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転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


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王都は、想像より大きかった。


馬車が城門をくぐった瞬間、音と匂いと人の密度が一気に変わった。

前世の東京を知っているサチコでも、この人口密度は少し圧倒される。


石畳の大通りに商店が並び、魔法を使った照明が夜でも街を明るく照らしている。

空には魔法飛翔船——翼を持った小型の輸送船——が行き交っている。


「すごい」とサチコはつぶやいた。


「初めて来るのか」とエルクが言った。


「はい。エルクは?」


「何度か。」


宿は学会が手配した、清潔な中規模の宿だった。


翌朝、学会本部に挨拶に行くと、受付の職員が「ああ、調律魔法の」と言った。


すでに名前が知られている。


「思ったより広まっているな」とエルクが言った。


「想定より早い?」


「学会内で議論になっているのは聞いていたが——」エルクは周囲を見回した。


廊下を歩く学会員たちが、ちらちらとこちらを見ている。


「少し、警戒が必要かもしれない」


「警戒?」


「新しい魔法体系の発表は、既存の体系に利権を持つ人間を刺激する。反対勢力が動く可能性がある」


サチコは前世の記憶を引いた。


(社内の改革提案が、古参の部署に潰されそうになったことが、あったな。)


「対策は?」


「実演で圧倒する。議論の余地をなくせば、反対できない」


「エルクらしい解決策ですね」


「最も効率的だ」



実演の前の夜、サチコは眠れなかった。


眠れない理由を分析すると、緊張というより——準備の過不足を確認したい感覚だった。

前世でも、大事な仕事の前日は同じだった。明日の段取りを頭の中で何度も確認する。

ランプをつけて、メモを書き始めた。

実演の順序。調律魔法の原理を言葉で説明する練習。想定される質問と回答。


扉の外からノックの音がした。扉を開けるとエルクだった。


「眠れないのか」


「エルクこそ」


「考えることがある。リナは?」


「段取りの確認を」


しばらく黙っていたが、エルクは廊下に立ったまま、部屋の中のサチコを見た。


「入ってください」とサチコは言った。


エルクは部屋に入り、椅子に座った。サチコのメモを見た。


「抜けはない」と言った。


「完璧な準備だ」


「エルクが確認してくれると安心します」


「……緊張しているか」


「少し。エルクは?」


エルクは少し考えた。


「している。珍しく」


「珍しく、ですか」


「人前で何かをする機会が少なかったから。研究は書けばいい。話す必要がない」


サチコは少し笑った。


「明日は私が実演して、エルクが説明をする。役割分担が、性格に合ってると思います」


「そうだな」エルクが静かに言った。


「……リナ」


「はい」


「お前に初めて話しかけたとき、変な子だと思った」


「変な子...」


「最初から対等な目で来た人間は初めてだったから。ひとつも物怖じしていなかった」


「四十三年分の胆力があったので」


「そうだったんだな」エルクはかすかに笑った。珍しく、素直に。


「だからか、と思った。あの目の理由が」


「あの目?」


「初めて会ったときから——長く生きた人間の目をしていた。それが、ずっと気になっていた」


サチコは何も言わなかった。


エルクが立ち上がった。


「明日は、うまくいく」


「根拠は?」


「お前がやることだから」


サチコは返事をしそびれた。エルクはもう扉に向かっていた。


「おやすみ、リナ」


「……おやすみなさい、エルク」


扉が閉まった後、サチコはしばらく動けなかった。


(根拠はお前がやることだから、か。)


四十三年間、誰かにそういう言葉をかけてもらったことがあっただろうか。


あまり記憶がなかった。


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