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拠点と唐揚げ——ライト

 着いたのは俺達が借りている部屋だ。誰かに見られる心配はない。


 ゲートによる浮遊感を終え男部屋に世界移動をした。相変わらず目に悪い空間だったな。悪酔いしている瑠衣にペットボトルの水を渡してやる。


 一息ついて時間を確認。時計は時間は午前9時だ。あまり早く行き過ぎても迷惑かもしれない。何処かぶらつこうかな


 瑠衣の服はないので体格の近い忍の物を貸すことにして二部屋に分かれ衣装チェンジ。装いは前と同じ、俺だけは前回焦げたり破いたりしたため新しい物を着ている


 余談だけど前回単独行動をした時に買ったんだけど値切れず結構高くなってしまった。売買の才能はないな。俺


 先に着替えを完了したので宿の主人に挨拶だけしておく


 いついなくなったのか、いつ来たのかも分からなかった為首をかしげていた。説明より昨日と一昨日の話を聞きたいと主人に問いかけるとある一角を指差す


 主人の示す方には食堂スペースがあり何人かのエルゲニア兵士がいた。基地から戻ったのだろうか?その落ち込み様は酷かった。三者三様で一人は完全に悪酔いし、また他の兵士は座ったまま、料理には手をつける事なく冷たくなる料理を見つめていた


 国民はまだ王の死を知らないようだけど、主人は不安の色を隠せないでいた。なんとなく察しがついてる感じだな


 話しも終わり、恵達も合流したがまだ時間があるので散策がてらに馬車を動かし街に出ることにした。御者台に俺、残りの五人は荷台に乗る


「基地から引き上げてきたみたいですね」


 兵士が街の中を巡回しているのがみえた。その顔はもはや覇気どころか生気すら失ったように見える。今襲われても、なすがままに殺されてしまうようなありさまだ


「散々だな。守る物はまだあるだろうにあれじゃあなぁ」


 鋼介は食堂で買った干し肉をかじりながら見ていた。ほんの数日前は戦争だと騒がしくなっていた城下町も今は人はいてもどこか閑散とした雰囲気を纏っている。それでも商人だけはがんばって声を張り上げてる


「ライトさん、リアンさんいますよ」


 恵が指さす方向に知った格好の女性が食料品店で何か買っていた。城からの買い出しなのだろうか?普通お抱えとか出入りの商人が納めてるんじゃないのか?


 メイド服に白いエプロンをかけた少女が色々購入しているが、どうみても買いすぎだ。両手で持てないほど買っている。


 代金を支払い荷物を受け取ったまでは良かったんだけどそれを運ぶ手段を考えているのかキョロキョロしだし、御者台に座る俺と目があった


 これ幸いとばかりに笑顔で近寄ってくる。やっぱり近寄ってくる顔はルナマリアとの会食の時に案内してくれたメイドだった


「これはライト様、今からご出頭なされるので?」


 時間は少し早いが案内人もできた。もう少し散策を続けたかったが予定変更する


「ああ、そうするつもりだ。買った荷物をのせるといい」


 礼を言うと店に置いておいた食料品を馬車に積む。もちろん鋼介に手伝わす。こんな時に動かさずいつ働かすんだ?今でしょ!……はいいとしてさっさと行け


 荷物を置くとさすがにスペースが狭くなるが現在地から城までは10分程度の我慢だ


「何してたんだ?」


「調達です。姫様が庶民の書物を所望されましたので…」


 荷物のほとんどは確かに本っぽいのが多いな。


「早馬の騎士の皆さんがお帰りになられ…国王様がお亡くなりになられた事が城内に伝わりました」


 馬車は商店通りを抜け城に続く大通りに出る。大通りは馬車が四台はゆうに並ぶ事ができる広さがあるが今は兵士を運ぶための大きな輸送馬車が何台も連続して土埃をまきあげ、小石を弾く勢いで城に入っていく


「姫様もお辛そうでしたが皆の前、気丈に振る舞っておられました。姫様の近衛も大臣も今はいません。この本も寂しさや苦痛をまぎらす為。頼るものもおらず…どうか姫様のお力になって差し上げてください」


 エプロンを握りしめ、姫の境遇を憂いている


「まあ、そうだな 出来る限りの事をしよう」


 見上げたメイドは皆の顔を見ると優しい笑顔で見つめていた


「お願い致します」


 輸送馬車が大通りを抜けたのを見て馬を大通りに向けた。


 近くの建物に大工が見え、俺達に向かって大きく手を上げた。城の修復作業をしている大工だ。なんらかの材料や道具をかき集める様に買い込んでは手押しの荷台に載せていた


 俺も手をあげ挨拶だけすると正門前に馬車を乗り付けた。正門前では多くの馬車が列をなしては中庭に消えていくのが見える。とりあえず順番待ちだな


「ライト様、姫様より今は宿にお住まいとの事なので拠点となる家を用意したと聞いております」


 ボーっと少しずつ消化されていく列に合わせて進んでいると姫付きのメイドがそんな事を言い出した。


 用意するじゃなくて?もうしたの?一日で家なんて用意できるものなのか?


