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翌朝。
アンナが保護した子猫(アンナは「チビ」と名付けた)は獣医のもとで無事に手当てを受け、学院の外れにある農家に引き取り先が見つかった。
カーロ先生はサチコたちに外出許可証を出しながら、「次は夜中に出歩かないように。次は、だぞ」とだけ言った。
その口調は、規則を破った生徒に呆れているようにも、無茶をした教え子を案じているようにも聞こえたが、眼鏡の奥の目は隠しきれずに優しく笑っていた。
エルクはすでに朝食の席についていた。
彼は昨夜、誰よりも遅くまで研究していたはずなのに、何事もなかったような涼しい顔で分厚い本をめくっている。
湯気を立てるシチューをスプーンで掬った。
一口運ぶと、根菜の甘みとミルクの濃厚なコクが五臓六腑に染み渡る。
それと同時に、冬がいよいよ始まろうとしているのを肌で感じた。
生活魔法は相変わらず地味だ。
炎は出ないし、剣も持てない。
でもあの導管の詰まりを取り除いたとき、カーロ先生の目が変わった瞬間を覚えている。
子猫の震えが止まったとき、アンナが泣きそうな顔で笑っていたのを覚えている。
(役に立てている。)
それがサチコにとって、一番確かな生きている実感だった。
前世でも、今世でも、きっとこれからも。
窓の外に、今季初めての雪がちらつき始めた。
「あ!雪だ!」
アンナが弾かれたように叫び、窓辺へと駆け寄った。
つられて視線を向ければ、灰色の空から今季初めての雪が、羽毛のようにふわふわと舞い落ちてくるのが見えた。
「うるさい。食事中に席を立つな」 エルクが本から目を離さずに毒づく。
アンナの明るい声が食堂に響き、他の生徒たちも窓の外を眺めてはしゃぎ始めた。
サチコは窓辺の喧騒を遠くに聞きながら、もう一口、シチューを食べた。
喉を通る熱が、胸の奥をじんわりと満たしていく。
外はこれから厳しく冷え込むのだろう。
けれど、今のサチコにはそれがそれほど恐ろしいものには思えなかった。




