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気がつけば異世界——ライト

 唐突な光が意識をはっきりとさせていく。いつもと同じ風景。だけど見たことのない場所や図鑑でしか見れなさそうな植物が今見ているものを夢と教えてくれる。


「どこだよ……」


 今流行りのVRMMOかと思ったけど違うみたいだ。キャラが自分のまんまだしな。ある程度変える派だし


 ちなみに俺もやっている。アナザーワールド・オンライン。やけに凝った映像技術と自由な職業、スキル等自分にあったキャラを育成できる今話題のゲームだ。匂いや温度まで再現されていた。最早名前の通り他の世界って言っていいレベルだ


 そんなゲームで俺は、まぁ上級者……とは言えるレベルだろう。一応魔法剣士という職業で遊んでいる。


 ……話が逸れた。まず寝たからな。ゲームの線は無し。


 で、次に考えたのはよくある話の異世界召喚。かと言えば近いかも知れないけど召喚者らしき人物や魔方陣もない。こんな原っぱでできるものなのか?いや無理であると信じたい。せめて魔法使いとか王様くらいいないと信じないぞ。


 そもそもチートと呼ばれるような力も感じないしさ。あったらいいねぇチート


 残った可能性としたら転生だけど最後に見てたTVの内容も覚えてるし事故や殺された記憶はない……この若い身で自然死……はないな。もしくは転移か?主人公って柄じゃないんだけど


 という訳で夢だ。うん。これが一番しっくりくる




 ……で、夢を見ている間ずっと立ち尽くしたが何も変わらず一日がすぎた。なんだこれ?やっぱりゲームか?バグか?


 二日目まわりには何もない。食べ物はもちろん水もない。目覚めた時は思い切り腹が減ったし、喉が渇いていた。おかしな事に尿意を感じた。このままして朝起きたらおねしょしてました。てへっ♩とかならんだろうな。勘弁してほしい


 三日目は初めの地点を見失わない程度に探索したけど特には何もなかった。そして我慢できず尿意に負けた。起きたらおねしょ……何てことにはならなかった。木陰でした尿はどうなった?


 四日目、意味があるものではなく、どうでもいい程度の事はあったけど


 とりあえず自分がしたことから整理するとしよう。まず今着ている物だけど何故か制服だ。一応だけど下着はトランクスだ。良かった。これで女物の下着なんてつけてたらどうしようかと思ったもんだ。変な性癖は持って無いと思う。うん


 残念ながらそれ以外は何もない。時計や財布も無かった。物に執着しない方だからだろうか?


 おかしなところといえばこんな野原なのに何もいない。鳥も、兎も狼も……狼はいやだな。蛇くらいにしとこう。………………ボッチだからとは認めない。きっと孤独が好きなだけだ


 とまあ精神状態を立て直しつつ周りを見渡す。今見当たらないだけでいずれ見つけるかもしれないがやっぱり狼は困る。それに伴って自衛できそうな物を探した


 だけど残念な結果に終わった。辺りを見渡したけど葉っぱに石、雑草、岩、木しかなかった。木には実がなっていたけど怖くて食べることはなかった


 こんな野原で腹を下したくないしさ。


 一応木を折ってみようとしたけどあまりの硬さに断念した。何て木だ。しなりもしなかった。石も張り付いているみたいに重かった。何でできてるんだよ。全く


 そうしてる間に思った「飽きた」


 変わらない夢をみて一人呟く。同じ夢ばかりで飽きた。つまらなさすぎるぞ俺。それとも現実の俺はストレスでも抱えてるのだろうか、やめてほしい。高校生で禿げたらどうしようか?困ったものである


 何故見るのかはわからない夢の意味についてなんて調べてもよくわからない。見知らぬ場所だからと言って別に記憶喪失な訳じゃない。ゲーム関連は覚えてたしな


 名前はライト。輝山閃人ライト


 高校二年。家族構成は両親と自分、そして妹。得意な科目は国語だ。一応髪は染めてる。ダークブラウンだ。当たり前だけど髪は短い…と言っても坊主や五分狩りじゃない。ま、無難な感じだ


