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姫と野獣——恵

「鋼介、正門を閉じてくれ。敵を市街に出さないようにな」


 鋼介さんはうなずいて、切れた閂を留め具に一応はめ込み閉めた。届くギリギリだけど無いよりはマシかな。すぐには通ることは出来ないと思うし


 さらに紋章術で石の分厚い壁を作った。材料として使われたからか門の左右の土が抉れるようにごっそりと無くなった


「俺はここにいるぜ。離れたら効果が無くなるからな」


 壁にポンと手を置くとポケットから干し肉を取りだし口に放り込んだ。緊張感ないな


 私達は盾役がいなくなった分危険が増える事になる。その分の補充として私が二枚目の壁として抜擢された。


 もちろん一枚目はライトさんですしメインもそうですが、上手く守れるでしょうか?


 そんな私達のやりとり兵士さんは唖然とその様子を見ていた


「兵隊さん。悪いが案内してくれないか?」


 唖然としたまま動かない兵士さんの前に立ち言うライトさん。それでも動かない兵士さんに手を叩き猫騙しをするとビクリと動き正気に戻った


「な…な…何者だ!なぜ魔法を!?」


 持っていた槍を構えライトさんに向ける。何する気ですか?燃やしますよ?それに魔法って言ったってそこまでレアなものでもないでしょうに


「姫様の知り合いですよ。たまたま昨日この街に着きましてね。御目見えしておこうとしたらこの騒ぎ。助けは必要だと思いますが?」


 ライトさんアドリブうまっ!ライトさんは兵士とは逆に剣を収め、敵意が無いことを伝える。慌てて成り行きを見ていた私も剣をしまう


 兵士さんはしばらく考え槍をおろした。信用したわけではないみたいですが自分達に有益な存在だと理解したようです


「わかった。だが姫様に会わすのは自分では許可できんが姫様にお伺いはたててやろう」


 別にお姫様に会う予定なんてありません。そう言っておいたほうがこの場の流れ的に都合が良いからですよ。


 ライトさんはそれに了承すると兵隊さんはエルゲニア城内の中央階段へ向かう事を告げ、先頭を歩いていく


「零華、しっかりな!」


 鋼介さんがライトさんについて進む零華さんに手を振って激励の言葉を送る。零華さんはただ少しの微笑みを返し先に進んで行った


「残っても良いんだぞ?」


「鋼の無事を願うなら先を進まないと」


 鋼介さんは離れたら効果が無くなると言っていた。それは魔物が現れたら逃げられないし時間が経てば経つほど眠りの時間が来る。それは危険を意味しているのは皆知ってる


「急ぎましょう」


 兵士さんの先導で正面は避け横手の小さな扉を開け内部に入ることができた。侵入先は厨房の勝手口だったようでたくさんの調理器具がところせましと並んでいる。ダンボールとかないかな?潜入と言えば必需品なんだけどな


「こっちだ」


 兵士さんは厨房を抜け食堂へ。ここにもリザードマンがいたけど弓矢とライトさんのフォーク投げ (銀製品)であっさり倒した。


「へぇ、矢の方向をアシストしてるのか。」


 うん、とうなづく忍ちゃん。確かに矢は真っ直ぐ飛んで行ったし威力も以前よりはマシだった。急所だったから倒せていたけどアシスト無しなら倒せず暴れられて近距離で戦う事になっていたと思う


 兵士さんは私達のやりとりを気にせず扉に耳を当て様子を探ると静かに扉を開けて廊下へ出る。


 暗いな廊下は明かりがなく見通しが悪い。恐る恐る廊下に出るときは遅すぎてじれったかった。月明かりが雲に遮られて見える距離はほんの5メートル


 その範囲内の扉はかき傷があるし、窓は粉々に割られ、風通しが良くなっているのが分かるくらい。夜風はまだまだぬるい


 ライトさんは窓の木枠を拾いガラスを外すと私に渡してきました


 ?


