【シールド】は盾だけじゃないよ——恵
「二人とも、悪ふざけはおしまいよ」
ライトさんは転んだまま声のするほうを見ると零華さん、鋼介さん、瑠衣ちゃん、ルナマリアが並んで見ていた
鋼介さんが地面に手を着けている。転んだ原因はどうやら彼の紋章術のようですね
ルナマリアを先頭に歩いて来ると騎士さん達は一斉に膝を付き頭を下げた。規律正しく礼をする中で浮きまくりの二人
「こ、これはだな…」
「成り行きで…」
二人は気を付けの形になる。ルナマリアの目が少し怒ってるからです
「どうせ、ラドニー様がそそのかしたのでしょう?二人も何故止めなかったの?お母様も」
二人とは私と忍ちゃん。そそのかしたのは当たりだよ
「二人とも全力で戦いはしたけど本気ではなかったですし」
「最後も止めなくても、お互い武器を壊して終わるという相談をしていましたから」
忍ちゃんライトさんが仕掛ける直前の話を聞いていたようです。耳いいね。
「多少の怪我くらい治せるので問題ありません。それより一切れ食べてみませんか?美味しいですよ」
メイドさんにテーブル持って来させて優雅にお茶を飲んでる場合じゃないですよ?ルナマリア怒ってますよ。王妃様
「とにかく、派手に暴れすぎよ。二人とも自粛するように。から揚げは騎士達で分けなさい。あとリアン、アップルパイは確保しておいて」
「承知した」
「わかりました」
「はい」
二人で頭を下げ謝罪……と思いきやブツブツと責任とから揚げの恨みをなすりつけあってる。いや、ラドニー様がふっかけたんですよ?
言い合う二人にルナマリアはそれ以上は追求せず部屋に帰っていく。だってルナマリアの本当の気持ちはライトさんをラドニー様に取られて自分が構われなかったからですよ。拗ねるなんて子供っぽいとこもあるのね
「ふぅ。全くルナには敵わんな」
頭を豪快に掻いた。
「それにしてもライトの実力は中々の物だな。儂以外は相手にならんだろうが……ま、たまにはみんなの相手をしてやってくれ」
ラドニー様は建物に戻っていく。興ざめしたのもあるだろうけどルートの確認を再開するみたいです。から揚げがなくなったからどうでもよくなったからじゃありませんよ?
「姫様の命令だから悪く思うなよ?ってかラドニーさんもライトもどんな戦いしてるんだよ」
「もう、今度はライト君の服を買わなきゃいけないじゃない。ボロボロよ」
確かに袖は破れ肘の先までしか隠していないし、高速の移動をしていたため靴やズボンの裾が悲惨な事になっていた
「すまん。あの場合ひくにひけなかったんだ」
周りの騎士達は二人の立ち回りにまだ熱が冷めていない様子だった。から揚げを手にワイワイと話し合ってる。私も実は手に汗をかいて見ているくらいでしたから騎士達にはたまらないものだったでしょう
そう……今の殺陣は間違いなくエルゲニア王国騎士団頂上決戦だったのですから
あ…騎士さんがライトさんの踏み込みや剣筋、攻撃方法を真似してますね。ラドニー様のは剛の剣過ぎてマネしづらいですもんね。ライトさんのリスペクトは歓迎ですよ
「それよりライトさん!私、私!」
話を切り替えたのは瑠衣ちゃん。出かける前とは衣装が違っているよ
ブラウンのブーツにラフなスカートとベスト、シャツはスカートに通さず流したまま。腰にはベルトと小物入れのような物が見えました
「ああ、気に入ったのはあったか?」
木剣を近くにいた騎士に渡し体についた土を払う。騎士さんはキラキラした目で受け取りました。何か言いたげっぽい感じでしたが瑠衣ちゃんが遮りました
「はい!これなら恵より私を好きになっちゃうかも知れませんね」
「ごめん、それはない」
ライトさん即答です。コンマ1秒もないです。見ため的に瑠衣ちゃんはなかったみたい。幼女趣味とは思われたくないのもありますよね
その言葉に腰の後ろに手を回し素早くライトさんに向けた。向けた手には短銃の水鉄砲を持っている。照準を定めトリガーを引く瑠衣ちゃん
突然の事だったので何とか避けることに成功しましたが……ただ撃たれた水は凄まじい勢いでさっき木剣を持っていった騎士さんに直撃して泥塗れにしていた。瑠衣ちゃんの手を見ると紋章が光っている
そんなことより瑠衣ちゃん……ライトさんに攻撃したね。
水鉄砲を強化して撃ち出しているみたいだね。一回日本に帰ったのかな?即席にしては中々の武器を選んだみたい。私とガチでヤっちゃう?火が水に負けるなんて思わないでよ?
