表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/37

24

学院に戻ったのは、夕方だった。


馬車が中庭に入った瞬間、アンナが走ってきた。


文字通り、走ってきた。校舎の扉を勢いよく開けて、石畳を駆けて、馬車の扉が開くより先に「リナ!」と叫んだ。


「ただいま、アンナ」


「よかった……! 無事でよかった……!」アンナがぎゅっと抱きついてきた。


「心配で眠れなかった」


「眠れていたでしょう。目の下にくまがない」


「そこは黙っといて!」


エルクが馬車から降りてきた。アンナが顔を上げた。


そこで、止まった。


エルクもアンナを見て止まった。


サチコは静かにアンナから離れた。ふたりの顔を交互に見る。


似ている。目の形が、少し。眉の角度が、少し。

言われなければ気づかない程度だが——知っていれば、わかる。


「……エルクくん、が」とアンナが言った。


エルクは何も言わなかった。


「手紙で、父から。リナたちが帰る前に、知らせが届いたの」


「そうか」とエルクはようやく言った。


「父が話したか」


「うん」アンナはエルクをじっと見た。


「私には姉しかいないと思ってた。でも——お兄さんが、いたんだ」


エルクは視線を外した。いつもの癖だが、今日は少し違う。

外した先に、置き場所を探しているように見えた。


「迷惑だったなら」とエルクが言った。


「同じ学院にいたことは、偶然だ。意図したわけでは」


「迷惑じゃない」とアンナは即座に言った。


エルクが止まった。


「迷惑じゃないよ。ただ——びっくりしてる。すごく。でも迷惑とは思わない」


沈黙が落ちた。夕暮れの中庭に、風が吹いた。


「……そうか」とエルクはもう一度言った。今度は声が、少し違った。


サチコは土産の包みを抱えたまま、ふたりの横を通り抜けた。


「お腹が空いたので、先に食堂に行きます」


誰も返事をしなかった。


それでいい、とサチコは思いながら歩いた。



食堂でひとり夕食を食べていると、カーロ先生が向かいに座った。


「どうだった、王都は」


「いろいろありました」


「王室から話が来たと聞いた。学院長から」


「はい。殿下の件と、研究室の設立を」


カーロ先生は腕を組んだ。いつもの眠そうな目が、今日は少し真剣だ。


「リナ、無理するなよ」


「学院長にも、エルクにも言われました」


「そうか」先生は少し間を置いた。


「生活魔法の担当教師として言うが——お前の魔法は、生活魔法じゃなくなった。でも俺はお前の最初の担当だ。だから言う」


「はい」


「困ったら言え。王室の話だろうと何だろうと、俺にできることがあれば手伝う」


サチコは先生を見た。


眠そうな目が、真剣だった。


「……ありがとうございます」


「礼はいい。シチュー、冷める前に食え」


先生は立ち上がって、行った。


サチコはスプーンを持ちながら、少し目が熱くなるのをこらえた。


(この学院が、好きだな。)


前世では、職場が好きだと思ったことがあまりなかった。

毎日行くべき場所ではあったが、帰りたい場所ではなかった。


今は——ここが、帰ってきた場所だと思う。



食事の後、中庭のベンチにアンナとエルクが並んで座っているのを見た。


話しているのか、黙っているのかはわからない。距離は少しある。でも並んでいる。

サチコは中庭には入らず、廊下の窓からそっと眺めた。


しばらくして、アンナが何か言った。エルクが少し頷いた。

アンナがまた何か言った。エルクが今度は答えた。

言葉の内容は聞こえない。でも——流れが整っていくのが、なんとなくわかった。


(調律は魔法だけじゃない。)


関係にも、時間にも、流れがある。それが自然な方向に向かうとき、急かす必要はない。

ただそばで、待っていればいい。


サチコは廊下を歩いて、自分の部屋に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