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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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5/10

疑惑のクラスメイトたち


 廊下では皆が無表情で、だけど誇らしそうにアマツの入った袋を片手に持ち歩いていた。


 正直、気持ちは凄く良くわかる。


 というか、間違いなく俺も同じ表情になっている。

 にやけ面を必死に抑え、恰好つけた情けない表情に。


 とは言え、それもしょうがないだろう。

 俺達は皆、この刀のためにアラハバキに来たのだから。


 俺達が手にしたのは単なる学生向け模造刀ではない。

 これは、夢の一歩である。


 ここにいる新入生は、別に戦うことを目的とした人ばかりではない。

 俺自身は『実戦科』――つまり戦闘を想定しているが、別の学科の人もいる。


 けれどどの学科も皆、このアマツには関わっていくこととなる。

 そしていずれは本物の刀、つまりカムイを――それも自分だけの銘を持った物を持ちたいとも。


 だからこそ、夢の一歩を歩いた自分達は、嬉しくてしょうがなかった。


 そして同時に、時折皆の目が鷹のように鋭くもなる。

 それは、嫉妬と羨望を混ぜたような、そんな表情。


 皆の視線に気づき、俺もじっとその男を睨むように見つめる。

 男は周囲からの視線を気にもせず、むしろ誇らしそうに悠々と歩いていた。


 俺が持つアマツはオーソドックスなもの。

 所謂『基礎型』と言われるものであり、最も汎用的で、最も多く支給されている型である。

 実際多くの新入生も俺と同じものを持っている。


 だが、今注目を集めている男は、両手に短い二振りのアマツを持っている。

 つまり、『二刀流』。


 支給されるアマツが基礎型でないということは、『何らかの事情がある』か『特別であることが許される実力があるか』のどちらか。

 どちらにせよ、期待のエリートと思って良いだろう。


 時折短かったり長かったりという変化はあるが、一番派手な変化はやはり今見たこの二刀流。

 なにせ一目でわかるのだから。


 まあ、袋に入っているのだからそれくらい大きな違いがないと非汎用型であるとは気付かないとも言えるが。




 新入生の刀を自分だけの鑑賞会で楽しみながらしながらしばらく歩き、俺は目的の場所で足を止める。

 ドアに手を伸ばした後、念の為と上を向き、プレートに目を向けた。


『一年四組』


 自分の学生証と見比べ、小さく頷いて、ドアを開いた。


 帰って来る視線に若干の緊張と不安を感じながら、そっと中の様子を確認する。

 俺は……ぴたりと身体を硬直させた。


(……おやぁ。これは……)


 それは予感に近い確信で、蟲の知らせで、既視感に近い何か。

 教室に入った俺は、厄介事の予感を嗅ぎ取っていた。


 教室の規模の割に席の数は二十少し程度しかなく、隙間だらけでバランスが悪い。

 今年はやたらと新入生が多いという話だったはずなのに。


 やけにスカスカで、しっかりソーシャルディスタンスが取れている。

 取れ過ぎている。

 明らかに、おかしい程に。


 それともう一つ、追加として――。


「やったやった! いーくん! 同じクラスだね! だね!」

 ドアの前に居る俺に向かい、ぴょんこぴょんこと跳ねながら、羽持ちの顔見知りが近づいてきた。


「おーぴよこ。良かったな。留年したかと思ったよ」

 そう言って、俺はぴよこに手を振る。

「いやどこに!? 零年生? 私永遠の零!?」

「マイナス一年生でも良いぞ」

「やり直しなの!? 下がる女なの!? 下限はどこですか!?」

「はは、ま、なんにせよよろしくな」

「うん! 一緒で良かったよ。偶然に感謝だね!」

「……偶然、ねぇ」

「何か言った?」

「いんにゃ。何も」

 そう言って、俺は自分の名札のある席に向かう。

 そこは、当たり前のようにぴよこの隣だった。


 やけに席の数が少ないこと。

 俺とぴよこが同じクラスなこと。

 あと追加で、見る限りクラスメイトが妙に個性的に感じる。

 ぴよこが浮かないレベルというのは、なかなかに癖が強い。


 それらをすべて偶然と捉えるのは、ちょっとばかし無理があった。




 席に座ってから、俺はしばらくぼーっと時間を潰していた。


(ああいうところは勝てる気がしないな……)

