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素数を数えよう——ライト

 戦闘終了後、俺は傷口に何かの草の汁をかけられ包帯を巻かれた。薬草らしいんだけど傷は浅いし包帯と止血だけで良かったんだけどな。後臭いんだ……コレ


 「いけません!村の恩人に大事があっては村の名折れ」とか言われたので仕方なく治療を受けた


 紋章のヘルプによると紋章の強化状態にしておけば早く治るらしい。後でこっそり流しておこう。良いことを知った


 で、今は宴モードになっているんたけど普通に酒を進めるのはどうなんだ?…全く。中学生の忍にまで飲まそうとするんじゃない。肉を勧めればいいんだ。コボルト肉を。畜産の肉を越えた魔物肉をだ。俺もさっき食べたけどさっぱりとした脂にしっかりとした歯応え。ただ焼いただけなのに濃厚な肉の味は久々に美味いと言える


 そうそう、コボルトが持っていた剣はこちらで回収した。コボルト本体は村に寄付したら肉で宴会を始めたけど牙とか骨とか毛皮は欲しいらしいので譲った。宴会と一泊を理由に素材代は断った。裕福な村じゃないだろうからさ。剥いだりもできないし


 しばらくして村長が女の人を連れだってやってきた。手には五枚の大きなタオルを持ってる


「お湯を沸かしました。湯浴みがお好きだとか」


 まぁ嫌いじゃないけどさ。宴会も途中にある建物の裏に連行されると沢を改築してできた露天風呂を見つけた


 建物を通り―—この家に臼、歯車があるってことは水車小屋か—―勝手口から外に出る


「露天…風呂?」


 恵が呟いた。あまり大きくはないけど一応全員が入っても問題ない大きさだ。入らないし入れないけど。温度調節は河の水を使えって事だな


「これなら男女分けるだけで入れそうね」


 それにしてもよくこの短時間に、魔物を退治してから二時間くらいしか経っていないのに造れたな。村人の製作の早さについて鋼介に話しかけてみる


「あ、俺造った。一応下は石で詰まってるから泥が浮いてくることはないと思うぜ」なんて奴だ。


 ちなみによく焼いた石が熱源らしい。この村じゃ薪も取れるだろうし村興しになるかもしれないな。っていうか宴会の準備の間だけでよく作れたな


「せっかくだし、入ろっか」


「そうですね」


「お先」


 三人は寝る前にしっかり入りたかったらしい。ゆっくりすればいいさ。汗もかいたろうし薬草入りの液体だってかかってるかもだしさ


「じゃ、私達入るから覗かないでよ。」


 もうこれは振りなんじゃないだろうか?覗いて欲しいのかもしれないな。


 そういう点ではまだ初心者チキンの俺だ。かなりの難関であるため今は諦めざるを得ない。次振られたら鋼介を突撃させてみよう


 村長といた女の人だけどどうやらお風呂要員だったそうだ。三人の体を洗うと風呂からあがるまでついていたそうだ。


 続いて俺達の体も洗うつもりだったそうだけど零華が断った。女の人は実は村長が気をまわしてくれた肉体的な運動をするための要員でもあったようだ


 少し残念にも思う。顔には出さないようにするけどさ


――――――


「ふぅ……っ!!」


 温泉に身体を浸して体重を預けた。鋼介がまた焼いた石を入れたから熱いな


「腕滲みるのか?」


「まあな。結構痛いぞ。今度斬られてみろよ」


「どこのドMだよ。しかしあれだな。ライトってやるな」


 湯で顔を洗って切り出してくる。鼻水出てるけど湯に入れるなよ


「どうした?急に?」


「ん~。だってよ。この村救ったじゃんか。高校生が村一つをだぜ」


「運が良かったんだよ」


「ライトがリーダーで良かったよ。俺ももっと活躍したいぜ」


「俺はもっと楽したいよ。でも村が無事で良かった」


―—「そうですよ。ライト様のお力で救われたんです」


 水車小屋の方から声がして1つの人影が近づいてくる。見えたのは体を隠したニーナだ。石畳みの引かれた道を揺らしながら歩いてくる。やっぱり大きいな


「ニーナ!だめだ!今は俺達がいるから次で入って…」


 ニーナは大判のタオルを巻いている以外何もつけていない…と思う。


「いえ…ライト様のお背中を流させていただこうかと思いまして」


 ニーナはゆっくりとこちらへ歩いて来るけどちょっと待て!こっちも心の準備が!!


