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第2話 邪道の才能

「——修行よ♡」


セラフィナの甘い声が耳元で響いた瞬間——


彼女の細い指が、俺の腰に伸びてきた。


そして、さらに下へ。


「え、ちょ、先輩? そこは——」


「サキュバスの修行って、何だと思う?」


セラフィナは妖艶に微笑んだ。


「私たちは『精気』を吸収して強くなる種族よ。そして精気が最も濃く宿る場所は——」


彼女の指が、俺のベルトに触れた。


「——ここ♡」


待て。


待ってくれ。


これ、そういう展開か?


俺の頭の中で、元の持ち主の記憶がフラッシュバックする。


サキュバス課——その実態は、魔王軍の中でも特殊な部隊だ。


彼女たちは戦場で剣を振るうのではなく、『精気吸収』によってレベルを上げる。


つまり——男を誘惑し、その生命力を糧に成長する。


魔王軍の記録によれば、優秀なサキュバスは一晩で十数人の精気を吸い尽くし、一気にランクアップすることもあるという。


逆に言えば——


見習い兵として送り込まれた者たちは、彼女たちの『餌』でしかない。


黒崎遊真——この体の元の持ち主は、魔界の歓楽街に入り浸っていた。


毎晩のようにサキュバスの店に通い、精気と金を使い果たし——


挙句の果てに、妙な病気をもらっていた。


つまり、この体は——


「あの、先輩、ちょっと待って——」


「大丈夫、優しくするから♡」


聞いてない。全然聞いてない。


俺の言葉は、セラフィナの唇に塞がれた。


甘い香りが鼻をくすぐる。柔らかい感触。体温が伝わってくる。


そして——


体の奥底から、何かが吸い出される感覚。


「んっ……♡」


セラフィナが満足げに喉を鳴らした。


俺の精気が、彼女の唇を通じて流れ込んでいく。


抵抗しようとしても、体が動かない。


まるで蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、ただ吸い尽くされるのを待つしかなかった。



——30分後。


「…………」


俺は天井を見上げていた。


体から全ての力が抜けている。


いや、力だけじゃない。精気も。生命力も。何もかもが——


吸い尽くされた。


「あら、もう終わり?」


セラフィナが俺を見下ろしていた。


彼女の肌は艶やかに輝き、瞳には満足げな光が宿っている。髪はより艶やかになり、角はわずかに大きくなったような気がする。


対して俺は——


干からびたミイラのようだった。


「本当に使えないわね」


セラフィナは舌打ちした。


「顔だけは良かったのに、精気がこれっぽっちしかないなんて。普通の見習い兵なら、これの三倍は吸えるのに」


彼女は不満そうに髪をかき上げた。


「しかも——」


彼女は眉をひそめた。


「——なにこれ、変な感じがする。あなたの体、何か病気持ってない?」


「あ……」


やばい。


言い忘れてた。


「その……この体の元の持ち主が、歓楽街で遊びすぎて……」


「は?」


「妙な病気を……」


「ちょっと待ちなさい」


セラフィナの目が据わった。


「私、今あなたの精気を全部吸ったんだけど」


「はい……」


「その病気、精気と一緒に感染するタイプ?」


「……たぶん」


沈黙。


セラフィナの顔が、ゆっくりと青くなっていく。


体の奥底から、何かがこみ上げてきたのだろう。彼女は喉を押さえて、苦しそうに咳き込んだ。


「ゲホッ……ゲホッ……!」


吐き出されたのは——黒い血だった。


床に、ドロドロとした液体が広がっていく。


「あ、あなた……」


彼女の声が震えていた。


紅い瞳が、憎悪に染まっていく。


「どうして……先に……言わないのよ……!!」


「いや、先輩がいきなり——」


「私もう全部吸っちゃったじゃない!!」


セラフィナの手が、俺の首に伸びた。


だが、その手は——もはや美しい女性のものではなかった。


爪が鋭く伸び、皮膚が黒ずんでいる。精気の腐敗が、すでに彼女の体を蝕み始めていた。


「絶対に……絶対に許さないから……!!」


彼女の手が、俺の首を掴んだ。


ギリギリと締め上げられる。息ができない。


「せめて……あなたも……道連れに……!!」


セラフィナの口が大きく開いた。


牙が伸びている。もはや人間の形を保っていない。


「《精気吸収・暴食》!!」


次の瞬間——


彼女の口から、黒い霧が吹き出した。


それは俺の全身を包み込み、残っていたわずかな生命力すらも吸い尽くしていく。


視界が暗くなる。


体が冷たくなる。


意識が——遠のいていく。


最期に見えたのは、セラフィナの絶望に歪んだ顔だった。


彼女もまた、数日後には死ぬのだろう。


俺の病気を吸い込んだ代償として——


ゴキッ。



【あなたは死亡しました】


【激昂したセラフィナに殺されました】


【固有スキル《リトライ》が発動します】


【現在の『リトライ』残り回数:99/100】


【初期地点『新兵選別所』へ帰還します】


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【——継承選択——】


死に戻り時、以下から一つを選択できます

※記憶は常に保持されます


① 前世の「スキル」を全て継承


② 前世の「ステータス」を一部継承


③ 前世の「アイテム」を全て継承


④ 全てを放棄 → ランダムギフト獲得


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【選択時間: 60秒】



真っ暗な空間の中で、俺は浮遊していた。


