プロローグ
僕を包み込んでいた白い光が消失すると、視界がクリアになって周囲を見渡せるようになる。
何が何だか分からない光に包まれたかと思うと、今までいた場所からこの場所へと移動したらしく、周囲の景色が変わっている。
どうやらここは何処かの喫茶店らしく、品の良いアンティークなテーブルや椅子が所々に設置している。店内は清潔そのものであり、飾ってある調度品は飾り主のセンスの良さが如実に表れている。
店内には人がいないようだ。閑古鳥が鳴いているのか、それとも準備中なのだろう。
ふと視線を感じそちらの方を見てみると、この店の制服であろうか、白と青の縞模様を基調にした襟元や袖に品良くついたフリルがワンポイントのエプロンドレスを着たうら若き女性が尻もちをついていた。
彼女の気が強い事を語るかのようなきつめの眦が、今は灰色の瞳が驚きからか見開かれ、それを証明するかのようにぽかんと口が開かれている。肩くらいの長さの茶髪は僕の登場により乱れてしまっているが、元々癖毛のような気がする。
彼女の容姿は平凡といえば、平凡ではある。
だが、問題はそこではない。
紳士たる僕にとってみれば、女性が尻もちをついている事が重要なのである。
紳士たる僕は当然の如く、尻もちをついたことで開かれている彼女の秘境を真摯に見詰めなくてはならない。
エプロンドレスの裾が長いことで、彼女の秘境はもう少しで到達しそうなほど捲られている。
残念なことこの上ない。これがミニであるのならば、僕はとっくに秘境に到達できていたのであろう。
惜しい、実に惜しい。
しかし、嘆くことはない。
なぜならば、そこにはロマンがあるからだ。
中々到達できないからこそ、秘境と呼ばれているのだ。簡単に到達できるのであれば、それは秘境とは云わない。
だからこそ、嘆く必要はない。いつか辿りついてみせる、その秘境に!
ちなみに、紳士たる僕は秘境に簡単に到達出来るか否かはどうでもいい。到達できようができまいが、紳士たる僕はどちらも愛することはできる。
それこそが真の紳士というものよ。
――そうだろ、僕の息子。
僕の息子は同意と云わんばかりに天高く挙手をする。
惚れ惚れしいばかりに見事な挙手だ。さすが、僕の息子。
はちきれんばかりの力強さに何かが溢れだしそうではあるが、そこは紳士たる僕。女性からのアプローチがない限り、欲望を曝け出したりはしないのさ。
さぁ、目の前の女性の秘境に到達しようではないか。
僕がそう四肢に力を込めた時、悲劇が起こった。
「――――――――っ!!」
目の前の女性は何が起こったのか、訳の分からない声にならない悲鳴をあげると、懐から携帯のようなものを取り出し、僕の息子へと向けた。
すると、その携帯からは氷の塊が射出され、僕の息子へと熱烈な体当たりを行ったのだ。
「――ありがとうございます!」
熱烈な愛の告白を受け取った僕の息子は、返答とばかりに濃厚なミルクを彼女へと渡したのだった。
僕の息子の愛に奮えた彼女は照れ隠しとばかりに、僕へ熱いベーゼをお見舞いした。
「なんてものをあたしにぶちまけるのよ!!」
「あ、そこはだめ……逝っちゃうの~」
僕は彼女の全身に及ぶ愛情表現に昇天したのだった。