主人公的展開——ライト
執務室をあとにして中庭にでると繋いでおいた自分の馬車へ乗る。零華を横に座らせると屋敷へ走らせた。
いつも思うけどなんでルナマリアの領地に大臣の屋敷があるのだろうか?まぁ何日もかけて行き来するような場所にあるよりはいいからか?え?大臣の領地は菱形で一部食い込む形だったのか
ちゃんと知っておきなさいと零華に言われた。そういえば全部引き継いだまま放置だった。時間がある時いろいろいじっておこう。土地はあるんだし勿体無いよな。
裏門から外に出て外壁に沿って進むと街の喧騒が聞こえてくる。街はまだお祭り騒ぎだな。店の方もまだやってるのだろうか?俺達も祭に参加できたらいいな。ルナマリアに相談してみるか。説得の為に零華には話しておいた方がいいかな
「零華。即位式が終わったらさ……」
「え?なに?プロポーズとかやめてよね。あなたのハーレムに入る気はないわよ」
帰り際に羽織っていた薄いベージュのカーディガンの前を閉じて御者台の端っこへ距離を開ける零華
「は?俺は即位式が終わったら少しの間休暇にしようかと思ってるんだけどどう思う?って相談したかっただけなんだけど。どこに零華へのプロポーズ要素があった?」
ショックだわ〜。瑠衣ならともかく零華にまでそんな風に思われてるとか
「あ、あら。そう。それもいいんじゃない?」
ルナマリアの即位式が終わっても二日くらいは祭が続いてるそうだしせっかくの祭だ。休みがあったっていいじゃん。恵とのデートだってドライブだって邪魔が入ったしさ。二人でゆっくりしたいんだよ
「店の方も忍がいればいいしさ。何かあれば王妃も動くだろうし。」
「王妃様、ライト君を囲もうと力を入れてるみたいね。良かったじゃない。モテるのね」
「俺は困ってんだよ。昨日だってコナーに誘惑されるし……王妃には…王妃の話はいい」
思い出したくもない。精神衛生上良くないからな。結局最後は下ネタ絡みのあだ名つけられるしさ
「店も王妃様に取られちゃったし?本当はルナマリアの為に奴隷解放兼お金の流れを作ってたのにね」
「はぁー。名目上オーナーではあるけどさ。気が重いよ。従業員乗っ取られてるし……次はニーナの村で温泉事業でも始めるかな〜。原型はあるし、王妃は収入には手をつけないみたいだし運用しても文句言わないだろうし」
「それもいいかもね。あ、まさか混浴を作る気なんじゃ?」
混浴かぁ……カップルとかしかいないならいいけどなんか危ない気がするよなぁ。ちゃんと分けたほうがいいな。
混浴はしないけどいつかは恵と入れればいいなぁ。よし、今度は土木作業にドワーフの奴隷解放を目指そう。料理も出せたらいいな。リアンに相談しよう。森だしエルフでもいいか
「今度は鼻血だして気絶しないといいわね。」
「ガッデム!」
街道に乗り屋敷への帰路を取る。現在夜9時、月が昇り辺りは暗い。無駄話を止め周りの音を聞く
「マウリーの事もある。周りに気をつけてくれよ」
街の外壁から離れると最後の明かりだった松明もすぐに後ろへと流れていった。明かりが無いと何度も馬車で通っているとはいえ、制御が難しい。道の脇にある石やへこみに躓きその度に尻を強打してしまう
「ライト君、もうちょっと上手く走らせてよ。お尻が痛いわ。だってその、今パン……なんでもないわ!安全運転してって事」
跳ね上がり勢い良く打ち付けてしまったらしいけどどうしたんだろうか?なにか口籠ってしまったのはなんだ?
「しかたないだろ。夜道は見辛いんだから」
「恵ちゃんに、ライト君にお尻叩かれたって言っちゃおうかな~」
もちろん冗談なのだろうけどやめて欲しい。恵に言われるのが怖いのじゃなく、怖いのは王妃だ。当然今だって王妃の手先が近くにいるんじゃないだろうか?【探索】した方がいいのだろうか?
