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再戦——恵

 廊下から中央階段前を経由、中庭に向かいます。窓から入る光が階段を赤く染め始めている。綺麗な夕日だなぁ


 時刻は六時前かな?階段前ですれ違う騎士さんやメイドさんと挨拶を交わす。なにやら私を見ている人が多いけど、誕生日みたいに直接何か言ってくるわけではなかったのは助かった。尋ねてくるライトさんに笑って誤魔化しておこう。騎士さんが投げ飛ばされたら大変だしね。今度会ったらさっきの騎士さんにあまり見ないようにお願いしようかな


 外はまだ暑いので中庭にそって廊下を歩き、訓練場を目指すことにした


「あ、オーナー。店長」


 声がした方を見るとコナーさん。白と薄い茶色の髪と同色の尻尾が素敵です。ちゃんとお風呂に入らせてもらってるようで毛艶がいいです。良かったね。服装も一般市民が着ている服より上等な服ですので奴隷感はゼロです。王妃様から城内一階部だけですが通行の自由を認められているのでこうやって普通に歩いていたりします


「もしかしてラドニー殿に?」


 彼女の右手を見ると某百貨店の紙袋を持ってる。中身はから揚げなんでしょうね。にしても詰め込み過ぎじゃないですか?


「はい。お得意様になっていただいておりますのでこれから配達に。騎士様達の間でも人気のようですよ。それから王妃様にはアップルパイをお届けに」


 あれ?ラドニー様はお客様なのに王妃様は違うんだ?


「また忍から教えてもらったのか?」


「はい。りんごに熱を通すなんて発想は私達には無理ですよ。流石店長です」


「また良さげなレシピがあれば教えますね」


 何気に忍ちゃんお店手伝ってるんだね。私も何か料理教えてみた方がいいのかな?でもスイーツ関係は忍ちゃんがやっちゃってるみたいだしなぁ……


「そうか。カミラ達も頑張ってるみたいだし三人がウチに来て良かったよ。助かるよコナー」


 そういうとふんわりとした笑顔をするコナーさん。なんかほわっとしたお姉さんって感じでモテそうな人だな。


「あら?口説いていらっしゃるのですか?オーナーなら女の子だってよりどりみどりだというのにわざわざ奴隷落ちした私を侍らすのですか?」


「ふふふ、どうやら王妃に仕込まれたようだけど無駄に終わったようだな。もう俺には恵という恋人がいる。」


「あらあら、でも行為には至っていないようですね。ハグかキス程度といったところ。まだまだ王妃様は諦めませんよ。なんだかんだ言って私達もオーナーの事は気に入っていますのでオーナーさえ良ければ……味見します?」


 スカートを持ち上げ綺麗な足を見せてくる。柔らかい感じのコナーさんがやるとギャップでえっちく感じるなぁ。ライトさんがしっかりと足を見てるのがやだな


「んんっ!コナー君、問題発言が多過ぎるぞ」


 咳払いをして誤魔化そうとするライトさん。ちょっと申し訳なさげなんで許してあげます


「うふふ。怒らないでくださいな。ちょっとしたアピールなだけです。さ、ラドニー様もお待ちになっておられるでしょうから先に進みましょう」


 可愛らしい笑顔に切り替えライトさんの行動を操るコナーさん。この人もかなり危険な人だな。要注意だ。しっかりライトさんとの仲を深めなきゃ


決意を新たに廊下を歩き突き当たりを曲がった所で少しずつ勇ましい声が聞こえてくる。窓の外は、騎士がペアを組んで実戦形式で戦っているのが見えます。


 装備はしっかりしているけど、武器は木剣ですね。式典があるのに怪我をしてはいけないのだから当たり前だね


 中庭にでる扉を開け壁づたいに訓練場の建物へ。近くを通ると気付いた騎士達が挨拶をしてくれます。地球と違い他人との関係を大切にする人間が多いようですね。今のところ反感もかってない様子。


 簡単に会釈。あ、から揚げにすっごい注目してる。そんな彼等にラドニー様の事を聞くとやはり訓練場にいることが聞けました


 目的の建物の入り口は開いたままなので、室内も見える。情報を提供してくれた彼等に礼だけを言ってラドニー様がいるであろう扉を潜る。既に開いてるのはクーラーはないからせめて風通しくらいはってことだね