 顔は…あまり言う気はない。自分で誉めるほどナルシストじゃないからな。運動能力は中の上程度…まあまあだな。


 分からないのは何故ここにいるかだ。理由くらいは知りたかった


 これまでで変わったことがあったとしたら…


「おっ、いたいた。お~いライト」


 後ろから声をかけ少年が近づいてくる。2日前に急に現れた少年は同じ天臨学園付属高等学園の2―A。同じクラスの騎土鋼介だ


 背は俺より高く運動神経も良かったはず。部活はやってなかった気がする。多分帰宅部だろう。真面目に何かを取り組むような奴とは思えないからな。好戦的な目でなかなか形のいい鼻にでかい口、髪は短く後方にたてている。成績は…残念だった気がする。っていうかバカだ


 特に仲が良いわけでも悪いわけでもない。ただの知り合いだったが…以外と馴れ馴れしくてウザイ。そういえばクラスでもお調子者だったな。特定の女子に怒られているのを見たことがある


「ライトって呼ぶな。ちゃんと輝山って名字で呼べよ。いつから名前で呼び合うような仲になったんだ」


 腕を組み視線を彼から反らす。そう…本気で馴れ馴れしい。軽く殴ってみようか?古い機械よろしく叩いたら治るかもしれない。…バカにつける薬はないっていうし無理かな


「ライトはライトだろ。面倒だからいいじゃねえか。」


 笑いながら馴れ馴れしく呼んだ騎土に近づく。こちらに警戒する様子はないな。ただうざい。やっぱりうざい。初めて会った時はちょっと話して別行動にした。めんどくさかったしな。次の日はこちらが先に見つけたので距離を取ってやり過ごした。今日は見つかってしまったし仕方ない。できるだけ関わらない方向で行きたいな


「にしても、どういう訳なんだろうな。俺達が同じ夢?にいるなんてよ」


そう夢だ。そう考えるのが楽だ。全くいい迷惑だ。


「知らん。こっちが聞きたいくらいだ」


 まぁ、誰に聞けるわけでもないけど…聞けるくらいなら原稿用紙100枚分の説明と謝罪文を用意させたいところだ。その後でうざいやつと一緒に巻き込むなと小一時間説教してやりたい


「世界地図でいったらどのあたりかな?」


 気候や気温から判断するとイギリスとかが近いはずだな。ここが地球と同じく季節があるならだけど……


 ただし見える範囲はほぼ緑。森や山、丘で文化が全く見あたらない。


「わからない。そもそもこんな場所もしらない…」


 とにかくまだ進んでない方向を行こう。特定の行動でイベントが起こればゲーム世界という事もあるからな。可能性は捨てられない。


「今日は向こうに行くことにするけど騎土はどうするんだ?」

「どうって?」


 はぁ…考えない奴だな。聞かずにさっと離れてやればよかったか


「一緒に来るか別の方向へ進むか」

「んんん~」


 早く決めろよな。いつまでも立ってるの嫌なんだけど。愚痴りながらも待っていると遠くから頭に響く嫌な音がした


 ――――キィィィィ


 少し耳障りな音がして耳を抑える。ガラスを爪で引っ掻いた時の音のようだ。耳が痛く嫌な気分になる


 音のなる方には光の柱が立っている。来てから初めての変化だ。こっちに進むのがイベントの開始コマンドだったのかもしれない。もしくは時間経過か。どんだけ気が長い奴向けだよ


「ライト行ってみようぜ。何か進展あるかもよ」


 進展か…でもあの光は何だろうか?危険なことじゃ無ければいいけど。光の柱の方に向かって少し歩く。危惧ばかりしても仕方ないよな。何かあるならいくしかないか。最悪引き返せばいいし


「…そうだな。何かわかるかもしれない。行ってみるか」


 座り込んだ腰をあげ土を払い柱へ歩き出す。歩き出した足元が草を踏みしめる。……この感覚は現実でもアナザーワールドオンラインでも感じた事がある。どれかの可能性を消去するには弱いな


