『ジュジュツ』
第2章2話、過去編です!
「世界樹。1000年以上前に知能の魔法使いが造った世界の情報が入った木。僕はその付属品だ。知能の魔法使いの知識欲によって造られた木のおまけ、それが僕。僕は彼に世界樹の管理人の命を受けた。そして、彼は僕に魔法を教えた。僕はその魔法と世界樹の知識を使って異世界を造ったり妹を造ったりしたんだ。彼は僕をかわいがってくれた。彼の死後も僕は世界樹の管理人を続けた。闇の帝王の物語は僕が産まれてから約200年後の話だ。話は変わるけど、僕が産まれて大体30年くらい経った時、世界樹を神として祀る村が現れたんだ。世界樹の信仰はそれからそこそこ広がってね。生贄?あぁ、しょっちゅうさ。数年に一回、世界樹の間の前にぽんって女の子の死体が置いてあるんだ。最初はもちろんびっくりしたけど、だんだん慣れていってね。話を戻そうか。鎌倉時代の初期、一人の少女が世界樹に迷い込んできたんだ。彼女の名は天乃いのり。彼女は純粋で可愛くて。この子は闇の帝王を語るうえで外せないね。」
神木柊はそこで一息ついた。
「ふぅ、さぁ、本当にここからの話を聞く覚悟はあるかい?」
「あぁ。続けてくれ。」
アラタは返事をした。
1225年。世界樹の間で、いのりは足をブラブラとしながらただただ大きな木を眺めていた。
「今日も来たのかい?」
「だって村にいてもつまらんかいんですもの。神木様と話している方がわたくしにとって面白いのです。」
「そうかい。」
神木柊はいのりの隣にそっと腰を掛けた。
「神木様はわたくしがこの空間に入ってくることは気にならないのですか?」
「あぁ。むしろ生贄を放り込まれるより、君が来てくれて、生きている人間と話せて僕は嬉しく思っているよ。」
「そうですか。嬉しい限りです。」
いのりはそっと神木柊に微笑んだ。
「昔の話をしようか。僕の師匠の話だ。それから、妹の話も。それから...」
「えぇ、聞かせてください。」
いのりはそれから数時間神木柊の話を聞き、世界樹の間を後にした。
いのりは10歳の時、世界樹に捧げる生贄に選ばれた。生贄にされて殺されることを勘づいたいのりは儀式の前に逃げ出した。そして、世界樹の間に迷い込んだのだ。神木柊はいのりを気に入り、いのりに協力して村に行き、世界樹の生贄の制度をやめさせた。それからいのりは神木柊の元へ度々訪れるようになった。神木柊はいのりが姿を見せると嬉しそうに歓迎した。生贄にされそうになったので、幼い頃は神木柊に嫌悪感を抱いていたいのりも、関わるうちに神木柊に悪い印象を抱かなくなっていた。
それから8年が経った。神木柊に気に入られたこともあり、いのりは村の長に選ばれていた。村の発展のために村人たちにいのりは様々な指導をしていた。いのりの真面目に皆のために見を尽くす姿は村人たちもちゃんと見ており、さらにそのまだ可愛さも残しつつ、美しい顔により村人たちからの人気も高かった。
いのりは村に戻る。畑仕事をしている村人たちがいのりをみて手を振る。いのりも手を振る。子どもたちもいのりの姿を見ると駆け寄ってきた。
「いのりお姉ちゃん!あのね、あのね!」
「なぁに?」
「さっき、背の高い防具をつけたお兄さんが村にやってきたの!」
「そうなの!その方はどこにおられるの?」
いのりは子どもたちに侵入者の場所を聞く。
「あっちの方!」
「ありがとう。」
いのりは子どもたちが指を指した方向へ走っていった。
この村は幕府に逆らっていた。いのりが天乃という苗字を持っていること、女性が村の長になっていることなど、逆らいの表れはいたるところにある。この村は人里離れた山奥にあり、警備も頑丈で攻め込みづらい。さらにこれと言った物資もないため、幕府も攻め込む意味がほとんど無く、目を瞑っているだけだ。それが、子どもたちによると防具をつけた男性、おそらく武士がこの村にやって来たのだ。いのりは神木柊に教わった魔法を使う準備をしていた。
「ん?」
村から少し離れた小さな池のほとりに男は立っていた。いのりは男を見つけるなり、足で力強く地面を踏んだ。すると池の水がいきなり大きくなびく。その水が男にかかった瞬間にいのりは池に手を突っ込んだ。すると池の水は凍っていく。異変に気づいた男は武器を取り出し、構える。
「落ち着いて!話し合おう!」
男のセリフに驚いていのりは攻撃を止める。しかし、すぐに手を構えた。
「武士がわたくしたちの村に何のようですか?」
「熊狩だ。」
「熊狩?なぜわたくしたちの村の近くで?熊ならどこにでもいるでしょうに。」
「ここで熊狩をしているのは幕府からの命があるからだ。」
「やはり!」
いのりは男を睨みつけ、再び手を構える。この男は村の平穏を乱しに来たのか。
「ちがう!この村を征服するためじゃない。その熊がジュジュツ持ちだからだ。」
男はいのりに慌てて返答する。
「ジュジュツ持ち?」
いのりは首をかしげる。ジュジュツと言われてもピンとこない。
「...ジュジュツを知らないのか?」
「えぇ。何を言っているのかさっぱりわからないわ。」
「だから落ち着いてくれ!俺はあなた達に敵意はない!」
いのりは再び構えをといた。
男の名前は光冥シン。幕府の命令でこの村まで熊狩をしに来たという。
「文字は分かる?」
「えぇ。ある人からある程度の教育は受けさせていただいております。」
「なら説明しやすい。ジュジュツっていうのは『呪う』に『術』って書くんだ。それで呪術。」
いのりの頭の中に『呪術』という文字が出てくる。それが何を意味するのかは理解できないが、漢字は分かった。
「それで、呪術というのは?」
「人間では説明できない、変わった術のことだよ。」
「変わった術...魔法のようなものですか?」
「…マホウってなんだい?」
シンの話をまとめると、この村の近辺に恐ろしく強い呪術を持った熊が現れたらしく、それを狩ることを幕府から命じられてきたという。いのりたちの村に危害を加えるつもりはさらさらないと言う。
「そうですか…」
「そう。俺は熊を狩りに来ただけだ。危険だからな。だから君たちに危害を加えるつもりはない。だから、一つ頼み事があるんだが...」
「何でしょうか。」
「この村にしばらく滞在させてもらえないだろうか。」
「えっ?」
「野宿でも良いんだが、呪術持ちの熊がいる村でそれはしたくない。だから、頼む。」
シンはいのりに頭を下げた。いのりは少し困惑した後、首をゆっくりと縦にふった。
「あなたって、不思議な人ですね。わたくしは女で、さらには幕府に従っていないのにもかかわらず、けして見下したりしないのですね。」
いのりはクスリと少し笑う。
「変ですか?」
「変ですとも!ですけど.......わたくしは好きです。外の人からそんな扱いを受けて嬉しいと思っております。」
いのりはすでにシンに心を許しつつあった。
「…なるほど。」
神木柊はその様子を木陰から覗いていたが、気分を悪くしてそのまま世界樹の間に帰っていった。
解説(?) 過去編の舞台は鎌倉時代。鎌倉時代では『魔法』という言葉は存在しておらず、使われておりませんでした。代わりに呪術と呼ばれておりました。いのりは神木柊から教育を受けていたため、神木柊が使っていた『魔法』という方を覚え、『呪術』という言葉は知らなかったのです。逆にシンは『魔法』という言葉を知らないため、困惑しました。




