『緋ノ宮ラク① 〜三原色〜 』
ラク、名前回です!
物心ついたときから、動物が好きだった。
なんで好きになったかは覚えていない。多分、動いているものが面白いとか、そんな感じだろう。
カワウソが好きだ。特に、ユーラシアカワウソが。絶滅したニホンカワウソと近い種らしい。ロマンを感じる。
ペンギンが好きだ。ジェンツーペンギンが良い。目の上の白い部分が、黄色い足が、泳ぐ速度が速いのがかっこいい。
パンダが好きだ。竹を食べるために肉食動物だったのに進化して竹特化になったその体に進化の神秘性を感じる。
他にも、ハシビロコウが好きだ。オニオオハシが好きだ。ホンソメワケベラが好きだ。カモノハシが好きだ。マッコウクジラが好きだ。アカハライモリが好きだ。シャチが好きだ。ブラックマンバが好きだ。インドサイが好きだ。テングザルが好きだ。アフリカオオコノハズクが好きだ。ワモンアザラシが好きだ。サーバルが好きだ。ダイオウホウズキイカが好きだ。それから.....
好きな動物を上げるときりがない。とにかく、動物が好きだった。
この中で一番好きな動物はやはりペンギンだろう。ペンギンには凄く惹かれた。全種類言えるし、特徴も見分けられる。水族館のペンギンコーナーにいけば2時間は見てられる。
緋ノ宮ラクはそんな少年だった。
緋ノ宮ラクには夢があった。
「いつか、僕は南極に行く!僕はそのために生きている!」
小学生の頃、よくそう叫んでいた。キチガイだと思われていたかもしれない。どうでもいい。今に見てろ。当時からそう思っていた。
「私は、応援してるよ?南極。」
そう言ってくれたあの声が、今も忘れられない。
「僕は南極に行く!南極で死ねたら本望!」
中学生になっても、閾の日で能力者になっても、高校生になっても、真剣組になっても、ラクの一番の夢として『南極』は存在した。夢の場所、南極に行く。そこでペンギンの研究をする。
実は南極で一年中暮らすペンギンはエンペラーペンギンとアデリーペンギンの2種類しかいない。そんなこと知っている。だけど、それでも南極で観測したかった。
緋ノ宮ラクはずっと少年のままだった。
幼い頃、両親はラクに動物の図鑑を買ってくれた。今思うとカグヤやイツキばかり構い、ラクへ愛情をほとんど注がなかった罪悪感からせめてものこととして買い与えてくれていたのだろう。現にその図鑑たち以外買い与えられた記憶はラクには無いし、カグヤやイツキはもっと沢山買ってもらっていた気もする。
それでもラクは嬉しかった。その多くの本が今のラクを作ったと言っても過言ではない。
漢字にひらがなでふりがなが書かれた図鑑。分類も今思うとめちゃくちゃで、ハヤブサがまだタカの仲間としてくくられていた。それでも、16歳の今でもラクは大事に持っている。
親から『愛せなくてごめん』と言われた時は流石にショックだったが、ラクは最低限の愛情はあったのではないかとおもう。虐待じみたこともされてきたが、ラクはそれでも親に感謝している。『産んでくれてありがとう』や『世話をしてくれてありがとう』なんかじゃない。ただ、一つ。これだけは感謝している。『僕に夢を与えてくれてありがとう。』
カグヤは優しかった。ラクの動物好きに理解はしないものの応援してくれた。イツキはラクの動物好きにこちらも理解はなかったが、否定はしなかった。
「僕、幸せだったんだな。」
そんな家族達のおかげで、今のラクがいる。
ラクは奇跡のような少年だった。
『閾の日』が来た時、皆はランダムな能力を手に入れた。ハルキは風に興味など無いのに風系の能力を手に入れた。ソウヤは銃なんか興味ないのにそういった能力を手に入れた。
そんな感じで皆、自身が望んだ能力になることはほぼ無い。
しかし、ラクは違った。ラクは生物に関する能力を手に入れた。
これは運命に近い。ラクは得意の動物知識でその能力を使いこなしていた。ラクの知識あっての動物能力だった。適した場面で適した動植物を召喚できる。そういった体の特徴に変形も出来る。ラクの能力の強さは手数の多さだ。それにラクの動物知識が上乗せされ、覚醒前からほぼ覚醒能力者と同等の力をラクは出せた。
もちろん、覚醒している能力者と比べたら弱い。しかし、一般の能力者よりは遥かに強い。ラクは普通の能力者と覚醒後の能力者の間に位置する存在だった。
そんな彼が、覚醒した。
目が三色に光る。能力者が覚醒したら目が光ることは知っていたが、こんな光り方もするのだな、とラクは思った。
「ふっ、やっと覚醒したみたいね。これで殺せる。」
マリオネットはラクにそう言いながら人間粘土でしっかりと掴んだソウヤとミナトを人質だと言わんばかりにラクに見せつけた。
「こっちも本気でお前を殺す。」
ラクはマリオネットを睨みつけ、右手を高く上げる。
パチンッ!
