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転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


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帰り際、イレーナに呼び止められた。


エルクには先に宿に戻っているよう伝えて、イレーナと向き合った。


「転生の話、本当だと思います」とイレーナは静かに言った。


「そうですか」


「証明はできません。でも——長く宮廷にいると、人の目を見る眼が磨かれます。あなたの目は、最初から子どもの目ではなかった」


サチコは黙って聞いていた。


「ひとつだけ確認させてください。調律魔法は、あなたの転生と関係があると思いますか」


サチコは少し考えた。


「おそらく、あります。前世の知識と、今世の魔力が合わさって、今の形になったと思っています。前世だけでも、今世だけでも、できなかったことだと」


「そうですか」イレーナはしばらく沈黙した。


「実は、王室の古い記録に、似た記述があります」


「似た記述?」


「百年以上前、『流れを整える者』が現れて王国を救った、という記録です。詳細は少ないが——その者も、平民の出で、生活魔法の使い手だったと書かれている」


サチコは背筋に、かすかなものが走った。


「つまり——」


「あなたが初めてではない可能性があります。あるいは——」イレーナは静かに言った。


「そういう役割を持つ魂が、時代ごとに現れるのかもしれない」


サチコは窓の外を見た。夕暮れの王都が、橙に染まっている。


「私はそんな大げさなものではないと思っています」


「そうかもしれません」イレーナは微笑んだ。


「でも、大げさなことをした人間ほど、本人は大げさだと思わないものです。記録に残った人間も、きっと——ただ目の前の流れを整えていただけだったのでしょう」


サチコはしばらく、その言葉を抱えた。


「リナ」とイレーナは言った。


「あなたに、王室顧問の補佐という立場を正式にお願いしたい。肩書だけではなく、実質的に——王国の魔力問題に関わる立場として」


「断ることはできますか」


「できます。強制はしません」


サチコは考えた。


(王室の顧問補佐。)


前世なら、想像もできない話だ。でも今の自分には——やるべき理由がある。

王国にはまだ整えるべき流れがある。


「エルクと話してから、答えを出してもいいですか」


「もちろんです」イレーナはにこりとした。


「エルクにも、同様のお話があります。調律魔法の理論家として」


「二人まとめて、ということですか」


「あなたたちはセットでなければ機能しないでしょう?」


サチコは少し意表を突かれた。それから笑った。


「そうかもしれません」



宿に戻ると、エルクが机に向かっていた。


「遅かったな。何の話だった」


サチコは向かいの椅子に座って、話した。王室顧問補佐の件。エルクへの打診も含めて。


エルクは黙って聞いていた。


「お前はどう思う」と聞いた。


「やりたいと思っています。でもエルクの気持ちも聞きたかった」


「僕が嫌なら断るつもりだったか」


「一緒にできないなら、意味がないので」


エルクは羊皮紙を見た。しばらく何かを考えていた。


「ハルト家の話がある」とエルクは言った。


「お父様が何か?」


「認知が正式に終わった。今の僕はハルト家の一員として、王都での活動が認められる立場にある。父はそれを、家の利益に使いたいと思っているだろう」


「でも——」エルクは少し間を置いた。


「僕は自分の研究のために動く。家のためではなく。それは変わらない。王室の顧問という立場は、その点において——父の思惑と一致する部分もあるが、本質は別だ」


「エルクの研究のため、という軸が変わらないなら、受けていいと思います」


「お前はいつも、そういう言い方をする」


「どういう言い方ですか」


「背中を押すが、決めるのはお前だと言う」


「大事なことは、自分で決めた方がいいから」


エルクは少し笑った。珍しく、ためらいなく。


「わかった。受ける。お前と一緒なら」


「私もそうします」


「では決まりだ」エルクは羊皮紙を閉じた。


「リナ」


「はい」


「今日、殿下の治療が終わった」


「はい」


「お前が始めたことが、終わった」


「はい」


「どんな気持ちだ」


サチコは少し考えた。


「終わったというより——ひとつが完成した、という感じです。川がちゃんと流れるようになった。それを見届けた。嬉しいです」


「それだけか」


「それだけではないですが——言葉にするのが難しい」


「言わなくていい」とエルクは言った。


「なんとなく、わかるから」


サチコはエルクを見た。


眼鏡の奥の目が、静かにこちらを見ていた。


「わかりますか」


「ずっと、隣にいたから」


サチコは笑った。


「エルク」


「何だ」


「ありがとう。ずっと隣にいてくれて」


エルクは少し間を置いた。


「こちらこそ」と言った。


短かった。でも短い分、重かった。


宿の窓の外で、王都の夜が始まっていた。


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