基礎訓練——恵
王都エルゲニアに着いた翌朝。私達は男部屋に集まっています
何故いるのかですか?起きないリーダーの為ですよ。ライトさんは寝付きはいいそうですが寝起きはひたすらに悪いそうです。皆が起きても、声をかけられても、窓を開け日の光を入れても起きなかった
忍ちゃんに聞くと自然に起きるか無理矢理起こすかのどちらかだったそうだ。部屋にある水差しを空にする―飲み水がなくなると困るから水をコップに移してからね―と忍ちゃんが剣の鞘でガンガン音を鳴らした。うるさい
耳元でならされたライトさんは飛び上がりはしなかったけど、目蓋がパチッと開いた
ちょっと不気味…機械的だった
「おはよう、兄さん」
ライトさんは目を覚まし、周りを見回した
「あぁ、もう朝か……」
枕から頭をあげ目蓋を擦る
「朝食もあとライトさんだけですよ。焼き目はソフトが良いですか?ハードですか?」
パンを片手に左手に火をうねらせている私。焼きますよ〜
「ソフトで頼む」
了解です。…ハイッ。出来ました
ライトさんはまだ寝ぼけていたみたいでパンを食べながら普通に着替えを始めた
私達女子三人は恥ずかしくなって後ろをむくしかありません。寝ぼけてるんだもん。怒れませんよ
騎土さんが笑ってたのが聞こえたけど笑うくらいならライトさんに私たちがいるのを言ってくださいよ
着替えが終わりコップに入れた水を飲んだライトさんは意識がはっきりして来たのか体をほぐしながら言った
「今日から2日間は紋章術の訓練、余裕あれば魔物退治に行く。宿の主人が昨日魔物が巣くっていて通れない道があるという話を教えてくれた」
私達は明日の夜には日本へ帰ることになります。元の世界でも訓練はするつもりだけど次は何日間いるのか分からないし、みんなでやった方がいいからね
「話によると街の東の商路にはワニの番いがいるらしい。…が、まあいけるだろう。三人で一匹倒してもらう。無理そうなら早めにな」
完治していない騎土さんは忍ちゃんと零華さんと組むことなった。この前と同じだね。必然的に私はライトさんと組み、ライトさんが前衛と私が後衛に自然と決まった
「2日間はこれで特訓だ。そっちは戦術を練ることも忘れるな。訓練最終日には俺と戦ってもらうぞ」
着替えと朝食を終えると二組で街へでる。私達に必要なのは街と魔物のボスの情報です
行き先の候補として話を聞けそうな酒場とギルド、兵士の詰所を訪れることにしました。ギルドや酒場は外から訪れた人から色んな話が入ってくるからだそうです。
でも私達は国の動きを把握したいので詰所へ向かいます。まずは身近な情報をゲットです。ライトさん…慣れてきてますね?早いです
酒場なら城の人間が知らないことも知っているだろうとの事ですので人当たりの良さそうな鋼介さんと頭のいい零華さん達に任せ、私達は詰所へ。魔物への対策について聞けるところまで聞く事にした
総合すると分かったことは以前聞いた通り、虎と牛がこの王国の魔物を率いていること。エルゲニア城はまず戦いやすい地形の虎 (バルクティンというらしい)を先制して戦争を仕掛けるという
軍備の整う三週間後が戦争の開始日だ。一対三千の規模らしい。一体相手にどれだけ注ぎ込むんだろうと思っていたらライトさんにそれくらいの被害を見込んでいるんだろうとの答えをもらった。
もうすぐで千人単位の人が死ぬかもしれないんだ……
私は何処か他人事のように走り回る兵士を見ていた。昨日は夜中だったので気付かなかったが兵士が何処を向いても見つけられる程いる。主力はもう出て行ってるので今いるのは後方支援部隊というそうです。荷物を持っては慌ただしく走っています。
冒険者ギルドへの協力要請はしているものの上手くいってない様子。
帰り際、ライトさんに兵役の参加を言ってきましたが断わりました。できるだけ自由に戦いたいし、迂濶に紋章術を使って質問責めも面倒だったからです
詰所にある訓練場が見えました。そこには若くまだライトさんとそう変わらない年の青年がいた。声を上げ剣で分厚い藁束に切りかかり修練に励んでいました
ライトさんは自分の力量を考えても紋章があれば切れるだろうと言った。己自身の力ではまだまだ同じような結果だとも。要訓練ですね
私達が通う天臨学園にはいろんな部活がある。戻ったらいくつか戸を叩いて見ようかと言ってました。一緒の部活に入った方がいいのかな?
