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王妃様の企み——零華

「……お前達」


「リカルドさん」


 忍ちゃんが正門に通じる扉の前で立っていた騎士に呼び止められて止まった。


 リカルド君か……


 彼も急いで来たのか肩で息をしている


「姫様よりこれを預かってる。キヤマライトも持っているそうだ。」


「ああ……さすが手回しいいわね。」


 忍ちゃんが受け取り私に渡してくれた。それをバックに詰め込むと息切れから少しは回復したリカルド君が話しかけてきた


「キヤマライトは正門から相当離れている。シルバール勢に張り付いたそうだが今は敵にこちらと分断されているそうで戻れないと聞いている。」


「了解。後はこちらでやるわ。」


「わかった。俺は殲滅部隊に参加してくる。キヤマライトにどうにか城にはいるまで生きてろと伝えておけ」


「ふふっ。了解」


 なんだかんだ言って一応心配はしてるのね。

 私が笑ったことにしかめ面をしていたけど何も言わずに離れていった


 正門に到着すると二台の馬車が停まっていた。馬車の形式ではあるけど荷台は四輪では無く二輪のタイプ。安全より速さを重視したものを用意してくれたみたいだわ


「行くわよ」


「妖精騎士団の皆さん。準備はよろしいですか?」


「ええ。一気に近づいて降りるから近くで待機しててね」


 馬車に乗り込むと全員に紋章を使うように言って戦闘準備と馬車に掴まる体制をとる。走る衝撃で落ちないように注意しないとね


「私は忍ちゃんと広範囲吹雪。鋼と瑠衣ちゃんは土石流を魔法で発生させて」


「わっかりました!」

「わかりました」


「へっ?二人ともできるの?」


「私達はちゃんと魔法の勉強もしてるのよ。あなたに期待はしてないから鋼は紋章全開で地面を叩いたらそれでいいわ」


「なんかひっかかるけどまぁいいや。わかった」


 正門が開き平野が見えた。奥の丘のあたりから魔力の反応が感じるのはライト君の魔力みたいね。恵ちゃんもいる話だけどライト君の魔力が強すぎてわからない。なんの連絡もないから無事なんでしょう。


 私が魔物の立場ならあんな濃密な魔力の所なんて絶対行きたくないわ


「行くわよ」


 正門を抜けると見渡す平原と森、山。馬車の走る振動で景色が揺れる中、遠くに魔物が見えた。かなり大きめの蜘蛛だ。胴体でサッカーボールほどあって本当に気持ち悪い


「零華。いたぜ。ライト達囲まれてるぞ」


 まだ遠いかな。呪文の詠唱には早すぎる。私達は覚えたてで紋章の力で強引に威力を高めてるからコントロールがとても悪い。しかも中級程度しかまだ使えない。まぁだからこその二人組でやるわけだけど


 そのまま進むよう御者の兵士に言い彼我の距離を50メートル程にまで近づく。整備された道が終わり車輪がガタガタと悲鳴をあげ始めた。帰りの事も考えるとこれ以上進むのは止めよう。行きは良い良い帰りは怖いってね。車輪が壊れたりしたら嫌だもの


 そろそろライト君に連絡いれようかな。トランシーバーのノイズ音が僅かに聞こえた


 さてライト君は聞いてるかな?


「ライト君。吹雪と土石流がそっちに行くわ。魔法使いに手伝って貰って。正面が開いたら一気に突破。よろしく」


 これで彼なら何とかするでしょ。向こうには魔法使いもいるんだしね。何よりこの半端ない魔力、神獣化してるはずだからどうにでもなるはず。お得意の【シールド】もあるだろうしさ


「詠唱開始して」


 私の指示に二人は頷き目を閉じた。振り替えると正門の辺りにかなりの数の騎士が見えた。リカルド君が言ってた殲滅部隊ね。ここも移動速度重視のようで騎馬隊で構成されなたている


