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ブレイクタイム——ライト

「みんな、お疲れ様。あとはパーティーで終わりよ。少し時間あるから休憩をするといいわ」


 妖精騎士団に一声かけると国内の有力者を引き連れ城内へ消えていった。彼女は記念パーティーまでの間さえ仕事があるようだ。そろそろちゃんと補佐をする人間を用意するべきだと進言しようと思う


「じゃあ、今からは休憩だ。自由にしてもいいが遠くにいくなよ」


 なんか引率の先生みたいな事を言ってしまったな


「零華さん、小腹が空きません?何か甘いものでも食べに行きましょう。ほら瑠衣ちゃんも忍ちゃんも行かない?」


 あらかじめ恵には女を全員連れていくよう言ってあるのでしばらくの間は問題ないだろう。たまには忍の店『フェアリーテイル』以外の店に行くそうだ。詳しくは恵に任せてるから知らないけど結構有名店だとは聞いてる


 名前やっと決まったんだな。まぁ安直だ。妖精騎士団だからフェアリーテイル。まんまだな


「ライトさん達はどうしますか?」


「いや、俺はいい」

「俺も」


 俺達に聞くのも予定の内で、このやり取りも決めておいたものだ。気分じゃないと言って断っておく。本当は二人で行きたいんだぞ……と。


「じゃあ、私達は行ってきますね」


「時間忘れないでよ」


 俺達は城内にいるんだから遅れることはないんだよな


「ああ」


 特に疑ってないようだな。恵について出て行った。手を振り恵と別れたら途端に寂しい。今度二人でどっかいこうかな。恵達の行き先はリアンから聞いたメイド達がよくいく店らしいからデートには不向きだな。どこに王妃の手先がいるか分からないし


「さて、踊れる奴を捜そう」


 彼女達を見送り本題に入る。貴族の知り合いなんていないからなぁ……誰かにお願いするかラドニー殿に紹介してもらうかか?


「とは言っても知り合い少ねーしな。ラドニーさんは?」


「………」


「ど、どうした?」


 いきなりラドニー殿をチョイスするとは…

…そういえば鋼介はラドニー殿が踊れないのを知らないのか…


「ラドニー殿だけは止めておけ」


 ダンスと呼べるしろものではない。そんなものを覚えて踊れば、氷漬け間違いなしだ。三日三晩は出れなくなるぞ


 あと知ってるのは……


「あ、アイツはどうだ?リカルド!」


 だよなぁ……他のやつ知らないし。でも事ある毎につっかかってくるんだよな。なにかと俺に敵対心を持っているのは何でだろうか?人は人、自分は自分でいいじゃないか


「リカルドか……気は進まないがいいだろう。アイツの所属知ってるか?」


「第12歩兵団……だったかな」


 一度鋼介が勝負した時に名乗られていたけど一瞬で終わったしうろ覚えになっている。とりあえず近くを通る人に12歩兵団の居場所を聞くと飛竜の所にいるらしいので牢屋を目指す


 人の流れはダンスホールから動いているようでもはや通行止めのように遮られている。そのため遠回りで牢屋へ向かう


「そういえば、ライトはダンスしたことあんのか?」


 隙間から見えたホール内を見て言った鋼介。俺が慌ててる様子がないから不思議に思ったらしい


「あるぞ。自己流みたいなもんだけどな」


「いつ?姫様とか?」


「バカ、恵とだ。誕生日にな」


 なんでもルナマリアと結びつけるんじゃない。確かに高校生程度がダンスを踊るとか思わないだろうけどさ。まさかこいつも王妃の手先なんじゃないだろうな?王妃からなにもされないところを見るとその可能性もありそうだ


