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空気——ライト

 規制は二ヶ所で行われていて入り口で招待状を確認しているが、俺達は必要ない。


 騎士章を見せ入場するだけだ。入り口を越えると次は所持品検査だ。男性は男の兵士が、女性は侍女さんが行っている。中にイリアさんがいたので二人は身体を強張らせていたけど違う侍女さんに検査を受け安心していた


 問題なく通る俺たちの後ろで瑠衣がイリアさんに水鉄砲を見つけられ、子どもを見る目で見られて怒っていた


「なぁ……瑠衣の胸……おかしくない?」


「え?あぁ……イリアさんの仕業ですね。パットが入れられてますね。瑠衣ちゃんの身体とバランスがあってなくて不自然です。瑠衣ちゃんはまだ気づいてないみたいですが」


 本当にイリアさんはイタズラ好きだな。何かしないと気が済まないのだろうか?


 入り口で今だに検査しているイリアさんに

辟易しながらホールに進むと色々な人物がすでに談話してルナマリアの登場を待っていた


 入り口でワインを受け取り壁際を歩く。あまり話しかけられるのは苦手だ。


「みんな、偉い人だったりするんですよね」


「そうだろうな 伯爵に侯爵、男爵、子爵。よりどりみどりだな」


 親同士が挨拶し、互いの子供を紹介、出会いの場を作っているようで皆必死である。主に下級貴族が自分より上位の貴族に売り込もうとしているのが滑稽だ


「初々しいですねぇ。私達もあんな出会い方でも付き合っていたんでしょうか?」


「もちろんだ、必ず出会っていたさ」


 そういうパターンの出会いもまた面白いかもな。令嬢の恵を口説き落とす。うん、ありだな


「ライト、来たか」


 巨体タキシードのラドニーが少し離れた所から近づいてくる。さすがにジョッキではなくワイングラスだ。っていうか酒は離さないんだな


「恵、よく似合っておるぞ。なるべくライトから離れんようにな。貴族ってのは手がはやいからな」


「はい。ありがとうございます」


 大丈夫。恵に近寄ろうものなら気絶させてやるつもりだからさ。高速点滅フラッシュでもスタンタッチでも好きな方を選ばしてあげよう


「それよりもライトよ。どうだ?」


 どうだ?敵対勢力の事かな?一応入り口でもチェックしてたけど俺も念を入れてやっておこう。絹の手袋をつけているから紋章を見られる心配はないので即発動


 ………


 【サーチ】で武器を探すが男性よりも女性の方が金属反応が多い。これは装飾品の類いだな。っていうか多すぎてわからん


「すみません。特定できません」


「むぅ…ライトの好みは幅が広いんだな。まぁいい。誘う時は紳士にな」


 ん?好み?


「はい?」


「む?あ……そうか。ライトは恵だけか。他の貴族と同じ感覚で喋っておったわ」


 ラドニー殿が言うには一般的にはパーティーは……こう…自分が良い目を見れる派閥に近寄る為のものでもあるらしい


 男女の出会いの場でもあるから気に入った相手がいるならどんどん攻めるのが貴族流だそうだ


 めんどくさいな、貴族って…


 そういうとラドニー殿は侯爵家の傘下の貴族が多くて大変なんだとぼやいた。そういえばそうだったな。ラドニー・グリンセルもファミリーネームとファーストネームだけのものだもんな。フルネームはかなり長いらしいが本人もたまに間違うらしいから覚えなくていいと言われた。それでいいのか?侯爵家


「グリンセル公爵。お久しぶりです。相変わらずのご健在のようですな」


 話しの合間を縫って貴族が話しかけてきた

。金髪で少し恰幅の良い体型をしていた。派手なマントに衣装。貴族の見本のような貴族だ


「エアリーズ子爵!久しいな!いやいや寄る年波には勝てん。年々衰える一方だ」


 二人は談話を始め、俺達を取り残していった。数分後一段落ついたらしい。エアリーズ子爵と呼ばれた男性がこちらに目をやる


「そちらの若者は?」


 手で俺達を示しラドニーへ問いかける子爵


「おお!忘れるところであった。」


 忘れてたのか?