指の音が響き渡る。と、ラクの右手から炎が出てきた。ラクの右手が炎をまとった。
「な、なんで炎なの?!アンタの能力は生物で...」
マリオネットは動揺する。
「ふぅ...」
ラクは目を瞑ると両肩から翼が生える。これは覚醒前から持っていた能力だ。
「不死鳥...」
マリオネットはそう呟いた。そう思わずにはいられなかった。まさか、ラクは覚醒して不死鳥の能力を手に入れたのか?
「少し花火が出るようになった、だけなの?随分期待外れな覚醒ね。前とあんまり変わらないじゃない。」
マオリネットはすぐに冷静さを取り戻す。相手は少し演出が派手なだけで特別強くなったわけではないだろう。前と同様、人間粘土で包んで今度は頭でももげば勝てる。さらに、今回はコチラに人質がいる。ラクも派手には動くまい。
「...まずは人質を解放させないとな。」
ラクはマリオネットの人間粘土が掴んでいるソウヤの方に飛んでいった。
「止まりなさい。さらに近づくなら殺すわよ。」
マリオネットは警告する。しかし、ラクは止まらず、ソウヤ目掛けて飛んでいき、足から生やした爪で切り裂いた。
「聞こえないの?!言ったでしょ!殺すって...」
ソウヤは救出されたが、ミナトはまだ残っている。ミナトの頭を砕いて潰そう。そうマオリネットはしようと脳に命令を出したが...
「うご...かない...?!」
何故だ?触手のように伸びた人間粘土がピクリとも動かない。
思わずマオリネットはミナトの方の人間粘土を見る。
「なっ?!」
何故?いつの間に?誰が?
分からない。だが、マオリネットは見た。自身の人間粘土が凍りついて動かなくなっているのを。
「なぜ...?」
「僕の能力以外、無いだろ?」
ラクはそのまま地面を蹴り、凍りついた触手を粉砕した。そっと落ちてくるミナトをラクはひょいっとキャッチする。
「緋ノ宮ラク...アンタの能力は『生物』でしょ?まさか、炎を出せたり周りを凍らせたり出来る動物がいるの?」
「いいや、僕が知る限り、高温のガスをおしりから出す動物は知っているけど、冷気を出したり右手から炎を出す動物は知らない。」
「だったら...何故?!」
「解釈を広げたんだ。僕の能力は『生物』ではない!」
マリオネットはラクの大声に目を見開く。ラクがいたずらげにニヤリと笑う。
「僕の能力は、『自然』に変わったんだ!」
マオリネットは動揺を隠せない。覚醒することで能力が変わることがあるのか?いや、今はそんなこと考えている暇はない。一刻も早くラクを...
「燃えやがれ!」
人間粘土が燃え始める。
「くッ!死になさい!」
マオリネットの人間粘土がラクに波のように襲いかかっていく。
「嫌だね!」
ラクは今度は左手の指を鳴らす。すると、辺りに水が出てくる。ラクはその水を操り、シールドのように自身の周りにまとわせる。そして、人間粘土がラクを叩く前にラクはそれを凍らせた。氷のガードで守られ、人間粘土は氷をわるが、ラクへのダメージはほぼゼロになった。さらに、ラクは凍らせていた間にバリアから抜け出していたのか、砕いた後にはもういない。
「後ろだよっ!」
厄介すぎる。コイツは『動物』だけでなく、炎や水、氷も使ってくる。『自然』と言っていたから、おそらくは電気や風も使えるのだろう。
「ちょっと、ズルすぎない?」
マリオネットは後ろから飛んでくるラクに一言そういった。
「触れただけで勝ち確のお前に言われたくないな!」
「そう。」
今度はマオリネットがパチンと指を鳴らした。
すると、人間粘土がどんどん集まっていき、大きな腕が生えてラクを掴んだ。そのまま人間粘土は集まっていき、胴体、頭、右足、左足とどんどん出来ていき、ついには30mほどの巨人となった。
「チェックメイト。」
マオリネットは巨人の肩の上に立ち、ラクを握り包んだ巨人の手をじっと睨む。
そうだ。後はラクを先程と同様、人間粘土で包んで頭をもぎ取れば...