「本日午前中に案内するように言われておりますので姫様とのお話しの後案内させていただきます」


 うーん。一応魔物退治に行く予定があるんだけどなぁ。行き帰りでどれくらいになるかわからないし……


「それって今からでもいいかな?」


「まぁ……そうですね。どうせ兵士を優先にするでしょうから一時間くらいは待たないとダメだと思うのでその方がこちらも都合がいいです。行きましょうか」


 兵士優先で一時間だったら並ぶ意味ない。何で言ってくれないんだよ。リアンを横目にそんな事を思っているとナビを始めたので列から抜け大通りを行く。


 幾つかの区画で分かれた内のちょっと裕福目な人が住んでるエリアの隣にきた。中級商人から貧乏貴族くらいの層らしい。


 紹介されたのは一般人エリアの端、もう少しで準富裕層に入りそうな人が住んでそうな家だった。っていうかこれで上級一般人が住む家なのか?でかいぞ。4LDKだ。各部屋が10畳程で六人の拠点としては十分なくらいだ。


「はぁ〜〜。大っきい家ですね」


 この家は元商人の家だったそうで一階は二部屋とキッチン、ダイニング、カウンター付きの窓のある部屋。二階は一部屋と物置。カウンター付きの部屋はタバコ屋かって言いたくなる奴だ。ここから何かを販売していたのかもしれないな。俺もなんかやってみるべきだろうか?リザードマンの唐揚げなんてどうだろうか?なんなら今日討伐するだろうしさ。


 あと唐揚げといったらやはりマヨネーズだろう。異世界物の生産チートの基本だ。これが売れないはずはないだろう。いくらルナマリアから物資を貰えるからって甘え過ぎもよくないよな。初期費用だけもらおう。


 問題は人手だよな。俺達は魔神を倒す事を目的にしてるのに何商売してんの?って話になってしまう。それをリアンに相談してみると奴隷はどうかと言われた。


 確かに奴隷ならとは思うけど、俺達は奴隷に対して忌避感を持っている事を説明。しかしリアンはそれを考え方次第だと言う。奴隷じゃなくて従業員と考えればどうかと言う。身分自体は奴隷でも借金さえ返せば一般人。問題は無いでしょうと言われた。さらにここで働く事で生活も安定するはずと言われれば反論する気も起こらない。


 そもそも俺達は家も必要性を感じない。奴隷が一般人になり新しい奴隷を買って空いてる住ませ金が貯まればそいつを解放して……というループを作ればルナマリアの為にもなるんじゃないだろうか?俺はリアンに乗り皆に説明する。


 反応は上々だった。


「では、後日奴隷を見に行くと言う事でよろしいですね?さしあたってご要望があれば聞いておきますが?」


「ん……思いつかないな。皆はなんかあるか?」


「獣人!獣人みたい!モフモフ!モフモフしたい!」


 そんな事を言うのは瑠衣だ。さっきからキョロキョロしていて注意散漫だったのがこの話になって食いついてきた


「獣人……ですか。ふむ。購入費は安く済むでしょう。しかしお店をするなら獣人よりは人間、もしくは亜人の方が良いと思いますが……」


 うーん。俺達は奴隷には思うところがあるんだけど獣人や亜人にはないんだよな。亜人からなら俺はエルフを選ぶんだけど……


 獣人を選ぶにあたってのデメリットは軽く差別的に見られるって事だ。嫌がらせだってもしかしたらしてくるかもしれない。でもそれは人間でも同じだな。獣人を避ける人からの購入はないかもしれんが味が知り渡れば問題ないだろう。いずれマネする店も出てくるだろうけど当分は大丈夫だと思う。その時は新しいレシピでも渡せばいい


 反対にメリットは獣人特有の身体能力がある。マヨネーズを作るには乳化するまで混ぜなくちゃいけない。まずは試しなんだから何人も買うわけにはいかないし体力のある獣人の方が良いと思う。それにリザードマンの唐揚げは最初だけだ。毎回入荷できるわけじゃない。代替え品としてクコ鳥 (どうみても鶏)を使うことになるだろう。市場で買えない場合でも狩りで何とかなるだろう。


