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転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


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六月。


王都に向かう馬車の中で、エルクが言った。


「殿下の変化は」


「前回、中級の火魔法を使えたと報告がありました。一年前は小さな炎しか出なかったのに」


「順調だな」


「はい。今日の状態を見てみないとわかりませんが——たぶん、あと少しだと思います」


エルクは羊皮紙から顔を上げた。


「あと少し、というのは、感覚か」


「感覚です」


「お前の感覚が外れたことがない」


「そうですね」


「なら、あと少しだ」


サチコは窓の外を見た。夏の景色が流れていく。


最初に殿下の手に触れたとき、体の中の滞りがどれほど深いか感じた。

長年かけて積み重なったものだから、すぐには変わらない。でも確実に、毎回、少しずつ変わっていた。


川が岩を少しずつ削るように。



王城の部屋に入ると、殿下が立っていた。

窓際に、まっすぐに。


以前は椅子に座っていることが多かった。長時間立っているのが辛かったから。


「来たな」と殿下は言った。声に張りがある。


「はい。顔色がいいですね」


「自分でも、今日は違う気がしている」


サチコは近づいて、手を借りた。


目を閉じる。


感じる。


前回と——全く違った。


流れが、太い。迂回路として作ってきた道が、今や本流になっていた。元からあった細い通路は残っているが、もはやそれが主役ではない。体全体に、均等に、魔力が回っている。


(ああ。終わった。)


サチコはゆっくりと手を離した。


「どうだ」と殿下が言った。声が低い。結果を知りたいが、怖くもある、という声だった。


「完治とは言い切れません」とサチコはまず言った。


「先天的な狭窄は、完全には消えていない。でも——迂回路が十分に育って、日常生活に支障が出る可能性は、ほとんどなくなったと思います」


殿下が黙った。


「今の状態で、魔法を使ってみてください」


殿下が右手を持ち上げた。


魔力が集まる気配がした。


炎が出た。


小さくない。しっかりとした、安定した炎だった。殿下がそれを見つめた。


消えなかった。揺れなかった。殿下が望む限り、そこに在り続けた。


「……消えない」と殿下は言った。


「はい」


「消えないな」


「はい」


殿下の手が、かすかに震えた。炎は揺れなかった。手が震えているのに、炎は揺れなかった。


イレーナが口元を覆った。侍女がうつむいた。


「リナ」と殿下は言った。


「はい」


「泣いていいか」


「どうぞ」


殿下が泣いた。十六歳の、これまでずっと泣くことを自分に許してこなかった少年が、初めて、人前で泣いた。


サチコは黙っていた。


エルクも黙っていた。


部屋の中で、炎だけが揺れずに燃え続けた。



しばらくして、殿下が顔を上げた。目が赤い。でも表情がいつもと違った。

ずっと張り続けていた何かが、ようやく下りた顔だった。


「みっともないところを見せた」


「見ていません」とサチコは言った。


「嘘をつくな」


「見ていましたが、みっともないとは思いませんでした」


殿下が少し笑った。


「リナ、ひとつ聞いていいか」


「はい」


「以前、変わった生まれ方をしたと言っていた。今日、話してくれるか」


サチコはエルクを見た。エルクが小さくうなずいた。


「では」とサチコは言った。


「長い話になりますが」


「聞く」と殿下は言った。


「今日は時間がある。初めて、時間を気にせず使えそうな気がするから」


サチコは椅子を引いて、腰を下ろした。


「田中サチコ、という人間がいました————」


殿下は一言も遮らなかった。イレーナも、静かに聞いていた。

話し終えると、部屋の中が静かになった。

しばらくして、殿下が言った。


「つまりお前は——四十三年生きた魂が、今の体に入っている」


「そういうことになります」


「それが、あの落ち着きの理由か」


「だと思います」


「十三歳なのに、学院長と対等に話せる理由も」


「はい」


殿下はしばらく考えた。それから「面白いな」と言った。笑いながら。


「面白い、ですか」


「ずっと不思議だった。王太子だからと遠慮しなかったし、病人だからと腫れ物に触れるような目もしなかった。なぜかと思っていたが——四十三年分の目があるなら、納得だ」


「病気の王太子として見られることにも、王室の後継ぎとして見られることにも、疲れていた。ただの人間として話してくれる人が——お前が最初だった」


サチコは何も言わなかった。


「リナ」


「はい」


「友人として、これからもそうしてくれるか」


「もちろんです」


「良かった」と殿下は言った。心から、そう言った。


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