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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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13/14

奉納


 ホームルームは、すべてカットされた。

 どういうことなのかも、正直俺にはよくわからない。

 というか、大半のクラスメイトは困惑している。


 教師は来ず、代わりにメイドが代理として『HR自習』の文字を黒板に書いた。


 これが二か月先とかなら、それでもおかしいがまだ百歩譲って理解出来る。

 けれど、入学式の翌日、通常HR初回を自習ってのは、何万歩譲ってもわからん。

 一体何を学べというのだろうか。


 アラハバキ生としてというか、普通の学生としても、もうわけがわからない。

 教科書の配布さえまだだというのに、どんな理由で教師がホームルームをボイコットした。


 ちなみだがに、本来伝えるべきであろうこと、例えば今日の授業の時間割などの説明は、クラスメイトがしてくれた。

 メイド服を着た、クラスメイトが。


 ほかにも、学校生活において今日困りそうな部分も、大体メイドが説明してくれた。


 わけがわからないなりになんとかったからか、余計わけがわからなくなった。


「では、移動教室ですので、皆で移動しましょう。ご主人様がた、どうぞついて来て下さいませ」

 メイドはにこりと微笑み、そう告げる。


 メイドも新入生のはずなのに、その足取りによどみはなかった。




 そこは、荘厳にして厳粛、絢爛にして静謐たる雰囲気――つまり、神々しさに溢れていた。


 学内ではあるもの、教室からは一キロ以上離れている。

 自然満ちる山に囲まれた木製の校舎外廊下を直線進み、そこの突き当りにある建物。


 例えるなら、神社の本殿のよう。

 ある一点を除けば、そんな雰囲気のある建物だった。

 その異なる唯一の一点は――大きさ。


 その本殿めいた建造物は、体育館がすっぽり入るような巨大なサイズとなっていた。


 中に入ると、先客がすでに授業を行っていた。

 奥に見えるのは、劇場のような舞台。


 その舞台の上で、十人以上の生徒が舞を踊っていた。

 雅楽を伴うその舞は、この学園の名前にも含まれる、『神楽舞』のようだった。


「……ふぅん。先輩方はそういうことをするんだ。なるほどねぇ」

 南雲は小さく、誰にも聞こえないような声でそう囁いた。

 それは納得や感心ではなく、どう聞いても落胆や呆れの混じった、そんな声色だった。


「何が不味いんだ? 奉納において神楽舞ってのは王道とも言える手段だろ?」

「王道だからよ。つまり無難なの。私から言われれば、それは逃げみたいなものよ」

「はぁ……俺にはよくわからん」

 芸術家肌なのだろう。

 南雲の言い分は、本当に、一ミリも理解できなかった。




【奉納】

 その実技こそが、俺達の最初の授業だった。


 クラスの空気は割と暗い。

 何人かは泣きそうなくらい絶望している。


 とは言え、当然だろう。

 何の備えや準備もない中で、大勢の観客が入った大舞台で何かやれと言われたら、誰だってこうなる。

 奉納科という、それ専属の奴を除いて。


 三学科の一つ、奉納科。

 その主な役割は、その名の通り『奉納』。

 具体的には、神に対し己が芸を披露することである。


 芸の内容は問わない。

 極論、神を喜ばせられるなら何をしても正解となる。


 舞台上で戦おうと、相撲を取ろうと、舞おうと、落語をしようと。

 ウケさえすれば何でも構わないのだ。


 だから、奉納科というのは半分以上が芸術家志望であると言い換えても良い。

 南雲もその系譜なのだろう。

 いや、恐らく俺が思う以上に南雲は凄い奴なのかもしれない。


 いきなり実技に連れていかれても、緊張の色さえ見せていなかった。

 それどころか、他の奴と違いピリピリとした、凄腕の剣士が放つような気迫を放っているくらいだ。


「伊織ちゃんも、結構平然としてるわね? 自信がある感じ?」

 その言葉に、俺はどう返せば良いか困った。

 正攻法とは言えないけれど、それなりに結果を残せるものが。

「まあ……騙し騙しで半年くらいはいけるんじゃない? ただ……」

「ただ?」

「伸びしろがなぁ……」

 正攻法でないからこそ、それがずっと続くとは思えない。

 一流名門学園であることを考えると、そのくらいが俺の芸が通用する限度期間だろう。


「へぇ。何するか全然想像出来ないわ。ちょっと面白そう、期待してるわよ」

「あんま期待せんでくれ。それならぴよこの方が楽しいぞ」

「ぴよっ!? いーくん、ハードル上げないでよ。心臓バクバクしてるのに……」

 そう言って、ぴよこは俺の腕をぺしぺし叩いてきた。


「小鳥ちゃん、そんな凄いの?」

「凄いかどうかはともかく、楽しい。そして楽しいってことは、何より正しい。違うか?」

