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転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


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33

南の山岳地帯は、旅の中で一番厳しい場所だった。


道が険しい。気温が低い。村は点在していて、移動に時間がかかる。


ここでの問題は複合的だった。地下の魔力路の劣化と、山の地形変化が重なって、複数の村で同時に影響が出ていた。


「一箇所ずつやっていたら一ヶ月かかる」とエルクが言った。


「根本を直せれば、派生している問題は自然に解決するはずです」


「根本がどこかを特定できるか」


「やってみます」


サチコは山の中腹に登った。エルクが隣についてきた。護衛のふたりも後ろに続く。


山の上から、感覚を広げた。


地下の流れを、全体として感じる。どこが起点で、どこが歪んでいるか——


(あった。)


山の反対側、崖の下に、古い魔法陣の残骸があった。百年以上前のものだろう。かつてこの地域の魔力を管理していた陣が、崩れて半分埋まっていた。


「エルク、崖の向こうに降りられますか」


「道はない。一時間はかかる」


「行きましょう」


「荷物は護衛に預けよう。身軽な方がいい」


一時間かけて崖の下に降りた。


古い魔法陣は、土と岩に半分埋まっていた。でも魔力の痕跡は残っている。


「これを修復するのか...」とエルクが言った。


「修復というより——再起動です。陣そのものはまだ生きている。ただ、動くための魔力が途絶えている」


「動力を入れる、ということか」


「はい。外から押してあげる感じで」


エルクが陣の構造を調べ始めた。岩に刻まれた文様を読んで、設計を解析する。


「百二十年前の陣だ。当時の標準的な構造だが——中央の起動石が欠けている。誰かが持ち去ったか、自然に割れたか」


「起動石がなくても、代わりに魔力を流し続ければ動くはずです」


「理論上はそうだが——継続して魔力を供給できる存在がなければ、止まる」


サチコは陣の中央に手をついた。


感じる。古い設計の、骨格が残っている。


(起動石の代わりに、自然の魔力流と接続できれば——陣が自分で動き続けられる。)


「エルク、この陣を地下の魔力流に直接接続できますか。自立して動くように」


「設計の改修が必要だ。今の状態では外部からの入力に依存している」


「どのくらいで改修できますか」


「設計を読むのに今日一日、改修の書き込みに明日半日、あとはお前が流れと繋ぐ作業に——」


「半日くらい」


「合計二日と半日だ」


「では始めましょう」


エルクは即座にノートを開いた。サチコは陣の端から感触を確かめ始めた。


崖の下で、ふたりの作業が始まった。



二日目の夜、崖の下にいるのも非効率だということになって、近くの村に宿を借りた。


夕食を食べながら、村の子どもたちがサチコとエルクの周りに集まってきた。魔法使いが来たという噂を聞いてきたらしい。


「魔法見せて!」


「炎は出ないですよ」とサチコは言った。


「じゃあ何ができるの?」


「整えること、が得意です」


「整えるって?」


サチコは子どもたちの前のコップを見た。水が少し濁っていた。魔力をそっと流す。水が澄んだ。

子どもたちが「おお!」と声を上げた。


「こんなもんか」と男の子のひとりが言った。


「地味だな」


「そうだよ」とサチコは笑って言った。


「地味じゃない」とエルクが隣で静かに言った。


子どもたちが驚いてエルクを見た。普段無口なエルクが口を開いたからだ。


「この魔法がなければ、お前たちの村の畑は一生実らなかった。地味に見えるものが、一番大事なことがある」


子どもたちがしんとした。

サチコは少し驚いてエルクを見た。

エルクはすましてスープを飲んでいた。


「……ありがとうございます」とサチコは小声で言った。


「事実を言っただけだ」


「それでも」


村の夜は静かだった。遠くで狼の遠吠えがして、風が山を吹き抜けて、宿の火が揺れた。


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