「すげぇな…」


 ……違うか。ただ単純にちょっかいをかけないだけだな。バカっぽいし、なんとなく他の貴族とかにも紹介しにくそうだし


 俺のした事を馬鹿な顔をして聞いてる鋼介。誕生日と言えばプレゼントを渡して終わり。鋼介はそう思っていたらしい


「ま、プレゼントプラスアルファでかんがえておくんだな」


 わずかな隙間を見つけ人の壁を抜けると、牢屋の方から騒がしい声が聞こえてくる。牢屋の扉前ではいつか見た大工が騎士に指示をしながら作業に取りかかっている


 仕切っていた大工に声をかけ、クーデター以来の挨拶。仕事の話を聞くと、宮大工になったらしい。ルナマリアのピンチの時声をかけた事に感謝された。実は御用達がいたそうな話を聞いたけど財政もピンチになりそうなのに値段をふっかけてきたので打ち切りにされたそうだ。調子に乗ったからだな


 親方は逆に削りに削った料金で作業したのが良かったんだろうと言っていた。時間外労働までして頑張っていたからな。そういう心意気にルナマリアの覚えが良くなったんだと思う。


 そんな親方に用があれば格安で引き受けてやると言われたので覚えておこう。安心して任せられる


「ここで作業してるのって第12歩兵団?」


 作業の指示書はないらしく腕を組み空を見上げて言った


「えっと、10から13歩兵団までだな。12歩兵団は城外で作業しているはずだ」


 それだけ聞ければ十分だ。大工に激励の言葉をかけ、牢屋の穴をくぐった


 いまだに融けない氷の墓標を松明で焙る騎士達が見えた


「首が落ちるぞ~!」


 そう聞こえた後、赤い頭が氷を砕き、地面を揺らした


「すっげぇ!ちょっとグロいな」


 ドラゴンの体はかなり重いためパーツに分けて少しずつ降ろされていく。バラした方が肉も取りやすいし助かるな


「リカルドはいるか?」


 リアカーで腕を運ぶ最中の騎士に声をかけると足の方の作業をしているらしい


 俺達に気付くと皆片手になるのも構わず敬礼してくれたので、俺達も敬礼すると満足したらしく作業を再開していた。芸能人のような扱いがこそばいがやる気がでるならいいだろう。頑張って欲しい


 さらに進む。だらしなく伸ばされた足を廻ると尻尾のあたりに目的の人物がいた。大きな傷に剣を差し込んで解体作業をしているようで今もまた剣が振り下ろされた


「リカルド……おい、リカルド」


 声をかけると振り上げた剣で肉を刻んだ後振り向いた。相変わらずの仏頂面で俺達を認めると、再び作業を始めた


「キヤマライト…なんのようだ?」


「一つ頼みがある」


 まさか記憶をくれとは直接言うわけにはいかないよな。なんとか遠まわしに触る機会があればいいんだけど


「リカルドってダンス踊れるか?」


「ダンスなど貴族のたしなみ。造作もない」


 よしよしと喜ぶ鋼介とそれを不振な目で見るリカルド


「その記憶くれない?」


「バカ、ストレートに言うやつがいるか」


 せっかく理由つけて適当に採るつもりだったのに……


「記憶……なんのことだ?」


 能力の事を簡単に説明。いぶかしんでいたが構わず、理由を説明する


「今日の記念パーティーは知っているだろう?あれに出るよう言われている。ただ鋼介は踊れない。でも、パートナーに迷惑かけたくないそうだ。そこで記憶をコピーさせて欲しい」


 手を合わせ懇願する鋼介。リカルドはため息をつき言った


「物事には順序と言うものがある。先にこちらの頼みを聞いてもらおう。それからで良ければな」


「分かった。何をすればいいんだ?ってみりゃわかるか。ドラゴンを片づければいいんだな」


 まず氷の刃を抜かなくては作業も捗らない。鋼介は手甲をはめると、紋章を発動させ魔力を地面に流した


 適量分放出した後、地面を殴ると突き出た柱に竜の腹部が持ち上げられ、ゆっくりと氷の刃が抜けていく。


 そんな細かい芸当もできるんだな。


 持ち上げられていくドラゴンに騎士達が喜んでいた。どうやら氷の刃が鋭利過ぎて壊すのに戸惑っていたみたいだな


 一応支えにもなっていた氷の刃が抜けたから割けた肉の切れ目が悲鳴をあげて、千切れていく。足、腕、首、が胴体から離れていった。


「どんなもんだ!」とガッツポーズでアピールするがそんな場合じゃない


「ばか、避けろ!」

「へっ?」


 気づいた時には鋼介へそれは倒れかかっていた。次第に視界は遮られて鋼介に覆い被さっていく。氷の刃を抜いたことで支えを崩した飛竜の翼が鋼介へ落下した。


 瞬時に頭をガードするも質量からして押しつぶされるだろう。


 くっ!【シールド】も間に合わない!


