初戦闘は5対1——ライト
「ん?なにかでかい物があの家の前にあるぞ」
あの家というのは城の行き掛けによった家だな。時間が動いているからか人もいるようだ
見た感じ動いているのは二人、馬が二頭、見つけたのは荷馬車だな。幌つきで雨風も凌げそうな立派なやつだ
「第一人間はっけ~ん」
鋼介は歩いていった。いやいや…もっと警戒心を持とうぜ?言葉すら通じるかどうかわからないのに、よくいく気になったな。たぶん何も考えてなかったんだろうけど
「………」
「………」
なにやら話しあってるようだが鋼介のところに行くと話していたのは男性だった。っていうか鋼介と会話して大丈夫だろうか?ちゃんと話になってるのか?
横を通る時、家の中から物音がするから他にもいそうだな
近くで見た男性の身なりは悪くない。ピシッと張ったシャツに仕立てのいいズボンを履いていた
「この人は商人してるんだって。んで、説明したら町まで連れていってくれるって。」
家の前にあったのは商用馬車だ
「ただしここの荷物の積込と下ろしを手伝ってもらえたらね」
商人は指を立てる。人のよさそうな笑顔だ。でも安心する事なかれ。初対面の人間を警戒もしないのはもっとおかしいはずだ。せめて注意だけでも皆に促しておこう
「お願いします」
警戒しながらも握手をかわし、ちょっとしたアルバイトをする事にした
「ちょうど人手が欲しかったんだ。あぁ、私はロレンス。あと馬車の用意してるのはエリザだよ」
指差した先に馬車に移動する影。さっきは家の中にいた人か?紹介したのは一人だから二人で商売してるのだろうか?
とにかく馬車の中を覗くと出発の準備をする女の子がいた。簡単なシャツにベスト、ロングのスカートという出で立ちだ。ロレンスさんとはかなり違うけどどうしてなんだろうか?
お尻にまで届く髪を髪の根元と毛先で結んでいる茶髪が印象的な彼女だ
「ロレンスぅ~?この織物10個でよかった~?」
大きな声で荷主に伝えるエリザさん。後ろを見ずに喋ってるからこちらから見えるのはお尻だ。作業をする度にふりふりとお尻が揺れる
…見ていると女子メンバーから冷たい目で見られていた。……………………寒いな
「エリザ~!織物は枚か巻か本だって言ってるだろ。それより後ろを見なよ」
「んん?」
やっと顔を振り向きこちらを確認する
「ど…どちらさま?」
「はじめまして、今ロレンスさんと交渉しまして、街まで運んで貰う代わりに荷積みを手伝う事になりまして…」
「あ、ああ…そう」
挨拶をすると家の中に毛皮と薪があるので持ってきて欲しいと言われたので俺達五人はそれぞれにエリザさんに手渡していった
薪の善し悪しは分からないけど毛皮の質は良さそうだし織物も結構な品物な気がする。実際はわからないけど手触りとか色合いや刺繍とかが凄かったし
運んでいる間ロレンスさんはといえば馬に餌を与えていた。鋼介もやらして欲しいと言って変わって貰っていた。噛まれてしまうがいい
それからこちらの手帳も見れた。黒く染めた羊皮紙に紙の束を挟んだものだが何度も開いたり書いたりしててよれよれだけど凄く存在感のあるものだな。愛用の物みたいだな。よく使い込まれてる
ちなみに今見てたのは荷の確認だったらしい。積込は十分ほどで済み鍵を閉めるロレンスさん
そういえば水を飲んだっけ…ま、いっか
ちなみにこの建物は商人が使う中継地だったそうな。待ち合わせに使ったり預けたり、宿泊したりだ。まぁ寝具は持参だったみたいだから馬車を持つロレンスさんは必要なさそうだな
俺達はロレンスさんがいないと他の商人が来たとき問題になりそうだし使えないな。初めて会ったのがロレンスさんでよかったな
馬車の空いているスペースに五人は腰かける。ロレンスさんとエリザさんは御者台に座り皆が揃っているのを確認すると馬を走らせた
「まだ行商人として独り立ちして6年、魔物が数多くいるという東の土地以外は行ったが東国の首都リュビスの出身かい?そんな形の服はみたことないなぁ。」
気まずくなった俺達は目を見合わせた
。まさか最初からそんな質問が来るなんて思わなかった。まさか違う世界から来たとは言えない
ってか、みんな俺にどうにかしろって視線はやめろ。俺だって知らない場所の服装なんてわからん。
「あ、えぇ、そうです。詳しくは言えないんですが、旅行してるんですけど路銀がつきてしまいまして…」
濁らして説明すると、ロレンスさんは気の毒そうな顔をした。
ん?信じたのか?商人的にどうなんだ?
「これも何かの縁だ。そうだ。私も商人だ。与えることは出来ないが物品交換はしてあげよう。珍しい物は持ってたりするかい?」
俺達5人はそれぞれポケットを探ると出てきたのはボールペンや財布、携帯電話、時計、後は零華と恵の化粧品がでてきた。忍は十徳ナイフなんて持ってる。サバイバルでもする気なんだろうか?
