会議室横にて——ライト
目を覚ました時ベッドの上だった。起きるけど頭がはっきりしないな。何してたんだっけ?
「うぐっ」
両腕、両足が僅かに動かすだけで体が軋む。そうだイクスの試運転をしてたんだっけ。そのリスクを受けて今の状況になったんだな
動いた時の衣擦れで気付いたのか誰かの足音が近づいてくる
「あ、起きましたね」
恵だ
「どのくらい寝てた?」
ベッドから起き上がると周りを見渡す。見なれない場所とベッドだ。震動があるから馬車だとわかる。広く、嗅いだことのある匂いと最近見たカーテンがあった
結論からいうとルナマリアの夜営用馬車だな。なんとなく甘い香りがしたので気付いた。あまり女の子の部屋って感じはしない
「1時間弱ですね。さっきライトさんを乗せて出発したばかりですから」
左手の内側に着けた腕時計を見ながら言った
「15分程度で50分か…結構なリスクだな。まだまだ余力はあったが無駄遣いはできないな。ルナマリアは?」
「向こうの馬車に乗ってますよ。着くまで使っていいと聞いてます。ゆっくりしてください」
お言葉に甘えてシーツに足をいれて転がって中央へ、ベッドの中心の弾力は心地いい
「フカフカそうですね」
「ああ、よく寝れそうだ」
今度は俺が冗談のつもりで言う。シャワーの時のお返しだ
「一緒に寝るか?」
「え、いや、その、まだ私達、でも、高校生だし…もう、意地悪ですね」
意地悪に気付いたのか少しむくれたがすぐに笑顔になった。その時馬車が大きく揺れ、立っていた恵は俺に向かって倒れてきた
俺もバランスを崩した恵を支えようとするが筋肉痛で出来ないっていうか全く力が入らない。そのまま恵はベッドに寝てる俺の太ももに座る形になった
「ごごごごごめんなさい!」
「……っ!」
筋肉痛で顔をしかめた。でも状況に笑い恵に言った
「結局ベッドに入ることになったな」
恵を横に転がして自分も寝転んだ
「キャッ」
小さく声を上げるとシーツを掴み耳まで真っ赤にしている
「その、やっぱり恥ずかしいです」
「実は俺もだ」
お互い目を合わすと笑いあった。別にエロい事をする気はない。でもそういう気持ちがなかったわけじゃない。体が痛いんだよ
しばらく無言のまま時間が経つのを待ったが間が持たない
「あ、あの、文化祭はどうなりました?」
……ん?そういえば去年あったようななかったような……
「担任の先生も大変ですね。」
「俺らのとこはどうでもいいんだ。それより恵は何をやるんだ?」
「ケーキ屋さんです。ケーキ焼いた事のある娘が多かったから」
俺のクラスはどうなんだろうか?ちゃんと進んでるのか?
「ウチは零華がいればどうにかするはずなんだけどな」
「ちゃんと出れるといいですよね」
ルナマリアの乗る馬車を先頭に城門を越え城の外壁にそって主人不在の建物に入る
正門前後には何人もの兵士、騎士、メイド、貴族が並び、一番奥には零華と鋼介がたっているのが見えた
お帰りなさいませという女性の声と男性の土を削るような敬礼の靴音。馬車が止まりルナマリアが降りると何人かの騎士(位は高そうだ)が今回の外出についての安全だとか成果などを聞いては俺達を興味無さげに一瞥してはすぐにルナマリアへのおべっかをはじめている
「ライト、お疲れって……どうしたんだ?」
鋼介か。この短時間で見違える………………………………………訳はないか。やっぱり馬鹿で軽そうな面だ
その場から一歩も動けない俺に声をかけるな。振り向けないんだ。無駄な努力をさせるんじゃない
「あっ動かしちゃダメです」
なんだと…!何する気だ
「ぐぁっ」
こ…こいつ肩を叩きやがった
恵がイクスの影響で筋肉痛なのを説明すると、ここぞとばかりに鋼介が指でつつきだす
「ぐぁ、後で覚えてろ」
「あはは、ずっと勉強させてたから体力余ってるのよ」
いやいや…零華…笑い事じゃないんだ
「赤点取ったら電気椅子にかけてやるからな」
今決めた。うん50点以下なら極刑だ。このやろう
「へへっ」
「兄さん、姫様がくるよ」
忍……頼むから背中をつつかないでくれ。そこもかなり痛い
集まっていた臣下を下がらせ、ルナマリアが侍女だけを引き連れてやってくる。その顔は目を離す前と違い完全に暗くなっている