「うわぁぁぁぁ!!!」


 翼の先が地面に着いた。悲鳴も聞こえなくなり周りも息を呑む


「ん?」


 何もできず鋼介の姿が完全に隠れ潰されると思った次の瞬間、鋼介が居たであろう場所の翼が赤く光りだした。飛竜の翼も全ては地に着かず浮いたまま光に飲み込まれていく


 なんだこれ?


 光が赤い翼を覆い尽くすと同時に輪郭が無くなる。光で形成された千切れた翼になった


 さらに変化は続き光の翼は中心に向かって渦を巻き圧縮、小さな宝石になり手甲に埋め込まれていった。頭を守ったまま動かない鋼介だけが間抜けに立ちつくしてる


「大丈夫か?」


 手甲で頭をかばったまま動かない鋼介に駆け寄った


「あれ?羽根は?」


 頭上の上を見ていて気づけないようなので左手の手甲を指さし教えてやる


「なんだこりゃ?」


 鋼介が指で宝石に触れると激しく発光。左手甲が強制的に外され光の玉に。


 弾けるように頭上に浮かび上がると鋼介の背中に飛び込む。さっきとは逆に赤い光が輪郭を作り出し翼を形成していく


「わ、わわ…」


 背中を見るとさっきの翼。意味も解らず慌てていると翼が羽ばたいた。人にあったサイズなのにその力は簡単に鋼介を重力から解放して地面から引き剥がした


「うわあああぁぁ…」


 コントロールが効かないらしく荒れ地を勢いよく進んでいった。どうやら飛べはしないようだな。跳ねるの延長と言ってもいいだろう


 うーむ、どこまで行く気だろうか?パーティに間に合うかな?


「あ、みんな?作業してていいよ」



—————————————————


「はぁ〜。良い天気だなぁ」


「いや、キヤマライトよ。少しは心配したらどうなんだ?俺達には何が何だか……」


「ん〜。きっと大丈夫だって。あ、ありがとうございます」


 あれから20分程経った。待っていたらメイドさんが来て「食べて下さい」と渡されたお茶とクッキーを齧りながら日向ぼっこをしている。どうやら王妃の侍女の一人だそうだけど俺も一人だし、騎士達もいるからおかしな真似はしないだろう。気をぬいている


「あ〜。のんびりっていいなぁ……最近バトってばかりだったからなぁ……はぁ。あ、どうも」


 お茶のおかわりを貰ってまたクッキーを食べる。飛竜の片付けもだいぶ終わったなぁ。後は胴体だけみたいだ。15分くらいで終わりそうだな。それまでに帰ってくるかな?そろそろ時間もヤバイ気がするんだけど


 そういえば翼が一つダメになったんだよなぁ。翼膜酒の材料減ったなぁ。どうしようかな。さっきの鋼介の翼千切って使えないかな。せっかくラドニー殿に恩を返して、さらに売れる所だったのになぁ