「ライトよぉ。こんな時に言うのもなんだけどよ…今度のテスト…自信ねぇよ。ライトは?」


 歩くスピードを合わし横に並んできた。本当にこんな時にだな。その顔は困惑が満載だ自信なんて欠片もないだろう。バカだし。授業なんて茶化すばかりで真面目に受けてる方が少ないだろう。


 確かに俺達は高校生だし、今は7月1週目、2週目の末には期末試験だ


「…そうだな6・70ってとこか。まぁ赤点はないな」


 授業は普通に出て成績もそこそこ悪くない。国語で点をとるつもりだ


「俺もそんな点とってみたいぜ。いつもギリギリなんだ。下手すりゃ追試だよ」


左右の手のひらを空に向けるお手上げポーズだ。


「なっ!ライト!ちょっと教えろよ!コツとかあるだろ?なっ!なっ!!」

踵を返し腕を掴んでくるが手を払い先を歩く


「努力しろ。何もせずに点がとれるわけない」


 バカを引き離し光の柱を見る。さっきよりは柱に多少近づいているがまだ相当な距離があるな。辺りは草原から岩場になり進むスピードがやや落ちた。いつのまにか山を登っていたのか。先に進むほど後方の景色が拡がっていく。切り立った岩の上に乗り後方を見る。初めの位置からはかなり進んだようだけど柱へはまだしばらくだ


 ん?柱側に振り向いた時動くモノを見つけた……人か?


遠くてまだはっきりは見えないがニ足歩行をしているようにみえる


「なぁライト~。なんで俺達だけなんだ?チートもねぇし、魔法も使えなさそうだし、せめてかわいい女の子の一人くらい……って聞けよ」


 かけられた言葉を無視し動くモノをじっと見る。連れのバカを手招きして呼ぶ


「あれを見てみろ。柱へ向かっているんじゃないか?」

「おっ?何?人?」


 近くの岩影から見下ろすが上手く見えないな…


「やりっ!神様ありがとう。」


 満面の笑みを浮かべ指を鳴らす。ちゃんと説明しろよな


「この距離で見えるのか?で……何が見えた?」


「女の子だよ。お・ん・な・の・子!顔は見えなかったけど間違いない。神様ありがとう。んで、ありゃあ女の子だよ。どうする?ナンパするか?」


 溜め息を一つ洩らし女の子の周りを確認する

周辺には動くものはない。そういえば風も吹いていないな


「一人か…こっちには気づいてないみたいだ」

「先手必勝!あの娘は俺がナンパする!」

「あっ!おいっ!」


 引き留める声は届かず来た道を引き返して行ってしまう馬鹿が一人。友好的な相手じゃなければどうする気だよ


「………はぁ」


 下山するか……無駄な疲れだ


―――――――――――――――――――――――――――


 先に戻っていた鋼介は目あての女の子を見つけたが何やらがっかりしているように見えた


「なんでお前までいるんだよ…」


 鋼介は女の子を見て、次に降りてきた俺をみた。


「あ~もう訳わかんねぇ」


 顔を押さえ困惑する。さっきはがっかりしていたのが今度は頭を左右に揺らし目を閉じる


「訳が分からないのは私の方よ。なんで私の夢に出てくるわけ?説明してよ!」


 女の子は鋼介を知っているようだ。見ると天臨学園の制服を着ている。鋼介も知っているようで俺も見た事がある。たしかクラスメートだな。


 運動靴にレギンス、制服といった装いだ。髪は耳を隠し肩まで、流れるようなストレートのダークブラウン。クラス内では1・2を争う人気の女の子?だ。ちなみに俺も嫌いじゃない


「待て!乱暴はよせ!話せば分かる」


 ブレザーを掴まれたたされた鋼介は女の子を手を前にして止め落ち着かせ話せる状態にした。この子こんなに乱暴な子だったのか?女の子は少し不機嫌な様子で鋼介から離れ、俺を一目見て鋼介に顔を移す


