幻聴と妄想——ライト
——カチャ
唐突に、でも遠慮がちに扉が開く音がして振り向く。
「ライト!ここにいらしたの?」
執務室の扉が開き何人かの女性が入ってくる。中央は次期女王のルナマリア、横には先ほど会ったリアン、とその他大勢のメイド
……おいおいリアンさんや。俺にだって心の準備がいるんだよ?素知らぬ顔で何激薬ぶち込んでくれちゃってんの
俺は……そうだ目を合わさなければ大丈夫かもしれない。ってか声と姿だけであの日の記憶が蘇りそうだ。こんなところで鼻血を出してる場合じゃない。
ゴリマッチョが一匹、ゴリマッチョが二匹………………よし大丈夫。吐き気がしてきたから
「何の話をしてらしたの?」
落ち着いて顔を上げた俺に青い髪を揺らし惹き付けるような目を向けてくる。顔は赤くなってないだろうか?
「ん、今後について少し」
「男の約束だ。ルナこそどうして?」
リアンを一瞥、リアン以外のメイドを下げる。
「リアンがライトは執務室にいると教えてくれたから」
そうだろうね!まあ王妃を連れてきてないだけマシだ。そういや今日はどこにいるんだろうか?なんとか近づかれる前に察知したい
「やっぱり私が気になるのですね。この娘のソロプレイに腕を斬ってまで逃げ出したヘタレ英雄」
ヤバい。また幻聴が聞こえる。帰れ!王妃は帰りなさい!
頭を振って王妃の呪縛を解いていると、みんなは?今日はどうするの?と矢継ぎ早に捲し立てるルナマリアは少し息が切れている、
走ってきたみたいだ
「俺達は明後日から当分こっちにいる。何か手伝えないかと相談していたところだが、ルナマリアこそもうすぐ即位式と葬式じゃないのか?」
日程では終業式の後となっているな。夏休みが1日遅くなる程度の事だ。1日くらいどうってことはないよな。1日でも勉強させておきたい馬鹿はいるけどさ
現実側からすると急な日程だけど一国の王が亡くなったとあれば他国の王も出席するだろう。既に他の三国、国内の有力者、教会関係、近隣諸国に便りをだし、返事も貰っているそうだ。速達便っていうか鳩便……じゃないな。この世界特有の4翼の鷲?に手紙を運ばせたらしい。そんなに日が経ってないのに連絡済みだとは……作業が早いな。あのなまくら王妃も割と仕事をしてるらしいな
後は……俺達はルナマリアの護衛も予定にはいっている。相変わらず俺達やラドニー殿、王妃、リアン以外には壁を張った状態で接しているらしい。心の壁、つまりAT◯ィールドだな。早く周りと仲良くできるようになるといいが
「ええ、御霊送りは初めての事だけど特に問題ないわ。段取りも覚えているし」
その記憶力は流石だな。鋼介に分けてやって欲しいものだ。
問題はと続けるがラドニー殿が先に話した。それよりラドニー殿……ツマミ一式を隠さないと……ルナマリアの位置じゃ書類で見えないか?
「即位式で男が寄ってくる事か?」
ルナマリアの夫になる……つまり王になるということを求めて近寄ってくる人間がいるということだ。王妃が俺を囲い込もうとしてるのはそれを少しでも妨害するためだろう。王の席を欲しがる輩は数知れない……と思う。俺ならめんどくさそうだし嫌だけど。
「つまらない男はお断りだわ」
頬に手を当て嘆息するルナマリア。何故かこちらをチラッと見ていた。ルナマリア、君は王妃に薬を盛られて頭がフィーバーした状態で俺のことを考えたから勘違いしてるだけだぞ。あまり王妃の策にはまるなよ
それはそうと一人で話していたラドニー殿の話しを聞くと社交界デビューでは凄いことになったそうな。15くらいの女の子に群がる男達。同年代くらいならいいけど30歳の騎士が口説くってなんだ?今の内に印象付けておこうってくらいならいいけど、マジで口説くなよ。若くても美人だったんだろうけどさ
「まず儂より強くないと許せんな」
うんうんと一人で頷いたラドニー殿。それは無理だろ。ラドニー殿より強い人間などそうはいないと俺達は思う
「さて、もう少し仕事をするか……ライトはどうするのだ?」
「帰る事にします。ルナマリアにも会えたし。用事も済んだし」
といった所でルナマリアが不機嫌になる。なんだ?何かしたか?
