魔法の絨毯とイリアさん——恵
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「恵〜。いるか?」
「はい」
食事も終わり後はお風呂に入って寝るだけの時間になったころ私の部屋の扉をライトさんが叩きました。
イリアさんが扉に行き開いてライトさんを迎え入れてくれます
「あー。狼が恵の身体を狙って来やがりましたね」
ずっと私のベッドでゴロゴロしていた瑠衣ちゃんがライトさんを挑発しました。だからそんな事ばかり言わないの。
「へーへー。お邪魔虫は何処かに行くとしますか。」
そう言うと部屋を出て行く瑠衣ちゃん。何故か私の横を通り部屋から出ようとしてるイリアさん。こちらを向いてお辞儀して出て行った。
あ、空気読んだ?
「良かったのか?何か喋ってたんじゃないのか?」
「いえ、ただ暇つぶしに来てたみたいで。イリアさんは王妃様付きのメイドさんだったようで明日には帰るって報告してくれたんですよ。王妃様優しい人ですよね?自分のメイドさんを外してまで私達に手を焼いてくださるなんて」
「あの人そうだったのか……道理で気配がないと思ったよ」
昨日ライトさんを捕まえたのはイリアさんだったようです。ダイニングで待っていたら後ろからいきなり口に手を当てられ次の瞬間には簀巻きにされてたそうです。あれですね。着せ替えの技を使ったんですね。わかります
「まぁいい。ちょっと出かけないか?」
「はっ!いや……まだお風呂入ってないし。パンツも色っぽいのじゃないので……その今日は月が出てるし」
王妃様の言った事が頭を支配していて自分でも何が言いたいのかわからなくなってます
「大丈夫。俺たちは俺たちのペースでやっていけばいいよ。今日は二人でドライブに行かないかと思ってね」
「あ、はい。もちろん喜んで。」
「寒いから何か羽織った方がいいな。」
「あまり高いところまで行かないでくださいよ?」
「気をつけるよ」
私はクローゼットの中にあったショールを羽織って前を歩くライトさんについて庭に向かいます。途中執事さんに会えたのでちょっとそこまでと言って玄関を潜りました
庭に出て屋敷から少し離れます。
少しだけ集中してから魔力を前方に放出すると【シールド】を唱え、来た時と同じように地面に水平に半透明の膜を発生させました
ライトさんはそれに乗り込むと優雅に私に手を出します。まるで白馬の王子様。え?夢見がちですか?私?
「お手を……プリンセス」
ライトさんの手に手を重ねると優しく握り魔法の絨毯(激硬)へ乗せてくれます。ア◯ジン的な展開ですね。ライトさんも分かっててやってくれているようでちょっと照れてます。
密着するように座るとライトさんの温もりを感じました。
「さぁ行こうか」
ライトさんがそう言うと絨毯がゆっくりと上昇地表から離れていきます。屋敷を越え少し前進、緩やかな風を体で受け止めます
辺りは既に暗く闇に包まれていてただ月明かりだけが私達を照らしました。闇夜をただ二人で渡る私達。
昨空は満天の星空で地球では味わえない程の充足感が心を満たします
さわさわと風に揺れる木や草、そこに住む動物、夜空を流れる雲。どれもが近くに感じられました
「寒くないか」
隣にいるライトさんが聞いてきたので、少しと答えると速度を落とし肩にかけたマントを私にかけてくれます。私はマントをしっかりかけれるようにライトさんにぴったりとくっつきます。
本音はライトさんにくっつきたかったからです。あったかいです。マントもライトさんも。胸いっぱいにライトさんの匂いを吸いました。はぁ……幸せだなぁ
「お返しだ」
ライトさんは私を抱き寄せ私の首筋に鼻を寄せスンと私の匂いを嗅ぎました。あまりにも一瞬だったので抵抗する事もなく抱き寄せられてしまいました
あっ、お風呂入ってないのに
「あのっ!お風呂!お風呂入ってないのでいい匂いなんて……」
私は借りてきた猫の様に動かなくなったと言うのでしょうか?ライトさんに抱えられ身体がライトさんから離れようとしません
「恵の身体もあったかいな。それにいい匂いだ」
私を胡座の上に座らせ後ろから抱きしめ、また匂いを嗅がれちゃいました
「……ライトさんのえっち……変態。好きです」
私はライトさんの胸に抱かれ、なすがままになっています。首筋にキスをされたり耳をはみはみされてますって。ええっ!