「リカルド、どっかまあまあ強い魔物いるとこ知らないか?蛇とか魚系」


 マムシか河豚なんていればラッキー。結局調理は忍に任せるから半分くらい取られる気がするけど仕方ないな。まぁ俺にも金が入るし


「知るか。しかもなんで限定なんだ?騎士なら困っている誰かの為に剣を振るうものだろう」


「まぁ、そうだな。実は今俺困ってるんだよ。だから問題なし。予定が少し狂ってしまったからさ。」


「むぅ……魚系か。アルフレッド侯爵領北部にツインヘッドシャークとか言う魔物がいるそうだ。河を縄張りにしてるそうで討伐依頼が出てるそうだ」


「なんで河にサメ?」


「そこまで知るか。」


「お話し中失礼します。ライト様。鋼介様が猛スピードでこっちに飛んできます」


 メイドさんが話の合間を縫って話しかけてくれた。メイドさんの手には俺がルナマリアに渡したおもちゃの双眼鏡に似た道具を持っていた。量産化に成功したらしい。っと、それどころじゃないな


「ライトおおぉぉ!!とめてくれぇぇぇ!!」


「鋼介、紋章を解除しろ!!早く!」


 このままだと壁にぶつかってしまう。骨折じゃすまないスピードだ。潰れたトマトになっちまう


「わ、わかった」


 紋章を解除、翼は手甲に戻るがスピードはおちない。これ慣性の法則な


「うわあああぁぁ!ぶつかるうぅぅぅ!」


 鋼介は目を瞑り衝突を覚悟するが必要ない。【アクセス】で【クイック】を三回分使い、さらに紋章で強化し城の外壁を蹴り鋼介の後ろに着くように飛ぶ


「ぐぇっ!え?」


 衝撃ではなく急に引っ張られた為内臓が上半身へ移動してそうだ。吐き気がしてそうだけど怪我するよりかいいだろ


 目を開き、後ろを覗いてくる鋼介。足を持って止めてやったよ。怪我させたら零華になんかいわれそうだしな


 鋼介の推進力が無くなりそれにともない慣性の力が消え鋼介の体が落ちる


「痛て」


「大丈夫か?」


「あーびっくりした」


 体をおこし地面にドッシリと座ると大きな溜息をつく。九死に一生を得た気分はどうだ?


「だ、大丈夫か?なんなんだ今のは?」


 リカルドが唖然としたまま呟く。俺の【アクセス】に対する質問かと思いきやどうやら鋼介の能力らしい。ただの魔法とは説明し難い。さっきの変化の時はよそ見していたんだって


「鋼介の魔法だ。少し毛色が違ってな。宝石にした魔物の力を使うんだ」


 これであっているはずだが信じるだろうか?自分でも馬鹿げた説明だとは思うが見た感じそんな所だ。できたら突っ込むなよ?


「まだ使いなれてないんでな」


「そ、そう。そうなんだ」


 鋼介のボロがでない内に話を進めないといけない


「氷の刃を抜いたから後は簡単だろう?約束通り記憶をコピーさせてもらうぞ」


 飛竜はすでにバラバラになって城のどっかにいった。最後の胴体も今運ばれていったし


 というわけでリカルドと鋼介の肩に触れ紋章を発動。自分を介して鋼介に記憶を写していく。俺も恩恵を受けた。自己流だったダンスもこれで大丈夫そうだ。待ってろ恵


「確かに戴いた。悪かったな、作業中」


「助かった事には礼を言う。さぁ、行くならもう行け」


 リカルドと別れ来た道を辿る。メイドさんもありがとね


「で?どうなんだ?行けそうか?」


「ああ、ばっちりだぜ」


 一応エスコートからダンス、礼儀、作法、一通りコピーしておいたのだからそうだろう。余計な事をしなければ問題ないはずだ


「持つべきものは頼りになるリーダーだな」


「護衛はしっかり頼むぞ」


「わかった」



——————————————————



 城内へ戻るとすぐに不振な行動をしている女を見つけた。少し前にあったばかりだ。周りを見てはキョロキョロ、忙しく動いてるメイドさんに話しかけようとしては追いつけずしょんぼりしていた。あんなキャラだったっけ?



「どうしたんだ。シオン」


 振り返った顔はやはりシオンだが、物足りない部分がある。こちらはクオンの方だ。どこが足りないかは……分かるな?


