依頼を受けてみる——ライト
「ライトさん!起きてください!着きましたよぅ!」
うん?もう町の中か?町の名前とか見るの忘れたな。
頭を働かせ辺りを見渡す。見渡すというか見られてた。それはもうひしひしと感じるくらいだ。そりゃこんなカッコの奴見渡しても俺達くらいだからな
ふむ、家屋はほとんどが木造だな。一応言うとゲームと変わらないようでみたところ宿屋に道具屋、教会だ。武器屋はないけど鍛冶屋があるな
この街のだけの事かは分からないけど鍛冶屋だと言うことは武器はオーダーメイドってことなんだろうか?
武器といえばさっきリザードマンが持ってた剣をロレンスさんが回収してたような…?
ま、いっか。別にいらないし。折れてるしな
教会って何をやってるんだ?いや…宗教活動なのは分かるけど他の活動の事だ。死んだら生き返らしてもらえるのか?
いや…ないな
後は馬屋、薬屋、服屋、食料店各種ってとこだ。魚は置いてない。海からは遠いらしいな
ロレンスさんとの約束通り荷物を商店に下ろし終えると時間は正午が近く、酒場が賑わう時間だ。仕事か先ほどの魔物を退治したからかロレンスさんの奢りで昼食を取ることになった
まぁ、多少の遠慮はするが、腹は減ってる。多めに頼むのは許してほしい
「君たち、本当は旅行者なんかじゃないんだろ?神官様かい?魔法が使えるのなんて一部の冒険者か教会関係者か王族、森の人…あとは城に使えるものくらいだが…」
見えてたのか…
…鋼介は話に構わずドンドン食べている。どうみても王族とは偽れそうにない。品が無いし
「トラファール城の方でちょっと…」
「まあいい。君たちは助けてくれたんだ。詮索はやめておこう」
リラックスした顔になり片手で持てる小さな樽をコップがわりに飲み物が入っている。ワインだった。俺達は未成年だけどこの世界には関係ないらしい。鋼介も気にせずグビグビいっている。いや…遠慮しようぜ
「じゃあ出会いと勝利に乾杯」
二人が杯を交わすと同時にコップを持ち上げる俺達五人
大人数なので多少目立ったせいかゴロツキのような男達が絡んできた
どこでもいるよなぁ…目が赤く目蓋が重そうだ。完全に酔っている
「おい!ねぇちゃん達よぉ!!」
エリザさんの肩を掴み酒を注げとか言っている
エリザさんは困った顔でロレンスさんに助けを求めるとロレンスさんはここから立ち去るように言う
当たり前のように怒り酔っぱらいは拳を振り上げ殴ろうとしてきた。俺はもちろん殴らせるつもりはない。足払いをかけ酔っぱらいを転ばせる
「帰れって言ってるんだ」
起き上がり片膝を立てこちらを見てくる。これ見よがしに手を剣の柄に置いているのを見せつける
酔っぱらいはさすがに剣士と対抗する気にはならなかったのか文句を言いながら店を出ていった。外で転んだみたいだけどどうでもいい。
「はったりがきいたみたいだな」
少しワインを飲んで今のやり取りを流して食事に戻る
ロレンスさんは何を真剣な顔になってるんだ?
「はったりだなんて、いやいや…やっぱり腕がたつようだね。いや、しかし…」
ロレンスさんは何か言いたげだがはっきりしない
「言いにくそうですね。さっき見たいなことですか?」
魔物関係か…そうすると撃退、討伐、視察のどれかになるな。条件の提示で分かる気がするけど、本人の話を聞いてからにしよう
「まあ、そうなんだが…」
まだ言いよどむか…なら
「なら、どうですか?商売としてなら話せませんか?」
報酬を出すものの話ならしっかり話してくれるだろう。なんたって相手は商人だ。利益は考えてるだろ?
「なるほど。それなら受けるも受けないのも自由だしね」
やっぱり商人だしな
早速とばかりにロレンスさんは懐から地図を出し一点を指差す。この町から出て少し歩いた先の川だ
「この川沿いの道。ここでさっきみたいに魔物に襲われてね。命からがら逃げてきたんだ。その時の荷物を取りに行きたいんだが…」
「まだ魔物がいると…いうわけですか。」
居座ってるってことか…荷物がいるってことは撃退か討伐、もしくは見つからずに荷物だけ回収ってとこだな
討伐は難しそうだが…回収ならなんとかなるか……
「何人か派遣したが音沙汰なし…諦めようとしたんだがそんな時君達と会ったってわけだ」
今知り合って魔法を使えて恩がある相手である俺達は最適ってことか
「話は分かりました。少し考えさせてください」
派遣した人間が帰ってこないか…魔物は戦闘経験がある一般人以上だってことだ。危険だな
ロレンスさんは頷いてから席を立った。食事は終わりらしい
エリザさんが急いで食べていたのには癒された気がした。歳は上そうなのに子供っぽいんだよな
「成功報酬は金貨で100枚、3日間はこの町の宿にいるからその間に頼みたい」
そう言ってロレンスさんとエリザさんは先に宿へ引き上げていった
今は俺達だけが席に着いている。今無言なのは二人が離れ、今の話題に対して各自が考えてるからだろうな
「ライトやろうぜ。なんたってまずは金だよ。なにするにもいるだろ」
口火を切ったのは鋼介だった。こいつのことだろうから、きっと報酬に釣られたに違いない
「私は反対よ。何人かやられちゃってるんでしょ。危険だわ」
反対にも一票。零華は冷静だ。問題なのは無事で帰ることだと言うことだ。それを忘れていないのは零華らしい
「なんだよ。魔物のボスを相手にすんだぜ。もっと戦いになれないと」
でも、だけど、と言った言葉がいったりきたりしている。ちなみに俺は戦う戦わないではなく、とにかく一度見る事にしようと思っている
コップを置く。飲んでいたのはただの水だぞ
「今回は行きたい奴だけでいく。鋼介のいうとおりだ。今強くならないと戦う事もできないと思う。とはいえ負けちゃ意味がない。だから俺が提案するのは様子見だ」
ロレンスさんがいったのは荷物の回収だ。しかもさっきの話だと小さい小箱の回収が必須だそうだ。まずは敵の観察をしてからがいい
「じゃあ賛成の人」
恵が裁決を取ると賛成3反対1だった。反対したのは零華。恵は回収ならと手をあげてくれた。忍はどちらにも手を挙げなかった
「兄さん。怖くないの?兄さん魔物とはいえ生き物殺したんだよ。」
「怖いさ。当たり前じゃないか。」
リザードマンを貫いた時の感触が手に残っている。不安にさせないように震えを抑えてたが肉を貫く感触はすぐにはなれなさそうだ
「でも、みんなわかってるだろ。やらないとみんなやられてたかもしれない。倒す覚悟がないなら、たとえ逃げてもこの先死ぬさ」
零華も忍も置かれている状況を理解した。逃げても、何もしなくても、後、数年したら死んでしまう
「わかったわ、協力するわ。もう!神様がいたら文句言ってやるわ」
零華の言葉を受け席を立ちあがる
「わ、私は…」
「無理するな。とりあえず今日は宿で待っててくれ」
肩に手を置き留守番を勧め入り口に足を向けた。皆も反対はないようで特に何も言わなかった
「兄さん、待って。私も連れていって」
勢いよく椅子を押しのけ追いかけてくる。頷くと安心したような顔を見せた。妹とはいえまだまだ年下の女の子だな。
そんなことを思いながら店を後にした。
ちなみにさっきの酔っ払いはリベンジに来なかったのでテンプレは無しだった