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祝勝会1——ライト

 夜になったな。城内は祝勝会の準備に騒がしい。廊下を走り回るメイドや歌を歌う兵士が原因だ。ルナマリアの騎士団って事で王女ルナマリアが絶対的に参加するという事でみんな張り切っている。特に貴族達は王都だけでなく近隣の町や村から祝いの品として食料や嗜好品を買いに回ってるとか……それが倒した直後からだというから恐れ入る


 そんな喧騒を他所に忍達以外ではラドニー殿だけが入室を許可されているから室内は一応静か。ルナマリアの言い付けなので騎士達も遠慮したらしい。何か聞かれても、騒がしくされても面倒なのでそこはよかった。ルナマリアにマジ感謝


 王妃様から全員にお誉めの言葉と褒賞をもらった。またなんかちょっかいかけてくるのかと思いきや特に何も無かった。心配し損だ。侍女の前だからだろうか?二人にはならない方が精神安定上いいだろう。俺も侍女を侍らすべきなんだろうか?




 夜7時。城内では煌々と明かりが焚かれ中庭にはキャンプファイアのような物まであった。街の喧騒も合わさって王国中お祭り騒ぎだ。この国、今朝の話なのに色々張り切りすぎだろ


「ライト、入るわよ」


 間をおいて扉を開け入ってきたのは絶賛感謝中のルナマリアだな。鍵穴覗きもしてない


「じゃあ、始めるわよ」


 包帯は忍がはずしてくれるようだ。上着を脱ぎ上半身裸になった


 瑠衣…じろじろみるな


 僅かに身体を隠している包帯に指をかけ、ほどいていくと血は止まっているものの塞ぎかかった傷口がみえた。頬の傷はほぼ治っているため処置はせず自然に治るのを待つが肩の傷は痛々しく痕を残している


 ルナマリアは呪文を唱え傷口に手を向けた。呼吸合わせ無しでただかけるだけでは駄目のようでその有効範囲は狭いらしい


 みんながいなけりゃ今ごろまたエロい事になってたかもしれないな。ちょっと残念


 ルナマリアの手が青白く光り傷口をなぞると、その指はくすぐったいし、治る傷口は痛いのだが顔にはださない


「これでよし、どうかしら?」


「ああ、大丈夫みたいだ。ありがとう」


「いいのよ。私にはこれくらいしかできないから。さて、もう一人の怪我人を治そうかしら」


 零華に監視されている鋼介の所に来ると先ほどの様に呪文を唱えては腕をなぞり完治させた


「ありがとう!姫様!うひょ~。全快のバリバリだぜ」


 ん?もう治ったのか?ルナマリアも、えっ?て顔してるぞ。腕を大回転させ調子を確かめては固まった腕を指で組んで天井に向かって伸びると、ようやく動いた骨がコキコキと小気味いい音をたてなった