―バシャッ


 鋼介が急に立ち上がった。びっくりするだろ!こんな時になんだよ


「何でライトばっかりぃぃぃ!!!」


―ガン――ジューー!


 いきなり風呂から出て石を焼いている石の竈にぶつかっていく。その衝撃で湯船に入った熱された石が温泉の温度をあげる


「うわっ蒸気が!」


 この温度。おい!やけど……したんじゃ……と思って見たら紋章が光って全身赤黒くなってる。何かの効果か?あ……元に戻った


 素っ裸で川に突っ込んでいって途中浅瀬で転けた。


——ゴン



 顔面から河に突っ込み海老反りになった。何が悲しくて鋼介のナニを見なくちゃいけないんだ


 あと嫌な音がしたけど大丈夫か?体の前から水面に倒れる鋼介。お…おい。流されているんじゃ…


 流石に助けないといけな——


 ―ガラ…


「ライト様、お礼…させてください」


 なんて言われたらどう断ればいいんだよ 。この瞬間鋼介の事は完全にどこかに消えていったのは仕方ないと思う


 やばい……ダメだ。そうだ……素数だ。素数は孤独な数字、俺に勇気を与えてくれる…



1…2…3…5…7…13…17…23…29


「はっ!」


 気がつくと俺はニーナに背中を洗われていた。その洗ってるタオルは持ってきたのか?巻いてきたタオルなのか?今、裸なんじゃ…


 やばい、心臓が破裂しそうだ。神は高校生になんて試練を…あ、神はいないんだった


「ライト様……前を失礼します」


 こういう時は……あ……どうすれば……


 ニーナは俺の横を通ると裸のまま俺の目の前に来て膝まづいた。眼に入る金のワカメ、二つのメロンにサクランボ……表現が古いか?それをふよふよと動かしながら俺の足と胸を洗っていく。そしてまだ洗っていない最後の場所を目指すニーナ


「ライト様?どうで……キャア……鼻血が……」


 —―ドサ


 ああ…石が冷たくて気持ちいい…な



―――――――――――――――――――――――――――


 ……………………………………………



 やらんぞ……俺は『知らない天井』なんてネタ。


 体の感覚から分かったけどタオルが額に、身体にシーツがかかっているだけで裸だ


 しかしどうなったんだ?頭が痛いし気持ち悪い。確か風呂に入ってて鋼介が逃げ出して流れてって…


「あら…起きたの?」


 零華が月明かりで本を呼んでいた。気づくのを待っててくれたのか?


「我らが『美女に迫られ裸で鼻血を出して気絶したリーダー』体調は?」


「……すみませんでした」


 はい……全部思い出しました


「ああ『素っ裸で川流れした馬鹿』も回収しておいたし安心して『美女の裸体を見た上に迫られて裸で鼻血を出して気絶したリーダー』」


「勘弁してくれ」


 俺は体を起こすと自分の服を見つけた。着替えると言うと零華は本を閉じて部屋から出ていった。手早く着替えて外に出るとドア脇に零華がいた


「皆はニーナの家で休んでるわ。鋼も体調崩してるし馬車で暖かくさせて休ませてる。ライト君の体調は?」


 良かった。いつも通りに戻ってる


「頭が痛いくらいだ。恐らく湯中りだな」


「そう。なら水分とって良く寝るのね。出発は明日の昼にしましょう」


 俺は頷いて無言で零華の後ろを歩く


「なぁ…」


「ん?」


「俺、上手くやれたよな?」


 怪我人出しちゃったけど出来る限りやったと思ってる


「ええ、そうね。よくぞ魔物を倒して村を救ったと思うわ」


「そうか」


 そうか…良かった


「もう休みなさい。準備は私達でやるから」


 しゃべってる間にニーナの家についた。零華は寝室へ行った。向こうは女の部屋だということだな。わざわざ確かめる気はない。俺はリビングに転がって静かに目を閉じた。


 鋼介がいないなと周りを見渡すと窓際に簀巻きにされて転がされていた。周りに服が置いてあるから素っ裸のままくるまれているようだ。服は畳んであるから零華の仕業だろう。まぁ恋人でもない男の裸なんぞ見たくないだろうからこれでも精一杯やったんだと思う。俺も裸だったし