「よし、話しは聞けた。鋼介達に遅れは取れない。恵、いくぞ」
「はい」
なんか少し嬉しいな。チームって感じがする。一歩遅れてついていく。横を歩くのはちょっと恥ずかしい。だって二人で歩くと恋人に見えなくもないかもしれないし
ふふふ
門を出るまで街行く人が微笑ましく視線を送ってくるのがちょっと恥ずかしいな
「頑張りましょうね」
来たのは街から30分位歩いた場所にある岩場です。どこにでも現れるゴブリンを蹴散らしながらきました
私達は紋章術を使い新たな用途を考えながら基礎を固める事にしました。使いやすく多様性のある能力を見つけたいですね
基本の雷と炎を出す事から始めライトさんは武器に魔力を留め、近接戦闘を基本とした戦術。私は炎の形態、大きさ、早さ、威力を高めどんな距離でも戦えるように基礎だけを繰り返し、補助を基本とした戦術で戦うことに決めました
私は炎の扱いが上手かったみたいです。まだまだ未熟ではありますが数多く火炎の玉を撃てるし、幅広く炎を放つこともできます。ただ威力は心もとないんですよね
私が放つ火炎玉は紋章なしのライトさんでも簡単に切り裂く事ができたし。はぁ……密度がないからかな?
威力を上げれるようになるため、大きな炎を圧縮する作業を始めますが上手くいきません。圧縮する炎が暴発しては髪がぐちゃぐちゃに……
うぅ~。なんでぇ~?
「わっ」
「あうっ」
「うぎゅ」
などと呻きました。
聞かないで下さい~
私が炎の訓練をしている間、ライトさんはずっと剣だけを振っていました。横目でばっちり見てましたよ。接近して戦う分、ずっと敵との攻防が多くなるライトさん
紋章を剣を振るために使う分、他の術は使わない(というより使えない)ので後方支援は仲間に任せ、自分は剣の腕を磨くことにしたんだそうです
「やっぱり自分一人じゃなかなか難しいか」
紋章を使えば木も一降りの元に切り裂けるし、岩だって同じような物のライトさん。私じゃまだ無理なのに成長早いです。……はい
「恵」
呼ばれたのはちょうど暴発のあとでしたので前髪が爆風で持ち上がり乱れています。流石に男性に見せる容姿とは思えませんので髪の毛を直してながらライトさんに近寄ります
「何ですか?」
紋章はそのままに鞘で攻撃するように言うライトさん
大丈夫かな?
少しためらいがありますがやりました
ヒュッと風を切り、鞘の先がライトさんをかすめます。思っていたよりも早く、反応するので精一杯なライトさんの頬に赤い筋が走っています
「わわっ!大丈夫ですか!?」
「平気だ。次は受けてみてくれ。」
剣道の面を打つ練習のように頭の上で水平に構えるよう言われました。鞘を掲げ準備ができたので、鞘に向かって面を打つライトさん。二回目は結構本気で振りましたね?