「じゃあ教えて。なんで私の夢にいるの?ここはどこ?あの光の柱はなに?この人はだれだっけ?見たことある」


 まくし立てるように言葉を投げてくる


「どこなんだろな?なんだろな?こいつは輝山閃人。クラスメートだろ。ライトって呼んでやってくれ」


 女の子は鋼介を平手で叩いた


「なんにも分からないじゃないの!役に立たないわねぇ!」


 女の子が近寄ってくる。先程までの火のような剣幕は消えている。よかった。俺まで殴られることはなさそうだな。


「こんにちはライト君。私は青山零華よ。零華でいいわ。よろしくね!」


 手を握り頷く。二人とも砕けてるな……まぁいい。


 合流したと言うことで3人でとりあえず一息つくことにした。バカはどうでもいいけど俺は零華と情報交換がしたい


「……どうやら誰の夢ってことはないみたいだな」

「そうね。三人が同じ夢を見るわけないしね」


 俺達二人は特に話すことなく状況を理解した。結局三人会っても変わらない。光の柱に向かうしかないみたいだ。


「――そう……じゃあ3日前に来た人がいるかもね。ライト君が4日前だし。鋼は2日、私は今日だからさ」


 零華は岩に座り足をぶらぶらさせる。スカートの裾が膝丈だからどうしても目が吸い寄せられてしまう。さすがは秘密のデルタゾーンだ。


 ……違う。そういう事をしてる場合か。気を取り直して会話に戻る。でもチラリ


「そうかもな。でもどこにいるか分からない人を探す訳には行かないな。まずはあれに行くしかない」


 岩からぱっと飛び降り柱を指差す零華。デルタチャンスは終わりみたいだ。


「早く行くわよ」


 鋼介は促されてゆっくり立ち上がっていると後ろに回り込んだ零華が背中を叩いた。尻を蹴飛ばされた豚のように飛び上がり涙目で歩き出す鋼介。しかしいい音だった


「だらだらしないで早く立つ」


 鋼介を引っ張っていく零華を見ながらついていく。眺めると光の柱は思ったより遠く歩いて行くには距離があるな。


「2人は来て何時間たった?まず何時に寝た?」


3人とも時計は持ってない。今が何時かもわからない


「俺は1時位だった気がする。ここに来てからは3時間位かな」

「私は5時間。寝たのは0時位だし」

「起きてれば午前4時~5時ってことか…あと2時間くらいで目が覚めそうだな。時間迄に出来る限り進もう」


 初めて来た時から今日までの事を話したら流石経験者と褒められた。安心した面持ちで少し笑顔になったけど鋼介は何も考えてなさそうなのでまた不機嫌に


「同じ経験者なのに鋼は何で何も教えてくれないかなぁ。女の子が不安になってるのに」

「そ、それは…そのライトが説明すると思ったし……俺が言う必要ないかなって」


 しどろもどろになり身振り手振りで誤魔化す


「ふぅん…もういいわ。行こう、ライト君」


 急に腕を引かれて無理矢理進まされる。鋼介はうまく逃れることが出来たと勘違いしながら後についてきている


「見て、頂上みたい。思ったより低い山だったみたいね」


 零華が山の頂上を指差して言う。そうだったか?意外と高かった気がするけど。まあいい。気のせいだろう。疲れない方がいいからな


 俺達は鋼介をおいて頂上へ先に登り詰める。頂上までは行かず迂回して反対側へ


「柱までは遠いね~」


 柱は山より低い位置にあるがまだ遠めだ。鋼介がついてきてるのを確認すると三人で早歩きに山を降りる。といっても岩から岩へ飛び移る程度だけど、それでも登るときよりも早く降りることができた。転けるのに注意するだけだったしな


「意外と早く山越えできたな」

「ええ……まだ時間があるなら―—」


 麓まで来ると急に意識がとおのき、別れ際二人とは何も話せなかった。最後零華は何を言おうとしていたんだろう。学校で聞いてみるか…


 そうして俺はベッドに戻ってきた。これもいつも通りだな。


 目覚めた時はベッドの上で、枕元では騒々しく目覚まし時計が騒いでいたみたいだけど起きなかったらしい。寝ぼけた目で見ると目覚ましも仰向けで寝ていた。俺が寝る前は立っていたから俺が睡拳で一撃を食らわせたのだろう。意外と多いので自覚している