「恵は信じないぞ」
「お風呂で見せれば信じるわよ」
まぁ赤くなってる程度だろうけどそこまでするなよ。ってか一緒に入ってるのか?ずるいぞ
「ったく。分かった分かった。善処するから」
紋章を起動させ、雷の玉を作り前方を照らす。先ほどよりも多少は見やすくなったので運転も楽になった。これで文句はないだろ
「快適、快適」
紋章の起動ついでに【探索】を発動。王妃の手先は…………いないか。王妃の手先はいないけど追跡してくる不審人物はいた。【探索】の結果から馬に乗った兵士だ
「………。零華、気をつけろ。お出ましだ」
光の当たらない後部から蹄が土を蹴る音がする。後方に目をやる零華。
「四頭ね。扇形に陣形取ってるわ」
荷台に移り幌を固定して中を見せないように隙間越しに確認する零華。
隙間から俺も見ようと振り向いたけど視力が落ちていて見えない。代わりに見えたのはお尻をこちらに向ける零華だけだった。安産型ってやつか。
なんで四つん這いなんだ?目が行っちゃうじゃないか。あ、違う、違うぞ。浮気じゃないからな
「零華。御者台に戻ってくれ」
荷台から御者台に乗りだし横に座ってくる
「あの先を曲がったらすぐに飛び降りるぞ」
示す場所は森を迂回するルートだ。馬車は目眩ましの為にそのまま走らせ、自分たちは相手の出方を見る事にする。
ランタンに火を灯し着けたばかりの魔力でできた明かりを消すと目を瞑り、前方を知覚能力で探索。いきなり暗くなって闇に慣れてない目では都合が悪いからな。知覚の方が都合がいい
馬車でカーブを曲がりながら森の中へ飛び込んだ。この時零華をお姫様抱き上げたのは恵と鋼介には内緒だ
ドレスに何かあっても困るし、余計な考えを持たれるともっと困る。やきもち焼きだからな…二人とも
「うわっ!」
「きゃっ!」
余計な事を考えたからか着地点に大きめの石があるのに気づかず踏んでしまい態勢を崩す。抱っこしていた零華が地面に投げ出されてしまう
「【シールド】」
自分が汚れるのはともかく零華はドレスだ。汚したり破れたりは勘弁して欲しい一心に零華に【シールド】のクッションを作る。
「あいたっ!」
ふうっと溜息をつくも零華の事ばかりで自分を疎かにしすぎた。躓いた足とは逆の足を踏み出し——
「ぬぁっ!」
足元から鳴るガリッと削れる音がして、また石に足を取られた。飛び込む先にはまだ【シールド】に座り込んでる零華がいた
「どっどいてくれ!」
「へ?きゃっ!」
零華が気づくと同時に俺は零華に向かってダイブしてしまった
「ったぁ!」
「ぐっ!」
【シールド】に顎と腹を打ち付け一瞬意識が飛んだ。星が飛んだ。脳が揺れたみたいで世界が溶けた気分だ。
「どう……なったんだ?」
目の焦点があった時には真っ暗だった。
ん?さっきまでは森の中にいたはずだ。体の下は冷たいのに頰に当たる何かは暖かい
「へっ?どこだここ?」
「ぁんっ」
頰に当たる何かから強い圧迫を感じた。まさか気絶してしまってメディリシアに捕まってるとかだろうか?まさか拷問とかされないだろうな?
もしくは何かのショックで転移でもしてしまったのだろうか?魔法がある世界だ。何が起きてもおかしくはない。ただこの圧迫感はなんだ?この暗闇はどこかの部屋なんだろうか?窓が無いとかか?
