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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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7/12

その真意を知るために


 男は頭を抱えていた。

 悩んでいた。苦悩していた。苦しんでいた。


 そんな男を、周りの教師たちは助けようとせず、見て見ぬふりをしていた。


 困っていると確定すれば、問題が正しく認識されれば、きっと周りは男を助ける。


 アラハバキの教師というのは、戦友に等しいからだ。


 けれど同時に、積極的にかかわりたくないとも言える。

 また、手助けしたいと考えたところで、当事者以外が出来ることなど、飲みの席で愚痴を聞く程度しかなかった。


 男、九条が抱えている問題というのは、そういう類のものであった。


 光ある世界には、闇もあり。


 それはどの世界の常識。

 仰々しい意味でなく、たとえちっぽけなことでさえ、その定理には当てはまる。


 今年の新入生は、予定数の倍を超えた。

 例年類を見ない豊作の当たり年であった。


 三学科全てに穴がなく、予定通り卒業してくれたなら相当数が将来頼もしき『刀使い』となってくれるだろう。


 ただ……生徒数が多いということは必然的に、問題児も増加する。

 生徒の質・量に問題児の質・量も、完全に比例していた。


 問題あるなら、落とせば良いだろう。

 生徒の数が豊作ならば、問題児などいなくて構わん。


 それで問題は解決だ……とは、残念ながらならない。


 アラハバキが真に求めるのは、飛びぬけた例外的な生徒であるからだ。

 そのためならば、多少の問題は目を瞑る。


 だから、アラハバキは他の学園と異なり、『実力』さえあるならば、『ある程度』の裁量が認められる。

 一部の校則違反や、特定の問題行動の見逃し程度なら。


 とは言え……服装規定違反だって腰パンとか着崩す程度の話を想定していた。

 まさか制服をメイド服に改造するトンチキが出るなんて、教師の誰も想定していなかった。


 つまるところ、今年の四組は、あまりにも酷過ぎる外れ値ゆえに、出来る限り他クラスに迷惑をかけないようまとめ上げた『隔離組』ということになる。


 そして九条の名を持つ男が、その担任という名の貧乏くじに選ばれた。


「まさか亜人がマシな方の担任になるとはなぁ……」

 溜息しか零れないクラス名簿を九条は眺める。


 亜人、メイド、忍者、アニオタ外国人、おねぇ、天才小学生等々。

 個性豊か過ぎて眩暈がしてくる。


 ここは国防を担うため、カムイを学ぶ学園のはず。

 決して、バラエティ番組のための色物集団ではない。


 なのに……。


「これだけのことをして、受かってるのがこいつらなんだよなぁ……」

 そう……普通は落ちる。


 幾らある程度融通が利くとは言えそれは本当にある程度。

 アラハバキだって積極的に問題児を抱え込みたいというわけではない。


 それでも落とせないだけの何かがあるから彼等は特例を持って入学認められた。

 そしてその数が思った以上に多かったから、非常に不本意なことに特例クラスが成立してしまったのだ。


 とは言え、四組皆が皆、優秀な異常者というわけではない。

 それ以外の理由で四組に居られた者だって存在する。

「……今となっては、こいつらが清涼剤か」


 そう言って、九条は二人の名を見る。

 アセリア・ピュリコット。

 水無川伊織。


 アセリアは、亜人らしからぬ低い身体能力と高いコミュニケーション能力を持った、羽があるだけのただの人。

 伊織は、あらゆる意味平々凡々だが精神疾患持ちで、亜人の精神安定剤。


 こいつらは、本当にわかりやすい。

 バラバラにさえしなければ、単なる劣等生程度の問題しか露見しないからだ。


「他の奴らも、こいつらくらい地雷がわかりやすかったらなぁ……」

 九条は溜息を吐く。


 独り言が多いことも、溜息の連発も、周りに聞こえている。

 それでも周りが見ないふりをしてくれるくらいには、九条への同情は強かった。


「し、失礼します! すいません。九条教諭はいらっしゃいますか!」

 職員室に入って来る慌てた声に、九条の表情は険しくなる。


 メイドが他クラスでやらかしたか、アニオタ外人が馬鹿げたことをしでかしたか、それとも他の生徒か……。

 悲しいことに、思い当たるフシしかなかった。


「どうした? 何があった?」

 頭の中で色々な可能性をシミュレートしながら、九条は出来るだけ冷静を装い尋ねた。

「は、はい! あの……四組の水無川さんが、一組で留学生のユーフィミア王女殿下と決闘を始めました!」

 九条は、静かに、静かに……頭を抱えた。


「お前は大丈夫と思ってたのに……よりよって国賓とトラブルを起こしやがったか……」

「いえ、その。ま、まだ水無川さんが悪いとは……」

「わかっています。あいつはそういう奴じゃない。どうせ他の奴らのトラブルに巻き込まれ、貧乏くじでも引いたんだろう」

「……よ、良くわかりますね。まだ初日なのに」

「わかるんだよ。貧乏くじを引く奴ってのは。なにせこういう顔してますからね」

 そう言って笑いながら自分を指差す九条に、教員たちは何も言えず無言となることしか出来なかった。




(どうしてこうなった……)

 自らの足で決戦場に向かいながら、自問自答する。


 だが、何度考えてもわからない。


 どうして俺が、王女様と決闘することになった?


