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ピクニック——ライト

 中庭には馬車が乗り入れられていた。目の前には俺の乗る馬車と違い八畳程の大きさのものがある


 でかいな…


「さ、お乗りになって」


 ルナマリアの手を支えのせると忍、瑠衣が乗り込む。なかなか進まない恵を見ると目が「私もしてほしいなぁ…」と言っている


 やれやれと心で呟き手を差しだし支えてやって最後に俺が乗る。右奥からルナマリア、忍、恵。左奥に瑠衣、俺が座る。女ばかりの車内は居心地が微妙だ。やっぱり馬で行きたいと言えばよかったかもしれない


 扉を閉めるとすぐに馬車は動き出した。御者はさっきの騎士じゃなくルナマリアの呼んだ別の騎士だ


「騎士の教育方針を見直す必要がありそうね」


 騎士にも序列がある。基本的に貴族が宮仕えをすることで騎士となり、一般の兵士団を纏めるものが下級騎士を名乗ることができる。中級の騎士となれば待遇も良くなり自分の隊を持つこともある。爵位(騎士爵や準男爵)や土地も持つことだってある。上級ともなればさらに上の爵位をもち広大な土地も与えられ、内政への干渉も認められている


 先ほどの騎士は位を表す記章をつけていなかった。つまりただの下級騎士だな。


「ライトに爵位は無いけど中級と変わらない程度の待遇をするつもりよ」


 ふむ、まぁ六等分にするからあまり余裕はでないか……と思っていたら他の皆も多くは無いけど給料的な物が支払われるらしい。なんなら式の護衛分も一部先払いでも構わないと言われた。融通効かせ過ぎだろ。


 そこそこにしなさい的な事を言うと拗ねた。いや可愛いけどお姫様がふくれるのってどうなのか?


「冗談よ。さっきの瑠衣の真似をしてみたの。」


 正門を抜け城の外周に沿って走っている。忍はまだ緊張が解けないようで馬車に乗った時点で固まり借りてきた猫のごとく大人しく座っていた。瑠衣は恵となにやら話してはキャーキャー言っている。


 俺達の話に入ってくる気はないようだ。書類を見せてくるルナマリア。なんだよ急に


「大臣の資産は差し押さえたわ。親族は死亡してたり、国を出たりで国境送りで引き継ぐ相手はなし。宙に浮いたわ…召し使いとか使用人も他の貴族につかえるように手配をしないといけないわね…そうだ、ライト。あなたが屋敷を好きにしていいわ。拠点を商売に使うなら新しい寝床も必要でしょ?使用人も残しておくわ。確か宿を借りてたからちょうどいいでしょ」


 ルナマリアからすれば幾つもの作業が名義だけ変えるだけの作業になる。それだけでも、かなりの負担がなくなるのは間違いない……けど、他の貴族とかなんか言うんじゃないのか?面倒はごめんだぞ


「うん、それがいいわ。決めた」


「お、おい…」


 強引だな


「別にずっといろって言ってる訳じゃないからいいじゃない。こっちの世界の家がわりに与えましょうってこと。給金は大臣と同じとはいかないけどね」


 有無を言わす気はないようだ。ここで断っても書類上はそうなるだろうな。ま、そっちはそっちで出来ることもあるだろうし。こっちは土地や産業の発展にチートを使わせてもらおう


「わかった。こちらも家賃がわりの仕事はしよう」


「詳しくは今度決めましょうね」


 今、街を囲む城壁にたどり着いた所だな。騎士が外出の報告をしていた


 城壁の外には来た時と同じように松明で囲まれている道が伸びている


 再び車輪が回り出した。街中とは違い多少整備されているとはいえ振動を感じるようになった道に不快感を感じる。この世界にはサスペンションなんてないんだろうな


「目的地には食事を取ってから到着の予定よ」


 時間は11時半。外を眺めると空は吸い込まれる様な青だった。気分がいいな





 日も高くなった頃草原地帯を行く馬車が徐行になった。停車するみたいだけど道の真ん中だ。……あ、草原に入り馬車から馬が外された


「そろそろ昼食にしましょう」


 そう言ったのはルナマリアだ。街道沿いの平坦な道の続く見通しのいい場所だった。ここなら盗賊や魔物をいち早く発見できる。休憩するには絶好のポイントだった


 ルナマリアの一言に御者を任された騎士は馬車を止め何故か後ろに向かっていく


「どうしたんだ?彼は?」


「ライトさん、あれ」


 瑠衣が久々に口を開き、騎士の走っていった方へ指差す。彼が走る先にはもうニ台馬車があった。前方にあるのは王女専用車だそうだ。夜営時には必ず入ると教えてくれた。


 外装もすこしばかり目立つ気がする。窓にはレースのカーテンがかかっている。防御力を上げるために車体は硬い木材、金属、柔らかい木材、繊維と重ね合わせ外敵に備えているそうだ。流石は権力者の馬車だな