 俺は見知らぬ女子と仲良くなっているぴよこを、少し羨ましそうに遠目で眺める。

 相手はアラハバキに適さない外見をした、いかにもな感じのギャルだった。

 そのギャルと、互いに無理なく仲良くなっているぴよこには尊敬を覚える。


 もし俺が同じ立場だったら、同じことは出来ない。

 相手がギャルとか関係なく、きっと……誰とも仲良く出来ないはずだ。


 ぴよこの立場ならば、人間不信になったっておかしくない。

 俺は彼女の隣で、何度もそれを見て来た。


 妙に馴れ馴れしいクラスメイト。

 突然手の平を返す女子仲間。

 挙句の果てには、先輩とやらを呼んで不良グループがぴよこを拉致誘拐しようとしたなんて騒動だって複数回あった。


 そのくらい、亜人というのは注目を集める。

 利用しようとする奴ら。

 単純に野次馬根性で関わろうとする奴ら。

 勝手な嫉妬でアンチと成り果てた奴ら。

 そんな奴らを、俺はごまんと見て来た。


 それでも、あいつはいつも誰かと仲良くしている。

 誰かに助けて貰い、誰かを助け、人として生きている。

 俺みたいな奴も含めて。


 だから、俺は誰よりもあいつを尊敬していた。


「良い子ね」

 突然の声に、俺ははっと我に返る。

 冷水をぶっかけられたような冷たい気持ちのまま、声が聞こえる隣に顔を向ける。


 そこに居たのは……こう……なんというか、とても一言では形容しきれない、そんな容姿をした同級生だった。

 ちょっとこう……、男とさえ、断言出来そうにない。


 高身長でピンク色の髪。

 はっきりとした化粧をして、ネイルやバッグは派手派手。

 片耳にだけ銀のイヤリングを身に付けているお洒落さん。


 間違いなく容姿端麗な方だが、そういう印象はほとんどない。

 というか容姿については本当に触れづらい。


 制服は男性で一目見ても男性に見えるが、その雰囲気は少し異なる。

 もしかしたら外見の性別通りではないかもしれないから、俺は男性と明言出来ずにいた。


 つまり一言でいえば、『おねぇ系』という奴だ。

 そしてそいつは、恐ろしいことに、俺の隣の席だった。


 ぴよこ、俺、おねえという席順である。


「はぁい。おはよ。どうしたの? 鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しちゃってさ」

 そう言って、彼(?)は俺にウィンクをした。


「いや、その……」

「ん? もしかして迷惑だったかしら? 突然声かけちゃって」

「いえ。大丈夫です」

「そう? 困らせちゃったならごめんなさいね」

「ところでその、良い子ってのは……一体……」

 もしかして、ぴよこを探ってるのか。

 そう思いながらぴよこに目線を向けると……。


「ああ、勘違いさせてごめんなさい。私が言ってるのは貴方のことよ」

「……俺?」

「そ。だって貴方、あの鳥ちゃんの保護者みたいなものでしょ?」

「まあ、当たらずとも遠からずですね」

「ふふ、隠さなくても良いのに。貴方が彼女を見る目、まるでお父さんみたいよ?」

「そう……でした?」

「ええ、すっごい暖かい目をしてたわ。……護るべき者を持つ、男の目」

「止めて下さい。なんか老け込んだ気分になってきた」

「あはは、ごめんなさい。私は南雲。なっちゃんと呼んで頂戴。それと、敬語はいらないわ。クラスメイトだもの」

 何となく目上の人だと思ったが、そういうことならと俺は頷く。


「俺は水無川伊織。伊織で良いぞ南雲」

「あらつれない。ま、クラスメイトとして、隣の席の友達として、よろしくしてくれたら嬉しいわ」

「ああ、よろしく。……不躾な質問だが、一つ良いか?」