 後続も準備できたようだしそろそろ攻撃してもいいわよね。私も詠唱に入ろう


「『北壁よりきたりし滅びの吐息


凍てつき、裂き、砕くは心の温もり


時を凍め、白銀の野に静寂を奏でよ


【ハートエンド】」


「【ウィンディアロード】」

「【グランウォーター】」


 それぞれが呪文を唱えた。呪文の文言は聞こえなかったけど忍ちゃんは中の中、瑠衣ちゃんは中の上のランクの魔法を唱えたみたいだ。鋼が遅れて地面に拳を振るった


 私の冷気は忍ちゃんの風に混じり合い予定通り吹雪になったし鋼と瑠衣ちゃんもしっかり土石流を発生させた。二色の猛威がライト君達を含めて真っ直ぐ突き進んでいく。


「上手くいきましたかね?」


「……。問題ないみたいよ。結構な距離だったからかなり力を入れたのに全然堪えてないもの」


 瑠衣ちゃんの質問に自前の望遠鏡を覗いて結果を確認しながらトランシーバーでライト君に連絡する


「ライト君達は引いて。殲滅隊がくるわ。後は任せましょう」


 見えた結果と共に連絡。目の前の蜘蛛達は完全に左右に分断され戦意を喪失してるしライト君達が正面に見え、馬車が通る道もはっきりと示されてる


「うん。うまくいったわ。ライト君達がくるわ。ここにいると危ないし私達も戻りましょう」


 私達の攻撃で開いた正面からライト君達が出て……飛び出して城壁まで行っちゃった……もう、合流しなさいよね


「乗って下さい」


 っと御者をしてくれてた騎士が戻ってきたわ。私達の馬車を先頭にシルバールの馬車が正門を目指した。左右を行進する部隊に賞賛を浴びながら門を潜る


 よし。任務完了ね


「ライト君」


 再度トランシーバーでライト君に連絡する


『零華さん、お疲れ様です。ライトさんは眠りにつきました。何か用でしたか?』


 トランシーバーで連絡すると出たのは恵ちゃんだった。眠りの時間を短くするためにすぐに戻ったのね


「いえ、いいの。私達も戻った事の報告よ。城で会いましょう」


『はい』


 私達は馬車から降りシルバールの面々が馬車から降り正門脇の通路から城に向かうのを見ていた。馬車で隠れていたし姿は見えなかったけど僅かに見えた服から女の人ばかりだったように思う。後ろについて行った男の人はエルゲニアの騎士だし


 それはさておき私達はライト君を探しましょうか。たぶん医務室ね。あの奥の手を使うと寝るんだからベッドがある部屋にいくのは当然よね


 私達は外壁通路に上がり街を眺めながら歩いた。街の人は中の喧騒が外の戦闘音がかき消していた為どうやら騒ぎには気づかなかった様子。さっきと同じように和気あいあいとルナマリアの即位を喜ぶ声でいっぱい。


 外の方もまだ戦ってるけどそう時間はかからなさそうだわ。喜びに水を差す必要はないからそのまま気づかず過ごして欲しいな


 喧騒に紛れて鬨の声が上がった。もう私達がでばる必要はないわね


 外壁通路から城内へ。こちらは街と違い慌ただしいわ


 シルバールの人を助けたけど、あれで魔物すべてがいなくなったなんて誰も思わないから何にでも対応できるように準備しておかないとね


 下に比べて上の階は静かだわ。今はシルバールの女王様がルナマリアと対面してるはず。そちらに今できることはないしゆっくりしてよう。一旦解散する事にすると鋼は食堂へ向かって行った。


 それならと放っておいて私達は医務室へ行こうとすると上から誰かが近づいてくる魔力反応。そちらを見ると黒いドレスの女性がいた


「零華、お疲れ様でした。見事な魔法でしたね」


 階段上からゆっくりと降りてくるのは王妃様だ。後ろには目の周りを真っ赤にしたイリア様。どうやら今日のお仕置きは強麻痺薬のこそばしの刑だったみたいね。涙が出るくらいしつこくヤられたのね


「ありがとうございます。」


「今日の会食にライト殿と共に参加してくれるようですね。助かりますよ。ルナ一人ではまだまだ心許なくて……」


 優しい笑顔で語りかける姿は母親のそれだった。いいな、ルナマリア。すっごく想われてるのね


「ところで零華はライト殿の事はどう思っておられるのですか?」


「また、急な話題ですね。どうしてですか?」


 唐突すぎる話に苦笑いで返す。質問の真意が分からないので理由を聞きつつ探ろう


「今以上娘にライバルが増えると面倒なので今の内に白黒つけておくほうがいいと考えました。恵は外せないし降ろせない、瑠衣は怪しい、ニーナという女もでてきました。これ以上増えない為には当人達を認めた上でライト殿の身辺をその者達で囲い込むべきです。そして零華、貴女はどちらなのですか?」


 いきなり本題できたか。真意もへったくれも無かった。直球勝負すぎません?