そこまでマリオネットが考えた時、いきなりだった。
「えっ?」
巨人の、ラクを包んでいた手が爆散した。
「ちょっ!ちょっと待って!」
無駄だ。ラクは氷で刀を作り、それで巨人の腕を裂きながら走って腕を登ってくる。
「バカね!私に触れられたらアンタの罪なのよ!コッチだって覚醒しているんだから!」
マオリネットの叫び声などラクには聞こえていないかのようにラクはマオリネットに向かって走る。
「っ!自ら私の駒になりに来たのね?!」
マオリネットは両手をラクに突き出す。あと2m。ラクはそれほどまで迫ってきていた。
「なら、望むとおりに...」
マオリネットの目の前から、黄色い髪の少年の姿が、消えた。
「えっ?」
マオリネットは思わず上を見上げる。翼を生やしたラクが5mほど上空でコチラを睨んできている。そして、左腕からツタを伸ばして、マオリネットの足を縛り上げようとしながら。
「っちょ!離して!」
「離すかよ!」
ラクはそのまま振り子のように上空でマオリネットをくるくる回し、ふっとばした。ふわりとマオリネットが浮く。そのままラクの頭上に。
「......僕の最後の情だ。自分が殺してきた人たちのこと、どう思うか?」
「どうって...どうも思わないわよ!」
「そうか......くッ、僕には少し、しんどいな。ごめん、ただ、それしか言えない。」
マオリネットはラクが何を言ってるのかさっぱり分からなかった。ラクは右手を銃のような形にし、人差し指をマオリネットに向けた。
「...三原色!」
ラクが叫ぶ。すると、ラクの体の周りを3つの光がくるくると回り始めた。赤い光、青い光、緑の光。覚醒したあとのラクの目の色と同じ色だ。その三色の光が、ラクの人先指の上に合わさり、乗っかる。
ラクが親指の引き金を引いた。
「えっ?あっ....嘘...」
マオリネットは絶句した。こんなの、避けれるわけがない。
3つの光が一瞬でビームのように飛んでいき、マオリネットの右半身を吹き飛ばした。
「...さよなら。」
ラクは少し悲しそうな目で、マオリネットを見つめた。マオリネットは徐々に意識を失っていく。ラクのツタも燃え尽き、マオリネットの体は落下していく。
なんだ?何だったんだ?あんな火力、見たこと無い。あんなチート技、喰らったらひとたまりもない。そうか、そうだからラクは私を上空に飛ばして、あの技を使ったのか。ビルや仲間に被害が出ないように。
「最後に...あの技が何だったのか教えてくれる?」
マオリネットは落ちながらラクにそうか弱い声で言う。
ラクは左手からツタを出し、マオリネットを掴む。
「僕の新しい必殺技、『三原色』さ。炎のエネルギー、水のエネルギー、生物のエネルギーを指先に集める。そして、それを相手に放つ。相手からしてみれば自然まるまる攻撃してくるようなもんだ。」
「まさに...チートね...」
「...負けたのにあんまり悔しそうでも無いんだな。」
「だって、あんなの勝てるわけ...無いもの...」
「そうか。」
ラクはその言葉を最後に、マオリネットを掴んでいたツタを離した。マオリネットが落ちていく。人間粘土の巨人ももう操れない。そんな気力がない。
「あぁ、負けちゃった。」
マオリネットの最期の言葉だった。次の瞬間には、グチャっという音と共にマオリネットはめちゃくちゃに散らばっていた。
ラクは少し悲しそうにしながらふわりと着地し、翼を収めた。そのまま右手から炎を出してマオリネットの遺体を燃やす。
「大丈夫ですか?」
ミナトとソウヤの元に戻ってくると、アカネが二人を寝かせていた。
「あぁ、意識は失っているが、二人とも無事だ。」
「そう、か。ならよかった。」
アカネの返答にラクは安堵する。
「ラク兄、さっきの技、すごかったな!あんなかっこいいビームを出せるなんて、すごいぜ!」
「あぁ...」
「尊敬して今度からラク兄って呼ばせてもらうぜ?」
「...僕の弟はイツキだけだ...」
興奮気味のアカネとは対象的にラクは暗かった。
「ラク兄?」
「...僕は今日、初めて人を殺した。ちょっと、それがキツくてね。」
「.......僕はシンやマオリネットみたいになりたくない。人を殺すことにいつか抵抗が無くなっちゃうんじゃないかって。」
ラクは少し涙目でアカネに訴える。
「ラク兄、ちょっとしゃがんでくれ。」
アカネに言われ、ラクはゆっくりとしゃがむ。
「ラク兄、もう、大丈夫だよ。」
アカネはそっとラクの頭を撫でる。よしよし、とラクの頭を丁寧に。
「アカネ...アカネぇ....」
ラクの目から涙がこぼれ始める。何かが吹っ切れたような、か弱い声でアカネの名前を呼ぶ。
「ラク兄、アンタは一人じゃない。オレが、ソウヤが、アラタが、ハルキが、ミナトが、さらにもっと沢山いる。オレたちがついているし、オレたちがアンタにそうさせない。」
アカネは普段の性格では絶対言わないようなことをラクに言った。ラクは泣きながらただ撫でられている。
「アカネ...」
重なる。アカネと、カグヤが。自身の兄、緋ノ宮カグヤならラクがこうなったらきっとアカネと同じようにしてくれた。
ラクは両手で涙を拭きながら、それでもこぼれてくる涙を抑えながら...やがて、そのまま静かに眠りに落ちた。
ラクは、やっぱり少年のままだった。
ラクの能力について
『自然』の能力。ラクが『自然』だと思うことは基本何でもでき、炎を出したり、氷を出したり、水を出したり出来る。さらにマオリネットが予想していたような電気や風も可能。『三原色』はラクが覚醒した後に思いついた技で、炎、水、生物のエネルギーを合わせて放つ技。破壊力は高く、マオリネットのような覚醒した強い能力者でも死ぬレベル。
このラクの覚醒回は構想段階で結構最初の方に思いついていました。というか、ラクというキャラは覚醒後の能力から考えられ、その後覚醒前の能力が作られました。ちなみに作者の僕も動物が大好きです。




