第二の魔神——ライト
待合室に戻り窓を開け外の空気を入れ深呼吸、腕の傷は少し痛むが概ね順調の兆しを見せている。それにしても疲れた
しばらくして忍と瑠衣以外が集まった。その中にはルナマリアも含まれている。さっきまでの根を詰めたような顔はしていない。かわりに笑顔もないわけだけど
「ライト、今から地下室に行くわ。ついてきて」
言われるまま後を歩くと中央階段前広場で他の三国の人間達が待っていた。近くには恐らく各国の重鎮達。姫巫女とウォルトもいた
「お待たせいたしました。では参りましょう」
小声で恵に尋ねるとどうやらバルクティンの遺体を見に行くらしいことが聞けた。今まで半信半疑だった者も信じさせる事ができるかもしれない。中央階段を降り、今まで入ったことのない区画へ歩き入れる。
今いるのは恐らく全ての国の代表はいないだろうから何らかの括りで纏められた内の代表とか、そんな感じだろう。代表と護衛が一人ずついる。ユニエール様はシオンを、アルフレッドはセドリア氏だ。ん?セドリア氏って戦えるのか?
俺と零華がルナマリアの後ろを歩き、その後ろをVIPが続く。恵と鋼介は最後尾だ。廊下を歩き階段を降りる。どうやら倉庫のようだな。何か伝説のアイテムでもありそうだ。もしくは隠しBOSSとかどうだろう?いない?
薄暗く、少しカビた臭いと埃が人の行き来の少なさを物語っているが車輪の線がくっきりと残り、最近の通行を匂わしていた。それは二つの部屋に続いていた。そのうちの手前でルナマリアの足が止まった
「皆様に見せておきたい物があります。零華…」
零華が扉を開き固定、その間に全員が部屋に入る。部屋の中央には布をかけられた二つの台座が静かにたたずんでいた。全員が入り静かに扉を閉める。
「鋼介、布をはずしてください」
喋らず頷き、布に手をかけ一気に布を引いた。布の下は二体のドラゴンの頭、飛竜と鎧竜の成れの果てがあった。昼間にリカルドが作業していたものだ
「こちらのドラゴンは昨晩、そこにいるライト殿が一人で倒した物。そっちのドラゴンは御霊送りの際、強襲をかけてきたものを妖精騎士団で仕留めたものです」
アスツールの側近だった事は言わない。すべて知っている事に気付かれる失敗はしたくない
「それで?これを見せる真意は?」
メルギオール王アスツールが言った。怒りがこもった瞳を前に向けていたがルナマリアではなくドラゴンにだった
「真意……そうですね。妖精騎士団の強さをお伝えしたかったのです。なればこそ、バルクティンを倒したと認める事が出来ましょう」
「そういえばドラゴンの胃からから揚げが何故か出てきましてね。まだ消化されてなかったから食べた直後のドラゴンと戦ったようです。なんでドラゴンがから揚げを食べてたのか……不思議ですねぇ」
「…………………ちっ」
「店売りしてる奴買った人が襲われたのかもしれねぇな?」
こら鋼介、せっかくアスツールの反応を見ようと思ってたのに邪魔するなよ
「もしかしたら人間に化けて買ったのかもしれませんね。それならお腹にあってもおかしくない……かな?」
「人間に化けれるドラゴンとは……また恐ろしい事で……もし市街で暴れられると思うと……」
「ふん!胸糞悪い。魔物に入られるような警備をする方がずさんなのだ。それよりさっさと魔神を見たいのだが⁉︎」
過剰な反応を見せるアスツールにでは行きましょうかとルナマリアが部屋をでると次いで全員が出ていった。
そして本題の部屋を開き入る。そこは手術室のように中央に台があり、バルクティンの遺体をのせている。明かりは手術室ほどはなく四隅と天井のランプだけが部屋を赤く照らしているだけだ
「これがバルクティン…」
両腕、両足、頭が切られ、各部位全てが炭化している魔神だった物を取り囲み各国検証を始めている。頭のない首筋には報告書通り恵がつけたとされる傷が、残り炭になった腕には四本の爪が残っている。
検証を進めるなか、トラファールのアルフレッド王は細かく調べ、炭化してない部分を採集していた。セドリア氏に聞くと試験薬を何種類か用意しているので反応をみるそうだ。それにしてもどぎつい色をしてるな
「サンプルは取れた。ここから出た情報は追って連絡しよう」