 その大きな体がはっきりと視界に入ってきました。ラドニー様は入り口を向いて座っているので室内へ踏み入れた私達にすぐに気付く


「おぉ。ライト、恵、から……コナー。来たか」


 今絶対から揚げって言おうとしてましたね。コナーさんも特に何も言わないから既に何回かあるんですね。


「お疲れ様です、ラドニー殿」


 両手を開いて私達をむかえてくれた。もちろんまず迎えたのはから揚げですよ。コナーさんから受け取ると紙袋を開いて早速一個かぶりついていました


 ラドニー様の破顔っぷりにはこちらまで幸せになりますね。え?俺だって食いたいのに?今度私が作りますからまた今度ですよ?


 ラドニー様は式で回るルートの確認をしていたようのですが私達が来たことで集中力を失ってしまったみたいです。立ち上がってはライトさんを外へ連れ出したので私達も出ます


「やはり儂は肉体労働の方があってるようだ。みな集まれ!」


 ラドニー様の声に騎士達が整列


「今からライトが相手をする」


 えっ!といきなりの状況に驚くライトさん


「だが相手をするのは五人だけだ。立候補はいるか?今ならから揚げをつけよう」


 みなさんライトさんがバルクティンを倒した程の強さがあることは知っているからか名乗り出ませんでしたが相変わらず、果敢に挑戦してくる人がいます。あとから揚げでつられる人とか本当にいるんですね?


「私にやらせて下さい」


 手を上げ一人の騎士さんが名乗り出る。いつかの迷惑な人です。え?リカルドさん?ライトさんに敵対する人なんて覚えませんよ。から揚げだって一番小さいやつですよ


 恨めしい目でライトさんにむき出しの敵意を向けてくる


 ……むっ。そんな殺気をライトさんに向けるなら私が殺りますよ?ライトさん、鋼介さん、私に負けたにも関わらず懲りもせず、挑んで来るなんて


「またか……手加減はしないぞ」


「なぜ、なぜなんだ?私の目指す場所にいる。許せない」


 はい、完全な逆恨みですね。ライトさんは別に騎士になりたかったわけじゃないのに


 ラドニー様がライトさんを呼んだ。ライトさんの武器を用意してくれたようです


「ルールは前と同じだ。ノックアウト、致命打で負け。いいな」


「「はい」」


 二人は頷くと剣を構える


「はじめ!」


 ラドニー様の合図が入るとライトさんはもうリカルドさん以外は見ていません。周りの音も人も私でさえもきっと今はいない。一対一の時、自分と相手、それだけだ。最近のライトさんはバルクティンと命懸けで戦ったからか戦闘に関する集中力が半端ないです。


 左足を引き、正眼の構えを取ると足を擦るように前進、リカルドさんとの距離を詰めていく


 対するリカルドさんはライトさんの隙がない(リカルドさんからすればですが)事で打ち出せない。それにライトさんが魔神をより強いという考えから打ち出す事にしり込みしてしまってます……たぶん


 でも仕掛けられない自分に対し叱咤、怒りをむけ奮い立たせた


「いくぞ!!!」


 握った剣を横に構え走り出してくるリカルドさんにライトさんは足の位置をじっと見ていた


 リカルドさんは二メートルほど手前で踏み切り兜割り。それをライトさんは一歩下がり避けるけどリカルドさんは着地、直ぐ様前に飛び、突きを繰り出す


 突き出る木剣を剣の腹を叩いて弾きリカルドさんの脇腹へ蹴りを叩き込むとぐふっ、と絞り出したような声をあげリカルドさんは地面に這いつくばった


 痛そ~。容赦ないなぁライトさん。左手で脇腹を押さえ右手に持った木剣を地面に突き立て体を起こしたリカルドさん。ギブアップをする気は……ないようです


 息を整え歯軋り、ライトさんへの怒りがさらに燃えたっぽい。怒りに任せライトさんに剣をふる。訓練じゃなく実戦さながらの打ち込みだ


 でも相手との距離、間合いを測っていたライトさんにはリカルドの気迫は届かず、避けられ、撃ち落とされ、先を取られ、次第に傷だらけになっていく


「くっ」


 ライトさんがリカルドさんの籠手の上から横薙ぎの一筋。真剣なら手首は落ち胸は切り裂かれていましたよ


 当たった左手が痺れたのか剣から手を離したリカルドさん。振り切ったライトさんは振る剣に振り回されたかのように見えましたが振り切ったはずの右手には剣がありません


 あれ?