「用事とは恵の誕生日の事ですか?」
驚いてラドニー殿を睨んだ。この場合リアンや王妃じゃない。二人は絶対に漏らしたりはしない。王妃は俺で遊ぼうとするはずだからだ。リアンも王妃の手先と考えるならないと言えるだろう
視線を斜め上に向けて逃げているラドニー殿。この人……喋ったな?せめて俺から言うつもりだったのに
「すべて掌握しています。以前、取っていた宿でパーティーすることも、仕立て屋のこともです」
全くぬけめがない。聞くとラドニー殿の行動から推測、確認を行い全てを知ったらしい。確かにこの人隠密行動なんてできなさそうだもんな
ラドニー殿の業務机に腰掛け足を組んで言った。うーむ、ロングドレスだとちょっとその仕草はいただけんな。エロスが足りないぞ
「寸法を知るのに以前採寸した時に書いた書類を使ったのは失敗でしたね」
謎を解いたような探偵のようだ。満面のドヤ顔で俺達を見る。
「負けたよ。来てくれるか」
「もちろん。行きますわ。この前のお返しにお母様に仕事を押し付けてでも行きます。ただ内緒にしてた分一つだけ、言うことを聞いて貰うわ」
指を立て俺に向ける。なんだろうか?
「エスコートは私がします。宜しいわね」
「わかった」
としか言えないよな。それにしても王妃には良い薬だ。
明日の夕方に恵を預ける約束をしてゲートを開く。別れ際ラドニー殿とルナマリアが何か話していたので聞き耳をたててみる。ツマミ一式が見つかったらしいな。ルナマリアは……有名な割ける乳製品が気に入ったらしい。ほかにも見てたみたいで気になったが、帰った。まだやることあるしさ
自分の部屋に戻ると全員に明日についての詳細メールを送り、アレじゃない恵の誕生日プレゼントを買いに今度はデパートへ。既に暗くなっている閉店まであまり時間がない
何がいいんだろう……?女子高生が欲しがりそうなものか……
……ダメだ。さっぱりわからん。聞く相手もいないし、瑠衣に聞いたら恵に筒抜けそうだし、鋼介は論外、忍はああ見えて結構ケチ……じゃなかった。しっかりしてるし商品券とか言いそうだから意味ない。おばさん臭いぞ
となると零華か……ポケットを探って携帯を取り出す
………
………
………………やめた。自分でどうにかしてやる
そうして長い時間デパートをうろうろ……蛍の光が流れ出してる。まだこれといった物は見つからない。こうなったらソナーで売り場を全て確認してやる。あとは直感だ
……これか。確かにこれしかないかもな。選んだのは髪留めだ。アレにあうとしたらこういうのだろう。うん。もうこれにしよう。もちろん包装してもらってポケットにいれる。喜んでくれるといいけど……ルナマリアに渡す役もお願いしよう
購入はできだけどもう外は暗かった。時間は8時だ。本当に長い時間うろうろしてたんだな……疲れた……
結局、忍の作った冷めた夕食を怒られながら食べるはめになってしまったが、気にしない事にしよう。自分なりにやる事はやったはずだから
翌日、テストが返却され、喜ぶ者、落ち込む者にわかれて教室はざわついていた。俺と零華は喜ぶ者側だが、鋼介は机にテストを裏返したまま、じっとしている
「………」
用紙の端を摘まんでは叩きつけ焦れったいことこの上ない。さっさと見ろよ。赤点なら分かってるだろうな?
