怪物を作ったのは。
過去編ラスト!
「見ちゃダメ。」「シッ!シッ!」「よそ者!」
あれから3日。シンは村人たちから称賛されていた...なんてことはなかった。たしかに村人たちは最初は『死』の能力を持った熊をシンといのりが倒した事を称賛した。だが、シンが熊の能力を吸収したことを知った途端、みなはシンを恐れ、避けるようになっていた。
「......」
シンは石を投げられても無反応で歩いていた。もうこの村に滞在する意味もない。村人たちを怖がらせるだけだ。そろそろこの村も去らねば。その前にあっておきたい人がいた。
「シン様、大丈夫でしょうか?」
いつも通り引き戸を叩く。しばらくして開いた引き戸から、いのりが顔をひょこっと出して心配そうに言う。彼女だけはシンの味方だった。シンの顔も少し柔らかくなる。
「あぁ、大丈夫だ。」
シンは羽織を脱ぎ、いのりの部屋に入って襖を締める。
「雪が今日も強いな。」
「そうですね。」
さて、そんな話をしにきたわけではない。
「私は今日、この村を出ていくことにした。」
「...そうですか。」
「あまり驚かないのだな。」
「えぇ。そもそも熊狩が終われば帰られるとおっしゃっておりましたので。」
いのりが驚かないのは少しさみしいが、まぁ、それもそうだろう。
「私はしばらく山を歩く。夕方、帰り支度を済ませて、夜には村を離れる。」
「気を付けてください。」
「あぁ。」
シンはまた羽織を着て、雪の中、外に出ていった。
森の中、この前熊と戦った場所。シンは亡くなった熊狩へ敬意を表し、一礼して通り過ぎる。さて、鎌倉に帰ったらまず何をしようか。報告が最初かな。などと考えながら、シンはどんどん山奥へ入っていく。
人目もつかない場所。そこに1匹の鹿をシンは見つけた。鹿には少し可愛そうだが...
「ハッ!」
シンは右手を鹿に向かって降った。すると黒いモヤが出てきて、伸びていき、鹿に触れた。鹿は苦しそうに跳び、3歩ほど進んだ後にバタリと泡をふて倒れた。
やはりこの力は『死』の呪術で間違いない。これがあればどんな物でも殺せる。熊が持っていて良いような力じゃない。この力は当分は封印しておこう。シンはこころに決めた。
夕方、村に帰る。相変わらず村人たちの視線は冷たい。しかし、今回はなんだか少し違った。笑っているのだ。クスクスと。ゴミを見るような目で。
「おじさん、俺、見ちゃったよ。」
一人の少年がニヤニヤとシンに近づいてきた。よく、シンと遊んでいた少年だ。
「...何を見たんだい?」
シンが聞き返す。
「おじさんが鹿を殺すところ。」
シンの顔から血の気が引く。見られていたのか?あれが?誰もいないと思ったのに。完全にシンの確認不足だった。
「クソッ!」
シンは慌てる。見られたくなかった。もっと恐れられるから。村人たちの不安を更に煽ってしまうから。熊の能力が『死』の能力だとは絶対に。
怖かった。あのよく遊んでいた少年がいきなり牙を剥くとは。この能力を知られることは危険だ。鎌倉に帰ってもバレてしまったら居場所は無くなるだろう。少年によってシンはこの力を持つことの恐ろしさを実感した。
今、シンがやるべきことはこの村から一刻も速く出ていくことだ。だが、その前に、いのりに会いたい。挨拶をしなければ。彼女だけは自分の味方だったのだから。
「いのり!」
シンはいのりの家の扉を叩く。すると扉は倒れ、開いた。叩いただけで。
シンは慌てる。部屋の中を見渡す。荒れていた。物が散らばっており、何かをこぼした後もあった。
「シン...様...」
いのりの声がした。シンは声のする方向を向く。そこにはいのりが...服は破かれ、目には涙の跡があり、傷付いていて、血が出ているいのりがいた。
