第4話 彼らが来た日
それは、ずっと昔の記録。
まだ地球が「侵略対象A-3」と呼ばれていた頃。
青い星を見下ろす小型輸送艇の中で、三体の個体が並んで立っていた。
「任務確認」
無機質な声が、船内に響く。
『地球潜伏。生態調査。文明観測。必要とあらば、侵略前段階の妨害』
ゴディは、まだ“ゴディ”という名を持っていなかった。
カイも、フィンも、番号で呼ばれていた。
「感情抑制プログラム、正常」
「模倣能力、正常」
「動物形態への適応率、問題なし」
フィンが、わずかに首を傾げる。
「ねえ。もしさ」
監視装置が光る。
「……質問は許可されていない」
「そっか」
軽く流したが、その時から、何かが少しだけズレ始めていた。
⸻
地球、到達初日。
夜の動物園は、静まり返っていた。
檻の鍵が閉まる音。
遠くで吠える動物の声。
「ここが、我々の潜伏地」
カイは周囲を観測しながら言った。
「合理的だ。動物は観察される存在。違和感が出にくい」
ゴディは檻の鉄を握る。
「……閉じ込められる、というのは」
「任務だよ」
フィンが、まだ軽い口調で言う。
「すぐ終わる。侵略が始まれば――」
その言葉は、続かなかった。
翌朝。
初めて、子どもがゴディを見て笑った。
「すごーい!大きい!」
怖がるどころか、目を輝かせて。
初めて、カイの前で飼育員が手を叩いた。
「よしよし、今日も元気だね」
命令でも、観察でもない声。
初めて、フィンに向かって誰かが言った。
「きれい……」
その言葉は、解析不能だった。
⸻
夜。
三体は、誰にも見られない場所で小さく集まる。
「……侵略、ってさ」
フィンが、羽をたたみながら言う。
「これ、壊すことだよね」
「定義上は」
カイは即答したが、言葉に迷いが混じる。
「でもさ。今日見たの、壊す必要ある?」
ゴディは黙っていた。
だが、その胸の奥で、何かが確かに芽生えていた。
それは――
命令には含まれていないもの。
感情。
⸻
そして、現在。
ゴディは夢から覚め、檻の中で目を開ける。
外は、まだ夜明け前だった。
(俺たちは、選んだ)
命令ではなく。
母星でもなく。
この星を。
遠くの空で、見えない何かが光った。
侵略者は、もう“観測”を終えつつある。
次は――
試す番だ。