「そこは嘘でも「そうかも…」とか言ってくださいよ!もぅ…」
「悪かったよ。ふぅ……わお!すっごい似合ってる!惚れちゃいそうだ!」
「コンチクショー!!!!」
前方に大きな水を発生させそのまま両手を突っ込むと銃口だけ出すと引き金を連打する瑠衣ちゃん。ライトさん、ワザとすぎますよ
「【シールド】」
何枚かの盾を作り激流を遮るライトさん
「激流を制するは静流」
いや静流なんてどこにも発生してませんからね?言いたいだけでしょ?
「このっ!このっ!」
【シールド】で弾かれた水が辺りに泥濘を作っていく。何人か泥を被ってしまい迷惑顏でこちらを見てた。仕方なく拗ねた顔で水鉄砲を回転させ、腰の後ろにさし攻撃を止めた。西部劇みたいだね
まだ怒り冷めやらぬ瑠衣ちゃんにライトさんが近づいて頭に手を置き撫でた
「悪かった。本当に似合ってるよ」
「う、あ、はい」
誠意あるライトさんの言葉に瑠衣ちゃんもタジタジ。なんだかんだ言っても褒めるところは褒めるライトさん。良かったね
「英雄はロリっ子もありと……リアン、新しい従業員候補のチョイスをお願いね。あと新店舗の予定地も調査しておいて。コナーは新店舗の店長をお願いするわ」
最後のアップルパイを摘みつつ何かを書き込んでる王妃様。もしかして評価かな?書いていた紙をリアンづてにコナーさんに渡した。
「御意」
「お任せ下さい。……ではこれも商品化ということで進めますね」
やっぱり評価だった。王妃様とちょこちょこ喋っては頷きまた何かを報告してる。物価からの値段設定のようですね。から揚げでいっぱい使うからか小麦粉が少し値上がりし始めてるんだって。アップルパイもサンドイッチもパンケーキも全部使うもんね
「コナーさん、もう奴隷て何ってくらい王妃様から任されてるね。」
「はい。私などを信頼していただき感謝が絶えません。お店の方も余りの忙しさに拡大するか新しい奴隷を買うか悩んでいるところなんです。カミラの解放も視野にいれていまして今日はその相談もあって時間を取ってもらったのですよ」
「え?もうカミラさんの借金の分は稼げてるの?えっと金貨で45枚だっけ?早いね。3人で均等分けだから一人では少なくとも15枚くらいは資産があるんだ。これならすぐに自由になれちゃうね」
そうすると仕入れ役が居なくなっちゃうのかな?外で鳥を捕まえて来る人がいないと支出が多くなると思うんですけど
「私とカミラは支払いが終わればそのまま就職させてもらおうかと思っております。オーナー、よろしいですか?」
「あら、それは心強いわ。やっぱり古参の人間がいないとね。後から来る人間も納得し辛いですもの。その時はレクレスト商会経理部長をお願いするわね」
「くっ、俺がオーナーなのに。店が王妃に乗っ取られてる」
ライトさんが王妃様を憎々しげに見ていた。不敬罪に取られそうなんでやめてくださいね。
「うふふ、まだまだ女に洗われるのが恥ずかしい子供でウブなDT英雄など私の前ではこんなものです。もっと精進なさい。いつまでもDTでいるから足元を掬われるのですよ。恵に手を出すくらいしたらどうなのですか?メイドを縛って興奮していた変態英雄?」
「だって、俺たちには俺たちのペースが……って何言ってるんですか?王妃!」
「そんな事を言っていると貴方を待つ女達が辛い目にあいますよ。どうですか?恵、今夜あたり……」
「あ、ふぇ?私」
こ、今夜?ライトさんと!?
「まて!恵、落ち着いて」
「そっかぁ恵もとうとうこの日が来たか……」
「おい、ライト!メイドさんに身体を洗われたとかマジかよ。羨ましいぞ!俺にも頼んでくれよっ!そん時はやっぱメイドさんも裸なわけ?」
ワイワイと騒ぎ出す瑠衣ちゃんと鋼介さんに私達は頭がパンクしそうに。忍ちゃんやリアンは無表情のまま、王妃様とコナーさんはニコニコと傍観を決めていた。そして零華さんは騒ぐ鋼介さんの後ろを取ると膝カックンから背中を押し強制的に正座をさせる
「うるさい。」
氷のキューブを正座した太ももの上に載せた。さらに二つ目、三つ目と重ねていく。大きな悲鳴があがった
「瑠衣ちゃんもいかが?」
四つ目を置きながら問う零華さんに真っ青な顏でブルブルと横にふる瑠衣ちゃん。そりゃ真っ青にもなるよ。顔が鬼に見えたんだもん
「馬鹿をここに置いておくのもお目を汚しそうなので私達はこれで。ライト君達も限界のようですし」
私とライトさんの精神の安寧の為という建て前を言いつつ早々に王妃様とラドニー様に別れの挨拶を済ませる零華さん。さすがに王妃様も今の零華さんに逆らうのは怖かったようでニコニコ顏で固まったまま頷いた。いつの間にか痛みに気絶していた鋼介さんの後頭部を叩き起こし訓練場を後に。中庭へ向かいます
コナーさんとはここで別れました。仕事の途中だったのに大変でしたね。あれ?王妃様になんの報告をしてるんですか?オーナーは足フェチ?え?そうなんですか?ライトさん?
