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初命令——ライト

 姫巫女が帰って行き軽く食事を取った事で場から不穏な空気がなくなった。大事な式典には勇者はもう呼ばれないだろうな。ラドニー殿も今は普段通りだけど、さっきは剣があれば切り掛かりそうだったからな。めでたい日に流血沙汰は勘弁してほしい 


『兄さん。零華さんから陛下が部屋から出たって来たわ』


 忍から連絡がきた。忍を探すとこちらを見ていた。近くには王妃と紫髪のメガネをかけたイリアさんがいた。イリアさんは護衛を代わってくれたみたいだな


「了解」

「了解です」


 恵を連れて会場を縦断する。ルナマリアが現れるのは最奥にある弧を描いた階段の上だ。ドレスアップしてゆっくりと歩き姿を見せながら降りてくる


 もちろん階段周りはゴージャス装備の騎士が並んでいる。左右の手摺前が俺達の指定された場所だ。はや歩きで階段付近へ向かう。定位置に着くと階段下にある扉から零華が出てきた。もちろん鋼介もいる。移動中の護衛を切り上げてきたみたいだ


 さっきのミラトリアスとのやりとりを忍伝てに聞いたのか騒ぎを起こしてどうするのと怒られた。いや、鋼介。笑ってるけどお前も絶対手を出してたと思うぞ


 すでに配置に着いていた忍と瑠衣を見て、今ポジションについた零華と鋼介のペアを見る。各人に視線を送り警護の開始だ。皆の位置を確認した直後、ルナマリアの名前が高々と告げられた


 会場全ての人の視線を束ねルナマリアが階段上に姿を現す。後ろを見るわけにはいかないから【サーチ】で拝見させてもらおう。


 今日の装いは体に合わせた艶めかしいドレスだ。ナイスなバストと括れたウエストが女性らしさを引き出してる。姫巫女とは全くの別物だ。肩から背中へはシルクの薄く柔らかなマント。ダイヤのネックレスにイヤリング。頭の上にはルナマリアの為に新たに造られた少し大きいめのティアラをつけていた。


 ルナマリアは手を上げ場の空気を支配するとゆっくり階段を降り、階段の中程で静かに語りだす。だらだらと長い挨拶はせず必要な口上を述べ自分の言葉を伝えていた


 初めて会ったときは頼りない感じもあったけど今は凛とした大人の女性を感じる。後は無茶さえしなければよいのだけど……それについては俺は人の事言えない。だから助けるだけだ。


 話が終わりルナマリアが階段を降りきると会場はダンスパーティーに切り替わる。演奏が流れ始め、男女が手に手を取り合いホール中央へ進んでいく


「ライトさん。私達も行かなきゃ。女王様がホールへ向かってますよ」


 相手は誰かは知らないがかなりの高位の人間なのだろう。ルナマリアを誉めちぎりダンスの場へ引っ張り出していた。ベタベタ触るんじゃない


 少しモヤっとしながら可能な限り近い場所に移動。ダンスを取りながら周囲を警戒した。結果的にいってパーティーの間は特に何も起きなかった


 恵と踊りながらルナマリアを常に視界に入れる。背中を向けても恵の視界を介してチェックしてるのでターンも平気だ


 視界の端で鋼介がよたよたと踊っていた。あまり動くなよ。あ、ほら隣のカップルにぶつかった


「普通に警護だけにすればいいのに」

「きっと零華さんと踊りたかったんじゃないでしょうか?」

「似合わない」

「全然似合いませんねー」


 そんな事をいいつつ踊っていると一曲目が終わった。ルナマリアの近くには忍と瑠衣がいる。きっと仮面はしていないだろうけど仮面メイドさんもどこかに待機しているはずだし少し休もう


『兄さん、私ダンスに誘われちゃった。どうしたらいい?』


 緊急連絡に忍の方を見るとセドリア氏が忍に手を差し出してる


「いいじゃないか。ロリコンを喜ばしてやれよ」

「いやいやライトさん。ルナマリアの警護を抜ける事になるからどうしようって話ですよ。まぁ私が行きますね。ライトさんはもう少し休んでてください」

『助かります。あと兄さん、シュニッツェルもハンバーグも抜きね』

「なっ!卑怯な……」


 言い返す前に会話が切られた。なんてこった………


「どうした、ライトよ?」

「忍が……意地悪するんです。まだ食べてないのにシュニッツェル抜きって……」

「不憫な奴よ。ほれ、コレを食うといい」


 渡されたのはさっきの騒動の元、から揚げだ。うん、美味い

 