「ひゃっ!ら、ライトさん」
「ちょっと悪戯したくなった。気持ち良かったりした?」
「あぅぅ……ちょっと」
やばいです。瑠衣ちゃんが言ってた通りライトさんは狼さんです。目が紳士じゃなくて、妙に力がこもってる気がします。なんだかんだでやっぱり男の人です。
「あ、あのっ……そのっ!きょっ」
私がライトさんに受け入れ許可?を出そうと何度か声に出そうとしますが上手くいきません。
「恵!掴まれ!」
ライトさんにいきなりキツく抱きしめ【シールド】に押し倒され……えっ?えっ?今?
などと一瞬で頭を沸騰させたのも束の間、真横を緑の爬虫類っぽい何かが通り抜け、そのまま【シールド】の外側に落ちて・・・?
「ちぃっ!【シールド】!」
い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!死ぬ!この高さは死んじゃう!!
「落ち着いて」
私を強く抱きしめてくれたライトさん。なんとか落ち着いてきました。ふぅ……ってそんな場合でもないよっ!
「あのっ!どうするんですか!?」
「薄い【シールド】じゃ落下スピードの威力に耐えられないから湖に落ちるようにする」
ちなみに分厚目にも貼れるそうですが私達は骨折間違いなしだそうです。最後の手段って訳ですね
「でもズレてますよ!真下は地面です!」
「うん。だから【シールド】で少しずつ湖に向かう。だからしっかり掴まっててくれよ?」
そういうと【シールド】を何枚も展開して湖に向かう滑り台を作り上げていきます。鋭角から滑らかに角度を変え湖に方向転換していくそうです
これなら一旦落下スピードを殺して低い高度からの着水で済みそう。
「あ、やば。魔力が尽きそうだ」
まだ地面の上ですよっ!よくて湖岸の砂浜!何落ち着いてるんですか!どっちにしても痛い目っていうか死にそうですよっ!!魔力がないなら私がなんとかしないと。え?どうすれば?
「うぇ?あ?え?そうだ!ライトさん、私達の背中に【シールド】をっ!【ハートリード】!」
【ハートリード】を使って私のイメージをライトさんへ。
「おっけ!【シールド】」
イメージを読み取ったライトさんはいつもより分厚目の【シールド】を貼りその上に普通の【シールド】を貼ります。私は二枚の向こう側に火球を作ります
「いきますよ。離さないでくださいよ」
お互いを強く掴み合うのを確認、火球を爆発させます。火球を作った後さらに魔力を注ぎ続けると暴発するんですよ
ともかく火球が爆発、その威力で一枚目の【シールド】が爆風で押され分厚目の【シールド】ごと私達を湖上へ運びます。
「よしっ!上手くいったぁぁぁ【シールド】【タフネス】」
「でも高いぃぃぃぃぃ!!!タッ【タフネス】ゥ」
——バシャーン!!!
最後に一枚の【シールド】を貼ってくれましたが結局ほぼ減速する事なく湖へ落下。激しく水を巻き上げ私達は水中に身を落とした。衝撃でライトさんと離れてしまいました。
「ゲホッ」
辺りが泡に隠され上か下かもわかりません。早く水上へでないと溺れるのに上手く泳げないっ!