「ええ、何でも聞いて頂戴」

「えっと……性別の自認は、どっちだ?」

「あら本当良い子ね。そんな細かいこと気にしてくれるなんて」

「とぼけるなよ。それで、どっちなんだ?」

「内緒」

「じゃあ、恋愛対象はどっちだ?」

「両方♥」

「……先に言っておくが、俺はノーマルだぞ」

「私も言っておくけど、恋に性別なんて、関係ないと思わない?」

「は、初恋もまだな俺だが、無関係とは思えないかな」

「あらー。うふふ、かーわぅいー」

 そう言って指先で南雲は俺の肩をつつく。


 ちょっと、いや大分怖かった。

 色々と、違う意味で。


 もしかして、俺に声をかけた理由は……。

 不安な表情で、ちらっと南雲の顔色を覗く。


 ニコニコ微笑み、何かアピールしている様子だった。

(――よし、無視しよう)


 俺は南雲から感じる熱視線に気付かないフリをしつつ、何も書かれていない黒板を見る仕事に就くことにし――。

 

「あら、いーくんもお友達出来たんだ。良かったね!」

 この最悪のタイミングで、ニコニコ顔でぴよこがエントリー。


 どうやらお友達との会話が終わってこっちに来たらしい。

 なんでこのタイミングで……と思わずにはいられなかった。


「私はアセリア。アセリア・ピュリコット。いっくんの友達です。よろしく」

「ええ、よろしくね可愛らしい小鳥ちゃん。私は南雲。なっちゃんと呼んで頂戴」

「はーい。よろしくなっちゃん」

「まあとっても良い子! 飴ちゃんあげちゃう」

「わーい」

 能天気なぴよこと南雲の様子を見て、俺は小さく溜息を吐く。


 この段階で、俺は教室に入って早々に覚えた嫌な予感は、ほぼほぼ確信に近くなっていた。




 しばらくの間、教室に入ってくるクラスメイトたちを観察した。


 妙に女性が多いというのは、この手の学園の特徴だから気にしなく手も良いだろう。

 アラハバキは優れた学園ゆえにそれが顕著えだり、例年六割から七割程が女子の入学となる。


 ただ、男女関係なく、やはりこのクラスに来る奴は、どこかおかしい。

 例えば、年齢の幅。


 クラスに一人、明らかに小学生みたいな奴が混じっていた。

 年齢制限に上限はないが下限はあるはずだぞ。


 おかしいのは年齢だけじゃない。

 俺もついさっき気づいたのだが、いつの間にかメイド服を着た奴がクラスメイトに混じっている。

 どこぞの金持ちが連れて来たかと思ったが、たぶん違う。

 そいつはちゃんと席に座っていた。


「ヘーイ。グッモーニン! 皆さん!」

 突然大きな声が響き、妙にガタイの良い外国人が教室に入って来た。

 まるで自分が教師みたいな態度をしているが、そいつはアマツを持ち、そして制服を着用していた。


 ボタンが全て開いて中のシャツを露出させているなんて不良スタイルだが。

 いや、こいつの場合は不良ですらない。

 中に着ているシャツは、何かのアニメの美少女キャラだった。

 そのファッションはまるで、ただ単に、アニメTシャツを自慢しているだけのようだった。


 無言の沈黙に耐え兼ね、ガタイの良い外国人は両手を広げやれやれと申し訳なそうな表情を見せた。

「おう……。日本人はシャイだったね。ソーリィ」

 そう言って男はデカイ体を縮こまらせ、椅子に座る。

 ちょっと椅子が可哀想に思えるくらい、そいつの身体はでかかった。


「あらぁ、随分と個性的なクラスメイトが来たわね」

 南雲の一言にツッコミたい衝動を、俺はぐっと飲み込んだ。




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