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敗戦議論——ルナマリア

 ライトとの通信を終えた直後の事だった。一息つこうと紅茶でも飲もうかとポットに手をのばす。ダメだわ。手が震える


 ライト…早く来て。不安なのよ…


「姫様、よろしいか」


 野太い声が扉を叩き直ぐ様開いて入ってくる。体も大きく、態度も大きい


 彼は日に焼けた肌と金髪、左瞼に傷のついた顔、左腰に黒鞘の剣をさげ黒い外套に青い蛇と剣のマーク


 エルゲニアの軍団長で今、私に安心をくれる数少ない人。籠手と脛当てだけを着けた行動力を重視した格好、輸送車に乗って帰って来たのでしょう。


「女の部屋に入るにはいささか失礼ではありませんか?ラドニー殿?」


 ラドニー・グリンセル


 彼は父王とも仲がよく小さな頃から私の面倒を見てくれたりもしていた旧知の仲だ


「ははは、そうだったな。ルナはもう一人前のレディだったな。お前さんにあう男はまだ見つからんか?」


 ラドニー様もお辛いはずでしょうに…


「私はまだ若輩者です。まだまだ先の話です」


 ふとライトの事を考えたが一度のまばたきで消す。ライトとは主従の関係。それが形だけだとしても


 そしてもう一人。ラドニー様が開いた扉からしずしずと室内に入ってくる。お母様……エルゲニア王妃。私と同じ青い髪に私よりも明るいスカイブルーの瞳、血の濃さが窺える大きな胸。私と天に召された弟を産んだとは思えないプロポーション。それらを黒のドレスに身を包んで私の前に佇んでいる


 お母様はお父様について出征していた。もちろん戦闘には参加せず拠点でお父様の帰りを待つ事になっていた。だから魔神が来た時は難を逃れていたそう。とにかく無事で良かった


「大変でしたね。ルナマリア……」


「お母様……」


 私に起こった事件も聞いているようでその心配からか私を抱きしめ少し泣いた。一息ついてテーブルに着く


「…大臣がクーデターを実行しました。魔物と手を組み、兵力の薄くなった城を襲い私を始末しようと考えていたようです」


 嫌な事を思い出してしまったわ。……いつの間にか膝の上に置いていた手が強く握り締められてドレスにシワを作ってた


「兵には悪いがルナが無事でよかった。お前さんまで死んでしまったらオヤジさんに申し訳がたたない」


「死の直前、私を助けてくれる者が現れたのです」


 またライトがでてくる。だから今は出てこないで。泣いてしまうから


 ふぅん……と聞こえた。お母様がこちらを見て何か考えている。


 金属の擦れる音がしたあと私の頭に大きな手が被さり、優しく撫でた。ラドニー様だわ


「そうか、後で儂からも礼を言うとしよう。さて、もう少しゆっくり話したかったが一緒に来てくれ。儂だけでは押さえられん」


 ……さっきから階下が騒がしいのはその為でしたか


「やはり……仇打ちですか?」


 もちろん当たり前だし私も望んでいるけど……何か方向性が違う気がするわ。何かこう……濁ったような気持ちが渦巻いている


「裏では何を考えてるか分からん連中だ。金と名誉しか興味がない輩もいる。気を強く持っていくぞ」


 先にでるラドニー様について歩くけどテーブルに置いたトランシーバーが気になった。ライトにも会議の内容がつたえられるかもしれない。ライトの存在に少し安堵を感じ、トランシーバーに手を伸ばし部屋を後にする


 今からは頼りにしてるわよ


「私は王がご崩御された以上会議の席では外様。援護できないのが辛い……まだ若い貴女に押し付けるようで……ごめんなさい」


「大丈夫です。問題ありません。私には心強い味方が来ますから」


 トランシーバーを持ち上げ笑って見せる。この繋がりはきっと弱くない





 とは言ったものの……会議室の中から重い空気を感じるわ。どうしよう……すごく不安だわ……ラドニー様もこちらを見て心配してらっしゃるし


 とにかく落ち着きましょう。深呼吸を一回


「ルナマリア殿下!御入室!」


 入り口の兵士が声高々に私とラドニー様の到着を宣言してしまう


 ちょ!ちょっとまっ!