 もっちゃもっちゃとから揚げを食べて休憩しているとクオンがこちらを見つけ歩いてくる。ラドニー殿から礼儀だと言われこちらから話しかけ誘った。遠くにいる恵と目があったら頰を膨らまして拗ねられたけどラドニー殿が宥めにいってくれたので問題なさそうだ


 二曲目が始まりそうなのでホールの中程を目指す。ルナマリアは挨拶廻りをしているようなので大丈夫だろう。恵もいるしさ。こら瑠衣、こっちを指差すんじゃない


 二人で向かい合い手を重ねると少し固まるクオン


「ど、どうでしょうか?」


 クオンの姿はもちろんドレスだ。肩から脇腹辺りまでが濃いピンク、そこから下は薄いピンクのノースリーブドレス。ブレスレットに指輪をつけている


「うん。綺麗だ。お相手できて光栄だね」

「あの……こちらこそ、ありがとうございます」


 笑顔をかわすと音楽が流れ始めた。今度はさっきよりも明るく華やかな曲調だ。周りのカップルもさっきよりも動きが大きい。俺たちも遅れずステップを踏み出す


「お上手なんですね。私パーティってまだ数えるほどしか行ってなくて。シオンはいつも一緒に来なさいと言ってくれるのに中々踏み出せなくて」

「そうなんだ。俺はこれほどの規模のパーティは初めてかなぁ。ダンスも二回目だし。クオンは先輩って訳だ」

「え゛?嘘っ!二回目⁉︎」

「本当さ。一回目のダンスだってちゃんと踊れたかすら微妙だよ。俺、おかしくない?」

「うわぁ……二回目でこれとか凄すぎる……」


 視界に映る繋いだ腕にある金のブレスレットと右手に指輪。何かしらの魔力を感じる。なんだろうか?ちょっと引かれ気味だし話題を変えよう


「それは?」

「あ……やっぱりわかります?」

「いや……何か魔力を感じたからなにかなって」

「ふふっ。これはシルバールの女の人が産まれた時から付ける物なんですよ」


 どうやら国のしきたり的なものらしい。シルバールの女性は産まれた時から指輪を見につけ自分の魔力を染み込ませ結婚相手に渡すのだそうだ。本人が騎士なら主にわたすこともあるらしい


「今のところ渡す相手はいませんけどねー」

「ユニエール女王陛下は?」

「それも考えましたけど断られました。意中の相手ができたら渡しなさいって返されましたよ」

「そうなんだ」


 段々仲良くなってきたかな?口調も楽になってきてるな。良い傾向だ


「ライト殿は……」


——ドン!


 しまった……誰かにぶつかった


「すみません」

「ってえなぁ。どこみてって……なんだライトか」

「鋼。怒る前に謝りなさい。……あらライト君とクオン?踊ってるの?」


 振り向いて見ると見慣れたアホ面の鋼介と零華だ。謝って損した。俺とクオンが手を繋いでいるのを半目で見ている二人。なんだ?こういう場なんだから仕方ないだろ


「ああ、せっかく知り合えたんだ。交友があったって普通だろ?」

「そ。なら次は私とも交友を深めてもらっても問題ないわね?」

「あ……ああ」

「(鋼、こんなだからちゃんと踊れてないのよ。一回くらいちゃんとやってみたいし)」

「(なるほどな)」

「あ……私はユニエール様の所に戻りますね」


 気を使わせてしまったかな。今は王妃と何か話しているユニエール女王陛下に視線を向けながら言った。


「ライト殿。今度ゆっくりお話しできるといいですね。……では、また」

「ああ。楽しみにしてるよ」


 クオンはみんなに会釈。せっかく仲良くなれそうだったのに。魔法の話とかも聴きたかったな


「あ、俺トイレね」


 鋼のエチケットやマナーの欠片もないセリフにみんな苦笑いだ。もちろん零華は許さずハイヒールで足の甲を突き刺す。クオンの手前叫んだりせず、涙目で耐えていたのは頑張ったと褒めておこう