「きぃ~どぉ~くん!」
ん?学校じゃ鋼介と呼ばないのか?アホと噂にならないように気をつけてるんだな。俺もアホと友達と思われるのは嫌だな。なんとか気をつけよう
零華が真後ろについて肩を押さえるとこちらの方を見る。来いと言っているようなので鋼介の席の前に立ち、答案を奪い覗く
「………」
「………」
「………ぅぅ」
ぅぅ?なんで呻いてんだ。覗いた俺に二人の視線が集まる
ちっ!つまらない。
「今日は楽しんでいいぞ」
答案を机に置く。もちろん表向きにだ。不意に置かれたので鋼介は反射的に赤い数字を見てしまう
「え…」
そこにあった数字は今まで鋼介が取ったことのない数字だった
「ろ…60点」
鋼介の目尻には涙がうかんでいたが俺達は見ないことにした。恵も仲間が欠けてたら思う存分喜べないかもしれないから初めから連れていく気だったけど、これで気兼ねなしでいいから良かったとしておいてやるか。まぁ頑張った方だしな
「いやぁ。俺ってやればできるんだな」
テストを何度も見てはニヤケ顔になる。さっきとはうってかわり浮かれている鋼介を見ては零華もうんうんと共に喜ぶ。零華の教え方が良かったんだろうな
「これで赤点だったら氷漬けだったけどね」
こわい事を言っているけど、俺も電気椅子とか考えていたこともある。しかも50点という高いハードルで
「良かったですねぇ」
休み時間になると毎回、恵と瑠衣は俺達の教室に来るようになっていた。友達はいいのか?そして俺の周りに来るから注目の的になってるんだからな?馬鹿な真似はよせよ
テストを返され喜ぶ鋼介を子どもを見るような目を向ける瑠衣。生温か過ぎるぞ。こいつにはほどほどでいいんだよ。あと周りの奴も鋼介に負けたからって泣くんじゃない
「瑠衣ちゃんはどうだった?」
「え、まぁ良かったとだけ言っておきます」
濁して言っているので恵が小さく教えてくれた。点数は平均90、一科目だけは三桁いったと教えてくれた。あれで頭がいいらしい。なにはともあれ全員が問題無くテストを終えたことになる
「ライト君、今日は何時から向かうの?」
零華が言うと返事を待つように皆が俺の方を見る。
「6時までに家に来てくれ。」
それはメモらなくていいだろ。零華
「それまでは自由時間ってことだな」
「今日はパーティ~」
チャイムがなり瑠衣は歌いながら帰っていった
「じゃあ皆さん、後で」
恵は瑠衣について帰っていった。離れていく二人を見ながら零華がニヤニヤしながら近づいてきた。そんな顔もできるんだな。ちょっとショックだよ
「ライト君、プレゼントは用意したの?」
「した。見てのお楽しみだ」
ラドニー殿にかなりの無理を言ってだがけどな。あと自分の所持金でいろいろな物を買って向こうで物々交換したりでなんとか形にはできた。チームでの共有資産は使えないよな
「俺どうしようかな?」
「鋼は私が選ぶから半分出しなさい。変な物をプレゼントしても仕方ないわ。っと、先生が来たわ」
机に足をかけて椅子でバランスを取ってふらふらする鋼介の言葉をばっさりと切る零華。言い終わるとともに教師が教卓に着いたので会話を中断、本日最後の授業のホームルームが始まった。はっきり言って聞く耳持たん。右から左に……だ
「今学期はこれで終わりだ」
教師が言ったことで、全員帰宅の路についた。結局俺は今夜の事で一杯一杯なのかもしれない。気合いと覚悟をしっかりしておこう
――――――――――――――――――
時計が午後5時45分をさすころ全員が輝山家のリビングに集まっていた
女性陣は化粧を施している。化けているとは言わないが、それぞれの魅力は増した事だろう。まぁ落とされるんだけどさ。言わないけど。
ちなみに普段着でいいと言ったのに皆よそ行きの服装だ。何故言うことを聞かん
「さて、用意はいいな」
ゲートを開き現実へ。忍、瑠衣、零華、鋼介の順番で入っていく
「どうした?」
恵だけは進まず俺を見ている。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「喜ぶのはこれからだ」
恵を押しゲートをくぐらせ、自分も入った。ゲートの先は執務室。基本的にルナマリアが使う部屋なので人の出入りは少ないのでよく利用させてもらっている
「お待ちしてましたわ」
既によそ行きのドレスに着替え準備万端のルナマリアが椅子から立ち上がり待っていた
「恵、今日は楽しんでいらしてね」
「はい」
ルナマリアまで参加するとは思っていなかったのだろう。驚きを隠せないでいた
ルナマリアは全員へ挨拶すると、俺に目で合図。俺の頷きと共に作業机に置いてある呼び鐘を揺らしメイド達を呼んだ。どさくさ紛れにリアンに髪留めを渡しておく。間違えるなよ?ルナマリアにあげたんじゃないからな。恵のだからな
「皆の礼服も用意したわ。依然寸法を取ったものが出来ましたの」
俺を案内するメイドは何故かテンション高いな。逆に他のメンバーを案内するメイドはがっかりしてる。瑠衣や鋼介には「はずれだわ」とか……俺も裏じゃ何か言われてるんだろうか……怖いものだ。気をつけよう
それで案内してもらう訳だけど、普通に男の部屋と女の部屋に分かれるだけだった。別に案内いらないと思うけど……だって俺、城の中相当歩いてるしさ。まぁ、いいか
で、案内されたのはラドニー殿の部屋の近くだ。ちなみに二部屋隣だ。間は鋼介が入った。メイドさん曰く、今後の俺達の部屋らしい。ゲート開くのには都合いいけど街に出るまで遠くて嫌だな。面倒くさい
それはそうとこの上の階は女部屋らしい。俺の部屋の真上に恵と零華、鋼介の部屋の真上に瑠衣と忍の部屋があるらしい。女部屋にいくにはいろいろ手続きがいるみたいだけど俺はいらないそうだ。鋼介はいるけど……
メイドさんも上の階だそうで部屋を教えてくれた。なんで教えてくれるんだ?遊びにはいけないぞ。君、絶対王妃の手先だろ?そうだろ?え、違う?