「松明で灯りを付けていってくれ」


 あっ。なるほど。私は木片を受けとると先に手をかざし、火をつけ近くにあった備え付けの松明に火を移すとさっきよりは視界が開けた


 どんどんつけていきます。敵に位置を知らせるようなものですがそれでいいんです。要は敵がいなくなればいいのだから。むやみに逃げられ見落とすよりは全滅させる方が安全ですしね


 明かりを灯したあと全員で後方の部屋を確かめていった。できるなら挟み撃ちには会いたくないからね



 確認を終え戻って来ると階段広場が見えてきた。


 中央階段の近くにそれはあった。辺りを生暖かく錆びた鉄の様な匂いが包み、絨毯をさらに染める赤い血液の池があった。その中心には潰れた鎧と切り裂かれた服と息絶えた兵士達と多数のワニが動かなくなっていた


 ここで派手な戦闘があったみたい。階段の手すりは砕け、花瓶は台から落ち花をばら蒔いていた


 忍ちゃんは目を床に反らし、零華さんは口を鯉のようにパクパクさせた。悲鳴はあげなかったけど、緊張の糸が切れてしまうかもしれない。


 一応言うと私は吐きそうでした。でも私は吐きません


 ライトさんも自分が取り乱すと全員が混乱することが分かっていたのでしょう。冷静に状況を見ることに専念していたからです。敵地での混乱は死を招くんだそうです


 私も迷惑はかけられませんよね


「先を急ぐぞ」


 私達にただ一言だけ言葉をかけ一階中央階段に登ろうとするライトさん……が案内役の兵士が膝まづき、戦意を喪失しているのか、涙目のまま動いてくれません


「アンタも仲間の仇を取りたければ立つことだ。そのままでは守るべき姫さえ守れない」


「き…貴様!」


 はっきりと言うライトさんに兵士さんは殴りかかり、拳をぶつけました。ライトさんは強制的に右を向き、次に自らの意思で兵士に顔を向ける


「その調子だ。最後まで頑張ろう」


 唇から滲む血を覗かせながら階段に向き直り上がっていくライトさん。その態度はわざとらしいものでしたが、みんなを正気に戻すには十分だった


「戦況を把握したい。どのくらいの数で攻めてきた?それから何人の兵士がいた?」


 敵の死体の方が多く見えますが双方にかなりの被害があるのは間違いない


「在中していたのは一般兵が75人、姫の近衛隊5人だ。自分が見たのは100体程の魔物だ」


 私達も30匹程度倒しているし、おそらく他の場所でも倒しているのでしょう。ただ味方もかなり減っているのだから実際は苦戦しているはず


「私のように姫様の指示で戦えない者を逃がす為にも兵を割いている。実際はもっと少ないはずだ」


 なるほど…


「兵隊さん、アンタ一人で何匹倒せる?」


「自分は頑張って単独では一匹か二匹だ。はっきり言っておくがお前達は異常だ。簡単に倒せるもんじゃない」


 階段を上がり二階に入るとまた大量の死体が出迎えてくれた。辺りは死臭に満ちています。死臭で私達の鼻は当分使えないね。困ったな


「あ、あ、あの、あそこの…」


 せっかく気を取り直した兵士さんは再び一人の元兵士を指さして狼狽えました。ちょっとパニクりすぎじゃないです?


「姫の近衛兵が…姫様…」


 要領を得ませんが、たぶんあそこで倒れているのは近衛兵でお姫様はさらなる危険に身を焼こうとしているんでしょう


 同じ格好の兵が他に二人、つまり三人いた。姫の近衛兵は残り二人となる


 兵隊も何人のいるかはわからないですが、きっともう数える程度しかいないと思いました


 三階を目指し進むと階段近くの兵士の死体に違和感を受ける


「うっ…焦げ臭い…」


 そう、血の匂い以外に焦げた匂いが混じっていました。近くのワニの死体も同じように焦げている所を見ると、一緒に炎に巻き込まれた感じを受ける


「…ふん」


 階段を踏みしめながら警戒すべき事象が増えた事にうんざりしながら注意を促すライトさん


 上から金属がぶつかり合う音がした。幾つかの気配があるからきっと魔物とお姫様がいる


 三階へ踏み入れようとした時、異様な雄叫びが聞こえ同時に赤い明かりが登ってきた私達の姿を照らしました


「キャー」


 いかにもな悲鳴は女性のものでした。階段をあがったそこには大きなワニが火を吹いているのが見えた。ワニが先ほどのような声をだすはずがないです。姫はその先だったのでしょうか?ただ、あの炎の奥にいるのでは助からないと絶望視しました