さっさと元大臣の屋敷に行こうと言うライトさん。初めて向かう四人はわくわくしてますね。私も全部知ってる訳じゃないから楽しみです。でもどうやって移動する気なんでしょうか?今からじゃ夜の10時過ぎちゃう気がするんですけど?
疑問の答えは【シールド】でした。大きめのシールドを地面に平行に作りそれに乗って移動するようでした。【シールド】っていうか、もうライトさんなんでもありですね。
え?まだまだ開発中って……これ以上何かあるんですか?
「まだイメージだけだけどな。でもまずはこれができたら便利だぞ」
まだ慣れてない操作に集中する為にここからは話す事が出来なくなるそうです。無言で【シールド】を操作するライトさん。中庭から上空に上がり王都を見渡します
すぐに城と同じ高さまで上がると城下を見下ろすと人がとても小さく見えます。周りは見渡す限りの自然。絶景に癒さますね。森も川も、山も眼下に見え……え?どこまで上がるんですか⁉︎
もう一枚【シールド】を正面やや鋭角に貼り空気抵抗を無くすライトさん。え?このまま?
「ちょっ!らっ、ライトさん!高すぎ!高すぎィィィィぃぃぃやあぁぁぁ!!!」
瑠衣ちゃんが悲鳴をあげると同時に草原に向かって滑空する。見た目は柔らかさのないカッチカチの魔法の絨毯です。【シールド】ってこんな便利の使い方もできるのになんで皆使わないんだろうとライトさんに言うと魔力の使用量が半端ないそうです。あと形を維持する集中力と空間把握能力が高くないと難しいって事だと聞けました。ライトさんは探索の影響で空間把握能力が高くなってるんでしょうね。既に無属性マスターですね。
そう言えば他の四人の無属性魔法の適性は
零華さんが【タフネス】【シールド】
鋼介さんが【ストレングス】
瑠衣ちゃんが【クイック】
忍ちゃんが【クイック】【タフネス】
でした。皆少なくとも一つはありましたので良かったです。でもやっぱりライトさんは稀有な存在にもほどがありますね
話しかけたせいで鋼介さんの足場が崩れてしまいました。幸い落ちたりしませんでしたがちょっと焦りましたね。ふぅ
あと瑠衣ちゃんが前を抑えて涙目になっていたのには気づかないふりをしておきます。
あ、目的地には20分で着きました
————
「屋敷の中はともかく、外は本当に広いからあまり出歩くなよ」
屋敷が近づき玄関に二人の使用人が立っているのが見えます。昨日の夜にいた人達ですね
「お帰りなさいませ!旦那様!」
二人が同時に挨拶。顔を上げると一人はベルを鳴らしながら屋敷へ入っていった
帰宅の合図なのかな。残った方の使用人が顔を上げ、ライトさんの元へ来る
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様」
ライトさんと私に向かって言った。『奥様』!!はぅあ!なんていい響き!正直嬉しかったりします
「ああ、済まないが名前で呼んで欲しいんだ」
まぁそうですよね。なんか実感ないですし
恐れ多いと言う使用人にどうしてもと言うとなんとか了承してくれた。でも3人娘にオーナーって呼ばしてますよね?それとは違うんですか?