「へぇ……え?……ぇぇええ!」
遠くの部屋から恵の声が聞こえた。どうやらアレを見たようだな。なかなかのリアクションだ。好感触ととっておこう
おっと、恵の事ばかり気にするより今は着替えないとな。メイドさん手伝わなくていいからな。ってか扉閉めてくれよ。なに残念そうな顔してるんだ。見てもいいもんじゃないぞ
メイドさんを追い出し一人になったところで着替えるか。俺に用意された礼服は黒のパンツ、(これいいな)真っ白なシルクのカッターシャツ(……首回りのひらひらしたものが好きじゃない)、細かい刺繍入りのベスト(凄く凝っている 裏地には蛇が……国印か)、ベルト(…は普通だ)、蝶ネクタイ(着けなきゃいけないのか?結構恥ずいな)そして、革靴(何の革なんだろう?)
これってドレスコードってやつだな。全てをベッドの上に置き眺めた。こんな物に袖を通すとはな
「見てても仕方ない。着るか…」
行動用の服を脱ぎ、素早く礼服に着替える。靴を履き、蝶ネクタイを微調整、背筋を伸ばしてベストを正す。今度鏡でも持ってこようかな。姿見。変な格好したくないし
「大丈夫よ、格好いいわ。百人斬り絶倫英雄」
最近幻聴が多いな。疲れてるのかもしれない。あと俺は童貞だ。
「…………………行くか」
脱いだ服のそばの剣に目が向く。これはいらないな。パーティーにもっていくのは無粋ってやつだ。祝うのに剣はいらない
脱いだ服の上に置き直し部屋をでる。廊下には相変わらずの西洋系の城の壁と鎧、そして馬鹿
「よ~ライト。変じゃないか?」
隣の部屋で着替えていたのか鋼介が壁際に寄りかかって待っていた。
「馬子にも衣装だな」
「ありがとよ」
誉め言葉じゃないが本人が満足しているのでいいか。
中庭を目指すとそこにはすでに馬車が用意され中庭の壁際に正装姿のラドニー殿がいた。普段から着ることがないからかまったく似合っていないな。
「おお、二人とも、よく似合っているじゃないか」
どこから持ってきたのか木の椅子にどっしりと腰を落ち着けていた。どこか疲れてるのは書類仕事のせいだろう。もしくは王妃
「今日はもう仕事は終わりですか?」
「こんな日に仕事ばかりしてもな……」
とうとうサボったか。続かないだろうとは思ったけど早いな~。それより気になるのはシワが増えた事だ。この人は戦わしてないと老化が進んでしまうんじゃないだろうか?馬鹿と戦闘訓練でもしてはどうかと勧めてみようかな
「痛い痛い痛い痛い!助けてぇ~!」
城の奥から声が響いた。悲鳴だけど危険はなさそうだ。声の主は瑠衣だな。城内に響き渡った事だろう。恥ずかしい奴だ。スタイルに問題があるんじゃないか?