「間に合わなかった……?」


「…いや、大丈夫だ」


 炎はある一点を避けていた。お姫様の魔法であろう水色の膜がそこにあった。


 ちゃんとした魔法って初めてみました。薄い皮膜のような水の壁が火の手を防いでいます


「姫様ー!」


 兵士さんはいきなり叫び出すと巨大なワニの後ろに立ち槍を向けた。私達は騎士じゃないんですがね~。勝手なタゲとりはやめてほしいってライトさんが文句言ってますよ〜


 大声をあげてしまった以上はもう奇襲はできない。絶対的に奇襲から初めたかったが仕方ないとライトさんも苦い顔


 なにより放っておけば兵士さんはやられるだろうし、ライトさんは私と二人で戦線にたちます。忍ちゃんと零華さんは横手の部屋に入りお姫様の所まで行くようにライトさんから言われてる


 戦力は多い方がいいし、姫の魔法もあてにさせてもらうつもりだそうです。その間頑張らないと


「姫様ご安心なされよ。今、お助けいたします」


 兵士さん、あまり目立たないで。狙われても守れないよ


 兵隊さんの前に出て魔物を観察。間近でみると体はやたらとおっきいし血まみれの牙も鋭い。武器を持ったのはいたが鎧を着けた魔物は初めて


 武器もそう大きくはないけど結構な破壊活動ができそうな斧を持っています


 兵士さんの声に反応したのかゆっくりとこっちを向こうとしている。足踏みや尻尾が壁に当たるたび、天井からホコリや石粒がパラパラと降ってくる


「恵、大人しく待つ気はない。火炎玉をくれてやれ」


 了解


 私は手を前に突き出すと火をだしバスケットボール大の炎を手のひら数センチの場所で溜め放ちます


「せりゃー!」


 ワニの顔正面に当たるよう放ち、ライトさんはそれに合わせ斬りにかかる。炎の玉は勢いよく顔面に飛びましたが当たるかという時ワニの大きな口が開き炎を噛み砕きました


 タイミングを潰されたライトさんはそれでも構わず、紋章を浮かばせ真正面から縦に斬りつけた


「?」


 今ライトさんは紋章の力でて斬っていたけど切れなかった。ただ切れなかったんじゃなくて刃はワニの分厚い皮に食い込むだけで肉は切れていない、

ダメージは無しです


 ライトさんは鎧の胸部を蹴って後ろに飛び距離をとる。攻撃をされた魔物は完全にライトさんを視認し敵と断定した様です。うねる尻尾と剥き出しの敵意がライトさんに注いでいるのがその証拠


 魔物は落ちているワニや人間を投げてくる。人間はともかく、魔物にはやはり仲間意識はないようですね。本当に物のように投げてきます


 ライトさんは飛び交う元敵味方を避けながら飛び込んで剣先を鎧のない足に突き立てますが……


「くっ」


 あまりの弾力に突いた手が痺れたようです


「あっ!」


 次の瞬間、足元にいるライトさんに視線をやると大きな斧で打ち付け、その大きな足で蹴飛ばそうとしてくる


 斧は剣でガードはしたものの蹴りは直撃、ライトさんは廊下に転がる


 すかさずワニに幾つもの火炎玉を放ちライトさんに体制を立て直す時間を稼ぎます

 立ち上がりながら考えるライトさん。切りや突きですら皮膚を裂くことはかなわなかった。紋章のみでは倒せないことは分かりました


 なので長期戦は不利だけど、何がどれくらいなら効くのか知る必要があります


「…仕方ない。兵隊さん、借りるぞ」



 ライトさんは元兵隊さんからすっとナイフを拾い上げ雷の力を込め素早く投げる。


 ヒュッと音がなると光の筋を作り、私の火炎玉に翻弄されるワニの右肩に刺さり表皮を貫いた


 刺さる!