「少し魔法を試してみても?」
ユニエール陛下が話しかけてくる。炎以外という条件で許可、シルバール勢が水と風、土を試していた。死んでいる為なのか目立った反応は見られなかった
メルギオールはと言えば見ているだけで特に行動はなかった
(必要ではないということか…)
「皆様、検証の方は満足いかれましたか?もう夜も遅くなりました。そろそろ戻りますがよろしいですか?」
反対する事はなく、ルナマリアの提案を受け入れ全員部屋を出ていった
残されたのは俺達妖精騎士団の四人。話はあの時の話に
「よく生き残れたよな」
「恵がいなかったら鋼介は死んでたぞ」
「私もライトさんが来てくれなかったら死んでましたよ」
「俺は零華の援護がなければ死んでた」
あらゆる死の可能性を避け互いに命を繋ぎあって勝てた。四人の誰がいなくても勝つことはなかっただろう
「そういえばライト君の剣。あれは何?エクスカリバー」
全員があの時の記憶を持っているが全てではない。共有しているのは戦闘シーンのみだ。なのでエクスカリバーについては名前くらいしか知らない
「正確にはイクスセイバーだが、言いやすいからエクスカリバーにした。イクスと契約時にしか使えないんだ。ルナマリアには伏せるるように言ってあるが神の再生力も止め死に至らせることができる剣。それがエクスカリバー」
「それがあれば今後も楽勝だな。1日一回使える計算だろ」
「いや、そうはいかない。俺だってできる事なら使いたくない……毎回寝たくはないし、筋肉痛もゴメンだ」
『兄さん、そろそろ帰ってきて』
一陣の風が吹き忍の声を運んできた。長居し過ぎたか
「皆、出るぞ。恵、頼む」
「はい」
紋章術を発動させ部屋の奥を消し、入り口の方の火を消そうと手を掲げた恵。その瞬間、バルクティンに異変が発生。全身が赤光を放ち部屋を照らす
「ら、ライトさっ——」
部屋を赤く染める光が一点に集中、胴体から赤い光の玉が現れ驚く恵の紋章へ飛び込んでいく。再び暗くなる部屋。糸の切れた人形の様に恵は崩れ落ちていった
「なにが?」
「なん……だと」
「と、とにかく出ましょう」
意識のない恵を抱き上げ部屋をでる。とにかく落ち着いた場所へ移動だ。呼吸も平常、心拍数も問題ない。見た目寝ているだけにも見える。ただいつもと違うのは激しく発光する紋章。絶えず発光する様は何かが暴れている様にも取れた
「さっきの……何だったんだ?」
「光の玉が恵ちゃんに吸い込まれたわ」
「おそらく、あれが俺達の集めるはずの星の魂じゃないか?」
「これをあと11回しなきゃいけないのね」
「いいから上に上がろうぜ。医務室だ」
地下室をでて医務室を目指す。途中、忍と瑠衣が合流。ルナマリアに医務室へ行くと伝えて欲しい旨を話すとすぐに行ってくれた。女性用医務室へ恵を運び入れ、横に座り様子を見る。忍達がいたと言うことはパーティーは終わったようだな。城門の方が騒がしい
「う……」
眠っている恵が小さく呻き声をだした。何もできない自分がもどかしい。自分が眠っている時は恵も同じ気分なのだろうか。
「うぅっ!はぁはぁ、んうぅ…」
「………」
変な気持ちになってくる。なんで悶えているのかはわからないが目のやり場に困る。顔から視点を外すと自然と首、鎖骨、そして胸の谷間へ流れていく
「だから、今はそういう場合じゃないって」
頭を振り、特有の欲望を抑える。とにかく心配なのはかわりない。手を握り額をつける。握った小さな手は少し汗ばんでいた。布を湿らし肌の露出している部分を拭く
「う……」
冷たかったのだろうか?また小さく声をだした。続けて体を拭く
————ゴゴゴゴゴゴ!!!
凄まじい崩壊音と共に激しく揺さぶられた。立っている事が出来ないほどの地震だ。医療品が棚から落ち、砕け、特有の匂いが辺りに満ち窓ガラスは砕け城内外へ降り注ぐ
「恵!痛っ!」
震動によって床に投げ出され転がされた恵に覆い被さり落下物からその身を庇う。あまりの揺れに窓枠が砕け、その木片が背中に衝撃を与えてくる。遅れながらも【シールド】を貼って恵を守る。
数十秒後地震は収まり街中から悲鳴が聞こえた。外を見ると街の至る所で火が燻っている。二次災害だ。カミラ達は大丈夫だろうか?