 俺も動けるようになったんだし起きよう。いや、忍?もう介護はいいから


 脱いだ服に袖を通しベッドから立ち上がると剣を腰にさした


「やれやれ…」


 動けるのって大事だな。見張られるのも息苦しいし大怪我は勘弁だ


「さ、祝勝会行こうぜ。祝いの酒だぜ。飲まなきゃ損だぞ」


 だからお前はあまり飲むなって。また騒動を起こすに決まってるんだから。おい!押すなって


 鋼介に押され医務室を出る。もう少し外の様子を調べてからが良かったのに


 どんちゃん騒ぎに入るなんて嫌だからな


 祝勝会は中庭で開催されているため中庭に向かう必要がある。さっき苦労した廊下に出て進む


 ん?扉開いてる。奥の扉が開き女が飛び出してきた


 恵だ。やっと起きてきたらしい。よかった


 飛び出して、いきなり躓き前屈みに転び絨毯に手をついた。まだ起きたての様で足元がおぼつかない恵は団体で歩いてくる俺見つけると一直線に俺へ駆けてくる


 その目には涙が溜まり今にも零れそうだ。寸前の所で胸に飛び込み絨毯の上で重なるように二人は倒れた


「ライトさん、ライトさんっ、ライトさん!よかった…よかったよぉ」


 取り乱し俺の胸に顔を押し付け泣き出してしまった恵。シャツを握る手は強く、抱き止めた体は震えていた


「私、頑張ったけどだめで、死ぬの怖かったけどライトさんの事思うと勇気出て、戦って、目の前暗くなって……それで、それで……」


 倒れたまま恵の頭を撫でる。一人で起きたため、自分だけが生き残ったと思ったのだろう。彼女は失う事を極端なほど怖がっている


「う、うわぁぁぁぁぁん」


「大丈夫、みんないる。俺も死なない。絶対一人にしない」


 恵に『守る』と誓った。それは死なない、ずっと一緒にいると同じ意味だ。言葉にするのは恥ずかしいけどな


「俺が恵を守るよ。いなくなったりしない。……な」


 優しくなだめるように話しかけ、落ち着かせるように背中をポン、ポンと一定の感覚でうつ


 少しずつ落ち着いてくると顔を横に向け、余裕が出てきた恵が熱い吐息を漏らした


 恵は抱きしめられながら他の視線が自分にむいていることに気付く。頭の上の方に目を向けると見えるのは仲間の面々


 直後、恵は真っ青になり、真っ赤になり、俺から離れると出てきた部屋に走って戻っていった。扉の隙間からこっちの様子をうかがっている


「みんな、先に行っててくれ。俺は恵と行くから」


 そう頼むとルナマリアが笑顔で扉を通り過ぎていき、零華はただ「頑張って」とだけ告げ鋼介を引っ張っていった


「兄さん。安心させてあげて」


 忍は足を停めずに言った。今残っているのは瑠衣だ。俺を見上げたまま動かない


「………。ライトさん。恵の事、お願いしますね」


 真顔で言い頭を下げると足早に階段へ向かった。そんな顔もできるんだな



 ………。とにかく、これで今いるのは俺と恵だけだ。扉に身体を預け話しかける



「……落ち着いたか?」


「………はい」


 ちょっと間のあいた返事だ


「あの、ごめんなさい……わんわん泣いてしまいました」


 後ろの扉で衣擦れの音がして、鼻を啜っている音が聞こえた。恵も扉にもたれかかっているようだ


「あの後ライトさんが助けてくれたんですね……また、足引っ張っちゃいましたね」


 バルクティンに攻撃される恵を俺は見ていた。蹴り飛ばされ斬られても俺の為に時間を稼いでくれていた。みんなが生きて勝てたのは恵のおかげだ。だからそんなふうに言わないでくれ


「恵の最後の一撃……あれは魔神と戦う上で確かな希望に繋がるものだった。恵はしっかりやってくれてるよ」


「希望?」


 ズズッと力強く鼻を啜った。俯いた顔を上げたと感じる


「そっか……私、役にたったんですね」


 心なしかさっきよりは声に色味があるな


「そうだ」


 結果的にバルクティンの謎は三人いたから解けたものだし、有限の再生力は恵がいなければ解らなかったと付け加える。エクスカリバーで再生力を失わせていたらわからなかっただろうしな


「じゃあ……もし……もしですよ」


 段々震えていく声を繋ぎ言葉に変える恵。なんだ?また不安になったのか?