「キヤマ・ライト。女王直属の騎士団団長だ。あのバルクティンを倒した者でもある」


「ほ~、この若者が……しかも女王直属とは」


「ライト、彼はジョエル・ファルニアス・エアリーズ。アートゥル一帯を所有する今一番勢いのある一族の長だ」


 彼は貴族の割りにフランクで握手をもって挨拶とした。アートゥル……港街だったかな


「ライトは相当な手練れだぞ。儂にも一歩も引けをとらんのだから」


「ほう、では引退も間近ですかな?


 その言葉に苦笑いで返し子爵の肩を叩いた。痛そうだけどラドニー殿の手前我慢して笑っていた


「まだまだ後続に後はやらんぞ」


「後続が災難ですな……おっとこちらの麗しい方は」


 次は恵のようだ。いやらしい感じはないがじっくりと見ている


「日比野・恵。妖精騎士団の団員でライトの戦友兼恋人だ」


 ドレスの両裾を持ち上げお辞儀、恵もいつの間にかマナーや礼儀を覚えていた。素晴らしい。流石は俺の彼女だ


「こんな美しい女性が騎士をやっているなんて、世の中変わってきましたな」


「言っておくがこの娘もバルクティンとの戦いの場にいたのだ。甘く見ていれば火傷するぞ」


「それはまた……そういえば騎士登用試験、今年は我が息子も受けますのでよろしくお願いしますぞ。ほらジャン、挨拶しなさい」


 今までジョエルさんの後ろにいたらしく彼の横をぬけ前に出てきた少年。年は俺より少し下のようだな。まだ幼い面影を残していた。忍と同じくらいか……膝下までしかないズボンがやけに似合っている。父親ゆずりの金髪と父親に似ない端整な顔立ち、少し日に焼けた肌をしていた。


「ジャン・エアリーズです。よろしくお願いします。当分はこちらで訓練させていただくので迷惑かけるかもしれませんが頑張りますのでよろしくお願いします」


「うむ、期待しておるぞ」


 再び話し始め俺達はまた、取り残された。もう他を回ってみようかな


「兄さん、恵さん」


 後ろから声がする。振り返りそこにいる人物を見る


「忍か……どうした?」


「仕事を忘れないでね」


「分かってるって。それよりシュニッツェルはどこかわかるか?」


 呆れ顔をして料理の置かれているスペースに目をやり探す忍。ん?と首を傾げ視線をテーブルに向けていた。


 え?まさかもう無いとか言わないよな?なっ?


「かの料理はここですぞ!エルゲニアの英雄殿!」


 大きな声で後ろから現れた男性。昨日の会食の時にいた人だ。あ、会食の時はルナマリアと各王にしか意識してなかったからわからなかったけど聞くところによると大臣らしい。俺達と同じ茶褐色の瞳に短い焦げ茶の髪をもつアラフォーの男性だ。ダンスはしないからかゆったりとした服装……文官スタイルとでもいった様相で大きな皿を持ってる。中身はもちろんドラゴンのカツだ。シュニッツェル!俺のシュニッツェル!


「ありがとうございます。」


 皿に置かれていたフォークで食べようと手を伸ばすと皿を持ち上げ阻止された。何故だ?


「ところで英雄殿?妹君はどちらに?」


 腕を伸ばしカツを狙うけどその度に皿を動かし邪魔をするトラファールの大臣。お茶目さんだな。トラファールの大臣さんは。おいたが過ぎると【アクセス】しちゃうぞ


「忍です……かっ!?」


 フェイントをかけて逃げたところを追撃。フォークがカツを捉えた。後は口に運ぶだ——


「そうです!ハグッ!その忍様です?何処におられるのですかな?うまうま」


 腕を引いてる途中、大臣の頭がぶれたかと思うと次の瞬間フォークの先は大臣にかぶりつかれていた。何その速さ!


「あの……私が輝山ライトの妹、輝山忍です。ようこそエルゲニアへ。挨拶が遅れて申し訳ありません」


 片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶。カテーシーって奴だ。忍もいつそんなの勉強してるんだろうか?