「では」


 二人が離れたので今度は零華とダンスを踊った。クオンとの事を聞かれ、恵を大切にしろと説教されながら踊った。最終的には相当な疲労になった。交友全く関係ないぞ


 精神的に疲れたので今日はもうダンスは終わりだ。休憩しつつ壁の飾りにでもなってよう。誰も気づかないといいな。


「あなたが……キヤマライトだったのですね」


 せっかく休んでいたのに見つかってしまった。来たのは姫巫女だ。勇者、確かウォルトとかいう奴もいた。周囲の人は気づいているけどわざわざ近づく気はないようだ。まぁ王妃がフォローを入れてたから話せば返してくれるだろうけどら


「どうも」

「貴様!さっきから……」

「ウォルト、構いません」


 壁から背中を剥がし立ち上がる。姫巫女はさっきのような見下した目はしていない。とかいう俺も表情は殺している為お互い何の情報もやりとりできないでいる。ルナードから姫巫女の情報を奪っておけばよかったかな?


「…………………」

「…………………」


 いや、姫巫女は俺の情報を整理しているのかもしれない。本当に重要な事はルナマリア、ラドニー殿、王妃しか知らないはずだから漏れはないはずだ。だから大丈夫。一つ教えるなら好物はから揚げだ。忘れず付け足しておけ


「……………」

「やはり……誘ってはもらえないのでしょうね?」

「はっ?え?ダンス?」

「せっかく来たのですから一曲くらい……っ!何を言わせるのですか!」


 ああ、なるほどね。きっと誰もダンスの相手をしてくれないと思っているのか。まぁあんな退出の仕方すればそう思っても無理はない。俺がミラトリアスに最悪な印象を持っているのを周囲が知ったまま今日が終わるのを良しとしないわけか


 ふむ。王妃には助けてもらったし恩を返す意味も込めてオッケーするか


「私でよろしければ」

「はい」

「えっと……じゃあウォルトさんだっけか。姫巫女様のお時間をいただきますね」

「……ああ」


 ちょうど三曲目が終わったところか。姫巫女の手を引きまあまあ中央よりの場所を取る。周りが「何で?」って顔をしてるけど気にすんなよ。こっちも仕事さ


 ゆっくりとした音楽だ。恋人同士が見つめあいながらゆっくりと踊り出した。ああ、なるほど。だから何で?って感じだったのか。恵と踊りたかったな


「……残念でしたね。恋人ではなく私と踊る事になって」

「いやいや、恋人とはいつでも踊れますから。」

「は、自慢ですか?」

「事実ですよ」

「先ほどから違う女性とばかり踊っていたようですが?エルゲニアが一夫多妻制をとっているとはいえ感心しませんよ」


 ミラトリアスは一夫一妻制なのか。日本人の俺としてはそっちの方がいいのにな


「まぁいいです。あなたはエルゲニアの英雄。文句を言う人もいないのでしょう。嘆かわしい事です。偉人には忠告をできない者もたくさんいるでしょう。気をつける事です」


「お気遣い感謝します。思いあがらないよう心掛けます」


 姫巫女の腰を寄せターン。黒い髪が動きに合わせて跳ねた。リカルドよ、結構がっつり抱き寄せるんだな……


「…………ぁ」

「あ、失礼しました。強かったですよね」

「い、いえ……問題ありません。…………恋人もこんな大胆に抱き寄せるのですか?」

「え、まぁ……そうですね」

「羨ま……。女性は柔らかなものです。お気をつけなさい」

「はい。」


 姫巫女からの注意を聞きつつ緩やかな足運びに気をつける。


「本当はルナードに何をしたのですか?」

「白昼夢……というんですかね。それを見せました。飛びっきりの悪夢を」

「白昼夢……そんな魔法が?」


 表情を消し声を低く小さく、脅すように、呪うように語る


「俺を馬鹿にするのは構わない。でも周囲の人間には気をつけることだ。ラドニー殿を田舎の侯爵、王妃様に対する不敬、恵を娼婦扱い、王妃様が止めなければルナードは死んでいたぞ。」