「失礼、ミス・クオン」


「あぁライト殿……知ってる人がいたぁ……」


 初めて来る場所だったらしく何処かで道を間違えたと言う。ってかこっちは牢屋なんだけどなぁ。変な事してたら捕まっちゃうぞ


 とにかく時間も時間だし部屋に戻りたいと言うクオン


「何階か分かるか?」


「二階です」


 とりあえず二階へ移動、残り少ないエネルギーを【サーチ】に使用する。どっかのバカが死にかけるから【アクセス】使っちゃったじゃないか。もう魔力がないぞ


 文句を思いつつ【サーチ】でクオンと同じ服を探す。シオンと同じ服だからな。わかりやすい


「いた、医務室の二つ横の部屋だ。ついてくるといい」


 医務室は行っておこう。もう一度腕の処置をしたかったんだよな。さっき、鋼介を止めた時出血したかもしれないからだ


 行き先は同じなので案内がてら連れていく事にした


「あ、ありがとうございます。あの……ライト殿は今日のパーティー出るんでしょうか?」


「シオンから聞いてないか?俺達、妖精騎士団には敬語を使わなくていい」


「いえ、聞いてはいるのですが…善処しま……するわ」


 すぐにはなじみそうに無いようだ。噛んだ事で真っ赤になっていた。気にしなくていいんだぞ


「ああ、パーティーだったな。でるよ。俺達は女王の護衛だけどな」


「そうですか。機会があれば、お相手お願いします」


「こちらこそ」


 おどおどしている割りにはすぐに馴れてきたらしい。年齢、出身、仲間、得意な武器、そして秘密にしたい部分にも質問してくる


「ライトさんの魔法ってどういう仕組みですか?一般的な物とは違うみたい。こういってはなんですが雷って使い勝手がすごく悪いんですよ」


「そうなのか?」


「コントロールは難しいし、出来て球状にして打ち出すくらいのはずなんですけど それに、あの姿…」


 クオンはイクスを使った姿も見ていたようだ。エルゲニアにくる直前だろう


「ライトさんは精霊契約を?」


 聞きなれない単語だ。神獣とならしてはいるが……


「精霊契約?」


「違うんですか?ごく少数ですが精霊と契約した魔法使いもいると聞いたことがあるのでそれかと……」


「その精霊と契約するとどうなるんだ?」


「シオンの方が詳しいと思います。彼女に聞いてください」


「おい、ライト、ここだぞ」


 話に気を取られ医務室を通りすぎてシルバールに宛がわれた部屋も行き過ぎてしまった。鋼介が言ってくれるまで気づかなかった


「ありがとうございました。次はパーティーで……」


 両手を重ねお辞儀すると扉をノック、名乗ってから部屋へ入っていった。扉が閉じるまで見送り完全に閉じてから引き返す



「彼女、ライトに気があるぞ」


「社交辞令。も…魔法の事を聞きたかったんだよ」


 部屋の中からこちらの会話を聞いているかもしれない。迂濶に紋章という言葉はださないようにした。他にも神獣、【アクセス】、異世界人、どれも聞かれたくないこと盛りだくさんだ。めんどくさい


「包帯を変える。医務室へ行くぞ」


 時間もそう余裕はない。医務室にいた衛生兵に手当てを任せ包帯を巻き直してもらう。思っていた通り右腕のガーゼは血のシミが出来ていた。


 今日が終われば休みを申請したいところだ。たまには休養がてら惰眠を貪りたい


 衛生兵に礼をいって廊下へ、そろそろ皆が帰ってくる頃だろう。自分達が移動する場所は限られているから中央階段前にいれば必ず会えるだろう。階段を降り手すりに背中を預け目を瞑る。


 鋼介はといえば小腹が空いたらしい、食堂でパンをもらってくると言い、行ってしまった。


 これ以上魔力を使うと眠ってしまうだろう。パーティーで眠くならないように今の内に仮眠をとることにする。鋼介、もしくは恵達が起こしてくれるだろう。正直考える事が多すぎる。一介の高校生には重荷だ。誰か助けて欲しい



