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研究室でエルクに話すと、三秒の沈黙の後、「断れ」と言った。
「断れ、ですか」
「リスクが高すぎる。失敗した場合の被害が読めない。お前ひとりに背負わせていい問題じゃない」
「学院長は私しかできないと言った」
「学院長が間違っている可能性がある」
「可能性はある」とサチコは認めた。
「でもエルク、私には感覚的にわかる。あの陣の修復は——私の魔法の延長線上にある。できると思う」
「感覚的にわかる、では根拠にならない」
「根拠のない感覚ではない。井戸の修理も、先月の治療も、全部同じ感覚の延長だった。全部うまくいった」
エルクは黙った。
サチコは続けた。
「エルク、私はこの学院に来てから——はじめて、自分の魔法が何のためにあるのかわかった気がしている。派手じゃない。戦えない。でも『流れを整える』という力は、大きなものにも使える。それを試さないまま終わりたくない」
「……試す場所が、学院全体を巻き込む実験台でなくていい」
「でも、今ここにその問題がある」
長い沈黙だった。
エルクは羊皮紙を手に取り、しばらく見つめて、それから置いた。
「わかった」と言った。
「なら、僕も関わる」
「え」
「お前ひとりでやらせない。地下の陣の構造を事前に調べて、理論的な構造図を作る。お前が感覚で動くとき、構造図があれば判断の助けになる。それくらいはできる」
サチコは少し驚いて、エルクを見た。
「……反対していたのに」
「反対したのは無謀だからだ。無謀でなくなるなら話は別だ」エルクはそっぽを向いた。
「それと——」
「それと?」
「お前がやると決めたなら、隣にいる」
サチコは返事をしそびれた。目の奥が熱くなる前に、窓の外を見た。
「……ありがとう、エルク」
「礼は後でいい。まず資料を集める。学院の設計図が書庫にあるはずだ。今夜から調べる」
「今夜から?」
「時間がない」
エルクはもう立ち上がって、本棚に向かっていた。
(本当に、この子のそういうところが好きだな。)
サチコは立ち上がり、袖をまくった。
「私も手伝います」
「当然だ」