「いのり!」
シンは急いでいのりを抱きかかえる。いのりはそっと目を閉じる。
「ここで何があった?教えてくれ!」
「...少し、村人たちの反感を買いまして...ちょっと揉めまして...」
いのりはゆっくりと答える。だが、ぼろぼろになった服や抵抗したであろう跡を見る限り何があったかは明確だ。シンと親しくしているいのりは村人たちの反感を買い、暴力を振られた。それも...なかなかにひどい。
「いのり、一緒に逃げよう。俺はお前を見捨てられない。」
シンの提案が聞こえなかったのか、いのりは無視して話し始める。
「わたくし、少し考えたのです...これから先、あなたはあの力を持っていたら、みんなから冷遇な扱いを受けるのではないかと...」
いのりはこんな時までシンの心配をシていた。優しい人だ。シンは涙が溢れてきた。
「大丈夫だ...」
「わたくし、あなたを愛していました...」
突然の告白。いのりの意図が分からない。シンは素直に喜べなかった。シンもいのりへの自分の気持ちには気づいていた。自分もいのりが好きだった。そして今、いのりもそうだったと教えてもらったのだ。嬉しくないわけがない。こんな状況でなければ。
「いのり、無理するな。俺がおぶってやるから。」
「わたくしにも....呪術があるのだと神木様が教えてくださりました...」
いのりはまた、ゆっくりと関係のない話をする。
「何が言いたい?いのり...」
「わたくしの呪術は...『祈願』というものです...この力があれば...世界樹を通して概念を変えることができるのだと...神木様はおっしゃっていました...」
何がいいたいのか分からない。
「わたくしは...あなたの悲しい顔をもう見たくありません...もう、あなたのような能力で苦しむ方を....
見たくないのです....」
ゴクリ、とシンはつばを飲んだ。
「わたくしは....あなたの幸せを願います....もう、あなたのような能力で苦しむ人間がこの世界に生まれてきませんように....あなたに...死んでほしくない...」
いのりがそう呟く。するといのりの体が光り始めた。あの神木と契約を結んだときの世界樹のように。
そして...
パァ゙ッといのりは消えていった。
「は?」
シンは混乱した。さっきまでいたいのりがいないのだ。どこに消えた?分からない。困惑するに決まっている。が、シンはすでに走り出していた。この状況を理解しているであろう人の元へ。神木。彼ならなにか知っているかもしれない。
世界樹の間は今日もきれいだ。だが、そんなことはどうでもいい。
「神木!」
シンが叫ぶ。
「呼んだ?」
世界樹の根本に座っていた少年は顔を上げた。
「いのりが突然消えたんだ!自分の力を使うとか言って!」
「あぁ、たしかに彼女は力を使った。なら、消えて当然だろ?彼女は自分の死と引き換えに力を発動させたのだから。」
「...は?」
何を言ってるんだ?コイツは...
「彼女は力を使った。よって世界樹に改変が起きた。どうやら何百年も世界に能力者が生まれなくなったらしい。で、彼女の力は死と引き換えだから、彼女は死んだ。」
「そんなはずない...そんなはずない!いのりはそんなこと言ってなかったぞ!」
「だって教えてないんだもの。」
「は?」
シンは時間が止まったかと錯覚する。
「だって、僕が聞かれたのは彼女の呪術はどのようなものかということだけ。死を代償にする必要があると教えろとか言われてない。」
おいおいおい、嘘だろ?つまり、この少年はいのりが力を使ったら死ぬことを知っていて教えず、いのりは自分がまさか死ぬと思わずに力を発動したと?ふざけていやがる。冗談だろ?