 その夜、美女に迫られ裸で鼻血を出して気絶したリーダーと何度も言われる悪夢を見てしまった。誰にも相談出来ないのが嫌な所だよ


 翌朝目が覚めると近くに皆がいた。いや、零華がいないな


「おはようございます。ライトさん」


「兄さん。おはよう」


 恵と忍だ。普段通りだし昨日の事を知ってるのは零華とニーナだけか。話題にならないようにしよう


「ライトさん寝坊助さんですね。もうお昼前ですよ」


「ほら!兄さんタオル!水は裏手にあるって」


「…ああ」


 短く答えると外に出た


「よぉ」


「ああ」


 鋼介がいた。体調はそんなに悪く無さそうだな。頭は相変わらずそうだし、何故風呂に入っていて起きたら簀巻きだったのかさえ気にしてないもんな


 顔を洗ってタオルで拭く


「なぁ昨日の風呂場から記憶ないんだけど…何かあったのか?零華がイヤに冷たいんだよ」


「い、いや知らないな」


「そっか、何なんだろ…?」


 素っ裸で川流れした馬鹿はいなくなったんだな。良かった。是非このまま帰ってこないで欲しい。一緒に鼻血を出して気絶したリーダーが帰ってきちゃうからさ


 部屋に戻ると零華がいた。王都への道を調べ食料を買い足してくれたそうだ。コボルト肉は流石になくなっているので鹿肉だけど


「ニーナがお弁当作ってくれたからお昼に食べましょう。準備は良いわよね?」


 大丈夫と伝え荷物を外に運ぶ。馬車を広場に移動させると村人が見送りに集まってくれた。1日しかいなかったのに見送りまでしてくれるなんて嬉しい


 皆も挨拶しているので馬の横で待っているとニーナが来た


「お身体は大丈夫のようですね」


「ああ、恥ずかしながら」


「あら、ライト様なら変に思ったりしたりしませんよ」


「はは…そうしてくれると助かる」


 本当に助かる。黒歴史はまっぴらだ


「…また、会えますよね」


「ああ」


「ライト様ならいつでもオッケーですから」


「―ぶっ」


 吹き出してしまった。同時にニーナの裸を幻視してしまった。こんな村の真ん中で……なんてエロス


「お、覚えておくよ。それと貴族や騎士じゃないから様はいらないよ」


「そうですか…?じゃあライトさん、また会えるのを楽しみにしてますから」


「ああ」


「私達もね」


 どうやら挨拶が終わったようだ。いつから後ろにいたんだろう。余計な事を聞いてないといいけど


「それじゃ行くよ」


 馬車を動かして村を出る


 ……………………………………………


 ……………セーフ



 しばらくは馬車に沈黙が続いた。村から出た寂しさがあるからと思う。俺もそうだし。昼ご飯にニーナの弁当を食べたが結構いけた。何の肉かは知りたくないけど鹿肉でもコボルト肉でもなさそうだ


「そうだ。ライト君が戦ったコボルト。あれ上位種らしくってハイ・コボルトっていってかなり強い魔物らしいわ」


 毛の長いやつか。他よりも知能あったみたいだし。もしかしたらそいつが美味い奴だったのかもしれないな


「怪我人が出たくらいだもんな」


「これからもっと強いの出てくるんだよな」


「ああ。気を引き締めて行かないとな」


 しばらく馬車を進めると山に入った。王国へ続く道に入ったのだろう。山道なのにしっかりと整備されていて石や木の根のような邪魔になるものはない


 山に差し掛かり山を迂回するように進む道を走らせる。だんだん日が傾き空がオレンジ色に染まりつつある


 途中休憩も取ったけど大分進めたし時間もたったな……


 夕日を見ながら少し考え事をしていた


「城についたら帰るまでに、もう一度訓練する」


「ライト君、もっと私達に教えてよ。鋼には負けてられないし」


 本音は鋼介を少しは助けたいからだろう。鋼介が危ない目にあったのが忘れられないようだ


 鋼介については口には出せないでいるので、そこには触れず了解した



 話題に上がった鋼介はいつのまにか寝ていた。動いている馬車で寝るのって結構しんどいはずなんだけどな。零華は起こさないように体勢を横に変えてやっていた


「ばーか」


 小さく愚痴るのが聞こえた


 山は、ちょうど上り道の頂上のようだ。今度は緩やかに下っている。山にはまだ上があるが道もなく今は登る事もない。寄り道はせずにおこう。山肌に気をつけ進む


「こうして、うん。そう」


 馬車の中、女三人は何か話している


「何話してるんだ?」


「秘密です」



 恵に笑顔ではっきりと言われた。とりとめのない話に違いない。そう思い馬と道を見つめた


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