っていませんか?大丈夫なんでしょうか?え?ノーブルパイン?超高級食材?


「出してないだけで頭が槍みたいな魚だってとったぞ。生臭いと嫌だから出さないけどさ。帰りに海渡ってたら飛びかかって来たのを返り討ちにしてやった」

「う、ウェポンフィッシュまで……」


 ちなみにウェポンフィッシュは各大陸と未開地の間にある海峡にいる頭から色んな武器を生やした魚型の魔物です。群れで生息して水中や水上を行く獲物を頭の武器で狩る習性があるそうです。下手な船団なら全滅してもおかしくない相手だそうですがライトさんには全くかなわなかったようです


「明日は魚料理だな」

「血抜きしてないならやめておいたほうがいいよ。生臭いかも」

「時間は経ってないはずだし明日みんなでやれば大丈夫だ」

「時間が?何?何なの?」

「う〜。教えて下さいよっ!なんで私達より魔法が発達してるんですか!!」


 男湯とを隔てる仕切りに手をかけ直接男湯に詰め寄ろうとするユニエール様。タオルが取れかかってますよ。……意外とヒステリックなんですね


「止めてください。ユニエール様!」

「ええい!離しなさいシオン!これは我が国の威信に関わる問題ですよ!クオン!私を持ち上げてください!今ならどうやってるか見えるかも知りれません!」


 ——バキ


「え?」


 ——ギギギギギギ……


 とうとう仕切りの半ばを超えて上半身を持ち上げ男湯を見ようとしたら仕切りの下の方から破滅の音がした。


「な、何の音?」


 不気味な音に振り向くユニエール様。振り向いた拍子にタオルが引っかかっていて逃げられない。それを助けに向かうシオンとクオン。私達も手伝う為に手を伸ばし……


「ふぐっ!?」


 誰かが置いていた石鹸をクオンが踏んで頭から壁に突っ込んで…………ごめん。実況するよりユニエール様を助けた方がいいよね


 傾き始めた仕切りに引っかかっているユニエール様を……ってうわっ!なんか踏んでっ!クオンの踏んだ石鹸⁉︎


「にぎゃっ!ぐっ!」

「だ、大丈夫?」


 石鹸を思い切り踏んでしまった為身体が半回転して背中から壁に突っ込んでしまった。まさか逆さまになるとは思いませんでしたがユニエール様が足を掴んで助けてくれたので私の頭は無事でした。



 ただ一つ決定的な事をしてしまった。私の背中の後ろでは激しく折れ、砕けていく仕切りの音



 ——バキッ!バキバキバキバキ










 そしてゆっくりと男湯側に倒れた


「くっ!」

「ぎゅあ!!」


 巻き上がるお湯と蒸気、それと悲鳴。私は仕切りの上に仰向けになった状態から身を起こすと周りを見渡す。隣に裸のユニエール様。私の手にあるから倒れた時、何かの拍子に引き剥がしてしまったみたい。その奥には下半身丸出しで気絶しているクオンとタオルで前だけ隠して青ざめてるシオンにみんな

。よかったみんな無事みたいね


「はぁ……なにが起こった?」

「へっ?」


 目の前(下)にはライトさんが!!周囲を見渡した後目の前(上)にいる私を見上げるライトさん。


「きゃああぁぁぁ!!」

「ぶはっ!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!」


 ディープレッドを噴き出して湯船に倒れるライトさん


「わ、私の所為じゃないわよね?」

「ユニエール様の所為です」×6

「きゅ〜〜」

露天風呂ハプニングをしてみたかったのですよ。ええ……。女王の威厳とか全く無くなりましたよ。え?最初からない?


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