 最近ライト君が城に来た後グッタリしてる理由がわかったわ……。王妃様がライト君を取り込もうと画策していたからか


 話から恵ちゃんを排除する様子はない。それどころか恵ちゃんを認めた上でのライト君ハーレム計画のようだわ。恵ちゃんを排除したらライト君が国を滅ぼす勢いで暴れるだろうから恵ちゃんを一番にしてルナマリアを次点、もしくは同位にするつもりの様子。その他は壁扱い(私達)か、もしくはライト君との子供狙い(ニーナ他)ってところかしら


「それで?瑠衣はどうなのかしら?」


「あ、怪しいってなんで!⁉︎私がライトさんに⁉︎マジで⁉︎」


 名前が上がった事で慌てふためく瑠衣ちゃん。過剰な反応は肯定と取られるわよ


「それって後から好きになるのはダメってことですか?」


「構いませんがその頃には強固な壁ができていることをお忘れなく」


 決めるなら今って事か。まぁ別に好意が無いと言えば嘘だけど好きかって言われるとちょっと違うのよね


「好きになれば関係無いですが、今の私は尊敬こそすれば恋愛感情はありません。」


 俗にいうラブじゃなくてライクって事


「そうですか。まぁ鋼介もいることですしね。貴女なら一般兵士はもちろん、騎士、貴族だって引く手数多でしょうから。」


「……零華、我がグリンセル家に養子で来ませんか……グスッ。面倒な誘いは無くなるはずです。ちーん!」


 そうか。イリア様はラドニー様の娘さんなのね。


「残念ですが両方お断りですし鋼を引き合いに出されても困ります」


 そう言うと私へ言う事が終わったのか忍ちゃんに目を向けた。忍ちゃんが即座に身構えたのは王妃様の性格を多少は知っていたからね。


「忍、兄上の事で貴女も巻き込まれる可能性がありますがそちらは私が何とか抑えますので自由に恋愛なさい。それから私の娘が姉になるなら母と呼んでも構いませんよ」


「……そうなったら呼ばせていただきますね。王妃様」


 その返事を受けるとにこやかにまた階段を上がって行った王妃様。イリア様もついて行った。後ろ姿は美しいけど中身は全く見えない人だわ。ライト君が疲れるのも分かる気がする


「あたし、ライトさんにそんな態度取ってたんですか?」


 瑠衣ちゃんが王妃様が完全に見えなくなった頃亜然としたまま呟いた。


 自分じゃ気づいてなかったりするもんね。王妃様が言うんだからそうなんじゃない?


「そうね。フラグくらいは立ってる気がするわ」


「そんな馬鹿な!」


 たまには私もからかって見るのもいいかもと軽い感じで言うと驚愕の顔で瑠衣ちゃんが叫んだ。そんなにライト君とどうにかなるのがショックなのかしら?


「この前寝言で「ライトさんのばかぁ〜」っ嬉しそうな顔して言ってましたよ?どんな夢見てたんですか?」


「ふぇ!ちょっ?ええええ!!なんでライトさんに?あたしはもうちょっとマッチョ系が好みのはずなのに。確かにライトさんも鍛えてるのかバルクティンの後見たら結構いい身体してたけど……」


 忍ちゃんも私にのって瑠衣ちゃんをイジリだしたわ。皆個室で寝てるんだから寝言が聞けるわけないのよ瑠衣ちゃん。あと本音がだだ漏れよ


「実は服が似合ってるって言われてその日鏡の前でニヤニヤクルクルやってたもんね〜」


「うぅ……なんでそこまで知ってるの?」


 あ……それ本当にやってたんだ?


 まじまじと顔を覗き込むと冗談だったのに気づき、自分で認めてしまった恥ずかしさのあまり頭を抱えるようにしゃがみこむ瑠衣ちゃん。魔力がふつふつと湧き出し、その影響で周りの花瓶から水が溢れでてきてるしメイドさんが運ぶカップの中身が噴水のように宙に噴き出し続けている。質量保存の法則はどこにいった?