 うん。ものは試しだ。獣人で行こう


「種族には拘らない。狩りが出来て数字が分かる。調理ができるならなお良し」


 リアンは頷くとどこからか手帳を取り出してパラパラとページをめくっていく。


「はい。冒険者落ちした犬獣人の借金奴隷がいますね。狩りは可、簡単な調理なら出来るでしょう。冒険者なので店での購入経験があると思うので数字も大丈夫でしょう。」


「男?」


「女です。歳の頃は二十歳。非処女の為病気の有無は不明。」


「そういう情報はいらん。要はちゃんと働いてくれそうかどうかだ」


 彼女の調書をさらに読み解くと五人兄妹の二人目で口減らしの為に十二歳で冒険者になったらしい。冒険者時代は戦闘経験も少なくなく雑務の仕事もよくやっていたらしい。基本はソロ、大きな仕事の時だけはパーティを組んでたらしい。借金奴隷になった経緯は依頼を出していた貴族に嵌められたらしく借金を背負ってしまったらしい。


 購入金額は金貨で30枚、人の命が30万か……ショックだ。医療も文化もそれほど進んでなく、魔物や魔神がいる世界じゃそんなものなのだろうか?


 なにはともあれ購入はできるし問題ない。仕事もちゃんとやってたみたいだし買いだ。リアンに告げ購入費を渡しておく。いまさらだけど普通じゃないよな?このメイド。


「そろそろ城へ向かいましょうか?」


 質問は受け付けませんってか?




 中央階段の前の入り口で騎士達が敬礼をしていた。そこにはルナマリアが騎士を労う為にその姿を晒して手を振っていた


 それを横目で見ながらリアンが門番の兵士達に話しかけると正門から離れ俺達をみる。確認にきた兵士は見たことがないな。違うルートで脱出した兵士のようだ


 もう一人いた兵士に食料品を持たせリアンは先に調理場へ向かってしまう。意外とあっさりだな


 とにかく身分証明の提示を求められたのでルナマリアから受け取った権利証を兵士に渡すといぶかしげに受け取り目を通していく。初めは偽造かと疑っていたようだがルナマリアの署名と国の紋章である押印をみて青ざめていた。


 初めの偉そうにしていた態度はその一枚の紙で反転し今は完全に卑屈なほど下手だ。門番的にどうなんだそれ?


 権利証を返してもらうと兵士は敬礼して通してくれた。馬車を中庭に通すとルナマリアはすぐに気付き外への敷居を越え馬車に足を進めてくる。


 近づくルナマリアに気を使いゆっくりと止まる。全員降りるとルナマリアの前に並び一歩前に出て代表として膝を付き出頭の挨拶をする


 いつかの通り、差し出された手を受け取り軽く口づけをする。今度は間違えない…が瑠衣、笑うんじゃない


 ルナマリアが手を引くのを合図に立ち上がりルナマリアを見る


「ようこそ、お出でくださいました。ライト、皆さん」


 馬車をリアンの用事が済んで帰ってきた兵士に任せ、ゆっくり話す為にあてがわれた部屋に入る。壁際両端には本棚、中央には書類に埋れかけの机。執務室か


「作業の方はどんな感じなんだ?中央階段の瓦礫はなくなっていたが」


 言った通り中央階段付近は絨毯こそ無いものの瓦礫や花瓶や鎧の破片がなくなっていてきれいに片付けられていた


「ええ、職人達があなた達が帰った後も城内に明かりを付けて整理してくださったのよ。まだまだ完全じゃないけど少しはまともになってきたと思うわ。帰ってきた騎士達からも自分たちの使用人を寄越して人手に使って欲しいとの打診もあったから、修復にはそれほどかかる事はないわ」


 大工が道具を買い込んでいる背景にはそんな事もあったのかと納得した


「そうか。なら俺達も仕事をするか。ルナマリア、確か近辺の商路に魔物が出ると聞いたが…」


「ええ、たしか…城から北西のカウルール村までの商路途中にいるという話よ。兵士の出兵中だったから手をつけられなかったの」


 ルナマリアは机の上に置いてある紙の束から一枚の用紙を抜き、一通り目を通すと俺に渡してくる


「これね」


 用紙は住民からの嘆願書だった。村民が脅えているとか物資が滞っているとか、とにかくなんとかしてほしい旨が書かれていた


「今日、これから行ってくる」


「え?」


 と、ルナマリア


「それから、この案件はこの前終えたぞ」


 拾い上げた案件はロレンスさんの父が亡くなる原因となった鋼介との二人がかりで倒せたオークの事件だ。書類には未遂と書かれていた。まだ討伐された報告は来ていないのだろう