体はない。ただ意識だけが存在している。


「……これが、死か」


不思議と恐怖はなかった。


むしろ——冷静に、自分の状況を分析できている。


「1周目で手に入れたものは……何もない」


スキルも、ステータスも、アイテムも。


選べるのは四番目だけ。


「ランダムギフト……か」


俺は迷わず選択した。


次の瞬間——


【選択を確認しました】


【前世の経験を集計中……】


ピコン、ピコン、ピコン。


システムウィンドウが次々と開いていく。


【——判定開始——】


【討伐対象: サキュバス・セラフィナ(ランクD)】

【討伐者: 黒崎遊真(ランクF−)】

【戦力差: 測定不能】


【しかし——】


【セラフィナはあなたの精気を吸収した後、謎の病に感染しました】

【数日間苦しんだ末、彼女は精気が腐敗し、死亡しました】


ピロリロリン♪


【特殊討伐を達成しました!】


【弱者が強者を打ち倒した!】

【己の病んだ体を囮にした禁断の策略!】

【弱肉強食の掟を覆す快挙!】


ピロリロリロリーン♪♪


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   NEW GIFT ACQUIRED

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【天賦覚醒!】


【天賦名:《邪道の鬼才》】


【魔道・邪法において類稀なる才能。同ランクの者が千回の修練で到達する境地を、あなたは百回で超え、邪道においてはさらに二十回で極める。】


【効果】

・全スキル熟練度獲得速度+300%

・邪道系スキル熟練度獲得速度+500%

・熟練度減少効果を無効化


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


★称号《サキュバス殺し》を獲得!

★病気が軽減されました(HP+37)


【これぞ——下克上の始まり】


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「名前を呼ばれた者は前に出ろ」


目を開けると、俺は新兵選別所に戻っていた。


黒ローブの悪魔が名簿を手に、淡々と点呼を続けている。


さっきまでの出来事が嘘のようだ。


セラフィナの怒り狂った顔。首を絞められる感覚。黒い霧に包まれる恐怖。そして——その前の、甘い時間。


全てが脳裏に焼き付いているのに、今は何もかもが巻き戻っている。


「……マジで戻った」


これが『リトライ』の力か。


死んでも、最初からやり直せる。


俺は深く息を吐いた。


体に気力がみなぎってくる。病弱だった肉体が、少しずつ回復していくのを感じる。


「……病気が、少し軽くなってる」


俺は自分の状態を確認した。


あの致命的だった病気は、まだ完治していないが——確実に症状が軽減している。


それに加えて——


「これが、《邪道の鬼才》……」


俺の目の前に、更新されたステータス画面が浮かんでいた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     STATUS

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

名前: 黒崎遊真

種族: 人間(転生者)

ランク: F−(見習い兵)


HP: 45/100【回復中】

MP: 12/30

SP: 50/80


【基本能力】

筋力: E

耐久: E

敏捷: D

魔力: E

魔耐: E−

幸運: E−


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【天賦】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


《邪道の鬼才》(Rare)

├─効果①: 全スキル熟練度獲得速度+300%

├─効果②: 邪道系スキル熟練度獲得速度+500%

└─効果③: 熟練度減少効果を無効化


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【スキル】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

なし


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【耐性】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【耐性】

・毒耐性 LV3


【弱点】

・斬撃ダメージ+50%

・打撃ダメージ+30%

・病弱デバフ【軽減中】

HP自然回復-30%(元-50%)

スタミナ消費+20%(元+30%)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【称号】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


《サキュバス殺し》

効果: サキュバス系に対してダメージ+20%


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【固有スキル】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


《リトライ》(???)

残り回数: 99/100


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


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