大切な日
いつも通りの朝。
同僚と仕事前の雑談をしていたときのこと、
「今日、誕生日なんです」
祝って貰おうなんて気持ちがあったわけではなく、特に深い意味のない会話。
少し離れた所にいた彼女にも、その何気ない会話は聞こえていたようで、
彼女は書類から目を上げないまま、
「誕生日、そう、よかったですね」
視線は上げない、声も変わらない。
会話に参加したというより、誕生日だと言う事を聞いてしまったので、とりあえずお祝いの言葉を、と言った感じだ。
お祝いの言葉が返って来るとは思いもしなかった俺は、その言葉に少し驚きながらも、少し嬉しかった。
その日の仕事は、普段通りに進み、
特別なことは何も起きないまま、空は夕暮れの色に変わっていった。
特に予定も無いが、誕生日くらい定時であがろうと、帰り支度をしていた所、彼女がこちらに歩いてくるのが見えた。
目の前で足を止め、小さな紙袋を差し出してくる。
「どうぞ」
「……?」
受け取ると、中には、丁寧に包まれた小箱が入っていた。
「これ」
彼女はそれだけ言って、そのまま俺の事を見ていた。
「……これ、何?」
彼女は少しだけ間を置いてから、
「プレゼント」
と答えた。
俺が少し困惑の顔をしていると、
彼女は少し考えてから首をかしげる。
「……?、だって、大切な日でしょ、誕生日」
朝と同じように、そう言った。
あの「よかったですね」と同じトーンで。
俺は袋を見つめたあと、小さく息を吐く。
「……ありがとう」
その言葉に、彼女はほんのわずかだけ目線をあげて、
「どういたしまして」
それだけ言って、元いた場所へ戻っていく。
彼女の背中を見送りながら、紙袋に視点を落とす。
俺は、遅れてきた嬉しさを抱えたまま、彼女の誕生日をどう聞けばいいのか、ぼんやりと考えていた。