 しかも室内の訓練場ではなく、観客席のある野外グラウンドを活用した大会用フィールド。

 オリンピックで陸上をするような豪華な設備をどうして使っているのか、むしろ俺が知りたい。


「逃げずに来ましたね」

 そう告げるのは俺の対戦相手であるクラリス王国第三王女様とやら。


「……なんで、俺が戦うことに」

「男の癖にぐずぐずと。アセリアの騎士ナイトをやっているのなら、しゃんとしてください! まったく。ねぇセバスチャン」

「おっしゃるとおりでございます」

 横の老紳士は想像通りの渋い声だった。

 だからなんだというわけでもないが……。


 後ろを振り向くと、これまた個性的なクラスメイトの応援という名前の野次馬が。

 ぴよこはぽんぽん作ってしゃんしゃん鳴らしている。

 たぶん応援してるつもりだろう。


 見たくはないが、俺は背後だけでなく周囲にも目を向ける。


 本来空席なはずの広大な観客席に、ぽつぽつと人の姿が。

 たぶん、百人くらいは入っている。

 全くもって理由がわからない。

「……はぁ」


 俺は静かに、アマツを袋から取り出した。


「そこの庶民。一つ、尋ねたいのですが」

「あーはいはい。なんですか王女様」

「やる気がないわりに、逃げる気もないようですが……私に勝てるつもりで?」

「ああ、いや。どうだろうな。王女様の技量がわからないし、怪我させたら不味いから本気で戦うのも不味いだろうしなとかは考えていますが」

 俺の言葉を聞いて、王女様の表情は落胆に変わった。

 それも、侮蔑を含んだ。


「ただ現実を知らないだけですか……。なんと面白くない……」

 俺は小さく、溜息一つ。


「あいつはあいつのものだろうに……何故それに俺が……」


 もう何度も言った言葉だ。

 けれど、無駄な言葉でもあった。


「セバスチャン。私の刀を」

「はっ! ここに」

 両手で丁重に持たれたその刀を、王女様は乱暴に抜き放った。


 それは、一目で理解出来た。

 俺と同じような基礎型、じゃない。

 それどころか、新入生に支給されるような代物でさえ。

 アマツではあるだろうが、あれは間違いなく――『真打』だ。


「それの銘は?」

 つい、俺は尋ねていた。

 俺がやる気を出したと思ったのが、王女様は少し嬉しそうに、執事に尋ねる。

「セバス。これの銘は?」

「はっ! 『霞掛かり・流れ』となっております」

「というとらしいです」

「……自分の刀なのに、名も知らんのか?」

「私が普段刀を使っているように見えますか?」

 金髪王女様は、不思議そうに俺に言った。

「そりゃそうか。悪かった」


 刀を元にしたカムイは扶桑で生まれたもの。

 外国には外国で同様の武器が存在する。

 考えたら、当たり前な話だった。


「これは私が所有する中で最も低級のものです。その性質もわかりませんし興味もありません。まあ、そのナマクラくらいは切り伏せられるでしょうが」

 ニヤリと笑い、王女様は刀を構える。


 普段剣を持っているとは思えない程度には、堂に入っていた。


「そのナマクラってのは、俺か? それとも量産型のこいつか?」

「それを決めるのは、貴方ですよ」

 俺は静かに鞘から抜き、特殊セラミックの刀身を解き放った。


 老紳士がフィールドから離れると、ホログラムの承認装置が現れる。

 光で構築された、台座のようなそれの上に俺と王女様は刀の鍔を合わせた。


『模擬戦要求を受理しました。双方、準備をしてください』


「何か言うことはありますか?」

 王女様は俺に最後の確認をしてきた。


「ここで俺がハンデでも求めたらどうするんだ?」

「差し上げますよ? 一応考えたのは、刀の交換ですが……」

「ぬぐっ……」

 その提案に、悔しいが俺は少しだけ揺れた。

 ハンデ欲しさなどでは当然なく、純粋に名刀を持てるということに。


「……魅力的な提案だが、止めておくよ。特に何もない」

「そうですか、では……」


 承認装置から、刀を外す。

 直後に、内部・外部を区切るようドーム状の光が展開された。

 一種のバリアフィールドである。


 静かに……俺は彼女を見据えた。


 正直、俺は今だってこの戦いに納得していない。

 けれど、戦わないといけない理由が今、俺の中に一つだけ存在していた。


 それは……こいつの企みを知ること。

 彼女には、怪しい部分が多すぎた。


「そんな真剣な瞳を向けて、どうかしましたか?」

 挑発的な笑みを浮かべる彼女。

 おそらく、戦闘前の舌戦でもしようというのだろう。


 これまで、俺はぴよこに関し相当数のトラブルを経験してきた。

 ぴよこを悪い目で見る奴が居れば、すぐに気づくくらいに。


 だからこそ、違和感があった。

 王女様からは、ぎらついた欲望のような感情がまったく感じられなかった。


 こいつが何をしようとしているのか、まるでわからない。

 だからこそ、俺は彼女を知らなければならなかった。


 こいつがぴよこの、敵なのかどうかを――。




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