「お疲れさま、ライト。妖精騎士団の皆さん、今日の事は今後に役立たさせて貰うわ。魔神戦ではきっと頼ることになる。体は休めておいて」
「姫様、これを」
トランシーバーの片割れを渡すと、ルナマリアはそのまま後ろにいるリアンに渡す
リアン……そこはアンテナだ……持っちゃだめだぞっと。鷲掴みにするよう教えてあげた
「例の場所は明日に案内させましょう。今日はこれでおいとまします」
淡白な様子で簡単な挨拶だけすると階段口に歩いて行く。様子の変化には敢えて追求はしない。何かあればルナマリアから言ってくるはずだ。俺達は俺達の出来ることをやろう
「ライト様、先ほど奴隷商の方で購入しておきましたので明日の夜には顔合わせになるでしょう。今日は宿でおやすみください」
ルナマリアに遅れてリアンも離れて行った。場が落ち着くまでの間に零華は鋼介の勉強道具を取りに城内へむかった。バカ鋼介もついていく
ルナマリア達もいなくなったしとりあえず時間はあるな。少しでも体調を回復させたいのでその間にストレッチをすることにすると恵が手伝ってくれた
ホントに助かる。待ってろよ。鋼介。必ず復讐だ。倍返しだ(一回言いたかったんだよな)
15分程したところで鞄に勉強道具をいれた零華が戻ってきた。鋼介も後ろにいるけど何か食べてる。食堂行ってやがったな
「ライトさん。皆集まりましたよ」
「ああ…」
そういえば瑠衣いたんだった……。ちっさくてよくみえないからか?忘れてた
「じゃあ馬車に乗ってくれ。恵?すまないけど御者台に…」
「兄さん、私がやるよ。後ろで休んで」
自信なかったんじゃないのか?まぁ経験だ。任せてみよう
「じゃあライトさんも荷台の方に行きましょう」
恵が負担のかからないように動きをサポートしてくれる。きっと介護の資格とれるぜ
荷台に座りこむと恵が忍の方に歩いていった。出発の準備が終わったことを告げて戻ってくる
「さ、忍ちゃん。いつでもいけるよ」
「あっ、はい」
恵の言葉に素直に反応し、中庭の隅に置いた馬車に駆け込み動かす忍
「ルナマリアにはトランシーバーで報告するとして今日は宿に帰ろう。もうキツイ」
動かない体に鞭を打って荷台から外を見る。入り口の兵士に名前とを告げ書状を見せないとな。持ってるの俺だし
昨 今朝の門番だったのでたいした確認もなく正門をぬけると宿に向かって馬を走らせることにした。兵士が増えた分なのか人口が増えたので局所的だけど賑わいが見える
市街地に入った時、やはり想像したとおり鋼介は言った
「妖精騎士団かぁ。もっと格好いいのがよかったなぁ」
余計な事を言うな
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市街地、そこは物と人が集まる商店街。俺はある一つの店に目をやる
そこは豪華な服やドレス数々の女性物の衣装を取り扱っている服屋だ。アルバムを見て以来ずっと気になっていることが1つある
もしかしたら彼女は戸惑うかもしれない、失う事を怖がる彼女は困るかもしれない、しかし…
流れる景色に服屋・宝石店、雑貨店、少し格式の高そうなレストラン
「悩み所だ…」
その呟きを瑠衣に聞かれていたのは迂闊だった。逃げることが出来ない俺へ肉迫してくると、横に体を寄せてくる。……ドキドキはしない
「わかってます。わかってます。やっぱりライトさんも男の人なんですね。恵の事狙ってるんですね!んで?どうするつもりですか?するんですか?するんですね?」
他の団員を見渡し会話を傍受してないか確認した後、確信を突いてくる
「誕生日プレゼントで・す・よ・ね?」
「………」
「隠しても無駄です。二人の仲が近づいたのがワカリマス。なにがアリマシタカ?白状してクダサイ」
なぜか息を荒げ興奮気味で語尾が片言になっている
「恵の欲しいもの調査シマスカ?」
「いい、とにかく、自分で決める」
「そうですかぁ?」
恵には言いませんからと言い残し話題の彼女の横へと座り直す。話題は誕生日ではなくテストの話をしている。安心してよさそうだな。試験日までは確かに時間がない。自分も勉強しなくては
『……でいいのかしら』
零華の持っていたトランシーバーが話し出す。なんか声に張りがないな。あの後なんかあったのか?