「状況を確認しないと」
深呼吸をして精神を落ち着かせ魔力を放出し光をつくりだ……
———ゴスっ
———————————————————
「ライト君!ライト君!」
身体を揺らす手の感触に意識を取り戻した。目の前にはドレスアップしたままの零華が心配そうに覗き込んでいた。まわりこんでまで状態を見てくるから背中を調べると後頭部にデカイコブができていた。
さっき最後に見た光景は夢だったようだな。【シールド】で零華を保護した後、態勢を崩したまま頭を打って気絶したようだ。
それにしても溜まっているんだろうか?確かに零華が美人だとしても横にいて話すくらいであんな夢を見るだろうか?TOLO◯Eる的なアクシデントが発生する夢だった。何故か俺は零華に向かって転びぶつかると目の前には……って感じだ
でもやっぱり夢でしかありえないだろう。真面目でお堅い零華がノーパンでいるなんて。あまつさえ重要な会談をそんな状態で出るなんて鋼介がテストで100点取る並みにありえない。だから夢だ。夢だから覚えてたっていいよな。フハハハハ。
「な、なに変な顔してるのよ?いまそれどころじゃないでしょ?」
置かれた状態を思い出しすぐさま、茂みで身を隠しながら様子を伺いながら零華に話を聞く。真っ赤になりながらやけにドレスを押さえているのはどうしたんだろうか?お姫様だっこに照れたのだろうか?気になるんだけどとにかく話を聞こう
俺達が降りた事で制御を無くした馬車は、ただひたすらまっすぐに走り街道を抜けても走り続けていった。焦って逃げている様に見えなくもなかったようでそっちは成功と言えるだろう
馬車が離れ街道から出て数十秒もした頃四頭の馬が二人の正面を通りすぎていく。暗さに慣れた零華が目を開いて見たのは会食の時、ライト君に殺気を向けたメディリシアの厳つい騎士だった
「相当、目の敵にされてるわね」
「ま、これでメディリシアが俺達を敵としてみているのが分かったな」
馬車はまっすぐ道なりに走り続けたので零華は森の中から観察を続ける事にした。
走り疲れた馬は止まり騎士達が囲んで御者台を覗き、次に荷台を覗き込む。もちろん誰もいるわけがない。乗っていた二人は茂みに身を寄せている。俺は気絶していたけどな
苛立った騎士の一人が目隠しに下ろした幌を力いっぱい引き裂いていたのが遠目に見えたそうだ
「酷いよね」
その後、側近の騎士が三人に散開して辺りを調べるように言っていたそうだ。一応馬車の様子を調べる事にして森の中を駆ける。俺の【探索】があれば見つからないルートを選んで馬車までたどり着ける。
ソリト◯レーダーよろしく楽なミッションだと思いながら走っていると追加で三人がレーダーに捕捉された。全員女のようだ。馬車の反対側から来るのでこれ以上先には行けなくなった
道を変え足跡からの追跡しにくいように茂った草や木がある方へ進む。
途中走りにくいのか零華は靴を脱ぎ裸足で走っている。よく見るとドレスの表面に氷がついていて邪魔をする木の枝や長い草からまもっている。何か新しい能力が生まれそうだな
おっと…また違う事考えてた。我ながら危ない危ない
で、最新状況を調べに草むらから接近すると今は一旦馬を走らせての捜索していたけど見つからないから散開して歩いてもう一度捜索をする流れのようだ
「バカな奴等だ。零華はここにいろ。個別に倒してやる」
来た道を引き返していく騎士が一人、道沿いを離れ野を行く騎士が二人。側近はその場で待機だ
まずは簡単な方からだな。暗さになれ【探索】で完全に道を把握した俺は普通に走ることができたので楽な順に狙いを決める
まずは引き返していく騎士だ。見逃さないようにゆっくりと移動しているがぜんぜん見えてないだろうな。欠伸しながら空を見ていてどうやったら見つけられるんだろうか?せっかくだから真面目にやればいいのに
「ふぁ~ああ。ったく、なんで新設騎士団なんて追っかけなくちゃいけないんだ……しっかし眠いな」
立ち止まり馬上で伸びをする騎士に静かに背後から近寄り気の抜けた騎士に話しかける
「なら、もう寝ろ」
馬の後部に飛び乗り、電気ショックをお見舞いしてやる。それだけで意識を失った。金属製の鎧をつけている騎士や兵士は雷魔法に弱いのは常識だろ。アスツールも俺が雷属性だって知ってたはずなのにずさんな情報提供の上の命令してるな
倒れ際、馬の手綱を引きそうになるので先に手綱を奪い馬から落とす。気絶しているので静かなものだ
マントにはメディリシアの国印らしき盾を背にした剣がモチーフになっている。国印を破っては因縁がつけられるかもしれない。ベルトで腕を、破いた服で足を縛り上げた
「よしよし。いい子だ」
突然の事にも暴れることも鳴くこともしない馬だ。鼻先を撫で近くの木に繋いでおき、その横にのびている騎士を転がしておく。
馬の鞍には縄がかかっていた。これで捕らえるつもりだったのかもしれない。SMの趣味は無いんだけど
「メイドを縛って喜んでいたでは……」
くっ!頭を打ったからか王妃の幻聴が聞こえた。今結構危ない時なんだから帰ってくれ!
