私、トカゲルームに、住みます。
前に書いた3章を短く一章にまとめちゃいました。
つたない文章ですが、読んで下さい。
いたっ!!!
気が付いたら私は仰向けに倒れ、頭の後ろが鈍く痛んでいた。
何が起こったんだか、全然分からない。私、何で頭打って倒れてんだ?おい!
倒れた状態のまま、考える。
確か、私は美術準備室にいたはずなんだ。
えっと、今は4月19日木曜日の昼休みで、私は親友たちが私の方を向きながらこそこそ話してたのを目撃して、あぁぁとショックを受けていていたら、ふらふらと美術室に来ていて。美術部に入っている私は絵を描くのがそんなに上手いわけではないけれど、描くの自体は嫌いじゃない。絵を描くことで、現実から逃げたかったのかもしれない。
でも、美術室は来月の運動会に使う応援旗の制作で忙しくて入れそうになかったから、仕方なくふらーっととなりの美術準備室に入って、隅の方に体育座りして壁に寄りかかったら、ばたん、と倒れたんだ。
うん。納得。
…いや、じゃあ今誰かがここに入ってきたらのびている情けない私の姿が見られちゃうじゃん!
私は慌てて起き上がって、気付いた。
私がさっき寄りかかったのは壁ではなかった。壁に似せた、隠し扉だったのだ。ものがごたごたと置いてある美術準備室にいた時は気付かなかったけど、よく見れば扉の部分だけ、少しだけ色が違った。
こんな部屋があるなんて、同級生たちからはもちろん、美術部の先輩達からも聞いたことがない。じゃあ私、学校の秘密の部屋に入ったわけだ! 親友たちに嫌われたと打ちひしがれていた上に頭をまともにうって最悪だったテンションが一気に上がった。自分の単純さに呆れたけれど、しょうがない。
それにしてもこの隠し扉は良く出来ているな、なんて感心しながら扉をマジマジと見ていた私は、扉の脇に彫ってある小さな文字に気付いた。
_トカゲルーム、気ままなトカゲたちの隠れ家_
トカゲルーム?
何だそれ?
とりあえず誰にも見つからないように隠し扉をもとに戻してから考えた。
トカゲルーム。その名前はきっと、この場所を知っている、もしくは在学中知っていた誰かがここに付けた名前なんだろう。それにしても、トカゲルームって変わった名前だな、と思わず苦笑が漏れた。幼稚園にあるお遊び広場みたいな名前。中学校の一室の名前にしては、ちょっとかわいすぎる。
でも、この部屋自体は案外いいかも、と私は改めて部屋を見回した。六畳間くらいの狭い部屋に、美術準備室と同じように美術の用具らしきものが乱雑に置かれていた。奥には窓がついていて、そこから4月のあたたかい光が漏れていた。窓際に置いてある大きな机とそこにごちゃごちゃと積んであるガラクタたちのせいで光は私のところまではあんまり届かないけれど、もう少し片づければ何とかなりそうだ。
あ、と思った。
ここ、私の家にしちゃおうかな。
ここなら、誰にも見られずに、一人で自由に過ごせる。ここなら、私が私でいられる。ここなら、辛い時だって、ふっと、楽になれるかもしれない。
私は足元に刻まれた小さな文字を、もう一度眺めた。
_トカゲルーム、気ままなトカゲたちの隠れ家_
気ままなトカゲ、か。
私もトカゲに、なろっかな。
ふっと笑みがこぼれた。その瞬間、ゴンと後ろで鈍い音がして、慌てて振り返ると隠し扉が空いていた。その脇に一人の男の子がさっきの私みたいに仰向けに倒れていて、彼の後ろには一人の少女が見える。
何がなんだか分からずに固まっている私をよそに、その少年はぱっと立ちあがり、上気した顔のまま、私に言ったんだ。
助けて下さい、と。