 心の準備をする間もなく扉が開かれた。はぁ……行くしかないわ



中に吸い込まれるように足を踏み入れると泥沼の様な抵抗があるのにいくらもがこうと抗えない引力を感じた


見えるのはそうそうたる面子ですわね。各地域を支配する貴族。いずれも中級以上の騎士達で爵位持ち、中には数合わせにいるのかもしれないけどもの申す権利のある貴族も何人かいる


 後者の眼光は私の座ろうとしている席を狙っているのでしょう。目付きが表しているわ


 ここにいる貴族達はほとんどが自分の武勲ではなく、コネだとか金銭的なもので今の地位にいるものばかり。実際、ご自分で成り上がったのは父王の横で戦っていたラドニー様くらいなもの。口は私も廻る方だけど気を引き締めていかないと…


 いつもは王が座る席を今日から私が座る。玉座じゃなくてもこの濃密な雰囲気の感じが重々しい。


 若輩である私が座るのを苦虫を噛み潰したかのように見てるわ……仕方ないじゃない。私だって、父様のようにはできないけど誰かが座らないとだめなんだから


 机の下でトランシーバーのスイッチをいれる。ライト……聞いていて……私やってみるから


 ラドニー様は私の右側に座る。そこは彼の定位置だそうです。王を一番近くで守れるからだと聞いたことがあります。品位についてはいわないわ。いつもの事だし。椅子を引き体の右側をのせ半身に座ってる


「…では、此度の遠征と今後について話しあいましょうか」


 一部の貴族達が目を合わせてこっちを向いた。その光景はなんというかすごく統率がとれていて背筋が震えた。だって……悪意しか感じないんだもの


「今回の遠征はエルゲニア王の……死亡という結果に失敗。いえ、姫の撤退命令による帰還という結果に終わりました」


 私の瞼がわずかに動くのを感じたわ


「再編成を行い、翌日に攻めこもうと言うときになぜか、姫の撤退命令がよこされました」


 何故かを強調していう彫りが深く歯並びの悪さが目立つマウリー・チールー、伯爵だわ。貴族内でも評判は良くない…どころか最悪だと聞いている。詐欺、恐喝、強奪など貴族の名を武器にやりたい放題やっているという噂がある。裏では口では言えない事もやっていると私は思っている


 それなのに彼の周りにいる貴族達は彼の話に異論を唱えるどころか頷いて肯定してる


「もう少しで念願の忌まわしき魔神を葬る事ができましたのにやむ無く戻ってきたのが今回の全容です」


 ライトの指示が間違ってたっていうの?国を安心させる方針のなにがいけなかったのよ


 周りの貴族達……彼に取り入られつつあるわね


「指揮を取るものが、王が戦死したなら戻るのが当たり前ではないか!王の死を悼む気はないのか!?」


 テーブルを握った拳で叩くと水の入ったグラスが浮き中の液体をゆらすラドニー様


「それを姫の所業にするとは何事か!姫も命を落とす所だったのだ。兵力の無い城を開けっ放しにすればいいとでも言う気か?」


 テーブルに置いた拳が震えグラスの水に振動が伝わっている


「人類の存亡か一人の死かとるのは決まっているでしょう。姫とて近衛や最低限の兵はいたでしょう。その姫本人も魔法が使える。戦えるでしょう?」


「貴様!それでも誇り高きエルゲニアの騎士かぁ!王も……王女も蔑ろにするような発言!許せん!」


「何を言われているのか……あなたが再編成を行うよう言ったのではないですか」


「そ、それは、兵の混乱を防ぐためではないか!」


 マウリー伯爵は立ち上がり窓側の光がさす場所に立つ。歪な顔が光に照らされる。それはいかにも自分こそ正当であると言いたげな行動だった。


 なんでこんなに自信があるのだろう?……そういえば彼が戻った時、どうやって生き残ったのか聞いてきてたわね


 ……カマをかけてみますか…



「確かあなたの隊は一番外側でしたわね。いつもなら王の左側にいるのに。どうして?」


 他の貴族もそう。いつもならあまり外側にいない貴族達が我先に選んでいた


「それがどうかなされましたかな?まさか私が魔神が来ることを知っていたとでも?」


「いえ、勝つ自信がおありのようなのでいつも通り隣にいれおられれば父は死なずに済んだのではと……ただの想像です。貴方ほどの騎士が何故近くに居てくれなかったのか……とても残念に思います。何故なのですか?報告書によると将軍に掛け合ってまで先陣についたそうではありませんか。しかも斥候の方が近くで見たと言っておられましたよ」


 最後は嘘


「そ、そんなはずは……。あの付近に………い、いやなんにせよ、我々は撤退により千載一遇のチャンスをのがしたのですよ。姫。貴女の迂濶な判断でね」


 話を逸らしつつ攻めてきたか。突っ込まれるのが嫌なようね あなたも大概迂闊よ。今は何もできないし、信用できる人も少ない。だから時間をおいてからじっくり調べ上げるとして、とりあえず今は釘を刺しておきましょう


「また批判ですか?あまり褒められた行為とは思えませんが……伯爵の品位が疑われますわね。大丈夫ですか?エルゲニアの貴族として」


「しかし、事実!私は貴方の判断は間違っていると確信している」


「その判断は国としてかしら?自分が得れる地位の為でしょうか?私を批判して、失脚させようというのね。そんなにこの椅子に座りたいのですか?」


 私の言葉にまた、貴族達が一斉にこちらを見て、次にマウリー伯爵を見たわ。この人達はグルね。絶対忘れないわよ


 マウリーは彫りの深い顔に手を当て嘆くような仕草をとって言った。表情は変わってない。でも周りの貴族が答えをくれてるわ


「姫。そういった邪推はお控えになった方がいい淑女になれると思いますよ。この際どうですか?結婚されては?今後ともお力添えいたしますぞ」


 なに?私ととか言う気なの?あなたは妻がいたはず……いや、この男なら息のかかった男子を押し込んでくるか……


 こんなところで婚約者がいない部分から突っ込まれるとは……


 ——ガガッ


『姫、皆が聞けるように置いてくれ』


 !