「神木....神木ぃ!!!」
シンは刀を投げつけようとした。が、体が動かない。いや、動けない。攻撃できないのだ。
「おっと、契約をむすんだろ?お互い武力干渉はしないって。」
こんなところであの契約が生きるなんて...ふざけるな、としかシンは言えなかった。神木、神木とシンは泣きながら怒鳴り続けた。
数時間後、シンは世界樹の間から出てきて、村にむかってトボトボと歩いていた。
「あら、まだいたの?よそm...」
女性がいきなりもがいて、死んだ。
「おい!彼女に何をs...!」
次は中年の男。その次は老いた老人。さらに少年。そして生まれたばかりの赤ん坊。もう、どうなったっていい。死んじまえ。みんなみんな死んじまえ。いのりに暴行を振るった村人も、自分を冷たく扱った村人も、自分を笑った村人も、そして神木も。みんな死ね。死んじまえ。くたばれ。
シンを中心に黒い霧が広がっていく。その霧に触れたものは次々と倒れていく。
自分はどこで間違ったのだろうか。シンは、そんなこと、心底今はどうでもよかった。
あれから30年が経った。時代も変わり、人も老けていった。人里離れた山の中で暮らしていたシンは自身の身体に違和感を感じていた。
「神木!」
世界樹の間に怒鳴り声が響き渡る。
「呼んだ?」
30年前と同じ登場の仕方。とてつもなく腹が立つ。しかし、今日は怒りをぶちまけに来たわけじゃない。
「どういうことだ!何故俺は老いない!」
シンは、30年前と姿が変わっていなかった。
「何故って...僕の祝福さ。」
「は?」
この少年の言うことは全くわからない。
「昔、いのりが君に死んでほしくないって言っててね。それで、君は僕の友達だし、君を長生きさせてあげようって思って。」
だから、こちらの了承も無しにシンが老いないようにしたと?ふざけるな!
「クソが!」
シンは刀を抜いた。神木を斬るためではない。それは出来ないことは前回学んだ。今回斬るのは自分の首だ。シンは自分の首を斬り落とした。
死ねない。
斬ったのに、体が勝手につながっていく。
「どういうことだ?」
「だって、いのりは君に死んでほしくないって言ったんだ。死んじゃ、ダメでしょ?」
嘘だろ?この少年は本気で言ってるのか?ならイかれてる!こんなの祝福じゃない...まるで...まるで呪だ。
あれから何百年経っただろうか。シンの目標はただ一つ。いのりの復活だ。自身の『吸収』の力を使い、様々な能力を奪う。この『吸収』は死体を吸収し、それが持っていた能力を奪う能力だ。あれから能力者は産まれなくなり、何百年も過ぎた。それでも、シンのいのりへの想い、そして神木への怒りは消えなかった。
900年が経過した。そして、ついにいのりの力の効力が切れた。世界にはこれまで溜まっていた分も含めて、爆発的に能力者が増えた。シンはその日から目をつけた能力者を殺し、吸収していった。そして気づいたことがある。覚醒前の能力者を吸収した後、その吸収した能力が覚醒することはない。つまり、覚醒した能力者出ないものを殺すことは、いのり復活への道を妨げることになる。だが、総都合よく覚醒し、いのりを復活させれるような力を持つものはなかなか生まれてこなかった。
そんな中、あのトーナメントの日が来た。そこに自身を慕っている部下を派遣したところ、面白い人間を見つけた。緋ノ宮カグヤ...命を削る能力。さらに覚醒済み。命を削ることが直接いのりを復活させれるわけがない。だが、何かの能力と組み合わせれば可能性はゼロじゃない。吸収する価値はある。シンはあの日から、カグヤだけを狙っていた。
「「「全部お前のせいじゃねぁか!」」」
時は現在、世界樹にアラタ、ラク、ハルキの声が響き渡った。
「ふざけんじゃねぇ!サイコパスにも程があらぁ!お前が闇落ちの原因で、現在の闇の軍のある意味産みの親じゃねぇか!」
アラタが神木に怒鳴る。
「ハルキ、絶対コイツやばい。かかわらないほうがいい。」
ラクはハルキとズズズと何歩か下がる。
「そうかい?そんなに僕はまずいことをしたのかい?」
「うんうんうん!そうだよ!」
アラタがそう答える。
「...そうか。」
神木が呟くとともに、アラタ、ラク、ハルキの3人は逃げようとする。
「待った。情報は渡したぞ?」
神木はアラタたちを睨む。
「情報を渡したのだから、僕に見返りが無いと。」
アラタは背筋が凍る。
「金か?いくらでもくれてやるから!」
「僕は逃げる!僕は逃げる!」
「手品見せてやるから!もうかかわらないで!」
アラタ、ラク、ハルキは各々返事をする。
「ちがうよ。僕が求めているのは...『骨』だよ。」
この少年はまた理由のわからないことを言い始めた。
過去編終わり!シンのいち認証について。普段は『私』。だけど、焦った時は『俺』。
さてさて、次回から物語は進んでいきます。