「そら!もう一撃だ」


 体を捩りリカルドさんの右肩に切り下ろしの一撃


 やったぁ。致命打とったぁ!


 右手に持ってなかったのは振り切った後、勢いを殺したあと捩った時に空中で持ち変えたからでした。だから今、剣はライトさんの左手にあったんですね


 っと!切り下ろしを受けたリカルドさんは…かろうじて防御してました。実剣では刃が食い込んでできませんよ


 まあ、そのかわり右肩強打ですが握りの悪くなった両手でも諦めませんか?


「ぐっ!」


 強引に右手で握り、左手で支えたリカルドさん。根性はありますね。根性だけは


「まだまだぁ!」


 助走からジャンプ、全力と体重を加えた一撃。



 それをライトさんは振り下ろされる前にリカルドさんの握る木剣の柄を正確に突き、吹き飛ばす事で試合は終わりました


 飛ばされた剣はラドニー様に掴まれていた。リカルドさんの後ろに座っていたらしいです


「騎士が戦場で武器を失う事は死だ。よってライトの勝ちとする」


 茫然と立ち尽くすリカルドさんを同僚さん達が慰めながら連れていった。一応ダメージを受けてますので医務室へ行くようです。ライトさんもむやみに傷つけないようにしましょうね


 ふぅ、と脱力するライトさん


 残り四人も来るのかと思いきや騎士さん達は誰も名乗り上げなかった。思った以上の強さにびびったんですね


「なんだなんだ!情けない!それでもエルゲニアの騎士か!ライトは半分の力も出してないぞ」


 ラドニー様が囃し立てると騎士のほぼ全員が手を上げたので、適当に選ばれた四人をライトさんは無難かつ無傷に退けた。ちなみに半分どころか3分の1も出してませんからね


「ふむ、となると、儂の出番か」


 ニヤリと笑い、騎士から二本の木剣を受けとると一本をライトさんに渡した。もともとやる気だったでしょう?


「途中で折れたりしたらつまらん。あと本気でくることだ。魔法だろうがなんだろうが構わん。楽しませろ」


 ライトさんの木剣は切っ先がかけ、刃の部分は歪な形になってる。これではラドニ様ーが相手で無くてもいずれ折れたかもしれないね


 ポケットから手袋をはめ紋章を発動させるライトさん。私も今までとは違う戦いを観る為に紋章を発動します


 ラドニー様を観察します。大きな体に丸太のように太い手足。どうみても力押しのタイプだよね。破壊力は抜群そうです。ホントに


 相変わらず装備は軽鎧と手甲、すね当てだ。鎧は一応、手甲、すね当ては殴る蹴る用。防御って言葉を知らないかのようです。


 対するライトさんはラドニー様からすれば軽量級、まともに受けただけで吹き飛ばされるでしょうからライトさんが勝つには手数と移動速度で戦う早さ勝負になりそうです


「さて、準備はいいか」


 初老とは思えない程の威圧感を放ちライトさんへ構える


「合図しろ」


 命令を受けた騎士は高く上げた手を下ろし始めと宣言。その瞬間ライトさんは一足にラドニー様との距離を詰め横薙ぎの斬撃を放つ


 見えていたのは私と忍ちゃん。それにラドニー様だけ。だって剣を盾に受け流し完璧にガードしたんだもん


 斬りあった木剣の欠片が僅かに宙に浮いたのが見えた


「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


 周りから歓声が上がりました。まだまだライトさんは本気じゃないですよ。


 ライトさんの剣が通りすぎたあと上半身をねじり剣を振るラドニー様。横薙ぎの姿勢から体を一回転、ラドニー様の攻撃を攻撃で受ける


 モーションは小さいがラドニー様の攻撃の衝撃は凄まじく速くて重い。紋章を使うライトさんでもさすがに力比べでは負けてしまうよね


「【シールド】」


 迫る剣を滑らすように半透明な【シールド】を使い剣を逸らすと【シールド】ごとラドニー様に向かって蹴り。蹴り壊された【シールド】がガラスのように割れ勢いのままにラドニー様に襲いかかる


