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転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


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終わって廊下に出ると、学院長が「よくやった」と言った。


エルクは黙っていたが、肩の力が抜けているのが見えた。


しばらく歩いたところで、エルクが「リナ」と言った。


「はい」


「今日、お前が実演台に立ったとき」


「はい」


「……目を離せなかった」


サチコは足を止めた。


エルクは前を向いたまま歩いていた。


「魔法を使っているとき、お前は——別の顔をする。集中しているとき、余計なものが全部消えて、ただそこにいる感じがする。それが——」


「それが?」


「ずっと見ていたい、と思った」


サチコはしばらく、その背中を見た。


(この子は本当に遠回しが苦手で、だから全部まっすぐ届く。)


「エルク」


「何だ」


「今世で、誰かそばにいてくれる人が欲しいと言いました。前に」


「覚えている」


「今も、そう思っています。できれば——長い間」


エルクがようやく振り返った。眼鏡の奥の目が、まっすぐこちらを見ていた。


「症状が」とエルクは言った。


「症状?」


「以前から進行している症状が。お前の声を聞かないと調子が出ない、名前を呼ばれないと調子が出ない——という段階から、さらに進行して」


「さらに?」


「お前がいない未来を、考えられなくなっている」


サチコは笑った。


笑いたくて笑ったわけじゃない。ただ、胸の奥が満ちてきて、それが笑いになった。前世では一度も感じたことのない、満ちる感覚だった。


「それは重症ですね」


「わかっている」


「治療法は?」


「そばにいてくれれば、症状は安定すると思われる」


「それは治療ではなくて現状維持では?」


「うるさい」


学院長が前をすたすた歩きながら、一切振り返らなかった。

気を遣ってくれているのだろう。七十代でもそういう気遣いができる人だ。


サチコはエルクの隣に並んで歩いた。


「そばにいます」と言った。


「今世は、前世より長く生きるつもりなので」


エルクは何も言わなかった。


でも今度は、耳だけでなく、少し顔まで赤くなっていた。



宿に戻って夕食を終えた後、サチコは窓から王都の夜景を見た。


魔法の明かりが街を照らしている。あの地下の陣みたいに、どこかの根幹に調律された流れがあって、それが街全体に光を届けている。


(私の魔法が、王都に知られた。)


田中サチコ、享年四十三歳。誰にも気づかれず、ひとりで逝った女が——転生して、名前のついた魔法を持って、王室の顧問に「面白い」と言われた。


おかしな話だと思う。


でも——おかしくていい。


扉をノックする音がした。


「リナ、起きてる?」エルクの声だった。


「起きてます」


「明日、学会が非公式な場を設けると連絡が来た。王室顧問が直接話をしたいと。学院長から伝言だ」


「わかりました」


「それだけだ」


サチコは少し笑って「エルク」と言った。


「何だ」


「今日、ありがとう。全部の質問に答えてくれて」


「当然のことをしただけだ」


「それでも」


扉の向こうで、短い沈黙があった。


「……おやすみ、リナ」


「おやすみなさい」


サチコは窓の外の光を見た。


明日、また新しいことが始まる。


調律魔法使いは、今夜も静かに——でも確かに、王国の流れの中に、いた。


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