 驚いた……でも、言われた通りテーブルにトランシーバーを置く。見たことないでしょ?私の心強い味方よ


「はじめまして、マウリー伯爵。早速聞くがあんたの兵力で魔神を討てると思っているのか?」


「だ、だれだ?」


 声のするほうには誰もいない。あるのは黒い箱のようなものがテーブルにあるだけよ。


「誰でもいい。二度は言わない。質問に答えろ」


 最初のような一応の礼儀もないわ。ライト、きっと怒ってるのね


「無礼者め、バカに…」


 突然窓際に立つマウリー伯爵の服が千切れた。実際は貴金属の一部が引きちぎられたわ


 磁力ってやつで引っ張った為ね。ライトは珍しい雷属性だしこれくらいはできるわよね


 続いてベルトが引きちぎれた。ベルトのバックルが反応したからだわ


「次はない。次は袖を、服を、耳を引きちぎる」


 状況の理解が無いからかマウリー伯爵は耳を両手で押さえた。雷の属性どころかどんな属性だろうとそこまでの事はできないわ


 ライトも前振りからの脅しとはなかなか悪どい事をするわね


「で、できる。当たり前だ」


 突然の質問と場の空気が変わった事に戸惑い言葉に詰まる


「何人だ?何人の犠牲で勝てる?」


「1000人だ。国を守る為なら少ないくらいだろう!?」


 そこに貴方は含まれてないのでしょう?


「じゃあ、1000人とあんたを俺達6人で叩き伏せる。自信があるなら逃げたりしないよな」


 場がざわめいたわ。彼らはもちろん、ラドニー様まで驚いている


 ちゃんとマウリー伯爵を参加させたのは流石ね


「1000対6だと」


「ああ、まだ姫に文句があるやつがいるなら参加させろ。邪魔な奴はこの先無しにしたいからな。ここにいる奴は逃げんなよ」


 驚いていたけど、数の力で勝てると踏んだのか薄気味悪い笑い顔をしたわ。……息……臭そう


 ?


 こんな時に何考えてるの私?……私、ライトの存在に安心してるのね。平常心を保てているわ


「いいだろう。無礼者。この勝負受けよう。」


 既に勝てる気でいるだろうけど、あなたが戦うのは常識に当てはまらない力よ


「私が勝てばその首を差し出せ」


「ふん、アンタは今回の遠征で使った出費を肩代わりしてもらう。あぁ、あとあんたらには無駄な爵位を貰おう。」


 中々のダメージを与えられそうだけど、ここにいる全員から取り立てても実質領民の税が上がるわ……治安も悪くなりそうね


 あ、いや…そこは私が監督する人間を送ればいいか。後で手直しも加えればいいし。ナイスよライト


「時間は明日の9時だ。場所は……城の北西に大平原があったはずだ。いいな」


 私がマウリー伯爵を見るとニヤリと笑った。勝てる気でいるのね


「そちらこそ逃げるなよ。それでは姫、ごきげんよう」


 そう言ってマウリー伯爵は服から取れた貴金属の後を二回ほど軽く押さえ目立たなくして会議室をでていった


 扉が閉じた音を聞いてから再び話すライト


「姫様、皆を退席させてくれ。助言をした男は残して」


 ライトの言う通りラドニー様以外の出席者を追い出した。何人かは真面目に会議に出てくれてたのに申し訳ありません……あとで謝っておこう


「いいわよ、ライト」


「おい、姫に加勢したアンタ」


「わ、儂か!」


 私はラドニー様にトランシーバーを渡す


「う、うむ 姫に加勢した者だ」


 見慣れない道具をどう持てばいいかわからず何回も持ち変えては結局テーブルに置いた


「アンタは姫と立会人になってほしい。アンタは腕もたちそうだ。護衛も兼ねて来て欲しい」


 部屋の近くから足音が消えた。近くには部屋の前にいる兵士だけみたいね


「わ、わかった。だがいいのか?1000対6だなんて」


「問題ない。一人でも行けるだろうがな。姫、本当に申し訳ないが書類の用意を頼む。誓約書だ」


 扉を開き入ってくる6人。先頭の男、ライトはテーブルにある黒い物と同じものを持っている


「トランシーバー越しで悪かった。顔を見られたくなかったんでね」


 開始までに顔を知られればライト達を始末にくる。そして何食わぬ顔で戦場にきて逃げたというはず。くだらない貴族なんてそんなものだもん


「ライト」



 安心をくれてありがとう。感謝するわ

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