「本当ですか。だってエルゲニアの騎士が二人がかりで敵わなかったのに」


「あ、俺おれ。俺とライトで倒したんですよ」


 ここぞとばかりに名乗り出てきた鋼介に零華が足を踏みつけた


「あぅっ!零華ひどい」


 足を掴んで跳ねあがる鋼介を無視して話を続ける


「まあ、そういう事だ。それはいいんだが新しい力を調べたいんだが問題があるんだ」


「ええ、どんなことでも申してください」


「使った後が保証されない。行きは良いが帰るのに支障がでるかもしれない。それに魔神相手に使うかも知れないから、第三者の確認もお願いしたい」


「他に馬を使える者はいないのですか?」


「忍がそうだけど自信がないそうだ。鋼介と零華は連れていかない」


 ルナマリアと目が合うと忍はうなずいて肯定。ふむ、と思考するルナマリア


 そうだ。リアンの事を聞いて……


「それなら私が行きましょう。いない間は零華にお願いするわ」


 はぃ?


「え、でも姫がお城抜けちゃっていいんですか?」


「っていうより私にできるでしょうか?」


 ルナマリアは机の上を片付けている。ってか実は零華に丸投げする気だろ


 あぁ、もう行く気満々だな。いそいそと出かける準備をしている姿は遠足前の小学生だ。いやこんなおっぱいしてる小学生はいないが……


「エルゲニア内なら公式に出かける事は出来るわ。それにここからなら夕方には往復出来るから平気。この前の裁量を見てたから零華なら出来ると思うわ」


 やめる気はゼロか。仕方ない。荷物入れの中から黒い箱形の物を零華に投げ渡す


「トランシーバー?よくもまあ、用意の良いことで」


 そりゃあな。しかも俺の魔力付きの実験済み試作機1号だ。魔力の込め方で機械類はいくつかは性能があがった。これは有用だから持ってきたものだ。タダの携帯に近いぞ。…でかいけど


 ちなみにミキサーを強化したらボウルに穴があいてモーターが焼き切れたのには引いた


「何かあれば連絡するといい。ルナマリア、いいんだな?」


「ええ、では中庭でお待ちになってて。準備させるから」


「ちょっとまったぁぁ!」


 さっきとは打って変わってずっと後ろでぼんやり見ていただけの瑠衣が突然騒ぎだした


「ちょっとライトさん、私の事くらい紹介して!あと私はどうするんですかぁ。初めてなんだから少しくらい気にかけてください!」


「あ、ああ」


 むくれた瑠衣を手招きして横に立たすとルナマリアをじっと見あげる。


「この子は長谷川瑠衣。ルナマリアと同じ水を使う。恵と同じ年だ」


「…恵と同じ…?あ、いえ…同じ属性なのね。時間がある時は私の知ってる魔法を教えてあげるわね」


「じゃあ出発するぞ。瑠衣は恵が面倒みてやってくれ」


 鋼介と零華をおいて部屋を後にするとリアンとの会話をルナマリアに話すとアッサリとOKがでた。唐揚げが食べたいんだよな。分かるよ。


 店に関しては美味しければルナマリアの名前を使ってもいいと言われた。


 よし試作は忍に任せた。自分で作らないのは前回帰ったあと料理が壊滅的になっていたからだ。料理に関する知識はあっても何故か食べれたもんじゃなくなってしまう。何故だ


 リザードマンの肉を分けてもらい小麦粉と卵、油を用意してもらう。醤油はないので代わりに魚醤を使った竜田揚げになってしまうな。癖があるかもしれない。お金を貯めたら大豆を大量に購入して味噌と醤油を作ろう。向こうから調達していたら自分の小遣いがなくなってしまうからな。こちとら高校生なもんで


 最初の一回くらいはちゃんと作って食べさせるべきなので忍に材料一式を取ってきてもらうと胡椒に驚いていた。胡椒と言うか香辛料はやっぱり高いんだな


 調味料販売で一儲けできるかな?