何とか王妃の呪縛を振り切り縄を取り外す
「役にたちそうだな」
肩に担ぎ、野に出た騎士を探すと二人はすぐに見つかった。探している様子には見えない。ただ雑談しているようだ。いいよな。夜散歩。空気も澄んでるしさ
これを見ると、まだエルゲニアの方が統制が取れているように思うな
有効距離にくると縄に輪を作り左側の騎士に投げて引く。騎士の一本釣りだ。手元に来たところで電気ショック。またまた気絶させる
「グギュっ」
「その副団長はかなりのいい女でよ。一度相手してもらいたいぜ。って、おい!聞いてんのか……あれ?」
騎士が見た先には草原が広がっている。っていうか悲鳴に気づけよ
一緒にきたはずの相棒がいない事に異変を感じ剣に手をかけようとする騎士に近づき声をかける。
「捜し物か?」
「ああ、相棒どこに行っ……」
草を踏みしめながら歩いていくと俺に気づいた騎士が指をさして口をパクパクさせついる。騎士の男はターゲットの俺が自分から近づいてくるとは思っていなかったらしく捕獲しようとしたけど相棒がいないのを不安に思ったのかキョロキョロし始めた
「ん?ああ。これを探しているのか?」
紋章により強化された筋力で鎧を着たままの男の相棒を片手で吊るしてみせた。実際は気絶しているだけだけど体に力はないし、暗いのではっきりはわからないのだから、『これ』と物のようにいったので、すでに死んだものだと思わせる事ができるだろう
「ちくしょう!よくも相棒をころ…」
気が動転しているのか、あっさり引っ掛かっている。一度後ろに引き、反動をつけ前に投げると豪快な音が幾つかの鎧のパーツをばら蒔きながら辺りに響いた
側近に気付かれたかもしれないが連絡役に使える人員はもういない
「あ、相棒……こんなになっ……」
この男は最後までセリフを言い切ることはなかった。相棒に向かってしゃがむ男に一気に近づき、首へワンタッチ
「相棒とお揃いになったな」
さっきの騎士と同じように縛り、馬に乗せると手綱を引く。二頭同時に引いているのに上手く合わせて歩いてくれている
「お前達もイイコだな」
道に戻り、最初に倒した騎士の所へ着くと、三人を一人ずつ木にくくりつけておいた。もう森の中を通る必要はないな。道沿いを堂々と歩く
「……ト君、ライト君」
森の中から女の声がする。幽霊じゃない。もちろんノーパン零華(仮)だ。夢が現実ならなんて素晴らし……いや、何でもない
「終わった?」
「ああ、気絶させて木にくくりつけてある」
「さすがライト君、じゃあ、あのちょび髭で終わりね。どうするの?」
「大事にしたくはない。帰ってもらうように言うさ」
「そっか」
「そうはいかんのだよ」
道の先から声がしてくる。暗くてよく見えないがシルエットからすると、厳つい騎士だな。無手のまま、ただこちらを見据えているだけなのに会食の時以上の殺気とその眼から重厚なプレッシャーを感じた
「一度だけ言うぞ。こちらにつけ」
またそれか……
「メリットは?」
「死なずに済む」
「断れば?」
「無論死んでもらう」
「帰る気は?」
「ない!」
「仕方ない。倒させてもらおう」
「図にのるなよ。人間!」