 二台目は物資運搬車だ。ちなみにリザードマンの肉と調味料ものせているので唐揚げも作るつもりだ


 停まると共に荷台にいた4人の人員が8メートル四方の絨毯をひろげ、テーブルや椅子を次々に下ろしてくる。ものの見事に臨時の食卓ができてしまった


「皆も食事を取るように。では散開」


 手提げの袋を持って皆全方向へ散り散りに歩いていった


「………」


「さあ、食事の用意を」


 運搬車の裏側から少し小柄だが立派な髭(なんとなく中国っぽい感じだ)を生やした男が出てきた。時代背景に全くあってない


「公式に出かける時は護衛兼荷物運びとして連れてくるのよ」


 護衛兼荷物運びはかなり離れた場所に座ってごそごそしている。ゆっくりするより周囲の警戒に徹していた。忍にも唐揚げを作るように頼む


「しかし彼らにも見せるのか?」


「大丈夫、見るのは私だけよ。ある程度近くまで行けば後は私達だけで行きましょう」


 簡易の調理台で色々と刻んでいる音がする。横では忍がリザードマンの肉を切り分けて醤油に漬け込んでいる


 こんな場所なのに包丁の軽快な音がするのは不思議だな。バーベキューと似たようなもんか?随分やってないな


「戦闘に参加するのは俺と恵だけだ。忍はルナマリアと瑠衣を頼む。あとこれを渡しておく」


 3つの玩具の様な双眼鏡を渡した。ルナマリアはさっそく辺りを眺め、一人の護衛騎士に止まるとそのまま俺に向け、観察を終わる


 アップで見るなよ


「戴くわ。あなたの持ち物は役にたつわね」


 他にはないの?と聞かれたけど…ないんだよなぁ。今度なんか用意しておくよ。今度は電池に魔力を注いでみよう。無限電池ができるかもしれない。そうなればこちらでハンドミキサーを使えるようになる。マヨもよし生クリームもいけるようになる。そうすればスイーツ関係も……ルナマリア、興味持ちすぎだろ


 調理は火を使う場面のようだ。炒めるような音と共に辺りに食欲のそそる匂いが漂いだした。隣の忍は肉を油にくぐらしていく。パチパチと油が跳ねる音が食欲を刺激する。恵、瑠衣、よだれは出しちゃダメだ


「早くお座りになって」


 ルナマリアも期待しているみたいで自分の為に作られた料理より唐揚げが気になって仕方ないらしい


「アツアツを食べるのが一番美味しいでしょう。」


 説明すると忍が揚げた唐揚げの皿を一番におくと料理人が顔を顰めたので忍が謝っていた


 置かれた皿を見る全員。油で揚げただけの茶色い物体から軽い熱気と香ばしさを感じる。うん。これだよ。これ。


「さ、姫様。初めは何も付けずに食べてください」


「え、ええ。」


 ルナマリアは唐揚げにナイフを入れると切り口から湯気とあり得ない肉汁が溢れ皿の上に拡がった。俺は切らずに食べよう。


 半分に切り分け口に運ぶルナマリア。舌に乗せ咀嚼、咀嚼。一噛み毎に驚き、目を見開き唐揚げを見つめ唖然としていた。


「う、嘘。なんでこんな……」


「次はマヨネーズを付けてどうぞ」


 驚きを隠せずにいるルナマリアの横から忍がチューブで唐揚げ皿の端の方にマヨネーズを出す。説明を受けるとバターナイフでパンに塗るように唐揚げに塗り再び口に運ぶ


「あっ!な!えっ?これ本当に?」


「どうやら思った以上だったみたいですね。うん。こんだけリアクションがあるなら売れそうだ」


「ちょっ!ライト!これは商品登録しておきなさい。間違いなく売れるわよこんなの!クコ鳥に変えたって売り上げ落ちないから。あなた!ちょっと食べてみて」


 騒ぐルナマリアを見ながら俺は料理人の作った料理を自分で並べ食べた 。料理は王族が食べるような高級食材 (らしい)で作られていて料理人の腕もたしかなようだ。その彼も唐揚げに夢中になってるけど。


 とりあえず三つくらいは残しておいてくれよ?俺だってまだ食べてないんだぜ。あとルナマリア食べ過ぎるなよ。太るぞ


 ―ガガッ


 ん?トランシーバーに雑音?…まさか幽霊? ……なんてな。普通に零華か鋼介だな


『ライト君、ライト君応答せよ』


 テーブルに置いたトランシーバーが声を出した。零華だな。


「どうしたんだ?」


『特に用はないわ。修復作業も順調だし』


 なんじゃそら?