持ち物を見せるとロレンスさんの興味を引いたのはボールペンと時計だった。忍のナイフはスルーだった。ナイフならロレンスさんも持っていたし他の部分の使い道がわからなかったからだ。この世界に缶詰めはないみたいだ。
ボールペンは4色ペンタイプでまだ結構インクも残っていた。この世界はインクは保存が難しく―—瓶に貯めたインクに羽ペンで書くのでインクはなかなか高級らしい―—不便なのでこのように何回も使えるのが珍しかった。
時計も目に止まったらしく高級品で貴族や王族、教会くらいしか持たないものらしい。どうやって時間を知るかと聞いてみたら街の中じゃ教会が一時間に一度ベルを鳴らして知らせるんだそうだ。
野外においとは太陽の位置で時間を特定するくらいだったらしい。待ち合わせとか無理じゃね?
これなら詳しく分かると気に入ったようだ。ちなみに夜八時から朝五時までは鳴らさないらしい。ずいぶん早く寝るんだな。娯楽が少ないのかもしれないな
「よし、これなら銀貨5枚で手をうとう」
ロレンスさんは懐から巾着袋を出し5枚の銀貨を出す。ぼったくられて無いだろうか?こっちの貨幣の価値がわからん
「こっちの通貨でどれくらいの価値がありますか?」
「そうだね。節約すれば3日間の食事が出来るし宿なら1泊はできるだろう」
うーん。五人での生活費にはちょっと辛いか。交渉してみようかな。最悪街でバイトでもしなきゃいけないかもな
ロレンスさんが品定めしている間、エリザさんは化粧品をじっと見ていた
「欲しいのかい?」
ロレンスさんはエリザさんに聞くと頷いた。ちょっと遠慮気味だったエリザさんにロレンスさんは男気を見せる
「………銀貨5枚追加でどうかね?」
零華と恵に目をやると指で丸を作った。オッケー出されると交渉のタイミングが消えてしまうんだけど。ま、いいか。とりあえず金はいるのは間違いないんだしさ
商談成立し合計10枚の銀貨を受け取り宿代を得た。エリザさんは二人に使い方をレクチャーされている。ちなみにレクチャー代としてエリザさんが持っていた銅貨五枚を受け取っていた。
俺やロレンスさんは和やかにそれを見ていた。化粧をしたエリザさんはかなり美人だったと言っておこう。………後はもう少し胸があれば
しばらくして聞きたい事を聞いてみる。情報はいくらあっても損じゃない
「こっちでもやっぱり魔物って出るんですか?」
聞いたのは恵だったけど皆、注目して聞いている。魔物……動植物が魔力を宿し歪な強制進化を受けた物と言われているらしい。結構常識だったようで旅なんかしていて大丈夫かと心配された。苦笑いで返した
「このエルゲニア大陸には虎と牛の姿をした魔物が侵略しにきていると聞いている。私達みたいな商人は安全な内陸部だけでやっていくしかない。辛いところさ」
ロレンスさんは遠い目をした。この人の故郷は今では行けない所なのかもしれない。聞かないけどさ
話しこんでいるうちに俺達が下山した山が見えてきた。
「この山を迂回したら町だ。着いたら先に食事にしよう」
鋼介が山の中腹辺りをボヤッと見ていたら何かがこっちに向かって走ってくるとボソッと言った
「…ん~何か来るなぁ。襟巻きトカゲ?」
「…………?あんな大きいトカゲがいるわけないでしょ」
零華が鋼介の見てたものを見るとみるみる顔が怖ばっていく。なんだ?ロレンスさんもエリザさんも二人の見てる方を見た
「魔物か!」
アレが魔物か……
「ロレンス?逃げ切れる?」
まだ遠くに見えるが7人乗りの馬車では追い付かれそうだ。移動スピードだけは中々速いな
「しっかり捕まっててくれ」
馬に鞭を打ち急がせるがどうにも距離は広がらずじょじょに追い付かれてしまった。
………覚悟を決めよう。まだ人じゃないだけマシだ。あれはデカイトカゲ、デカイトカゲだ。
「………仕方ない倒そう。ロレンスさん。あの砂地まで行ってください」
「何を言ってるんだ。逃げないと」
馬車はどちらにせよ砂地へ向かっているのは都合がいい。いや不幸中の幸いくらいか
「みんな降りるぞ。あそこで迎え撃つ」
真っ先に飛び出し砂地へ向かった
次々に皆、降りてくるがどうにも逃げ腰だ。仕方ないけど。俺だってちょっと緊張してるし
「皆、砂地へ走れ」
皆に作戦を与え迎え撃つ準備をした追ってくる魔物は俺達に狙いを変え、走ってくる。見えた魔物を見て鋼介を軽く殴る。何が襟巻きトカゲだ!ぜんぜん襟なんてないじゃないか。と息巻いてみたけど初めて見る魔物は思ったより怖かった
なんというか正気じゃない。血走った赤い目と口から撒き散らすヨダレに殺意が見て取れた。……ヨダレは違うか
立てた作戦の成功率が多少の勇気をくれたので立ち向かえるが…
魔物は二足歩行、人型でワニの頭をしている。ゲームでいうなら間違いなくリザードマンだろう。確実に爬虫類の性質を持ってるだろう。手に持った錆びた剣を振り回し襲いかかってくる
敵は一体。赤い舌をチロチロと出すリザードマンはまるで蛇のようにもみえた。
俺達は人数では上だけど実戦なんてもちろんない。人型の生き物を斬るのはゲーム以外じゃ初めてだ。いけるだろう。作戦と紋章術だけが有利な点だ。戦闘行動の補助があるのは助かるな
皆に与えた作戦通り忍は一番後ろへ下がり構え左手の紋章が浮き上がらせる。ただ少し怯えが出ているみたいだ
―仕方がない、手を貸してやるか―
また声が聞こえた…こんどは力を貸すだって?