「これはこれは……なんと可愛らしい。お初目にかかります。トラファール国が大臣職に就いております。セドリア・ギルベール・センブルスです。よろしく」


 俺には握手を求めず忍には手を差し出すセドリア大臣。このロリコン野郎め!


「妹君とは聞いておりましたがなるほど……その若さで食文化に精通しておられるとは…」


「精通ってそんな……ただ兄の食べたい物を作っていたらみんながもてはやしてるだけで」


「いやいや、それでこんなものを作ってしまわれるのですから素晴らしい。野菜嫌いの陛下も会食の際はフォークを置かなかったくらいですから?ね?陛下」


 その場から飛び退くように横にズレるセドリア氏。その後ろにはこれまた半ズボンの赤マント王アルフレッドが自分の侍女を連れて立っていた


「む……ま、まぁそこそこ食べれるものだったな。誉めてつかわす」


「またまた陛下。西地区にあったフェアリーテイルをウチに作れないか聞いてこいとか言ってたじゃないですか?」


「なっ!?ま、まぁこれならウチでも売れて経済活性化に役立つという見込みがあったからだ。」


「ありがとうございます。でも今は難しいかもしれません。こっちでの活動もありますので」


「そ、そうか……なら仕方ないか……」


「あらら。フラれてしまいましたね。陛下」


 自分の家臣をキッと睨みつけるアルフレッド国王。セドリア氏も慣れたものでどこ吹く風で忍に笑顔を向けていた


「なら二号店は我がエアリーズ家が統治するアートゥルの街ではいかがでしょうか?フェアリーテイルの噂はかねがね聞いておりました。エアリーズ家が全面的に支援しますよ」


 急な展開に立ちどまって様子を見ていたジャン君がここぞとばかりに前に出てきた


「君は?」


「ジョエル・ファルニアス・エアリーズ子爵が嫡男、ジャン・ファルニアス・エアリーズにございます。」


 外国人二人に対し頭を下げ挨拶をするジャン君。アルフレッド国王が何か引っかかったような顔をした。


「ふん、エアリーズ家の者か。聞いておるぞ。輸出入をメインとした領経営をしておるそうだな。船を使う際冒険者を乗せ海賊など賊を返り討ちにさせる。その賊共の財貨の数割を報酬に使う。当たり外れはあるもののなかなか評判はいいらしいな」


 冒険者からしたら国を移動するのに金がかからない上に海賊が出ればボーナスもでる。うん。いいじゃないか


「ありがとうございます。アルフレッド国王陛下。私共の様な者の話をお耳にしておられたとは光栄です。トラファール国では新しくポンプの導入を始めたとか……」


 ポンプ?ポンプね。確かにエルゲニアじゃ井戸に滑車スタイルだし新しく思うのも無理は無いか


「それって真空圧を利用したやつ?」


「なっ?おい!セドリア⁉︎情報漏洩しているんじゃないか?まだ仕組みまで開示した覚えはないぞ」


「いや、暇があれば作ろうと思ってたけど技術も材料も無かったからどうしようと思ってたんですよ。そうか。開発されたなら普及もそう遠くないかもしれないな」


「そっ!そうか!まぁこういう技術は早い者勝ちだ。許せよ?」


 焦りながらも髪をかきあげ平静を保とうとするアルフレッド国王。簡単にトラファールの技術を理解していた俺に驚くジャン君。ただ実際はテレビで見ただけなんだよね


「で?忍は二号店どうするんだ?王妃様も王都にもう一軒どうか言っていただろう?忍が決定権があるんだから決めろよ?」


 いいんだいいんだ。俺、オーナーなのに何も知らずに全部進んじゃえば。最終的に奴隷解放も経済回復もできるんだし無駄に手を出すことはない。そう任せてるんだ。用無しじゃない