「ん?」


「ご褒美を……くださいと言ったら……くれますか?」


 最後は消えそうなくらいの小さな声だったが聞き逃さない。だから返事はただ一言


「ああ、俺にできることなら」


 と返事をする


「…入ってきてください」


 そういって扉の向こうから足音が聞こえた。気配も扉から離れていった


 俺はゆっくりと扉を開きささやかな明かりが付く薄暗い部屋に足を踏み入れた。夜だけど部屋の外は明るい。窓が中庭に面しているため人の声のざわめきが聞こえ、燃やされた火の明かりが部屋に入り室内を鈍く形どっている


 明かりを背に窓の前に恵が立っていた。どこか落ち着きなく床やベッドの陰を気にしてこちらを見ない


「恵」


 かけた声に肩まで反応しびっくりした様子だった。緊張してる。そんな感じだ


「そっちに言ってもいいか?」


 返事は頭を少し動かすだけの肯定だったが、ゆっくりと近づく事にした。今の恵はとても脆い心……のような気がする。いきなり近づいたりしたら逃げ出しそうだ……


 ゆっくり近づいてベッド一つ分の距離で止まる


 赤い光に照らされた恵を見る。俺と恵の身長は頭半分の差があった。改めて横に立つと彼女の華奢な体がわかる。この体で今回の死闘に参加させていたのだから申し訳ない気持ちでいっぱいになった。しかも最前線なんて危険な場所だ。もっと気を使うべきだった


バルクティンにも恵は大事だと言った事なのに……くそっ。後悔してる


 第一声、謝ろうとしたが恵に先手を取られた


「今回、死んじゃうかもしれませんでした。もう、会えなくなるかもしれない……そう思いました。でも、ライトさんの事を思い、死にたくない。そう思いました。私、まだ死ねないと思いました。ライトさんの事、もっと知りたいから」


 恵の思いが堰を切った様に言葉に変わって流れてくる


「私、ライトさんが好きです。恋人になりたいとか図々しい事は言いません。ただ抱きしめて欲しいんです。生きてるって実感が欲しいんです」


 恵の言葉を正面から受け、無言のまま恵の肩を掴み腕の中に引き寄せた。体が先に動くって言うのを初めて実感した。実感したと同時に恵の暖かさが体に伝わってくる


「先を越されたな。俺が言いたかったんだが……」


「え…」と恵


「好きだ、恵」


 きょとんとしてる。今のは幻聴でもなんでもないぞ。ましてや嘘やドッキリなんかじゃない。俺の本心だ


「好きだ、恵」


 おおっ!もう一回伝えると泣いてしまった。抱きしめながら言うと恵も背中に腕を回し抱き合う形になった


 うーん。これが幸せというやつか。恵じゃないけどこれは失うのが怖いのがわかる。もしこの幸せが無くなれば三日三晩雷雨豪雨を続かせる自信があるぞ


 恵……好きだ……


 少しだけ……本当に少しだけ距離をあけてお互いを見つめあった


 おいおい……ドラマじゃないんだぜ?このままじゃ……いや、キス……したいな


 窓の下ではルナマリアが祝勝会の開始を宣言した。一瞬静かだったのが嘘みたいだ。俺達は兵士が歓喜の声をあげた拍子に現実にもどされた



 ……………




 ……………




 ……………




 現実に戻った俺達の距離は5センチも無かった。恵にいたっては目をつぶっていたみたいだ。歓声に驚いて目を開けたけど…。恵も同じ気持だったのかな?


 それはそうと……兵士達よ……わかるけど……わかるけどな。空気読めよ


「はわわっ」


 いや恵、照れ隠しに俺の胸で顔を隠しても困るぞ。心臓の音は聞かないでくれたら助かるよ


「……キスは未遂……と」


 鍵穴からまたレンズが……


 デバカメ王妃ーー!!!さっさと祝勝会に行けよ!!!