でもどちらも私の持つ手が少し震えただけでした。ライトさんの振った剣は振り下ろされることなく止まっていた
紋章を使っている状態とではかなりの差があるみたいでライトさんはちょうどいいと言います。ライトさんは剣技を磨くためハンデを付けて私と戦うことにしました。女の子相手に戦闘訓練だなんて……とはいいません
ハンデはこちらにあるんですから
では、はじめますね
開始とともにちょっとずつ近づいて届く範囲に入ってから攻撃します。走ってって斬るなんてまだできませんからね
いやにライトさんの動きがゆっくりに見えます。
私の攻撃よりワンテンポ遅い感じで防御しているライトさん。初めはゆっくり、じょじょに速度をあげつつ、防御しずらそうな所を狙っていくと剣を振る毎に擦り傷、痣、切り傷ができていく
受ける度に手が痺れる位の斬撃が伝わってくるとの感想。その中でも徐々に私の剣が見えるようになってくるのだから驚きです
まだまだ反撃はできないようですが、振り切る前に止める事が出来るようになってきました。ズルしてません?
威力を軽減できるようになると、ほんの僅かな余裕の時間が出来るようになってくるようでライトさんの目付きが変わりました。その時間を私の次の動作を読む時間に使いっているみたいですね
振り下ろす剣筋に合わせて体を反らせてよけるライトさん
おおっ、完全に避けましたね。っとそのまま横薙ぎの一閃、私の腕に当てた
紋章がある分、私は特に痛がる事もなく感心?見直し……じゃないな。すごいとただそれだけ思いました
当てたライトさんも振り抜くことはなかった。接触の瞬間、握る手を緩めたから痛くなかったのですよ。尊敬+気遣いの良さでライトさんの株価急上昇です。ちょっとかっこい……
ん?ゴホン!いやいや……戻りますよ?
とにかくこの回避、防御、タイミングの特訓を納得いくまで続けたかったそうですが私の訓練の邪魔はしたくなかったそうです
なのでお互い剣と魔法の訓練を兼ねて本気無しの実戦を試みます。ライトさんは剣だけ、私は紋章術を含めての小剣で
あれ?なんでまた戦闘訓練?
お互いに鞘なので大事には至らないがヒットの直前は手を緩める事にした。流石に頭とかは駄目だからね
あと急所…はお互い狙いませんよ!はじめからないですから大丈夫ですけどね
ん?おかしいこといってない?
「行きます!」
さっそく火炎玉を作ります
私は威力がないのは自分でわかってます。なのでたくさん作って補います。剣で体を庇いながら、小さいながら4つの炎を作った
正直剣の構えってよく解んない…
だからの火球です。攻撃もどんどんやっちゃいますよ
体を囲むように炎を固定し、まず一つ目の火炎玉を放ちます。ライトさんは豪速球に感じるらしいそれを際どく避けました。火の玉が通った後の空気は熱く、それだけで汗がでてる
私は熱くないんですよね
「やっぱり一個で当てようなんて甘かったみたいですね。これなら!」
今度は二つの火球を放ち、一気に間合いを詰めます。一球目をかわし、迫る二球目を武器で弾いた。ライトさんが次に見たのは鞘をおもいっきり振りかぶっている私の姿です
「くっ」
後ろに逃げられてもきっと追いつける
ヒットする
あっ…私の足元に飛び込み、体を捻って避けた
ガチンという金属のぶつかるような音と衝撃がした。そこにある石は2つに割れています。うん。我ながら怖いです。手加減があっても直撃ではひとたまりもなさそうですね
ライトさんも一呼吸おき、気合いを入れた。確実に受けきるか避けるしかないですよ。打ち合いは負けませんからね
私はライトさんに向き直り腰が引けた構えをとる
どうやったらちゃんと構えれるんだろ?