「小癪な!」


 ガラスの破片を一つ残らず叩き落していくラドニー様にさらなる追い討ちに【ライトニング】を放つライトさん。さらに後ろに回り込む


「賢しいわ!かぁ!」


 魔法を気合いだけで掻き消すと前に飛びライトさんの攻撃を避けた。


「やっぱり初級魔法じゃダメのようですね」


「儂にダメージを与えたければ上級魔法くらい使うんだな!」


 そういうと真っ正面から飛び込んでいく二人。辛くも互いの剣を弾きあいますが体重差でよろめいたライトさんにラドニー様は柄から左手を離しライトさんに向けて打撃


 ギリギリでライトさんは剣と左腕を交差させ防御。耐えたけど強制的に後ろへ下がらされ、足から土煙があがる


 紋章なしで直撃していれば敗けだったくらいの一撃だった。防御した左手が痺れているみたいです


 ライトさん!頑張って!!


「さすが軍団長。だけど、ここからは全開でいきますよ」


 両足で跳ね体をリラックス、腕に魔力で電気を流し痺れた腕を治すと手を開き、閉じる。ライトさん具合を確かめると両手を柄に添え、その場で全力で突き


 ラドニー様はぞわっと毛が逆立つかのように震え次の瞬間には大きく右後方に飛び、大事にはいたらなかった


 昨 大事に至ったのは後ろにいた観客の騎士でした。不意の衝撃に防御はおろか、受け身も取れず転がった


「面白くなってきたな!ここからが本番だっ!!」


 大きく深呼吸、ライトさんを見据え吼える。な…け、毛が逆立つっ!!なんてプレッシャー


「エルゲニア騎士団総軍団長ラドニー・グリンセル!参る!」


 あの……二人とも訓練だってわかってますよね?


「二人とも子供ですわねぇ」


 あ、王妃様いつの間に来たんですか?


「それにしてもこのアップルパイおいしいわねぇ」


 王妃様は平常運転ですねぇ。


 勝負は幕に近づき今まで受けるばかりだったラドニー様がその巨体を激しく揺らし剣を振ってくる。その体のこなしは見た目を裏切りとてつもなく早い。魔法を使ったようには見えなかったけど無属性魔法を使ってるのかな?


 互いの攻撃を攻撃で弾き、吸い込まれるように何度も繰り返す二人。ライトさんが突けばラドニー様も突きをみまい、ラドニー様が切り下ろせばライトさんは切り上げる。右から薙ぎ払えば左から叩き落としにくる


 握り手を内側に寄せ舐めるように斬りつけるライトさん。必勝の気合いを入れて斬りつけるも柄を殴打され、腕ごと弾かれ少し下がったライトさん


 ……距離があいたのは一瞬だけ。すぐさま距離をなくし斬りあってる。防御よりも攻撃を優先し始めたのか互いの体にかすりはじめ、みみず腫のように赤い筋がいくつもの作られていきます


 それに伴い、砕けた木片が足元へ落ちていく


 互いに顔を背けず斬りあったかと思えば一気に距離を開け必殺の一撃を構えます。ライトさんはバルクティン戦で多用した全身に雷を纏い相手を穿つ【槍】雷はないですよ。訓練だし剣が持ちませんからね


 剣先をラドニー様に向けたまま右腕を限界まで引き力を溜める。対するラドニー様は体制を半身に木剣の柄を握り潰すほどの力でもち顔の横で構える。腕がさらに太く見えたのは幻ではないと思います


「………」


「……」


 何かしゃべってる?


 二人で頷いた後、ライトさんは前屈みに走りだす。


 緊迫した空気の中を二人の気が満ちていきます。もう一度握りを正し力を溜めるラドニー様


「ぅおおおぉぉぉっ!!」


 ライトさんの一歩一歩が土を捲り、勢いを増していき踏みきろうと足の力を爆発させる


「へっ?うげっ!」


 はずだったけどライトさんは思いきり転けた。踏み切る筈の地面がそこだけ不自然に抉れていて無かった


 なんで?


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