「――いえ、その通りよ。人が見て楽しくないものを神が楽しむわけがない。基本ね」

「だろ? だからぴよこは奉納科に行くと思ってたんだけどねぇ……」

 少なくとも、奉納科をぴよこが目指せば、容易く合格していたはずだ。


「伊織ちゃんだけでなく、そっちも楽しみにしておくわ」

「南雲の方はどうなんだ? たぶん……あんたは一流だろ?」

「ええ、一流よ。一流だから、今回は義務と責務をまっとうするの」

 そう言って南雲はウィンクをした後、ひらりとその場を離れた。


 彼が向かったのは……小さなクラスメイトの元。

 この中で、一番顔色の悪かった同級生である。


「……なるほどねぇ」

 奉納の実技は中学から始まる。

 つまり、下手すればあの子は実技未経験の可能性がある。

 この、大舞台が初実技というのは正直酷だ。


 だから、その補助をする。


 クラスメイトとして、そして神々に奉納する『捧げ人』として。

 確かに、その在り方は一流だ。




 そうして、三年の番は終わり、四組の奉納が始まった。

 まあ……結果としては微妙な感じであった。


 悪いという程出来の酷いものは少ない。

 ただ、観客の受けは相当に悪かった。

 当然だ。

 さっきまで奉納していたのは三年と比べられているのだから。


 神々の反応は、芸が終わった後に輝く舞台両脇の光で判断できる。

 曖昧な色のため細かい判断は叶わないが、寒色ほど反応が悪く、暖色ほど反応が良いとされている。


 とは言え、寒色でも高評価の場合もある。

 評価が本当の意味で確定するのは、二色のみ。

 綺麗なまっ青は最悪で、燃えるような赤は最高。


 そして、さっきから色がずっと黄色や緑ばかり。

 観客の反応は悪く、目は冷たい。

 観客の反応に怯え失敗した生徒も出ている。


 青に近い色さえちょくちょく出て、どんどんと、場の空気が重くなっていた。


「厳しいわね……」

 いつの間にか隣に南雲が立ち、そう呟いた。

 普段はちょっと引きたいが、今だけは頼りになった。


「評価が厳しい理由ってわかるか?」

「伊織ちゃんは?」

「幾つか思い当たりはする」

「聞かせて頂戴」


 俺は順に、失敗の理由を挙げていく。


 まず、単純にアラハバキの奉納レベルが高いこと。

 入学したてで何も学んでない中学レベルの俺達にはきつい。


 続いて、場に飲まれてしまったこと。

 三年の後に加え、大舞台であること。

 観客も二年、三年に加え大人だって何人もいる。

 ちょっと敏感なら神々を感じてしまう可能性だってある。

 緊張しないわけがない。


 それと、自信を失ったこと。

 奉納とは、芸を捧げること。

 駄目だという気持ちや、失敗したという気持ちも一緒に奉納される。

 そして、そういう気持ちを好む神様は少ない。


「最後に、場に不慣れなことだな」

「最後のはどういう意味? 慣れと同じじゃない?」

「球技でいうホームとアウェーみたいな感じだな。いらっしゃる神々の傾向もあるわけだし」

「……伊織ちゃん、実戦科なのによく調べてるわね」

「まあな」


 そう適当に流す。

 ぴよこが奉納科に行くと思ったから学んでおいたなんて、こいつには絶対教えたくなかった。


「で、俺ので正解か?」

「ええ、概ね私も同意見よ。まあ、一番が実力不足。二番が緊張。三番が悪循環って感じ」

「なるほどな。シンプルでわかりやすい」

「あと一個、追加で足すなら、ここにいらっしゃる神々が真面目な傾向にあるというのもマイナスよ。純粋に、実力で見て下さっている」

「ふむふむ。それで、対策は?」

「……たぶんだけどさ」

「ん?」

「これ、ボコボコにされてメンタル鍛えさせる授業じゃないかしら? そうでない限り、授業初回に実技なんてしないでしょ」

 そう言って、南雲は静かに二年・三年の見学者を指差す。

 そう……普通に考えたら、見学の方が先だ。

 見学も練習もなしに舞台に立たせる理由は他にないだろう。


「確かに。それはありそうだ」

「予行練習どころか合わせもリハもなしだもの。それを考えたら、うちのクラスはよくやってる方よ」

「まあ、そうかもしれんな」


「というわけで、ガッチガチに重たい空気の中で小鳥ちゃんの出番だけど、どんな気持ち?」

 そう南雲が言った瞬間、舞台の上にぴよこが立った。


「ん? 失敗したら思いっ切り笑ってやろうって思ってる」

 そう言って、俺はわざとらしくぴよこを指差し、笑う真似をしてやった。

 舞台からこちらまでは遠く、照明の問題でほとんど見えないだろう。


 そのはずなのに、ぴよこはこちらを恨みがましく睨んできた。


「本当……良い関係ね、あなたたちは」

「ノーコメントで」


 そう言って、俺はぴよこの舞台に集中した。

 不安で手の平がじっとり汗ばんでいることを、誰にも気付かれないように、必死で隠しながら。


ありがとうございました。

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