 心の中で叫び終え、下を見ると簡易の立ち食いパーティー会場と化した中庭でさっそく鋼介が暴飲暴食に走っていた。零華もそれを見ていたが今日だけは無礼講とばかりに離れてルナマリアの所に行くようだ


「恵!ライトさん!早くこないと終わりますよ~!」


 窓の真下から瑠衣の声が聞こえてくる。まだ2日しかたっていないのに、大した順応性だな


 瑠衣の声に恵は俺の胸を押し、離れ、後ろを向いた


「あ、ありがとうございます。主役を待たせちゃ悪いですね。行きま―」


 突如、部屋の扉が開き入ってくる男が一人。暗いが影でわかる。ラドニー殿だ


 何故わかるかって?そりゃあんなにでかいシルエットはそういないからな。すでに飲んでいるみたいで葡萄酒の匂いが漂ってきた。入口から匂ってくる程って……始まっていきなりどんだけ飲んでんだよ。この人


「ライト!恵!お主等が来ないといまいち盛り上がらん。さ、行くぞ」


 のしのしと近づいて来る顔は暑苦しいし、マジで酒臭いな


「祝勝会に出んとか野暮な事は言うんじゃなかろうなぁ。そうはさせんぞぉ」


 言い終わると俺達二人の間に入り腰を掴むと肩にのせ、連行された。だから荷物運びはやめましょうって


 行き先は中央階段の手前。ルナマリアが登場の手引きをするらしい。運び終わったラドニー殿は宴会の席に戻っていった。できたら付き添いとかして欲しかったのに……英雄より酒なんですね。


 ルナマリアがこちらを見つけると、手を上げ皆の目を引いた。嵐が過ぎ去った後かのように静まりかえった。いや後で思いなおした。嵐の前の静けさだったと


 静かに語り出すルナマリア。事故のような魔神の襲撃から始まり、再びの魔神の襲来、そして勝利。口調、表情を変えながら話している


 うまいもんだな……役者になれるよ


「自身も大怪我を負いながらも生還する偉業を成された騎士が到着されましたわ。妖精騎士団が団長、輝山ライト殿。ここへ」


 ああ…呼んでしまった。これで顔と名前を覚えられてしまう。みんな二日酔いになるくらい飲まないかな


「ライトさん、呼ばれてましたよ」


 恵が改めて教えてくれるけどさ。俺は恵と二人でいたかったんだよ。さっきまでいい雰囲気だったのにな


 仕方ない。諦めよう。ここでルナマリアの顔に泥を塗るわけにもいかないし。ああ…面倒だな…


 ぼやきながら中庭へ出た瞬間、静かに聞いていた聴衆が一斉に声をあげ俺をむかえてくれた。呼び寄せたルナマリアに礼、そのまま差し出されたその手に口づけをする


 これであってるか?


 マントも爵位も持たない俺なのに姫の御手を許されるありえない俺に目を丸くしたりする騎士もいたが姫の直属の騎士なら……と思ったようで一緒に祝いの席を喜んでくれた。ゲームのような虚実感では得られない身のある人間からの賛辞は正直嬉しかった。


 自身が戦勝祝いの即興の立食パーティーを始めたからかルナマリアもいつもよりテンション高くて平気で兵士の輪に入っていってたりした。……浮かれすぎだろ。危ないって


 調子にのった兵士達がルナマリアに覚えてもらおうと躍起になってた


 溢れた兵士がこちらにも来る。あ、こら。うちの団員を口説くんじゃない


 こら、恵に近づくんじゃない。瑠衣…相手にされないからってすねるな。忍は二十歳未満?の騎士に言い寄られてるけど……そんなにウケよかったんだな。鋼介はなんでそんなに仲いいんだ。下ネタはやめておけよ。調子に乗って放送禁止用語を使うんじゃない。もう後ろに鬼が現れてるんだからな。結局鋼介は零華に凍らされた。鼻から下全部だ。周りの兵士の引き具合がすごい……けど、何人かは零華に釘付けになってる。惚れるの早いって!


 メイドさん達、押し寄せてくるんじゃない。女の人の匂いすごい!あぁ!恵!怒らないでくれ!ゴメンってーー!!ダメだ、収拾がつかない。ルナマリア!なんとかしろー!!!



 結局医務室では禁じられた騒ぎが今起こり、俺達はもみくちゃにされた



 これが毎回なら死ねるな

エピローグ的な話2です

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