突風が吹きリザードマンが平地で転けた
なんだ?突風はリザードマンだけに吹いた?とにかく転けた拍子に持っていた剣が折れた。突風に腹を立てたのかリザードマンは柄だけになった剣を振り回し、役に立たないと感じたのか投げ捨てた。これで素手だ
―後は自分で何とかするのじゃな。いつか会えるのを待っておるぞ―
………
声が聞こえなくなった。何者だったんだろう…
「ライトさん!来ます」
恵が叫んだ。リザードマンはもうすぐそこだ
初手は忍だ。リザードマンが砂地へ踏み込むと同時に忍が砂地へ突風を起こし砂を巻き起こす。同時に鋼介が馬車にあった水筒を投げつけ、零華が冷気を適当に流す
そうすることで変温動物であるトカゲは代謝が落ち動きが鈍る。さらにリザードマンは砂が目に入ったのか目をきつく瞑り頭を降る
行動の終えた鋼介と零華は俺と恵の後ろに一瞬だけ砂嵐を避ける為の壁を砂と氷で作る。だから俺と恵には視界がしっかり写っている。
フゥーっと深呼吸
怯んでいる敵に剣を抜き駆け出すと同時に恵は右手に火の玉を作りだした。後で聞いたんだけど、手に力を集めるようなイメージをすると使いやすいらしい。そこから火球をイメージするとなるそうだ。魔力はあくまで材料でしかないようだ。俺には魔力とかはまだわからないけど使い方はこんなもんだそうだ
その火球をワニの頭に向け撃つと目に砂が入って動けないでいるリザードマンに当たり仰け反った
胸が無防備になった。どんな生物でも胸の辺りを突けば死ぬだろう。死ななくても重要な器官を損傷するはずだ。覚悟を決め剣を脇に構え懐に飛び込むと胸を突いた
手に残る肉を貫く感触。背中まで突き抜けるほど貫いたので思いっきり感触を知ってしまった。貫いた拍子に勢いでリザードマンの体を吹っ飛ばし一緒に握っていた剣を手放してしまう
今の俺じゃ次の攻撃なんて移れない。
肉の感触に戸惑ってしまっているので手から抜けていったしまったのだが、追い討ちは必要なかった。リザードマンは胸を貫かれ最期の断末魔もなく息絶えたように見えたからだ
「はぁはぁ…、ふぅ、やったか?」
死体を覗き込み勝利を確認すると少ししびれた感じがする手で胸から剣を引き抜く。手に肉の抵抗がかかった。貫く時は気づかなかったけど骨を貫通してるな
これが紋章の効果か…すごいな
それにしても魔物か。たぶんこれで雑魚だろうな。魔神となればどれ程のもんなんだろう?どれくらい強くならないといけないのか?わからない先行きに不安になりつつ滴る血を砂地に振り払う
「やったなライト」
先ず鋼介が近づき勝利を祝ってくれるのを皮切りに他の三人も駆け寄ってくる。各自に紋章の感じを聞き取ると僅かな倦怠感を訴えるくらいで健康阻害と言うほどではないな。もっとギリギリまで使わないといけないな。限界を知っておかないといつか大きな失敗をしてしまいそうな気がする。
皆が俺の作戦と勝利を褒め称えてると馬車が近寄ってきた。いきなり降りたのでそのまま少し走っていたらしく引き返すのに時間がかかったようだ。二人の顔には焦りがありこちらを見た瞬間脱力するのが見えた
「無茶をする。勝ったからいいものの…」
「あなた達もっと命を大事にしなさいよ。いつか大変な事になるわよ」
叱られてしまった。引き返してきた二人も危ないんじゃないのか?…まぁいいか。魔物は倒せたし文句はないだろう。説教はあったけど
とにかく初魔物を無傷で退ける。いきなり怪我人とかでてたら洒落にならなかったのだし結果は上出来だろう
それにしても、あの声は誰だったんだろうか?
その後再び馬車に揺られ山を迂回する
その間もエリザさんが化粧をされたり零華が御者台で何かロレンスさんと話したりしているのをぼんやり見てた。しばらく揺られっぱなしだったので睡魔がお友達になろうと言ってる…
……君は親友さ
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