「鋼介は?」


『知恵熱で湯だってるわ。普段から勉強しないからそうなるのよ』


 零華の話す後ろからかすれるような声で「うるせ~」と聞こえた。うむ。そのまま勉強漬けにされてしまえばいい


「で、そっちはどうなの?」


「今は昼食中だ。1時過ぎには目的地に着く。リザードマンの唐揚げは好評だ」


「え?なにっ?食べたの?」


「ああ、マヨネーズと合わせたら最高のようだぞ。俺達の店はこれで大丈夫そうだ」


 感想を言うとズルいと言うコメントを貰いそれを聞いた鋼介は食堂へ行くと言って零華に捕まり下半身を凍らされ動けなくされてしまったらしい。トイレはどうするべきなんだろうか?鋼介の無事を祈ろう


 こちらの報告をすませると零華の方が少し騒がしい


「そっか。食べたかったな……ん?うん、うん。あ、ごめんね~ライト君。ちょっと下で揉めてるから切るね」


 一方的に切られ話が終わったと思うと回線が再接続された


『ライト、城下町に上手い葡萄酒を出す店があるらしいぞ。後で付き合え……以上』


「それより勉強しろよ」


 今度は俺から切り会話を終了した。バカに付き合う時間はない。あと酒は飲むな。零華の機嫌を損ねそうな真似はするな


 さて、俺の唐揚げは……と。ん?


 ルナマリアはがっついたりしてるわけではないが食べるのがかなり早く、俺が話してる途中には残りがほとんどなくなっていた


 そして今最後の一個を口に放り込む


 ああ、俺の唐揚げが……


「10分程仕事に入るから食事が終わったら声をお掛けになって」


 ルナマリアは席を外し夜営用の馬車に入っていった。くっそー。最後の一個くらい食いたかったな


「お姫様って大変なんですねぇ~。10分の間も仕事だなんて」


 サクッと言わせて瑠衣も手持ちの唐揚げを食べ終わった。同時に恵、忍、料理人もだ。目の前には空になった皿だけ。


「仕方ないだろ。大臣はいないし、父王はご崩御されてんだから。今のところ他の継承権のある人間はでてこないみたいだからな」


 人事が済むまで今後は全ての政治を一人で行わなくてはならない。


 魔神戦までは出来ることだけの事はすると決めているが俺達は何ができるのか…


「んで?二人はどの辺までいってるわけですか?」


 瑠衣が凄まじい切り口で質問してくる。俺も恵も平原に目をやり誤魔化そうとする。逃げた方向は同じだった


 瑠衣は椅子から飛び出し恵の顔を掴んで強引に正面に向けた


 ―逃げ出した―しかし回り込まれた―だ


 忍も食事をしているが聞き耳をたてているのは明らかだ


「どこまでって…二人では訓練に出たくらいだよ」


「じゃなくてぇ」


 猫なで声だな…俺には響かないけど


「あとは…恵の家に行ったくらいか」


「おおっ!そういうのです!そういうの!それで?家に行ってどうしたの?」


「いつ?」


 忍が食べ終わり会話に参加してくる


「木曜日だ。忍が爆睡してた日」


「それで?家に行ってどうしたの?」


 恵に任せることにして食事を再開する。唐揚げはもうない……


「送ってもらって家に帰って……お喋りしただけだよ。ちょっとしてからライトさんは帰ったの」


「なんでライトさん帰っちゃうの~。そこは強引に…」


 そう……強引に唐揚げを奪うべきだった


「瑠衣ちゃん、そろそろ黙ろうね。あまり姫様を待たせるの良くないから」


「うっ、恵~悪かったよ~」


「すみません、ライトさん。騒々しくさせちゃって」


 結局最後に食べ終わったのは話ばかりしている瑠衣だった。しかも料理人の作った料理の下に隠していた最後の唐揚げを食べての終了だった。


 ……唐揚げが……


「兄さん。唐揚げ唐揚げうるさい」


 え?声に出してたのか?

拠点ができ貴族擬きになりました。



ルナマリアは屋敷譲渡予定をたてていますが、それだけではなくライト達をただで働かせる気はなく生活に困らない程度(貴族基準)の資金を渡しています



やっぱりお小遣いは欲しい。高校生ですからね



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