【シールド】を解除し立ち上がると気持ち悪い魔力が辺りを包み込んだ。
『黙れ』
頭に響くような声が聞こえると静寂が辺りを包む。なんだ?何かがいる?
とにかくまずは外に出なければならない。なんらかの薬品の匂いが気になる。吸っても平気かはわからないし早く出よう。木片を払い恵を抱きかかえ廊下へ出る。扉が歪んでいなかったのは不幸中の幸いだ。まずは仲間とルナマリアの安否を確認しないと
足で扉を開けると廊下は玩具箱をひっくり返したように散々な有り様だった。進む廊下は設置物が倒れただけで歩くには不便ないのは助かった
中央階段にたどり着き中庭を見下ろす。沢山の人間がいるのが見えた。全員が城壁の方を見て静かにしている。誰かが避難の指示を出しているのだろうか?
階段を降りていくと廊下の窓から皆の見ている物が見えてくる
「なんで……」
見えてきたのは牛の足。特筆すべき点はその大きさ、バルクティンは3メートル未満だったが明らかにそれを越えている。異常なほどの大きさの角をもち、城壁へ足をかけている。先ほどの地震はこの牛の魔神が起こしたものだろうか?体の奥に見える尻尾はいくつもの大剣が一本に連なり形をなしていた
恵を中央階段に寝かせ魔神と相対する為に中庭へ。俺を確認した兵士達は魔神への道を開いていく。道を作った中には各国王の護衛達が剣すら抜かずにいた
「ライト!無事だったか」
一番前にラドニー殿と妖精騎士団。それとルナマリア。あと一応ルナードを連れて行った勇者。ウォルトともう一人は姫巫女を守っていた
「デルクリウスだ。ライトを名指しで呼んでいるぞ。気を付けろ」
魔神を見上げると目的の人間だと気付いたのか闇色の体を乗りだし俺を睨む
「デルクリウス……か。何しに来た?まさか祝いの言葉でもいいに来たのか?」
冷静を装い、上から目線で言い放つ。デカイな。
「宣戦布告だ。この国の人間に対し戦争を仕掛ける」
「変わった奴だな 宣戦布告の為に来たのか?バルクティンの様に不意討ちが魔神の流儀だと思っていた」
その言葉に機嫌を損ねたのか尻尾で城壁を叩きつけた。地震によりひび割れた壁がクッキーの様に脆く崩れていく。
「あの阿呆と同じにするな。このデルクリウス、正々堂々を信念としている。ならばこそ、貴様を待ち、蹂躙せずにいたのだ」
だからこそルナマリアも近くにいたのだろう。もしくはさっきの頭に響いた『黙れ』という言葉に動けずにいるのか?街のざわめきすら聞こえないのは何かを強制する力なのかもしれない。俺は動けるけど
「ふん。それでいつだ?」
「20の日が落ちた後5000体の魔物と共に仕掛ける。要はお前とそこの青い女、お前達を亡き者にすれば国は崩壊する」
俺とルナマリアだった。俺一人なら国を出ていけば良かったがこれで戦争は避けられなくなった
「逃げる事は許さん。人間と魔物だけだ。どちらかが死ぬまで戦え。【ペトリフィケイト】」
デルクリウスが何かの魔法を使った。なんだ【ペトリフィケイト】って?
「くっ」
「お母様!あ、足が」
ルナマリアが倒れこんだ王妃のヒールを投げ捨てた。地面に落ちた音は靴が鳴らすような音では無くガラスが砕けるような音だった。慌てて王妃に近づくと足の指がパキパキと音をたてて石になっていく
周りでも同じような症状が現れている人がいた。王妃と違いどんどんと石化の侵食が進み両足が、いや全身が石になる人すらいた
「それは20日後全身を食らいその者の命を奪うだろう。助けたければ忘れるな?逃げる事は許さん」
「何が……正々堂々よっ!」
「我は戦士、戦いに生を見出す者」
ルナマリアの言葉にそう返し怪しく目を光らせて言うと前足を立て体勢を起こし城壁から体を抜き帰っていく。歩いて帰っていくけど変だ。来たときもそうだけど巨体が起こす震動が感じられない
かなりの威圧を感じた。勇者が動けなかったのも頷けるな。バルクティンよりも強い気がする。今のまま勝てるか不安だ。何日かの余裕があるだけマシと言ったところか……
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