 準備が出来たので階段へ向かうと装備を外し動きやすい格好の兵士が荷物を運んでいた


「姫様、ご機嫌麗しゅうございます」


 荷物を置きルナマリアに会釈すると俺達を眺めると鼻をならした


「姫様、何も下々のような者を従者にされるより我々騎士をお連れになられてはいかがですか?このような者ではいざというとき頼りになりますまい。見れば女子供ばかり、それと役に立つかどうかもわからない男」


「………」


「それみたことか、何も言い返す事すらできぬ腰抜けではないですか」


 言い返す以前の問題だ。こういった面倒くさい相手が嫌いなんだ。あと自己主張強すぎ


「ライト」


 ルナマリアは一言だけ放ち、俺達二人を戦わせる事にした。騎士は素手だったので恵の剣の鞘を渡す。俺の方がリーチはあるけどそこまではしらん。騎士なんだったら文句言うなよ


 嗾けたルナマリアからすればこのような騎士の振る舞いは小者に見えてうんざりだったらしくこんな者がいたのかと頭を抱えたくなるほどだ。そりゃ近衛がこんな奴だったら即首だぞ


「知らないぞ」


 ルナマリアは忍、恵、瑠衣を下げ邪魔にならないよう距離を開けてくれた。こんな事してるよりは早く行きたいんだけどなぁ


「謝るなら今のうちだぞ」


「ふぅ…疲れるんだよな。あんたみたいなのは」


「ぶ、無礼者!叩っ斬ってくれる」


 剣を床に放り投げ、鞘を構える。人の剣だと思って適当に扱いやがって。恵がムッとしてるじゃないか


 バカ二号が切りかかってくる。自分がどの程度の実力を持っているか知るためにはちょうどいい。自分の地力は知っておいた方がいいもんな。ヤーツ男爵は身体能力上げてやりあったし今度は無しでいこう





 結果だけど、残念だった。騎士はただ突っ込んでは鞘を振りかぶり直線的で単調な攻撃をみまうだけだった。右に、左に、突きに切り上げ、切り下ろし…特にフェイントも挟んだりしない


 紋章すら使わない状態で打ち付けてくる鞘の軌道を読んでかわせるようになっていたのはいいが…訓練にならないな。これなら恵とやってる方が千倍マシだ


「このっフラフラと、平民が!」


 振るわれる剣筋では一向に届くことはない。空を斬るのみで終わる。こいつ本当に騎士か?訓練ちゃんとしてるか?


 ……そろそろ避けに徹するのも飽きてきたな。攻撃を受けないのは相手が単調な人間だからかと疑問も持ったがこれ以上時間をかける気もない。騎士の頭狙いの一撃を鞘の握る手のギリギリを叩き、無駄な対決を終えた


「これでいいか?」


 落とされた鞘を拾い恵に渡し剣を納めた。騎士が石床に爪を立て敗北と屈辱感にまみれていたがどうでもいい。自己主張したいならもっと訓練しろ


「あんたは口ばっかりの騎士だな。それじゃあ姫様は任せられん」


 背中を向けたまま投げ捨てるように言い放つと石を踏みしめる様な音がした


 振り向くと後ろでは騎士が甲冑が持っている槍を取り向かってその穂先を伸ばしてくる。完全に殺しに来てると思うけどさ、ルナマリアが見てるのにいいの?


「ライト!」


 ルナマリアが叫びをあげ俺に危険を告げるけど俺が動くより先に正面に回り込んだ恵がその穂先を半ばから切り落とす。恵の剣は空気を燃やし、槍の切り口から炎が舞い上がり穂先を焦がし、騎士の袖口を焼いた


「ライトさんにはそれ以上手出しさせません」


「もうよいでしょう。作業に戻りなさい」


 ルナマリアの一言にひざまづいたまま完全に動けなくなった騎士の横を抜け、中央階段を降りる


 ルナマリアが降りる後ろに三人並んで後を追っているので俺も少し乱れた服を直しながら最後尾を歩く


「ふむ。酒にも手を出してみるかな?チート万歳だな。……!」


 生産チートを考えながら中庭へ出ようとした瞬間、何か嫌な予感がした。俺は踵を返し気になる方を見る


 さっきの騎士が階段上から俺に石を投げた


 あいつ!俺だけじゃないだろ!後ろに女の子や姫様もいるだろうが!!!!


 石は既に手から離れ、高低さのため放物線を描き俺に吸い込まれるように急降下していく。なかなかコントロールいいな!だけどな!


「いい加減にしろよ」


 面倒くさいを通り越し腹がたったぞ!


 投げられた石を止まった石のように簡単に掴み、騎士の頭をかすめるように雷を込めて投げかえしてやったらひっくり返って倒れやがった


「ライト?どうかしましたか?」


 なかなか出てこない俺の様子を確かめにルナマリアが顔を覗かせた


「いや、何でもない。今行く」


 修復する場所が増えた事はルナマリアには黙っていようと決め、中庭の日を浴びた


「やれやれだぜ」

準レギュラーの騎士登場。今は激弱ですがちょっとずつ強くなります。勝手にライトをライバル視し始めます

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