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転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


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茶室を出て、庭を歩いていると、エルクが口を開いた。


「リナ」


「はい」


「ハルト、という名前を聞いたとき、何か思わなかったか」


サチコは足を止めた。


「思いました。アンナの苗字と同じだな、と」


「僕はエルク・ハルト。ハルト伯爵の、長男だ」


沈黙が落ちた。


「……アンナの、お兄さん」


「腹違いだ。母親が違う。ハルト家では、表向きには僕の存在はあまり知られていない。父が僕を学院に入れたのは——才能があったからではなく、厄介払いに近い」


エルクの声は平坦だった。でも平坦だからこそ、その下にあるものがサチコには伝わった。


「腹違いというのは、それほど難しい立場なのですか、この国では」


「貴族の家では、特に。正室の子でなければ、跡継ぎにはなれない。できれば目立たないでいてほしいというのが、父の本音だと思う」


「……だから、ハルト家の名前を出さなかった」


「目立ちたくなかった。学院では、ただの魔法研究者でいたかった」


サチコはしばらく考えた。


「アンナは知っているんですか。エルクのことを」


「父は話していないだろう。アンナは僕のことを知らない」


「僕も妹がいると聞かされたことはあったが、学院に入るまでは会ったことがなかった」


サチコは庭の花を見た。早春の白い花が、風もないのに少し揺れていた。


「エルク、アンナはいい子ですよ」


「知っている。お前の友人だから」


「いつか兄妹だと伝えられるといいですね」


エルクは答えなかった。でも否定もしなかった。


それで十分だと、サチコは思った。




翌日の午後、王城の一室に通された。


部屋は広いが、窓の光が柔らかく絞られていた。

魔力疾患を持つ人間には、強い光が負担になることがあると聞いていた。


王太子——テオドル殿下は、窓際の椅子に座っていた。


十五歳。細い体に、しかし姿勢はまっすぐだ。

髪は薄い金色で、目が深い緑色をしている。こちらを見る目に、怖れも期待も、極力排した様子がある。


(十五年間、同じ目をしてきたのだろう。)


サチコは深く礼をした。


「リナと申します。調律魔法を使います」


「テオドルだ」と殿下は言った。


「同年代と話すのが久しぶりなので、楽にしてほしい。できれば名前で呼んでもらえると...」


「わかりました、テオドル様」


殿下がわずかに目を見開いた。即座に名前で呼ばれるとは思っていなかったらしい。


「……気に入った。座って」


椅子に座った。エルクは少し離れた場所に控えている。

侍女とイレーナが壁際に立っていた。


「正直に話します」とサチコは言った。


「私の魔法で、テオドル様の体の状態を感じることはできると思います。でも治せるかどうかは、感じてみないとわかりません。期待に添えない可能性もあります」


「それでいい」と殿下は静かに言った。


「今まで来た魔法師は全員、最初から無理だと言うか、できると言って失敗するかのどちらかだった。最初から正直に言ってくれるのは、あなたが初めてだ」


「嘘をついても意味がないので」


「そういう人は好ましい」


サチコは立ち上がり、殿下の傍に近づいた。


「手に触れてもよろしいでしょうか」


殿下が手を差し出した。サチコはその手に、そっと触れた。


目を閉じる。


魔力を伸ばす。


感じた瞬間——サチコは思わず、息を止めた。


(ああ。 これは——)


体内の魔力の流れが、乱れているというより——詰まっていた。

先天的に、一箇所だけ、魔力の通り道が極端に細くなっている。川の中に、生まれた時から岩があるような状態だ。

だから魔力が滞る。滞った魔力が体に負担をかける。十五年かけて、その負担が積み重なってきた。

岩を取り除ければいい。でも岩は体の深いところにある。力で壊そうとすれば、周囲を傷つける。


(どうするか。)


サチコは考えた。前世の記憶を引く。配管の、詰まりの処理。岩を壊すのではなく——岩の周りに、新しい流れを作る。迂回路を、少しずつ。


できるかどうかわからない。でも——方向性は、見えた。


目を開けた。


殿下がこちらを見ていた。サチコの表情を読もうとしている。


「どうだった」


「原因がわかりました」とサチコは言った。


「先天的な魔力路の狭窄です。一度に解決することはできませんが——少しずつ、迂回路を作っていく方法なら、試せると思います」


殿下はしばらく黙っていた。


「時間がかかるのか」


「はい。一度ではなく、何度も来る必要があります。それでもよろしければ...」


「……何度でも来てくれるのか」


「来ます。これが私の魔法でできることなら」


殿下の目が、わずかに揺れた。十五年間、排してきたものが、少しだけ顔を出した瞬間だった。


「リナ」と殿下は言った。


「はい」


「あなたは怖くないのか。王室と関わることが」


サチコは少し考えた。


「怖い、という感覚は薄いです。昔から、目の前にいる人が困っていると、手を出さずにはいられない性分ですので」


「それは美徳だ」


「単なる癖です」


殿下は初めて、声を出して笑った。短く、でも本物の笑いだった。


「気に入った」と殿下はもう一度言った。


「よろしく頼む、リナ」


「はい、よろしくお願いします、テオドル様」


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