「心配することはない。コルセットでもつけられているんだろう」
今もまだ聞こえる悲鳴は尋常じゃない。声と共にギリギリと締め付ける音が聞こえるかのようだ
あ、悲鳴がやんだ。コルセットをつけ終わったようだな
「凄い悲鳴だったわね。メイドさんビックリしてたわ」
中央口から青いドレスを着た女性が出てくる。足首まで隠した裾の先に見える足には青のハイヒール。純白の手袋。耳元にはイヤリングが髪の間からさりげに見え隠れしている
「零華か…?」
鋼介が目を点にして見つめる。青いドレスとは反対にその唇は紅くぬられていて、一点の赤がより一層強調されていた。髪を頭の上で纏め固め金色のクシで彩っている
「どう?」
今度は間違えない。まぁ零華は鋼介が気になるみたいだしフラグは立たないだろうし褒めとこう
「よく似合ってるよ。どこの貴族令嬢かと思ったよ。華でも贈りたくなるよ」
「ありがと。なんか……照れるわね」
俺から鋼介へ視線を移す。鋼介……コメントだ。いいの言えよ。いやむしろ馬鹿なのでもいいぞ
鋼介は沈黙後、一言
「……………………いい」
「そう。よかった。ドレスなんて初めてだしね」
おい。鋼介にももっと求めろよ。俺ばかり気をつかうのは嫌だぞ。気の遣いすぎで禿げるぞ?いいんだな?リーダーがハゲで
「ライト君もかっこいいわ。……ちょっとこっち来て」
零華に呼ばれるまま近づくと後ろに回られた。ま、まさか挟まれちゃうのか?王妃程じゃないにせよ零華もかなりの物を持ってる。え?マジで?
「髪の毛が跳ねてるわ」
少ししゃがまされ髪の毛を整えられた。そ、そりゃそうだよな
「はい。出来上がり」
髪を櫛で解かれた。誕生日に恥ずかしい格好はしたくないからな。助かった。挟まれなかったからって全然残念とか思ってないからな
「サンキュー」
次に鋼介
「鋼は……なんというか……馬子にも衣装ね」
それは俺も言ったぞ。なんか似合わないんだよな。ジャージとかの方がバッチリな気がするよ
「ひぃ……ひぃ……ふぅふぅ」
何か空気の漏れるような音がする。音の方を見るとさっきの声の主がいるではないか。入り口に手をついてなんとか立っている
「大丈夫か?」
ううっとうめいてはよろよろと足取り悪く歩いてくる
「し、死ぬかと……思いました……」
瑠衣のドレスは黄色いドレスだ。胸元は丸首、肩から臍を目掛けて白のフリルのライン。スカートの裾にもフリルがついている
ツインテールはそのままにしてある。瑠衣は幼く見える分、これでは本当に子どもだ。口紅も零華のような紅ではなく、薄いピンク。手袋もない。ませた子どもといっても過言ではないと思う。幼女としか言えない
瑠衣は採寸してないしな。ルナマリアの御下がりらしい
「零華さんはコルセットはつけたんですかぁ?」
そう言えば零華の悲鳴はなかった。忍もだな
「ええ、着けてるわよ。ほら…」
胸元の生地を捲りその一部を見せると鋼介もつられて見ようとする
「何度言ったらわかるかな?鋼介君は」
流石に凍らしはしなかったが手形がつくほどの強烈なビンタ。成長しないやつだな。涙が滲んでいる
でもコルセットしてるのに零華はぜんぜん辛そうじゃないってことは相当スタイルいいんだな。忍も悲鳴がないってことは……いや妹相手になに考えてるんだ。やめよう。うん。すぐにやめよう
「兄さん」
いつの間にか後ろに忍が来ていた。緑のワンピースドレスで広くなっている袖の白の折り返しがポイントだ。薄い緑のスカーフを首に巻いている。髪の結ぶ位置を少し下げたので活発さより、おしとやかさを出している
「おおっ!かわいいな」
「忍ちゃんかわいい」
「綺麗ね」
「似合ってるよ。良かったなドレスを着れて」
「知ってたの!?」
あれだけルナマリアのドレスを食い入るように見ていれば誰でもそう思うぞ
「皆そろったな」
ラドニー殿が重い腰を上げ椅子を圧力から解放した
「まだ姫様と恵が……」
瑠衣が未だ来ない二人を探しに中央口をみる。でも今は来ないんだ。
「二人は後からくる。儂らは先に行って待つのだ」
ルナマリアが連れてくるのを知っていた俺はさっさと乗り込んだので他のメンバーも位置につく。先に行くのも演出の一つだと伝えるとちゃかされた。普通だろ?
ラドニー殿を馭者に馬車を走らせパーティー会場へ向かった