 彼方此方で巻き上がる噴水にメイドさんは阿鼻叫喚、騎士達は敵襲かと大勢で押し寄せて来て事態の収拾がつかなくなってきた。


 大事になる前に何とかしなきゃ


「瑠衣ちゃん。思春期にはある事なの。恥ずかしい事じゃないわ。……たぶん」


 そう。私が選んだのは若気のいたり。思春期による思考の暴走とこじつける


「うう〜〜。零華しゃんもやったの?褒められてクルクル?」


 あ、幼児退行しちゃってたわ。いつものような勝気が消えて何かに縋ろうとする目に変わった。ピンと横に跳ねてるツインテールが今はしょげて萎れている


「う、うん。まぁそうね。近い事は……あったかな?恵ちゃんも最近あったかも知れないわよ?」


「ライトしゃんも?ルナマリアもあったのかな……」


「あったんじゃないかな〜」


 その後、鋼、リアン、イリア様、カミラさん、コナーさん、そして王妃様を生贄に何とか正気に戻ってくれた


「そ、そうですよね?私だけが一人でニヤニヤクルクルしてるわけじゃないですよね。うん、恵もやってそうだもんね。うんうん。忍ちゃんもいつかそういう日がくるからね。楽しみにしておくといいよ」


「は、はい。…………………………………………………………………………………ニヤニヤクルクル……ニヤニヤクルクルか。」


 なんかごめんね。みんな。


 何とか気を取り直して階段広場からメイドさんが一生懸命床掃除をしてるの廊下へ申し訳なく思いながらそそくさと向かう。


 さっきの騒ぎで増員されたメイドさん達と外の魔物群の対策で呼び出された騎士達でごった返す廊下に一人部屋を覗き込む女の人がいた。凄い浮いてるわ


 服装から医務室勤務の人だと分かるけど、どうみても覗いてるわね。なんで入らないのかしら?


「ねぇ。なにしてるの?」


 ——ビクッ!


 何その驚きようは?あっ……走り去っちゃった………ライト君がいるのか聞きそびれちゃったわ


 まぁいいや確認がてら何を見てたのか調べておこうかなとさっきの彼女の様に中を覗く。


「さっきの人なにみてたんですか?」


 横から割り込んでくる瑠衣ちゃんと一緒に中を覗くとライト君の下半身をちらちらみる恵ちゃんがいた


 …何してんの?ズボンの裾を握ったり離したり。


「やっぱり駄目ぇ」


 裾を掴んだまま頭を抱え込んだ。こっちに気づく気配は全くないな。とりあえず入ろう


「何が駄目なの?」


 後ろから声をかけると髪の毛が逆立つ程驚いてる。よほど目の前の事で頭がいっぱいだったのね


「あ、みん…え、これは、その、湿布薬を…」


「で、ライトさんを剥いちゃおうって?恵、やるぅ!」


 瑠衣ちゃんがからかうと簡単に真っ赤になった。さらに調子にのる瑠衣ちゃんに恵ちゃんは瑠衣ちゃんに手を向けると紋章が光り炎を展開、4つの炎が手のひらに収束されていく


 ちょっと火力強すぎよ。私達までダメージ受けるからやめてね


「わ、わ、悪かった。私が悪かったからそれはやめて」


 昨 今の瑠衣ちゃんじゃ恵ちゃんには勝てないのを知っているようで、及び腰になった


 ふぅ……とにかくやることやって落ち着かせよう


「そういう時はね、シーツを被せてから脱がせば良いのよ」


 太ももから下を出すようにシーツを被せた。ズボンの構造上、腰ひもで留めている状態なので引き抜きズボンの裾に手をかける


「恵ちゃんはそっち持って。そう。いち・に・さんで抜くわよ。いち・にの・さん!」


 ライト君の右足と左足の裾を持ち一気に引き抜くと問題無く脱衣に成功した


「あとはスプレーで終わりでしょう?待ってるわ」


 ライト君の足にまんべんなくスプレーをかけ再びシーツを被せた。ふぅと溜め息


「看護婦さんて大変ですね」


 確かにね。重労働だって聞いたことあるし。雑談を切り今重要な事を聞いておこう


「次に起きるのはいつ?」


「えっと90分後ですね」


 時刻は3時過ぎ、会食の5時には間に合う予定だ。ギリギリだけど。


 そうすると時間はあるか……なら聴取しておこうかな。恵ちゃんが記憶転写【ハートリード】で全部知ってるみたいだし

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