「旦那様」
そう言ったのは鋼介さん。でもライトさんは無視をしています
「旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦…」
「うるさい」
零華さんがリング状にした氷で止まらない口に栓をした。口を塞がれ鋼介さんはもがいていますが誰も助けません。女子内パワーバランスは零華さんが1位なのです。
「ライト君の名義なんだから当たり前でしょ。ったく…」
次第に顔が赤くなり、続いて青くなっていく鋼介さん。苦しそうですが自業自得ですよ。さっきも痛い目にあってるのに成長しませんね。
「静かにするわね?」
頭を忙しなく縦に振ると紋章を解除、リングを外してあげた零華さん
「恵は奥様なのね」
体内の温度が急上昇。放っておくと爆発しそうと言って零華さんが冷やしてくれた。
冷やしてる間に屋敷へ戻っていった使用人さんが戻ってきた。彼に馬車を預けて、使用人さんの待つ屋敷の中へ踏み込む
「お帰りなさいませ。旦那様、奥様、部下の皆様」
まだ伝わりきってないからかまだ旦那様、奥様でした。しかたないよね
総勢20人近くの男女の奉仕人さん達が一斉に体を曲げ、挨拶をしてくれた。執事、メイド、庭師、コック、雑用係りの皆さんです。メイドさんは美人ばっかりだなぁ。大臣の趣味だったのかもしれないな
「ただいま。早速だけど皆を部屋に。夕食も頼みます」
ライトさんがそう言うと皆さん一斉に動き出し各人を部屋に案内していきます。残った人は夕食の準備にかかるようです
「奥様、こちらに」
私を呼んだのは私の身体を洗ったメイドさん。赤みがかった茶髪に赤い瞳。スラリとしたスタイル。メイド服より騎士服の方が似合いそうなカッコイイ系女子(21)です。名前を聞くとイリア・ワルヴ……え?教えてくれないの?
「王妃様より家名は必要ないと、その方が皆様には助かるはずだと仰っておられましたので……」
うーん。まぁそれもそうかな
私の寝室に案内してくれるようで後ろをついていきます。この後15分後にダイニングで集まり、夕食を取ることになりました
「奥様は旦那様のご要望通り隣の部屋を用意させていただきました」
隣を見ると丁度ライトさんが部屋に入るところでした。私の視線に気づいたのかこちらを向いて手をあげました
「ありがとうございます。嬉しいです」
ライトさんが部屋に入ったので私も部屋に入ろうと取っ手に手を掛け開くと二十五畳くらいの広大な部屋。窓際には部屋とはミスマッチのベット。一応詰まった本棚と四人掛けのテーブルに四脚の椅子、ソファが一組あった
「なにぶん急な購入になりましたのでしっかりと揃えられませんでした。申し訳ありません」
両手を前に綺麗なお辞儀。リアンもそうだけどどこでこんな礼儀作法をおぼえてくるんだろう。あっ!それより頭上げて下さいよっ!
「いえっ!十分です。」
私が慌てて言うと普通に戻り一着のワンピースを出してきた。着替えようかと取りに向かうとすれ違い様に下着に剥かれ後ろに回りこまれるとワンピースを着さされる。
リアンとおんなじ事を!なんて早さなんだろう。
「そろそろダイニングの方へ向かいましょうか?奥様?」
なんでも無いような顔をしながら部屋の扉を開いた。この世界のメイド凄すぎ
イリアさんに促されダイニングへ、どうやら私が一番だったようで席は家長の横に当たる場所に取ることにしました。次いで忍ちゃん、零華さん、鋼介さん、瑠衣ちゃんの順でダイニングに到着。瑠衣ちゃんは下着換えてたからおそくなったのかな?
全員が集まった所で最後にライトさんが執事さんを引き連れ家長の席に座った。メイドさんが壁にずらっと並ぶ。先頭はイリアさんだ。偉い人だったのかもしれないな
とりあえず皆に飲み物を配って一息ついてからルナマリアとの会話を忍ちゃんに説明してもらう。
基本的にライトさん以外は馬が使えません。忍ちゃんも乗れますがあまり経験がないけど、式は馬車での移動と言うことでみんな安心していた。
もちろんライトさんは暇があれば練習することを勧めましたが今はいいだろうと話を切りました。ライトさんはもう歩く必要さえ無くなってるのに……私達ももっと頑張った方がいいのかな?
「旦那様。お話中失礼します、姫様よりこちらを戴いております」
ここで執事さんがライトさんの横に立ちました。手に持っていたのは二枚の質のいいマント。片方の肩にかけ、長さは太ももにかかるくらい。色は赤、さりげに水色の蛇が剣に絡んだマークが入っている
どうみてもエルゲニアの騎士に見えるよね。カッコイイです。女子にはバンクル、金色で細工造りが施されている。もちろんエルゲニアのマーク入りです
それからこれをと付け加え、箱を取りだし、蓋を開けた
「皆様の騎士章にございます」
金色の六角形のバッチだ。全部で6つあり女性のレリーフが刻まれていた。どこかしらルナマリアに似ている気がしたが言うのは避けます
その場で皆、騎士章をつけました。妖精騎士団がエルゲニア公認の騎士団になった瞬間です
手際よくワインが運ばれて全員についでいった。またお酒ですか?瑠衣ちゃんと鋼介さんは口をつける程度にしてくださいね
ライトが立ち上がりました。私達も立ち上がりワインを手に持ちます
「妖精騎士団に乾杯」
「乾杯」
全員で飲み合わせるとタイミングを合わせたようにワゴンが押され夕食が運ばれて来ました。奮発してもらったようでお肉もお魚も今までに食べたことのない食材でした。美味しかったです。




