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大切な日

作者: ホサメアキ
掲載日:2026/06/18

いつも通りの朝。


同僚と仕事前の雑談をしていたときのこと、


「今日、誕生日なんです」


祝って貰おうなんて気持ちがあったわけではなく、特に深い意味のない会話。


少し離れた所にいた彼女にも、その何気ない会話は聞こえていたようで、


彼女は書類から目を上げないまま、


「誕生日、そう、よかったですね」


視線は上げない、声も変わらない。


会話に参加したというより、誕生日だと言う事を聞いてしまったので、とりあえずお祝いの言葉を、と言った感じだ。


お祝いの言葉が返って来るとは思いもしなかった俺は、その言葉に少し驚きながらも、少し嬉しかった。


その日の仕事は、普段通りに進み、

特別なことは何も起きないまま、空は夕暮れの色に変わっていった。


特に予定も無いが、誕生日くらい定時であがろうと、帰り支度をしていた所、彼女がこちらに歩いてくるのが見えた。

目の前で足を止め、小さな紙袋を差し出してくる。


「どうぞ」


「……?」


受け取ると、中には、丁寧に包まれた小箱が入っていた。


「これ」


彼女はそれだけ言って、そのまま俺の事を見ていた。


「……これ、何?」


彼女は少しだけ間を置いてから、


「プレゼント」


と答えた。


俺が少し困惑の顔をしていると、

彼女は少し考えてから首をかしげる。


「……?、だって、大切な日でしょ、誕生日」


朝と同じように、そう言った。


あの「よかったですね」と同じトーンで。


俺は袋を見つめたあと、小さく息を吐く。


「……ありがとう」


その言葉に、彼女はほんのわずかだけ目線をあげて、


「どういたしまして」


それだけ言って、元いた場所へ戻っていく。


彼女の背中を見送りながら、紙袋に視点を落とす。


俺は、遅れてきた嬉しさを抱えたまま、彼女の誕生日をどう聞けばいいのか、ぼんやりと考えていた。


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