「ミラトリアスを敵にまわす気ですか?」

「そうなら今頃みんな殺してる。まぁ今回は王妃様に免じて我慢するから敵にもならないけどさ。勇者はもうちょっと選んだ方がいいな。顔だけで魔力も低いしさ」


 姫巫女が脅しに固まるのを見計らったように三曲目が終わった。脅しは実際にしないから脅しなんだ。NO人殺し。間違えるなよ


 周りのカップル達が笑顔でパートナーに礼を言いあってる。中にはキスをしてる熱々なカップルもいた。やはり恵と踊りたかったな


「そうそう、ルナード君には今度治してあげるよって伝えておいて欲しい。反省はしてるだろうしさ」


 そうだな。二週間くらい後ならいつでも会ってあげよう。さすがに同じ男として辛い罰だと思うしね


 繋いでいた姫巫女の手を離すとその手をジッと見ていた。もしかして汗かいてたのか?気持ち悪いとか言われないだろうか


「覚えておきましょう。キヤマライト。あなたも神を疎かにしないよう。ゆめゆめ忘れないように。」


 そう言い残し去っていく姫巫女、結局名前は知らないまま終わってしまった。っていうかなんだったんだろう?本当に踊りたかっただけなのか?


 ホールから出ると近くにはルナマリア、忍瑠衣がいた。明らかに不信がっているのが見てとれるようだ。


「…………」


 何も言わず踵を返しルナマリアが退場していった。


「乙女の敵、ルナマリアを追ってください」

「誑かし上手、空気読んで」


 こいつら……。人をなんだと思ってるんだよ。ルナマリアの向かった先を指差し急かしてくる。


 ルナマリアはどうやら外壁通路に向かってるみたいだ。一人で動くなよな。あぶないんだから。廊下を歩くとイリアさんとリアンがいた。二人とも何も言わず頭だけ下げている。このまま行けということらしい


 二人に構わずルナマリアを追う。速めに追いつこうと駆け足で外にでるとルナマリアは通路に背中を預けこちらを見ていた


 火照った体に夜風が気持ちいい


「ライト……」

「どうしたんだ?まだ終わってないぞ」


 本当は聞かなくても分かってる。ここ最近は仕事に根詰め、さらに式ともなれば疲れも限界だろう。一人でゆっくりしたくなるのも無理はない。俺、来てよかったのか?


「1日くらい休んだらどうだ?」

「…優しいのね。ライトは」

「なにかあったのか?」


「…………………」


 ルナマリアは何も答えない。次の言葉を探しているとルナマリアが一歩進んで来た。俺とルナマリアの間は人一人分の距離しかない。誰か見たら誤解されるぞ


 ……あ、俺の【サーチ】を当てにしてるからか


 俺の脚にはもうルナマリアのドレスの裾が触れてる。恵に見られると困るんだが…言い訳くらい考えておくか……


「ね、ライト。踊りましょう?」

「踊る?」

「そう、初めての女王命令よ。ありがたく受け取りなさい。」


 少しばかり威厳をだすようにのけ反り言った

顔は笑っているので命令にかこつけたお願いらしい。あと自分の行動にウケるのはやめておけ。似合ってないのはわかるけど


「仰せのままに」


 膝まづき手を差し出すと羽のように柔らかく乗せられたルナマリアの手。軽く握ると同時に立ち上がり体を寄せた。無音のはずだけどさっきまでの演奏が聞こえた気がしてステップを踏み始める。疲れていたはずのルナマリアが柔らかな笑顔を見せてくれた


「本当はあなた達を紹介したかったんだけど、ライトはそういうの得意じゃなかったわよね」


「ライト、恵とはどう?うまくやってる?悲しませないであげてね。いいこだから」


「ライト、シルバールのあの娘、ライトの事が気になってる見たいね。」


「ねぇライト、やっぱり私…あなたが…」


 そこで口を閉ざしてしまう。彼女の両手が握りしめられた気がした。でも俺は答えられない。かのじょ王女みぶん異世界人たちば、どれもがストップをかける。確かにルナマリアの事は好きだ。女として好きではいる。でも踏み込む事は出来ない。恵が俺の特別だからだ。その席は埋まっている


「……いえ、何でもないわ。冷えてきたから戻るわね。皆で待合室で待ってて。仕事増やして悪いけどお願いね」


 そういうと手からこぼれ落ちるように抜け城内へ帰っていった。感じていたルナマリアの体温が冷えた空気と一緒に流れていく


「兄さん、集合は私がかけるから先に行ってて」


 風の中に忍の声がした。演奏を流してくれたのは忍か。忍ならわざわざ恵にチクることはないだろうな。そういう空気は呼んでくれるし


「分かった」


城内へ戻り、そのまま待合室へ向かうことにした




 今後姫巫女はサブキャラとして出てきます。代わりに三人の勇者がモブに


 

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