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転生したら、生活魔法使えるようになりました  作者: メイコノノ


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それから一時間。


最後の接続点を整えたとき、陣全体がゆっくりと、均等な光を取り戻した。


地下室が明るくなった。百年前の設計者が意図した通りの、穏やかで安定した輝きだった。


サチコは手を離した。


どっと疲れが出た。膝が笑っている。六時間、集中し続けた体が、正直に限界を訴えていた。


エルクがすぐに腕を掴んだ。前と同じように、黙って支えた。


「……終わりました」とサチコは言った。


「わかってる」


学院長が近づいてきた。陣を見渡し、長い沈黙の後、「見事だ」と言った。


その言葉だけだったが、七十年以上を魔法に費やした人間が言う「見事だ」は、長い賛辞より重かった。


カーロ先生が「よくやった」と言いながら、目を拭っているのが見えた。見なかったことにした。


「歩けるか」とエルクが言った。


「たぶん」


「たぶんじゃ困る」


「じゃあ、少し休んでから」


エルクはため息をついて、そのまま腕を貸し続けた。離す気配がなかった。


サチコはその温度を感じながら、陣の光を見た。


百年間、この学院を支えてきた流れが、また整った。次の百年も、流れ続けるだろう。


(自分の魔法でそれができた。)


前世のサチコには何も残せなかった。誰かに贈り物ができるほど裕福でもなかったし、歴史に名前が残るような仕事もしなかった。四十三年間、ただ静かに生きて、ひとりで死んだ。


でも今世では——


「リナ」とエルクが言った。


「はい」


「お前の魔法に、名前をつけるべきだと思う」


サチコは少し驚いてエルクを見た。エルクは前を向いている。


「生活魔法という括りは、もう正確じゃない。流れを感じ、整え、導く——それは全く別の体系だ。研究として発表する価値がある。名前が必要だ」


「エルクが名前を考えたんですか?」


「いくつか候補がある。だが——命名権はお前にある」


サチコはしばらく考えた。


井戸の水。洗濯物。子猫の体。地下の陣。全部、違うものだった。でも全部、同じことをした。

流れを見て、歪みを感じて、自然な方向に整えた。


「調律魔法、はどうですか」


「調律」エルクが繰り返した。


「音楽の——楽器の音を整えることを、前世では調律と呼んでいた。音を作るのではなく、あるべき音に整える。似ていると思って」


「……いい名前だ」とエルクは静かに言った。


「調律魔法。覚えておく」


地上に出ると、夕暮れだった。


入口でアンナが待っていた。

サチコの顔を見た瞬間、駆け寄ってきて抱きついた。


「よかった……! ずっと待ってたんだよ!」


「心配かけてごめん」


「無事ならいい!」アンナがサチコを離して、エルクを見た。


「エルクくんも、ありがとう。リナのそば、いてくれて」


エルクは「別に」と言って、そっぽを向いた。耳が赤い。


三人で中庭のベンチに座った。


地下の陣が安定したせいか、明かりがいつもより均一で、穏やかに見えた。


「調律魔法」とアンナが言った。


「素敵な名前だね」


「エルクが名前をつけるよう言ってくれた」


「そうなの?」アンナがにやりとした。


「エルクくん、センスあるじゃん」


「僕はいい名前だと言っただけだ」


「それを引き出したのがエルクくんじゃん」


エルクは黙った。


サチコは空を見た。


前世では四十三年かけて積み上げたものが、今世では十三年の体の中に詰まっている。重たいときもある。ちぐはぐなときもある。十三歳のくせに老成しているとたまに言われる。


でも——悪くない、と思う。


調律魔法という名前がついた。エルクがいる。アンナがいる。

前世では一度も持てなかった、帰る場所のような人たちが、ここにいる。


「ねえ、リナ」とアンナが言った。


「お腹空いた。食堂、まだやってるかな」


「今日は特別に夜食を出してもらえるよう、先生に頼んでおいた」


「え、いつ!?」


「昨日」


「先読みが完璧すぎる……!」


「経験が長いので」


アンナが笑い、エルクが小さく笑った。

サチコも笑った。


調律魔法の使い手は、今日も地味に、静かに、でも確かに——この世界の流れの中に、いた。



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