まぁ弱そうな構えだけど見た目通りではないですからね。今はいいです
新しく3つの火炎玉を作り、再び4つの火炎玉を保持します
火炎玉を駆使する私にライトさんは防戦一方ですり傷は増え、髪は焦げるけどまともな当たりはありません
実力のない魔法使い相手なら紋章なしでもやりあえるかもしれないなぁ。普通の魔法使い見たことないけど
それほどライトさんの成長は伸びがあった
「今日はこれくらいにしましょう?」
昼休憩や小休憩は取ったものの、ほとんど通しの実戦形式で戦っていました。最終的に私の攻撃はかすりはするものの決定打にはならなくなりました
ライトさんも少しずつ攻撃に出れるようになりましたが、紋章を使っている私は防御なしでも―—多少我慢してますが―—平気です
私は訓練に付き合って紋章術を使っていたので頭がぼーっとしてきました。魔力切れが近いみたいですね
「そうだな。次は紋章術の訓練をするか」
ライトさん、元気すぎでしょ
「すみません。ちょっと休憩します。」
「ん?あぁ、助かったよ。じゃあ一時間したら帰ろう」
木の下に座る私を置いて魔法の訓練を始めたライトさん。確かに強くなるって言ってましたけど真面目すぎでしょ
―――――
ん?
ゆっくりとした揺れに目を覚ますと歩いていないのに前に進んでます
空は紅く彩られ、太陽の光も鈍く照らされる道がテンポよく後ろに流れていきます
「…あれ?」
「起きたか?」
私はライトさんに背負われていました。訓練のあと、紋章術の使いすぎで眠ってしまっていたそうです。
って、わぁ!
「わぁ、もう平気ですから下ろしてください」
背中の上でじたばたと暴れたので下ろしてくれました。自分の足で歩きだしたのですがほとんど疲れは取れていないようです
酔っぱらいの足取りだったので石に躓き簡単に転びました
あいたた…
ライトさんは私の前に背中を向けおんぶの姿勢になる。
「ほら、夕食には帰ろう」
私は照れやら恥ずかしいやらでライトさんの背中に抱きつくとゆっくりと立ち上がるライトさん。また道を行きます
「重くないですか?」
朝に来たときと同じスピードで歩いていた。ライトさんの手は私を支えているので見えないけど、もしかしたら紋章で体を強化しているからまだ元気なのかもしれない
重くて使ってたらやだな……ダイエットしたほうがいいのかも。いや、でも結構細い方だしなぁ。ガリガリよりは少しくらいお肉さんあってもいいと思うし……無理に痩せたらおっぱいにも影響ありそうだしなぁ……どうしよ?
あ…
「ライトさん、ここ火傷してますね」
指で右側の首の赤くなってる部分を見る?少しずつ薄くなって行ってる気がする。紋章使ってたら回復が早いって話だからやっぱり使ってるんですね。治るとはいえそれでもい痛そうです
「零華さんなら冷やしてあげれるのに」
「いいさ、すぐ治る」
「ライトさん…」
私を苦に思うことなくずんずんと道を行くライトさん。あまりの堂々っぷりにゴブリンも近づいてきません。気合いというか意識というかそういう物を敏感に感じ取っているのかびびっている
次第に街が見えてくる。入り口には商売から帰ってきた馬車が数多く見えます。ほとんどが帰還に喜んでますが、何故か真っ暗な人も。何があったんだろ?聞いたら巻き込まれそうだし…関わらない方がいいかも
街の喧騒も聞こえてきます。子供の友達と別れの挨拶をしてるのが聞こえました。
平和だなぁ。戦争が近いなんて信じられないや
入り口近くでおろしてもらい。二人で門をくぐると警備員が私達を見ます。通る人間をチェックしているようですね。後ろにいる人達にも目をやっていく
私達は門からほど近い場所の宿を取っています。大きな通りに面した三階建ての結構な大きさの宿です。看板も大きく、窓も多い。
「お~い!ライト~!恵ちゃ~ん!」
私達が泊まっている宿の窓から鋼介さんが手を降っているのが見えた。もう帰ってたんだ
「じゃあ着替えたらご飯にしよう」
宿に入り階段を上がり部屋の前で一旦別れた
私が部屋に入るとベッドに腰かけた零華さんと、なんらかの本を読む忍ちゃん
「ご飯にしましょう。呼んでくるわね」
零華さんがそう言うとタイミングを合わせたかのようにグゥ~とお腹がなったので逃げたくなりました