 だいたい目覚ましで起きることは無いし、いつもいつの間にか消しているのも起きない原因だ。いつもならここでまた瞼が落ちてくるはずなんだけど、そうすとーんって


 でも今日は起きた

原因は――ガンガンガンガン!!!!!と頭に響く音。うるさいな


 目が覚めるような轟音と共に女の子の声がする。目を開き見たのは少し年下の女の子で小型のフライパンを持っていた。今どきフライパンって……ベタ過ぎる。あと近所迷惑だぞ


 白い肌に大きな目、黒髪を左右に分けて額を出し、後ろ髪を根本から結び背中に流している。口元をしっかりと結び俺が起きるのを待っていた。女の子は微妙に形の違う天臨学園の中等部の制服を着ている


 幼馴染みなんていいもんじゃない。彼女は輝山忍で俺の妹だ。血は繋がってるから変な妄想はやめるように。寝ぼけた頭にスイッチを入れる


「今どきフライパンはない……」

「だったら早く起きること、夜中に何してるか知らないけどちゃんと学生らしくして」


 むぅ…朝から文句を言われてしまった。俺が起きるのを確認すると小言を残しフライパンをひっさげて部屋を出ていった


「……ふぅ」


 夢の中で結構歩いたはずだったが体は疲れるどころかわりと元気だった。高校生だし息子元気だな。デルタゾーンのせいか下も少し元気だ。妹バレしなくてよかった


 パジャマ代わりに着ていたジャージを脱ぎ天臨学園の制服を身につけ学校へ行く準備をする。手早く制服に着替え階下へ降りる


 リビングへ行くとスグに朝食の香りがただよってくる。テーブルの上にはトースト、ハムエッグ、コーヒーだ


 だいたい同じメニューを食べることで、また不変的な毎日が始まるのを実感する……なんて言ってみるがいつも通りなだけだ


 『食器はシンクに!』という置き手紙があった。忍が書いたようだな。いつのまにか家から出たみたいだ。手紙の字は乱雑で急いでいることが窺えた。


 食事については朝食は忍が、夕食は俺が作るといった生活をしている。もちろん忍が先に作ってしまう時が結構な頻度あるけど。どうやら俺は料理を美味くは作れないみたいだな


 両親は結婚して相当経つのに新婚さながらの仲の良さで今も海外旅行をしている。実際帰ったとしても仕事で出るので家にいるのは2ヶ月で2・3日ほどだけ。時々メールが入っているがたいてい二人のツーショット写真なのでこちらの心配よりは満喫しているみたいだ


 まぁ、家を空ける代わりに生活費等の不自由はさせないよう仕送りをしてくれている。そういえば何の仕事してるんだったか?忘れたけどそういう理由で俺達は兄妹2人で生活している


 トーストかじり咀嚼。んぐんぐ…


 相変わらず良い感じに焼いてあるパンをコーヒーで流し、食器をシンクにさげ水に浸した


 登校の準備を終え家を出る。これでもかってくらいの日差しが目を焼きそうだ。そろそろ秋に入れといつも思う。……まだ7月だけどな


 通学路にある輝山家の家の前を同じ高校の生徒や他校の生徒が歩いている。天臨学園は素行の悪い生徒はそんなにいない。ただし鋼介除く。アイツは遅刻、サボりの常習犯だ。仲間受けはいいが教師に怒られているのを何回か見たことがある。俺はそんな奴とは同じになりたくない。


 みんなも同じでちゃんと時間にあわせ通学しているみたいだ。その中に混ざり天臨学園を目指す


 学校に着くまでに昨晩の事を思い出し整理してみる。現地の場所は不明。季節感は一応あるみたいで、夏だった。ただし風もほぼ無いしないし雲が微動だにせず違和感がありすぎだ。動物の糞とか、土に残った足跡とかはあったけど生き物それ自体は見当たらなかった


 何故だ?