「聞こえてますよ。姫様」
『え、あ、よかった。妖精騎士団の皆さん、お疲れさま。今、……宿に引き返してる所ね』
零華はトランシーバーを置き皆で聞けるように向けた。何故かやたらと声が小さい、聞き取りづらいな
「そうです」
『ライト…私達が出かけている間に父様の遺体が運び込まれたの』
昼食時、零華と話した時の事だと付け加えてくれた。声が弱々しいのはそのせいか
『確認したら遺体は腹部が完全に無かったわ。咄嗟に構えたのか右腕もない』
「………」
『私、戦えるのかなって、怖くなった。私も…私も死んでしまうのかもって考えてしまうの』
駄目だ。完全に泣き崩れるのも時間の問題だ
「…覚悟が無かったわけじゃないだろ」
『ええ、でも、今、目の前にすると震えが止まらないの。せめてあなた達がいてくれたら……』
……こんな状態の友達を放っとくやつはいないよな
「忍…引き返してくれ」
続けて
「妖精騎士団団長として命令する。恵、忍、零華、瑠衣はルナマリアの護衛に着く事にする。可能か?」
『え、ええ……』
「とはいえ、今日と明日の夜までだ」
それでもいいとルナマリア。心細さが伝わるようなか細い声だった。気にしている女の子を放っておくとかありえん。皆も巻き込んで悪いとは思うけど友達の為ならいいよな?
馬車を城内へ引き戻すと不思議な顔をしてはいるが門番はすぐに通してくれた。城内は修復に勤しんでいるもの、戦争への再度出兵の討論をしているもの、不平不満を漏らす者で溢れていた
「上手くはいってないみたいですね」
「王がいなくなったんだ。あわてふためくのも仕方ない」
王女であるルナマリアの気苦労は計り知れないものなのだろう。反乱分子も増えてしまうかもしれない
ルナマリアは現在会議中だそうだとメイドに声をかけていた鋼介が教えてくれた。もちろん足を踏まれていたのは言うまでもない……が情報収集くらいは許してやれよ
先程わかった事がある。紋章を使っていれば筋肉疲労はある程度軽減されるようで普通に剣をふる程度なら問題なさそうだ。そういう理由で自由に歩いている
「待合室で待機だ」
会議室は二階だ。その手前が待合室になっている。メイドに告げ待合室まで案内してもらうとルナマリアに到着を伝えるように言った
待合室は広く大きな椅子と水の置かれた小さなテーブル、壁には天井近くまである窓に見上げれば豪華なシャンデリア
俺、恵、忍は椅子に座り、鋼介と零華は窓下を覗き、瑠衣は部屋内の調度品を眺めていた
5分ほどしてメイドが銀のトレイにクッキーや小さな御菓子パンを持ってきてくれた。顔を見るとリアンだった
「ライト様。今日は姫様の護衛ありがとうございました」
気晴らしになったはずだと礼を述べ、あの訃報さえ無ければと嘆く
「仕事の方はどうなんだ?」
「姫様はほとんどお眠りになりません。夜中遅くまで起き、夜が明ける頃には起きている。時間を惜しむように日々、自身の仕事をされております。それではお体を悪くされてしまいます」
この2日間でいきなりハードな生活の変化だ気丈にしていても実際は無理をしているのだろう
「そうか」
「このリアン、姫の苦労の少しでも分けて戴けたらと思っております」
主を思うメイドは長々と失礼しましたと部屋を出ていった
「やっぱどうにかならないのか?」
鋼介が椅子の後ろに立って話しかけてきた
「ふん、無くはないが、薦めはしない」
俺も考えてみたけどろくな物はでなかった。でたのはよくあるやつだ。それでいいからと催促する鋼介に嘆息する
「政略結婚してどっかの国の王子でも婿入りさせること」
感情を込めずに言う
「そんなこと……政略結婚だなんて」
「だから言ったろ 薦めはしないって」
『では、此度の遠征と今後について』
ルナマリアの会議が始まった
次話からはルナマリア主体に
主要メンバーを差し置きました