焦っているとライトさんが水中でもがく私を見つけてくれたようで後ろから抱き寄せ水面へ
「大丈夫か?」
「な、なんとか……」
「助かったな。まさかあんな所でワイバーンが来るとは……」
「あれ、そうだったんですか?」
くそぅ、もうちょっとで大人の階段を登るかもしれない場面だったのに。次に会ったら覚えてろですよ?
「ああ、【シールド】に激突するようにしたからあの高さで頭から落ちたら生きてないだろうな。」
落ちてすぐに使った【シールド】の事ですか……ワイバーン落とすより私達の下に作る方が先だったんじゃないですかね?
濡れた髪を後ろに流し身体の感覚を確かめます。うん。怪我はないみたいだな。生きてるし、まぁいっか
ライトさんがゆっくりと流れに任せて湖の端へ、岩場の岸まで連れて行ってくれました。
「あそこから登ろう。いけそうか?」
「はい」
岩場なのでちょっと高さがありますがこれくらいならなんとか登れます。手近な岩に手をかけ身体を引き上げます
「ぐはっ!!」
ライトさんが吹き出す音と水面が波立つ音を聞いて後ろを振り返ると鼻血を出しながら満足気に沈んでいくライトさん
へっ?なんで笑顔で?え?何かお尻がスースーして?
「ってきゃーーー!!!お尻がっ!!パンツも無いっ!!なんでっ!?」
あぁっ!それよりライトさん逝かないで!!
私は再び湖に飛び込み沈んでいくライトさんを引き上げます。軽く揺すると目を覚ましました。
「はぁはぁ……一瞬お祖母さんが見えちゃったよ」
「何死にかけてるんですか⁉︎とにかくびちょびちょなんでもう屋敷に戻りましょう」
私はライトさんを引き上げる為に先に登ります。岩場に手をかけ———
「脳天直撃っ!!」
再び沈んでいくライトさん。
「もういやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
なんかこんなんばっかり!
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死にかけるライトさんをなんとか現世に引き止め命からがら屋敷に向かいます。破れたワンピースだけでは丸出しのお尻を隠せなかったのでライトさんのマントを腰に巻き事なきを得ました。パンツはどうかは知りませんが破けた跡があるって事はワイバーンが通過した時に破けた、もしくは破かれたのでしょう。
なんてお土産を遺して逝くんでしょうか?この怒りはどうしてくれましょう?
「恵、あのワイバーン持って帰りたい」
「……お好きにどうぞ」
ワイバーンなんて顔も見たくないから手伝いませんよ。
帰り道で見つけたワイバーン(4メートル級)を引っ張るライトさん。ライトさんが言ってた通りワイバーンは頭から落ちたようで鼻先がひしゃげ、落ちた衝撃で首の骨が砕けたようで絶命していました。ただ運ぶには力も足りずひとでもないのでビクともしません。魔力が尽きかけてるから【ストレングス】も使えず立ち竦んでいます。
一応口元を覗くとやはりワンピースの切れ端が見つかりました。お尻部分だけです。パンツはありませんでした。もし無事にパンツがあっても履きませんけどね。誰がワイバーンのよだれがついたパンツなんて履くもんですか!