 そして光の柱の事はわからないな…結局行って調べるしかないか……それよりは零華の言った事の方が意味がありそうだな。きっともう1人いるかもしれない……それに今日増えるかも知れないのも気になる。まさかウチのクラスから選んでるのだろうか?次は誰がくるんだろう?出席番号2番の綾成あやな深澪みれいだったりするのだろうか?それなら嬉しいぜ。割と好みだ


 そうこう考えてる内に天臨学園の校門に着く。学園の敷地内へ吸い込まれるように入っていく教師や生徒の流れにのり登校。2年のクラスは2階にある。中央階段のある廊下を歩く


 毎日の風景だ。特に変わった様子はない。其処彼処で、友達と話す声や挨拶が聞こえる


 ただ違ったのは階段を上がる一歩を踏み出そうとする俺に突然何かがぶつかり転んだ


「っつ…」


 体を起こし自分がいた場所を見ると女生徒も体を起こしていた。体を起こすと女生徒に近寄る


「あたたたた……思ったより強い目だったなぁ」

「……?大丈夫か?」


 頭が……の心配ではない。さすがに今あった相手にそんな気は起こさないからな。手を差しのべ女生徒を起こしてやるとスカートを直し頭を下げる。こういう時にはパンツが見えるのが基本なのにわかってないな


 女生徒だけど。長く綺麗な栗毛が印象だが不自然に地味っぽく見せるような前髪ときっちりとした改造なしの制服でいかにもな普通を醸し出している。不自然過ぎる。もしくは作りすぎといった感想を抱いた


「あ、ありがとうございます 先を急ぐので…それじゃ。また。」


 目を合わせた時、何かを確認したような目付きだった。不思議に思いもう一度見ると挙動不審になった。女生徒は1階の1年の教室へ逃げるように入っていく。最後のセリフは教室へ入りながらだ


「何だったんだ?」


 残された俺は階段をあがりなから彼女が言った言葉を呟く


「また?」


 授業開始のチャイムがなっている


——————————————————





 午前中の授業は滞りなく終わり昼休みだ。教室では持参の弁当箱を開けている生徒もいたが俺は弁当は持って来ていないので学園内の食堂へ向かう。正直学食は好きだ。安いのもあるが意外とうまいんだ。これが


 さて、行くか。食堂は校舎からはなれているため、一度校舎から出る必要がある。少しでも速く席に着くためだ。毎度の事だがすぐにいっぱいになるので座り損ねるといつになるかわからないんだよ。階段を早足で降り、喋りながら歩く生徒を抜かす。みんな食事は楽しみのようだな


 1階へ降りると後ろから足音。ついてくる気配がする


「食堂ですか?今日は豚カツ定食ですよ」


 後ろから声が聞こえた。今朝の挙動不審な女生徒だ。


「なにか用か?」


 振り向くと立っていたのは、やはり今朝の子だ。右手に分厚い本を持っている


「その……ご一緒しても良いですか?というより行きましょう」

「何故?ですか?」

「何故?………?」


 言うよりも僅かに早く言葉をだす彼女。調子が狂い頬を掻こうとすると先に頬を女の子が掻く


「知りたいですか?なら行きましょう。座りながらが良いですよね」


 女の子は先に進み校舎から出て行く


「今日は良い天気ですねぇ」

「そうだな」

 定番の会話がないときのセリフだな。こんなときはみんななんて返すんだ?


 会話に困ってる俺には気にせず女の子は持ってた本を開き手を添えて目をつぶる。僅かに光が漏れた気がする…気のせいか?


「ふふっ。見ててください」


 中庭はたくさんの生徒がいるがそのなかの一人を指差し「あの人、転びますよ」と、予知めいた事を言い出した。電波系かと首をかしげかけたがとにかく見ることに。指は急いでいるの男子生徒が追う


「当たるんだろ。理由は分からないが。」


 またクスッと笑い男子生徒を見つめていた


「3・2・1・0」


 カウントダウンを始め0と言った時、男子生徒は思い切りコケた。思いきり腹を打っていたが大丈夫か?と思っていたら男子生徒は周りを見て恥ずかしそう立ち上がるとまた、駆け出し逃げ去った