「やった…奴を傷つけた」


 兵士は自分の成果のように浮かれてます。実際は少し傷ついただけなんです。どれほど投げれば倒せるのか見当もつかないしそれほどナイフも魔力もないでしょう


 直に切るしかないです…ライトさんが


 ワニの奥に忍ちゃんと零華さんがお姫様に話しかけているのが見えた。手を貸して立たせると通って来た道を戻ってくるようです


 お姫様を安全に移動させるには時間を稼がなくてはなりませんね


「恵、目眩ましを頼む。隙を見て切る」


 零華さん達が隣の部屋に消えた。今、通路は自分たち以外は無人だ。私達はアイコンタクトをとり攻撃を仕掛けた


 私は小さな炎を顔に当て、ワニの視界を塞ぎ続いて溜めていた巨大な炎を投げつけた。


 視界を塞がれたワニに避ける術はない。炎は大爆発を起こしワニの体を大きく吹っ飛ばし、廊下に転がした


 ライトさんは大きく飛び、相手の腹目掛け振りおろします


 剣が鎧の胴部分を砕き肉へ食い込む。切り抜けなかったがかなりのダメージを与えたはずです。


 剣を腹から抜き、魔物の出方を待つ。出血も激しい、かなり弱っているように見えます


 魔物は荒い呼吸でゆっくり立ち上がりライトさんに体を向け一度鼻を鳴らすと大きく息を吸い込み始めた


 ワニの出血が増え、胸部が膨れると傷口から血液よりも明るい赤が見えた

、次第にそれは強さを増しワニの口内まで達しました


 ピタリと息を止め、天を仰ぎ素早く顎をおろすと溜まりに溜まった炎を吐き出すワニ


「くっ、避けれない」


 横に飛び誰もいない部屋に飛び込むライトさん。炎はライトさんだけを追いかけ、部屋の壁を焦がしている


「ライトさん!無事ですか!?」


 火災を受けなかった私はライトさんが飛び込んだ部屋をみる。今だに炎が吐き出されてるけど何とか会話はできた


「少し食らった。左腕に火傷した」


 服の一部が焼け左腕が露出してる。そこに覗くのは皮が焼け、熱の籠ったような赤さの腕だった。避けた時、炎が腕に触ったようだったな


 紋章の力か激しい痛みは感じないし、ちゃんと動くし、肩も回せるらしい


 紋章の効果すごっ!


 焼けた服を肩から引きちぎり逆の袖を巻き、火傷との接触を防いでる


 壁越しにワニを見ると壁を尻尾で払い、斧で砕きライトさんをいぶり出そうと暴れまわっている


 隣の部屋に及んだ時剣を握り直し部屋を飛び出すライトさん。動くものに反応したのかスグに壁を壊し飛ばしてくる瓦礫を転がりやり過ごすと始めの位置に戻ってきた


 おっ?


「はじめまして、お姫様。いきなりだけど、さっきの魔法使えるか?」


 忍ちゃん達と一緒に逃げて来れたみたい。服は返り血や泥で汚れ、マントはススや焦げで真っ黒になってるけど一応元気そう。スカートも焦げ焦げです


「え、ええ…」


 いきなりの展開に着いてくるのがやっとのみたい。あてにして大丈夫なのかな?


 ライトさんも当たり前のように話してるし、理解できなきゃわたわたしても仕方ない


「零華、氷の矢で額を射ってくれ。忍はさっきみたいに方向をサポート。合わせて俺が斬り込む。すまないが恵は…」


 そんな顔しないでくださいよ。


「分かってます。もう一回チャンスを作りますね」


 揺れを起こしながらだんだん距離を縮めてくるワニ。量こそは減りましたがまだ出血しているようです。そのまま倒れてくれればいいのに


「いいか?お姫様」


 とにかく、ライトさんの言う通りにしてよ。これ以上ダメージを受けたくないんだから


「魔法発動まで20秒よ」


 意外とすぐ受け入れたね。良かった

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