「おーい!恵〜!!」
あ、瑠衣ちゃんだ。遠くの方から馬車の上に立ちながらこっちに近づいてくる。忍ちゃんが動かしてるのね。零華さんと鋼介さんは馬車の中からこっちを見てる
後ろには10人くらいの男の人達。執事さんを含む全員が一応武装して来てた。その中に一人馬に乗ったイリアさんも私服で馬車についてきている。一応言うとイリアさんは槍使いのようで背中に長い大型の槍を背負っていた
聞くとワイバーンが地面に落ちた轟音で異変に気付いたそうです。ちなみに私達は爆破音や落下時の音で聞こえませんでしたよ。お邪魔虫の最期と一緒だったのが癪にさわりますがぶつけようがないので我慢です
「うわぁ!これ二人でやったの?」
「……痕跡から見て頭部への打撃一撃で倒していますね。流石は英雄。」
瑠衣ちゃんとイリアさんがワイバーンを見て感嘆の息を吐いた。二人じゃないし打撃すらしてないんだけどね。
「兄さん。この竜で何か作りたい。モモ肉とムネ肉、あと骨を頂戴ね」
「まぁいいけどさ。俺にも食わしてくれよ」
無事だと分かった忍ちゃんは既に平常運転。どうやらまた料理の材料にするつもりのようですね
「ではワイバーンは我々で運んでおきますのでライト様はお屋敷の方へ。そのままでは風邪を引いてしまいます」
私達は渡されたタオルで粗く髪と身体を拭き馬車に乗ります。湖から屋敷までは数十分の距離なので馬車ならさらに短くすぐに着きました
ライトさんとは部屋の前で別れました。自室に入っていくライトさんと一緒にメイドさんが入ろうとしています。便宜上メイドさんAとしておきましょう
「いいですって、一人でできますよ」
なんとか追い返そうとするも食い下がるメイドさんA。なにちょっと嬉しそうな顔をしてるんですか!
「あぁ…もう。【シールド】」
なけなしの魔力を使ってメイドさんAを囲うように貼り、その隙に部屋に入りました。鍵も忘れていませんね。そこまで拒絶されてるのにドアノブをガチャガチャと動かすメイドさんA。ちょっとしたホラーです。諦めないメイドさんA、恐ろしや
私はといえばメイドさんBに付き添われ部屋に入ると濡れた服を全て剥ぎ取られライトさんのマント一枚にされました。それも取られるとスッポンポンの私。直後に以前着たようなバスローブを羽織らされました
ふふ、イリアさんほどではありませんね。まだまだ修行が足りないようですよ。精進してくださいね。なんかもう裸にされるのも慣れてきましたよ
濡れた服を纏め持って出て行くメイドさんB。お風呂を沸かすそうなので少し待つことになりました
「あぁ……疲れたなぁ。またライトさんにいろいろ見られちゃうし」
はぁ、と大きな溜息をつく。溜息は幸せが逃げて行っちゃうんですけどねぇ〜。それにしてもパンツはどこにいっちゃったんでしょうか?
首を傾げながらベッドに向かうとテーブルに不自然に置かれた見慣れた白い塊を見つけた
「え?」
それを掴み持ち上げると丸められていた塊が解け本来の姿を現した。今日履いてたパンツだ。なんでこんなところに?しかもキチンとたたまれて。つまり出て行く時には履いてなかったって事?
「あ、奥様。イリア様が奥様宛に手紙を置いておくのでお読みくださいと。枕元にあると仰っておられました。こんな夜更けに帰るなんてどうされたんでしょうね?」
通りがかったメイドさんCの言葉に不穏なものを感じ枕元の手紙を急いで開く
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英雄との逢瀬は上手くいかれたでしょうか?英雄は奥手なのか紳士なのか解りかねましたのでそれならばと野獣になるよう奥様の下着を脱がさせていただきました。事が始まる前にリアンの作った薬を使われたでしょうか?どのお召し物を選ばれてもいいように全ての衣装にいれておいたのですが……もし使われていなければ私が即席に調合した痛み止めを同封しておくのでお使い下さい
この手紙が読まれる頃には私は王都への帰路に着いているはずです。では、また王妃様と共にお会いできる日を楽しみにしております
——イリア・ワルグリア・グリンセル
追伸、父にまたから揚げでも差し入れてあげて戴けると幸いです
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だからパンツがここに?ってかグリンセルってラドニー様の娘さんって事?言いたいことは山ほどあるけどこれだけは最初に言っておきたい!
私は胸いっぱいに空気を吸い込み最大限の気合いを込めて窓を開け叫んだ
「イリアさんの馬鹿ーーー!!!!!アホーーーーー!!!!!」