「なんと!忍嬢は王妃様とも面識が!これはいよいよもって……」


「うーん……結局従業員は兄さんが奴隷市で見つけて来た人でしょう?今の店を経験してから着かせたいんだよね」


「そっか……じゃあまた探しに行くか」


「ならリアンをまたお貸ししましょうか?彼女のリストを見ればどの街の奴隷商にどんな娘がいるかすぐに分かるはずです」


「王妃っ!様、ご機嫌麗しゅうございます」


 あぶねっ!他の国の人の前で王妃の事呼び捨てにするところだったよ。


「はい、アルフレッド国王陛下も……。ちょうど店の話をしておられるようでしたので。何か注文があれば伝えておきますが?」


「そうですね……規模が大きくなるのなら各店に警備の為に男を一人ずつ。従業員は王都に作るなら獣人と人間でいきましょうか。」


 俺達は別に獣人だけを念頭においてるわけじゃないしな。女の人だけでも無いとちゃんと周知して貰わないと後で何か言われそうだ


「伝えておきましょう。それで国王陛下。ジャン・ファルニアス・エアリーズ。あなた方はどうしたいのですか?」


「王妃様!ぼ…わ、わたしは」

「お久しゅうございます。ルクレツィア王妃、ここは陛下に代わり大臣の私が」


 言葉に詰まるジャン君を差し置いてセドリア氏が前に出てくる。挨拶から知り合いだったみたいだ


「トラファール国としましては技術、文化の交流を深めあおうと交換留学を申請したく存じます。今話にあったポンプを作った技術者をこちらに。まぁその代わりと言ってはこちらの希望としてもちろん忍嬢に来ていただきたいと考えております。もちろん希望ですがね」


「私はまずは国内で味を広めたほうがいいと思案します。国内では好まれても違う風土では好まれないかもしれない。まずは近い食文化の国へと伝播していく方が無難でしょう」


 へぇ。ちゃんと答えを出せたか。セドリア氏が発言を阻止しようと割って入ったのに肝が据わってるな


「ふふふ。なるほど。二人とも忍が気になるという事ですか。ただ残念な事に忍は家臣でも部下でもありませんので私には決める事は出来ないのです。そうですね……お友達といった関係に似てるでしょうか。ああ、ポンプの技術は申し訳ありませんが結構ですよ?英雄の頭の中にイメージがあるらしいので、そう遠くない先にお披露目できるでしょう。」


 そういうとセドリア氏は笑顔を見せて下がった。そこまで力を入れてやる事では無いという事か?忍の反応を見るためだったのかな?完全に王妃が相手をして残念でしたね。


「アートゥルにもすぐに移動できる訳でもありません。忍のレシピを作れる従業員を育てて初めて店を出すという事なので少なくとも二、三ヶ月後になるでしょう」


 あ、嘘ついたな王妃。もちろん中には数日研修がかかるかもしれないのもあるけど二、三ヶ月は言い過ぎだな


「ふん。まぁ別に構わんではないか。まずは今日食べたものを再現して見ればよい。そこからまた何か発展が見られるかもしれんからな。ではな……」


 特に気にしてないと言った感じでパーティの方へ行くアルフレッド国王陛下。セドリア氏は会釈をしてその後ろをついて行った


 あ、シュニッツェル……


「では忍、向こうで少しお話しでもしましょうか……ルナマリアが降りてくるまでは今しばらくかかるでしょうから」


「はい」


「それでは……」


 挨拶をして離れていく二人。後ろ姿を見送るジャン君は寂しげだった。そんなに寂しいなら頑張ってついていけばいいのに


「俺達はよく城内にいる。会いたければこればいい。いなけりゃ西地区にある忍の店を訪ねるといいよ」


「反対しないのですか?あれはどう見てもアルフレッド国王陛下は忍様に慕情の念を抱いておられました。」


「俺は忍にも恋愛はしてほしいと思ってる。どっかに嫁に行けとか言わないよ。別に権力があるからいいとかはないから正面からぶつかってみたらどうだ?」


 そんなことを言い残しジャン君に別れを告げる。離れた所で果汁飲料を飲み一息つく


「流石ライトさん。良いお兄さんしてますね」


「俺達がそうなのに忍には駄目とか言えないよ。」


「それにしても私……空気でしたね〜」





メインヒロインがほとんど喋らずに終わってしまいましたw



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