「どうですか?」


 どうですかって何が?予言には驚くが食堂を目指す足は止めない。理屈は分からない。質問が増えただけだからな。


 食堂に着くとたくさんの生徒が座っている。さっそく豚カツ定食の食券を買おうと並ぶが女の子が引っ張る


「はい。これどうぞ」


 2枚持っていた食券の内1枚を渡してくる。食券はやはり豚カツ定食だった。食券を買う列の先頭から豚カツ定食の食券が売りきれたという声が聞こえる


 改めて女の子を見るとニコニコしていた


「本当はあの人食べる事ができたんですけどね。さ、あの席に行きましょう」


 女の子は豚カツ定食を渡すと自分の昼食を受け取り空いてる窓側の席に座り俺は対面に座った。本を膳の左に置き自分の昼食に手を伸ばす。彼女の昼食はビーフカレー…結構食べるんだな。


 福神漬けを乗せさっそく口に運ぶ。ん~!と満足そうな顔だ


「さっきの予言。いや予言っていうより確信して言ったな?なんでだ?」


 定食には手をつけずに話に集中すると彼女は食べるのを止め本に手を添える


「では輝山閃人さん。通称ライト。現在16歳。2―A。朝はだいたいトーストとハムエッグとコーヒーを食べるんですね。妹の忍ちゃんと住んでて両親は旅行中。最近は同じ夢を見る…と」


 少し気味悪くなり敵意をのせた目をしてみるが話を続ける彼女。この子が転移か召喚の原因なのか?考えているとお小遣いや成人雑誌の隠し場所まで当てましょうかと言われたが断る


 ってかそれは知らなくていいだろ…


「別に調べたわけじゃありませんよ」

「そうだろうな。それじゃあ、食券の説明にならない」


 逆に興味がわいてきた気がする。何故この子は自分の事を知り、昼食を先取りし、夢のことまでしっているのか喋ってもらおう


「興味が出たみたいですね。まあ、なんでわかるかって言えば、ずばりこの本のおかげです。」


 分厚い本をパンパンと叩く。やけに分厚い本だな。図鑑三冊分くらいある。こんなものを持って登校してきたのか?


「実はこれライトさんたちの言う夢の世界の物で、名前を『星の黙示録』っていうんですけど…あ、星=地球ですよ」


 星の黙示録を差し出してくる。改めて見るとずっしりとして風格がある本だ


 彼女はスッと渡してきた。思ったより軽いのか?……って重っ!!この娘見た目以上に怪力の持ち主か?


 とにかく本を自分に向けページを適当に何回かページを開いても何も書いていない。文字どころか染みすらない


「それは私しか読めないみたいですよ…ただ星が知っている事や起こす事が書いてあります。外で人をこけたのも、券売機が詰まって売り切れになったのも星がしたこと。ライトさんを知っているのも私じゃなく星の方」


 分厚い黙示録を閉じ彼女へ返す。擦らないように持ち上げようと思ったけどやっぱり重いな…コレ


 地震とかの災害とか犯罪も分かるらしい。ただ預言者とかになるきはなく、犯罪について説明もできないから困っているそうだ


「信じるかどうかはあとだ。夢について知りたい。あれはどういう意味がある?柱はみたか?」

「見たも何も私はそこにいます。昨日青山零華さんが来ましたね。少し前に騎土さんて方も」


 彼女はいつの間にかカレーを食べ終えている


「今夜待ってますから来てください。ゲストもいますから。来たら全てが始まります」


 冷めた定食に手をかざした後、膳を持ち置き場へ持っていくとクラスに戻ることを告げた


「あ、ゴミついてますよ」


 肩についているらしいゴミをとったその足でそのまま食堂を出ていく。冷めているはずの定食を食べると何故か暖かかった。去って行く彼女を目で追うとさっきは気付かなかったが左手にうっすらと模様が……。良く見ようとしたけど次の瞬間には見えなくなっていた


「………?」


 なんだったんだ?疑問もそこそこに昼休みも半分になりそうだったので豚カツ定食を一気に食べ教室に戻る





 ……食い過ぎたか。キツいな



 ……急いで食べたからお腹が辛いよ。早く中等部に行かなきゃ

レビューや感想お待ちしています。書き込むのちょっと難しいって方はブクマ、評価だけでも喜んじゃいます

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