意識と共に周りの音が次第に薄れていった




———————————————————



「…トさん…ライトさん」


 耳の近くで何か聞こえる


「…イトさん…きてくださいってば」


「私に任せて」


 唐突に嫌な予感がした。わずかに目を開き迫り来る現状を体の反射に任せ、それを止めた


「あら、起きたの?珍しい」


 零華のキンキンに冷えた手を離すと横から恵が心配そうに覗いてくる


「大丈夫……ですか?」


「ああ、ちょっとうたた寝していただけだ。おかえり」


「さっき行ったお店、凄く美味しいんですよ。今度は一緒に行きましょうね」


 俺、恵、零華、鋼介はパーティー服に着替え待合室で開場時間を待つことにした。あと5分もすれば始まるだろう。とりあえず今は式の事だけに集中しよう。さっきの事は屋敷に戻ってからだ


 冷たい水を飲み意識をはっきりさせる


 腹が減ったな……朝食しか食べてないから仕方がない。クッキーじゃ膨れないしかなりぺこぺこだ。パーティーで軽食くらいでてるだろう。それをつまもう


「あ、シュニッツェルもパーティで出るって。店から帰ってきた後に料理長がきたから渡したよ。解凍して準備してるそうだよ」


「だから何故俺に優先して食わせん?他の奴に食われるなんてショックだ」


「料理長に頭下げられたら無理だよ。あんなに偉い人が子供に頭を下げるんだよ?断れないよ」


 忍の言い分は分かる。なのでこれ以上は我儘になるからやめよう。リカルドから聞いたサメの料理を考える事にした。


「サメっていったらフカヒレかキャビアか?」


「え?なに?サメ取りに行くの?」


「ん?あぁ……翼膜酒の材料が減ったしなんかないかなぁってリカルドに聞いたらサメの魔物の話が聞けたんだ。身は鮮度がないとダメだろうしキャビアは産卵時期とか分からないしやっぱりフカヒレかなぁ」


「シュニッツェルの事もあるし何か注文があれば作ってみるよ?」


「ってか姿煮かスープしか思いつかん。スープは被るし姿煮だな」


「分かったよ」


「皆様そろそろ開場される時間です。用意はよろしいですか?」


 俺と恵は完全に出来てるし零華達も大丈夫そうだな。そういえば零華は踊れるのかな?聞いてみる


「ステップくらいわね。なんとか覚えてるわ」


 そりゃ凄い。いつ練習していたんだろうか?謎だ


「零華さん凄い!」


 一応ドレスを着ている瑠衣が感嘆の声を上げた。忍と瑠衣は相手がいないし、踊れないため会場警護という形で参加することになっている。ドレスを着ているが完全に着られているな


 まぁそんな瑠衣にもメリットはある基本的に武器は持ち込めない。でも瑠衣の水鉄砲はどうみても武器には見えないので、頼りになるかもしれない。



——コンコン


 扉を叩く音がした。「どうぞ」と促すと入ってきたのは違うメイドさん


「ライト様、皆様、会場の方へお願いします」


「ああ 行こうか」


 ソファから腰を上げたのをみて恵が俺について立ち上がった


「はい」


 肘を曲げてスペースをつくると、淀みなく恵は寄り添った。添えられた手を確認すると部屋の外へ向かう


 歩く速度も恵に合わせているので見た目は全く問題ないだろう。それなりに見えると思う。ただ瑠衣よ、茶化すのはやめろ


 それより問題は二人だ。記憶はあるものの、中身は素直でない鋼介が「いいいい行こうぜ」と明らかな動揺と緊張を見せていた。かわりに素直ではないけど付け足した記憶はない零華は至って落ち着き、冷静だ


 これではどちらがエスコート役か分からないな


「ま、いいか。後は二人に任せよう」


「なんとかなりますよ」


 恵の同意を受け、ダンスホールを目指す。部屋の外では城内の人間が行き交い、吸い込まれるようにホールへ入って行く


「誘われたらどうしたらいいですか?」


「俺がぶった切るから安心していいよ」


「安心とは程遠い答えですね……」

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